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少女の黒歴史を乱すは人外(ブルーチェ)

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第十三話:休息の一時

 
前書き
ラブコメ的主人公である “英二” 君は、そう言った物語にふさわしいからこそストレスをためてなかったりします。
けどこの作品の “麟斗” ってなまじ溜めこんだり恐怖を感じない所為で、苛立ちが溜まって爆発しそうですよね……。

では、本編をどうぞ。 

 
 
 昼ご飯を済ませた俺は、楓子やマリスと共に居間に居た。

 親父とお袋は仕事のため、それぞれ着替えて神社に向かったので、今家の中には三人しかいない。
  ……当然俺は自分の部屋に上がろうとしたのだが、予想以上の握力を持ってマリスが服を掴んできた所為と、苦しげな声で傍に居て欲しいと言った事が気になり、この場に居ざるを得なくなっている。
 まあ何かしらの事情があるのだろう。ペタンと座ってより目線が低くなった彼女を俺は横目で見ながら、溜息を一つ吐くと言葉を紡ぎ出す。


「で、何の様だ?」
「……胸が、苦しい」


 己の胸に手を当てて、尚も感情の籠ったセリフを口にした。心なしか眼が潤んでいるが、俺はこうなった大体のいきさつを瞬時に理解し、頭を横に振る。


「うどんを “十数杯” お代りしたなら当然だ、馬鹿が」


 そして呆れ声を吐きつけた。


 先まで食事を一緒にとっていたのに、これで何かおかしな勘違いをする者がいたら、そいつも真正のアホだと言えるだろう。
 つまりこいつが苦しげな声を出している原因は、単なる飯の食べ過ぎである。対処法は実に簡単、マリスは横になり、俺はほっとけばいい。
 何かしら重要な事で有ればまずいからとここに来たが、超がつく程に見当違いだった。もう自分の部屋に上がっても良いだろうと思った俺は、立ち上がって一歩踏み出す。

 ―――いや、踏み出せない。
 マリスの奴が、俺のズボンの裾を掴んでやがるんだよ……。


「手を放せ」
「……お腹いっぱいで苦しい……吐、きそう……」
「なら余計に放せ。何で俺を引きとめる」
「……うう」


 呻きながらごろりと転がり、仰向けになったまま俺の方を見て来る。恨めしげだが俺は何も悪く無い。加減を考えずに胃袋に詰め込んだこいつが悪い。
 何故そこまで無理して食べたのか、やはり人外の思考は理解できないな。

 されど……寝転がってはいても、しっかりズボンの裾は掴んだまま。
 だから放しやがれ。


「……胸をさすって欲しい」
「断る」
「……お腹でもいいから」
「嫌だ」


 物凄く苦しそうではあるが、吐こうと落ちつこうと俺には関係が無い。宿題だってまだそれなりに残っているのだから、マリスの看病もどきなどしていられるか。

 しかしズボンのすそ……と言うか脚下部分を確りと握って離さない。
 なので不本意だがここは黙ってさすって置き、楽になって放した時を見計らって早々自分の部屋に立ち去ればいい。
 無理矢理進んだ結果ズボンがずれたり、破れたりという事態は避けたいし、下手すればそのまま掴んで付いてきそうでもある。
 そう考え、体ごとマリスの方を向く。


「……駄目?」
「いや、ちょっと待ってろ」


 ズボンを気にしながらも僅かに近づき、俺はマリスの傍で屈み膝をついた。
 そのまま徐に右手を持ち上げる。


「ダメーーーーーー!」


 そして、何故だか耳煩く喚きつつ、ラリアットの構えで近づいてきた楓子を止めると、


「失せろ」


 右手で腕を左手で手首を掴んで、後方の壁めがけて放り投げた。


「ッグハァーン!?」


 そして聞こえる奇声の悲鳴。

 パッカーン! と随分といい音がしたので、打ちどころが何処なのか気にはなる……だがそれは好奇心からであり、あんな馬鹿を心配する気など毛頭ない。


「何すんのよ兄ちゃぁぁぁん!!」
「……チッ」


 投げの威力から気絶して寝てくれれば此方も助かったが、誠に残念な事に普通に立ち上がって怒鳴ってきた。

 ……もっと力を込めるべきだったな。


「何しやがるはこっちの台詞だ。行き成りラリアットをかますな」
「ずるいんだもん! マリスたんにだけ! ずるいんだもん! ヒイキ! ヒイキ! ヒイキヒイキ!!」
「はぁ……?」
「だって! マリスたんのお腹さするなら、あたしのおっぱいモゲラ!!」


