俺と乞食とその他諸々の日常
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三十五話:目覚めと日常
前書き
実習が終わりましたので投稿ペースが大分戻ります。
その後は適当に話しながら時間を潰して出し物を楽しんでいった。
そのうちヴィクターにミカヤ、ハリーといったいつものメンバーがそろった。
さらにはなのはさんとフェイトさん、はやてさんが来て軽い宴会の様な人数へと膨れ上がってしまった。
それでも簡単にスペースを取れるこの学校は本当にデカいと思う。
「そろそろお昼やけどみんなはどうする~?」
「俺は帰らせてもらうぞ」
「そうですわね、そろそろお暇しましょうか。次の試合への準備もありますし」
「おや? それは試合のない私への当てつけかい?」
「い、いえ、そういうわけでは」
ヴィクターの言葉に少し棘のある言い方でミカヤが声を掛ける。
その声に少し焦るヴィクターだったがすぐにミカヤ方から笑い始める。
「はっはっは。言ってみただけだよ」
「……ミカ姉さっきはオレにヘッドロックかましてきたけどな」
「さて、なんのことだい」
ジト目で睨むハリーをスルーしてジュースを飲むミカヤ。
今回ばかりはハリーにはご愁傷様と言うしかない。
「ヴィヴィオちゃん達は今から子どもたちみんなでご飯かい?」
「はい! あ、ミウラさんも一緒にいかがですか?」
「あ、えーと……」
普段なら二つ返事で答えるところを何故かつまるミウラちゃん。
何か用事でもあるのだろうか。
「そういやザフィーラの旦那から聞いたぜ? 最近ミウラがオーバーワーク気味だってな」
「あう…っ」
ノーヴェさんからの指摘にばつの悪そうな顔をするミウラちゃん。
これは新しいいじりポイントの出現と考えるべきだろう。
ミカヤも同じ考えなのか意地悪そうな表情を浮かべる。
「それはいけないね。適切な休養も選手の大事な務めだよ」
「もう選手じゃないお前は多少無理してもいいがな」
「すまないね、ヴィヴィオちゃん。教室が赤く染まるけど許して欲しい」
「ダ、ダメです! こんなところで刀を抜かないで下さい!」
光る刃。首筋に感じる冷たい感触。
簡単に言うとギロチン前の死刑囚だな。
頑張って止めてくれるヴィヴィオちゃんがいつになく天使に見える。
「リヒターさんはちょっとおかしいだけです。お薬を飲めば大丈夫なんです!」
そう言えばこの子はデビルヴィヴィオちゃんでもあったな。
平然と善意で人の心を抉って来るから性質が悪い。
一体誰に似たというのか。
「え、そうなの? ごめんねリヒター。気づいてあげれなくて」
「フェイトちゃん!? ごめんね。本当にごめんね、リヒター君。家の家族は天然なの」
物凄く心配そうな顔でフェイトさんが謝って来る。そのせいで俺の心は完全に砕ける。
ヴィヴィオちゃんはフェイトさんに似たのか……。
ぽろりと零れ落ちてきた涙を見ないふりしてなのはさんからの謝罪を受け取る。
その時のなのはさんの慣れた様子から俺以外にも被害者が居る可能性を悟り戦慄したのはまた別の話だ。
「とにかく、ミウラさんはしっかりと休んでください」
「でも……次の試合もその次の試合もボクは負けられませんから」
強い決意に満ちた言葉にその場にいた者達全員が彼女の覚悟を知る。
まあ、だからといって無茶をさせるわけにはいかないんだがな。
子供は無茶をするのが仕事でそれを止めるのが大人の仕事だ。
「そんなミウラちゃんに素敵なプレゼントだ」
「へ? プレゼントですか」
ポカンとするミウラちゃんをよそに端末を操作してメールを送る。
送り先は勿論ミウラちゃんだ。さあ、俺の心遣いに泣いて喜ぶといい。
「こ、これは―――参考集ですか?」
「その通り。これを解いていれば体を休ませられ、おまけに学力もアップする。まさに一石二鳥!」
「け、結構です! 休みます、ちゃんと休みますから!」
「返品は基本的に受け付けておりません。申し訳ございません」
「満面の笑みで言う言葉やないで、それ」
参考集をあげるといい感じにワタワタとし始めたミウラちゃんを見ながらニヤリと笑う。
はやてさんも口ではツッコんでいるが笑っているので楽しんでいるようだ。
「まあ、今解くのは冗談だ」
「よ、よかった~。……あれ、今?」
「さっき言っただろ。返品は受け付けていないって。折角なんだから解いてみたらどうだ」
「そうやでー。折角の貰いもんや。次のテストにでも役立てたらええって」
また勉強かと微妙な顔をするミウラちゃんの頭をポンポンと叩いてから席を立つ。
今日は俺もジークと一緒に帰るとしよう。
と、その前にやらないといけないことがあったな。
「アインハルトちゃん。これをユミナちゃんに渡しておいてくれないか」
「チャンピオンと……みなさんのサインですね。サービスですか?」
「まあな。折角他にも居るんだからちょうどいいだろう」
「ありがとうございます。きっとユミナさんも喜びます」
「そうだといいな。じゃあ、俺はこれで帰るな」
やることを終わらせたのでそのままジークと連れ立って家に帰る。
帰り道は今日の出来事や最近あった出来事を話しながら帰る。
そしてイクスヴェリア様の話に及んだ時だった。
「それにしてもあんなにかわええイクス様が邪知暴虐の王なんて言われとるのが信じられんわー」
「……まあ、名前の似ているどっかの馬鹿と間違えられたんじゃないのか」
「どっかの馬鹿?」
「……気にするな。ただの言葉のあやだ。それより今度いつ出かける?」
適当にごまかして話題を別のものにすり替える。
まさか、その馬鹿が自分と関係のある人間だとは言えない。
【相も変わらず我を敬わん奴だのう】
「ッ!」
「どないしたん、リヒター?」
「いや、なんでもない……」
今、ご先祖様の声が聞こえたような……。
今日寝たら問いただしてみるか。
「それで何であんたの声が聞こえたんだ。ご先祖様」
【ふむ、そう不機嫌な顔をするでない。我とて聞こえていたとは思わなんだ】
「……」
【疑っておるが全て事実よ】
黒い空間の中でご先祖様と話をする。
もう何年も前からこうして話しているがその度に寝不足になって居眠りをしてしまっている。
つまり俺の居眠り財布男という不名誉な名前は全部ご先祖様のせいだ!
【汝は子供の頃から良く寝る子だったではないか。それと財布なのは我と全くの無関係だ】
……そんなの嘘だ。
確かにご先祖様と出会う前と後で両親の反応が何一つ変わらなかったのは事実だがそれはただの偶然のはずだ。
後、財布の運命をどうにかしてくれたら冗談抜きでご先祖様を敬う。
どこかに埋蔵金でも残していないのだろうか。
【まあ、汝の寝坊助は置いておくとしてだ。何故、声が聞こえたのかは少し心当たりがあるぞ】
「何なんだ?」
【我の人格が覚醒仕掛けておる】
その言葉を聞いて俺は目を見開く。
ということはなく、普通にご先祖様を見つめる。
それにしても600年以上前のご先祖様なのに俺とそっくりなのは何故だろうか。
俺が女だったら多分瓜二つだ。
【もう少し驚