 喋らせていても碌な事にならないと悟り、俺は逆にラリアットを打ち込んで、楓子を再び壁へと衝突させた。
 どの国だろうと通用しない理屈を、延々と語られてもいらつくだけなんでね。

 改めてマリスの腹に手をやり、ゆっくりとさする。


「……ありがとう」
「吐きそうになったら言え。洗面器を持ってきてやる」
「……麟斗、優しい」
「嘔吐物をぶちまけられるのが御免なだけだ」


 一面に飛び散るし、掃除に時間も掛かるし、なにより臭い。責任を押し付けられるのが主に俺なら、最低限の手を尽くすのは当たり前だろう。

 面倒臭い拳骨や説教を、態々呼び込む気はない。


 ……そういえば、拳骨が痛かったのは殴られた直後までだったな。……何時もならもう少し痛みが後を引く筈なんだが……何が起こっているのやら。


「ウウ……生まれた時から唾つけ取るっちゅーのにぃ……」
「……楓子でも、譲れない」


 楓子は険しい(つもりの)表情を作り、マリスは何時もの無表情のまま、お互いの目線で火花を散らしているが、どうせ内容は碌な事じゃあ無い。
 故に口出し無用だ。

 しっかしこいつは……また徹頭徹尾、無表情だな。
 お陰で何を考えているか、どれだけ苦しいのか、限界なのか余裕なのかが全く分からん。


「マリス、無表情をもっと何とかできないか?」
「しょうがないじゃない兄ちゃん。マリスたんは “クーデレ” なんだから、愛想だって振り負けないよん」
「クーデレ?」


 聞いた事があるが意味が分からない単語に、俺は眉をしかめて言葉をそのままオウム返しする。


「知らないのならば教えてしんぜよう!」
「黙れ」
「ひどっ!? まあいいや勝手に語るね……オホン、クーデレとは! 普段は無表情はおろか、表情あっても無愛想なクールービューティーが、フラグが立ち進展してデレたら笑顔を見せてくれる女の子の事を言うのだぁっ!」
「…………」


 それ以上は聞く気は無いと言う意思を示したのに、楓子はまだ喋り足りないか続きを語り始めた。


「これって一般常識なんだよ兄ちゃん。普段は温和な感情が凍りついた様な彼女が、ふとした瞬間に見せてくれる華の咲くが如き温かな笑顔! このワビサビが分からないなら、お兄ちゃんは日本人じゃないと思う」
「面倒臭い女だってのは分かった」
「念を押したのに普通に返ってきたぁ!?」


 そんなどこぞのゲームの特殊ボスの様な、条件付きの笑顔など本当に面倒くさくて仕方が無い。

 あとな楓子。
 お前の言う常識と、世間の常識は違うってのは丸分かりだし、お前なんかに幾ら日本人認定されなかろうが、俺は至極どうでもいい。

 ……なんか、笑顔の話題が出た所為で、一辺こいつが笑ったらどうなるのか気になってきた。


「マリス、笑顔を作れるか?」
「……こう?」


 寝転がったままにマリス具無理やり作った笑顔は……一言で言い現わすなら『鬼瓦』だった。
しかも某 “トゥース!” の人の持ちネタでは無く、和風の屋根に見るマジモノの方。

 ―――要するに全く可愛く無い。
 ぶっちゃけてある意味怖い。


「……疲れた、やめる」


 反応が無い事をどう受け止めたかは知らないが、顔面の筋肉を強引に使った表情だったからか、ものの十数秒で元の無表情へと戻った。
 どっちかと言えばこっちがいいと、俺は思う。
 同時に笑顔が期待できないのも分かったな……別に見せて欲しくもないが。


(……に、しても……)


 何故だろうか―――こうやってマリスと話しているのは、俺にとっては新たな刺激として受け入れられ、楽しくは無いが目新しいと言う感想を抱ける。
 殺戮だの戦闘だのは勿論お断りだし、コイツにここにずっとい続けられるのは本意ではない。
 が、変わらない怒りだけ抱いて生きるよりは、どちらにも転ぶ新たな発見があった方が良いだろう。

 その点では、コイツに感謝すべきかもしれないな。


「ねぇマリスたん、やっぱり苦しい?」
「……少しは楽になった。けど……うん、苦しい」
「そっかー……グヘッ、なら脱いでみようかグヘグヘグヘ、いっその事スカートももベルトも取っ払っちゃえよう、グヘヘヘグエッ!」


 阿呆な事を言いだした楓子の、額めがけて無言で手刀一発叩きこみ、強引に後ろへ転がして知らん顔をする。
 どさくさに紛れたつもりだろうが、隠れていないしダダ黙れなんだよ。欲望が。

 まあ、この変態発言は兎も角、楓子は浮かれているのだろう。
 自分の描いた設定が現実に具現化し、こうして自分の家で共に過ごしているのだから。

 ぶっ倒れたデコ助は放置し、そのままマリスの腹をさする方に戻る。


「……大分、楽になる」
「そうか」


 感謝している所悪いが、俺とてこのまま摩り続ける気など無い。


「……」


 このまま此処に居て鳴るものかと考えを巡らせ、思いついた事を実行すべく恐らく三分ほど経ったのを見計らい――――


「シッ!」


 ―――僅かに下がってダッシュを掛けた。


「……あ」


 唐突な行動の切り替えに、まず体だけでは付いて来れない。
 だが問題はこの後……自由自在に蠢く髪の毛【鋼糸(スティール)鏖陣(ゴルゴン)】だ。


「……逃がさない」


 俺の期待通りに首、そして脚元へ走った “予感” に対処すべく、まずはダッキングで一波目を避ける。
 更に逆立ちに移行して第二波を回避。
 間を置かずに腕力で跳躍して第三波を、踏みつける形で第四波をやり過ごす。

 そして第五波目が来る前に、畝ってアーチを描いた青髪を掴む。
 そのまま引っ張ると横へと無理やり引きずった。


「……あうっ……苦しいのが再発して……っ」


 そうやって悶えている間に俺は早足で階段を上がり、自分の部屋への退避に成功した。
 俺の作戦、いや体捌き勝ちだな。


 ―――そう思い、油断したのが甘かった。


「……! クッ!」


 またも走った “予感” を受けて頭を下げれば、通り過ぎるのは輪を作った【鋼糸鏖陣】。伸縮自在なのだから、逃げた場所さえ分かればこんな事も可能なのだ。

 そう言えば、伸ばせる限界が《何メートルまで》かは書いていなかった。
 よしんば書いていたとしてもまだそこまでノートを読んでいない…………迂闊だった。


「チッ……ぬ……グッ!」


 ダッキングから側転へつなげ、地面に足を突くと同時に跳びあがって天井を蹴り、床に降り立つと不規則にダッシュ。
 無駄なまでにアクロバティックな闘争劇を経て、しかし段々と青き髪の毛で埋め尽くされている事から、逃げ場が無くなってくるのを俺は理解した。

 意地で勉強道具の身机から拝借するべく足掻くも、やはり駄目だと俺は苛立ちながらも諦め、髪の毛の作る網目の間を縫って一目散に廊下へ飛び出す。
 そして階段を使うのもまどろっこしいと、宙へと飛び出し階下へ跳び降りた。

 ズガン! と音を立て着地して、思う……よく足がしびれないな俺。


「お前……そこまでして俺を、居間へ留めておきたいか?」
「……麟斗の摩り方は上手。だからすぐに立ち直るべく、効率の良い方を選んだだけ」
「がーーーーーん!? 私って下手糞なの!?」


 マリスがそう説明していたが、実はそれだけなら傍目にでも分かった。

 なにせ楓子の手つきは相手を労わって楽になるよう優しく規則的に撫ぜるのではなく―――変態親父もかくやの手触りや感触を楽しむものだからだ。
 いわば相手を慮らないものなので、寧ろ悪化したって不思議ではない。

 下手糞の域をいっそ清々しいまでに、まるっきり飛び越えている。


「いや、もう擦らない。勉強が出来ないのなら、別件で覚える事があるからな」
「え~……? 兄ちゃんそんな勉強ばっかりって、いまどき希少種なガリ勉なの? 見た目からも全く想像できないんだけどー……」
「……どっちかと言えば、麟斗は不良且つ喧嘩屋」
「そうか、こんな人相で悪かったな」


 棒読みでそう告げてから、床に置きっぱなしになっていた、楓子の書きだした設定が詰まっている何処で売っているかも分からない分厚い大学ノートを手に取る。

 その理由は単純。
 【A.N.G(アンジェ)】について触り部分の説明と、特徴的な能力だけでも覚えておくためだ。

 楓子を頼りにするのは正直なところ嫌だし、何より咄嗟の時に役に立たない可能性が “大” とくれば、例え文字酔いしようとも自分を頼りにするしかないだろう。
 この世で楓子ほど信頼するに値しない人間は、それこそ殆ど存在しないと断じていい。 絶対にではなく “殆ど” なのは……この世界、何が起こるか分からない部分もあるからな。

 パラパラと音を立て、黒焦げて尚且つ解読できない場所を省きつつ、何割かの “無駄” で構成された文章を読み進めて行くのだが、その無だ且つ無駄且つ無駄な部分が邪魔をして、本当に基本的なことしか頭に入ってこない。
 加えてマリスを除いた、他五人全員分を覚えるとなると、もう地獄の所業に近い。

 それでも何とか基礎中の基礎だけは覚えて、ノートを畳へと放りだした。


「どうだった! どうだった兄ちゃん!」


 如何やら楓子は、自分が作った設定を見られても恥ずかしくない質らしく、しかも目を輝かせて感想まで求めて来る。

 そうか、感想が欲しいか。
 ならハッキリと言ってやる。


「最高に最低、そして最悪」
「……Oh……」


 頭を抱えて地べた―――では無く畳に額を付け、ハニワのような顔で固まった。そのままずっと黙っていてくれれば、俺としては願ってもみない僥倖だな。
 さてそんな阿呆は放っておき、無駄な部分を極力省いた文章を頭の中で反芻していると……少しは楽になったらしいマリスが、上半身だけ起こして俺の肩をつついてくる。


「どうした」
「……麟斗は勉強、好き?」
「まさか。やらなければいけないからやる、放っておくと痛い目を見るからやる、それだけだ」
「……合理的な考え方だと思う……だからとても、頼もしい」


 自分の考えが理解を得ただけならば俺も多少は喜んだが、しかしその後に付け加えられた繋がりの見えない単語に、俺は目を細めて睨むようにマリスを見やる。

 どうしても、何か裏があるように思えてならない。


「何がだ?」
「……資質とは関係が無いけれど、《婚約者(パートナー)》にするのならば無鉄砲ではなく、より賢明で聡明な者の方が理想的。戦闘の外や死角から的確に指示を送り、状況を見極められる者が」
「……」
「……そして何より麟斗は、現状を見据えて試練を良しとする、忍耐力がある。その精神を踏まえても、これから共に戦っていきたいと私は思う」


 俺はその発言に―――無言で片眉をひそめ、鼻で笑った。


「ハ……本音を言えマリス。お前は何でも良いからこじ付け、俺をおだてて、戦いに参加させようとしているだけだろうが」
「……ばれた」


 悪びれもせずに淡々と言うマリス……可愛くも無く、ただムカつく。

 そもそも今の俺の立場は『反応こそ無いが可能性がある』だけであって、『絶対に《婚約者》となれる』訳では無く、しかもマリス自身でさえ別の概念とやらが混ざっている為『何が起こるか分からない』。
 なのに、こんなのんべんだらりと現状維持するのは、ハッキリ言って “意味が無い” としか言いようがない。
 せめて午後からは現在能力がどうなっているか試す為に、マリスはうどんを食べる量を減らすべきだったのだ。

 《婚約者》である可能性と言う、道が繋がっているかも分からない不安定なものにすがる前に、少しでも勝率を上げるべく己で鍛錬を積む事を、この殺戮の天使は何故しないのか。
 俺には理由がさっぱり分からない。
 どう考えても理解不能だな。


「はぁ……」
「何かやってないかなぁーっと」
「……」


 俺は頭痛を堪えながら再び楓子のノートを手に取り、マリスはもう一度畳に寝っ転がり、楓子は暇になったのかテレビを付ける。
 よく見るとマリスはまだ苦しそうで、先のやり取りで体力を使いきったかのようにグッタリしており、つまり余程俺に戦わせたいのだと窺えた。

 ……お袋といい楓子といい、そしてマリスといい、そんなに俺を死地に送り込んで、いったい何が楽しいのか。

 暫くワイドショーにて今季の経済状況について議論を交わしている、芸能人や専門家の声をBGMとして、やっぱり頭に入っていかない意味不明な単語の羅列、異常な設定の数々を、眩暈を覚えながら何とか読み進めて行く。


「チッ」


 …………駄目だ、やっぱり頭に入って行かん。
 焦げていて読めない部分が多い上に、読める部分もラブロマンスとか本人の身の上話とか、これっぽっちも役に立たん情報ばっかりだし。
 中身がマジモノのキャラクターそのもので有ればそれも活かせただろうが、今あの【A.N.G】の中に入っているのは俺達と同じ人間。つまり過去の情報やキャラクターの世界観など役に立ちゃしねえ。


「……意味分からねえ……」


 なんだよこのキケロクロットの項の『ロリーーーーーーーーーーーーーーー!』って。(原文ママ)
 こんなもんに一々行を使うな。しかもここだけ焦げ目が全くない、極端に真っ白。
 しかも、黒い部分を大分飛ばしてココもまたハッキリ読める、『ようぢぉ』ってなんだ。
 何故 “ち” に濁点をつけてんだ。“し” じゃ何が駄目なのか。

 そして、これもまたおかしいな?
 このメープルの項の『顔良し性格良しスタイル良しの、三拍子そろったぶっちゃけアタシそっくりの美少女聖天使』って。
 お前そっくりなら『顔よし、脚のスタイルはよし、しかしそのほか全く駄目』と書くべきだろうが。
 オマケに、様々な能力をぶち込んだ挙句、書かれているのは『ぶっちゃけ最強』。


「本当、 “三流” にも届かない物語を書く事だけは “一流” だなコイツ……」


 思わず口に出してしまう程、このノートに書かれている戯言は馬鹿話が多かった。
 ……分かるか? 上見たいなクソの役にも立たないモノや、読んだ所で絶望しか湧かない設定のみで構成された文章を、直に目に入れる苦しみが。

 碌な事が記されてはいないのだから、眩暈がするのも分かる筈だ。

 そういえば、マリスの分は覚えなくてもよいのだろうか?
 ……聞いておくか。


「マリス、お前自分の力はどれだけ把握している?」
「……私についてならば、一言一句漏らさず記憶している」
「そうか」


 なら『殺戮の天使・マリシエル』の項は飛ばしてもいいだろう。
 では他の堕天使、及び聖天使たちの単純な能力や技の設定だけでも―――と目を通せば、有るわ有るわ無駄に書き連ねられた力の数々。

 特にメープルとアイシャリア。
 メープルは言わずもがなで、アイシャリアは『陣』と呼ばれる結界式の固有技が、冗談抜きで滅茶苦茶な数設定されている……何時使うんだよ、こんなバカみたいな数の能力。


 先の見え無さに溜息を吐き、もう一度ノートを覗こうとした、その時だった。


「なんじゃこりゃ!?」
「あ?」
「……?」


 楓子の素っ頓狂な声が響いたのは。

 
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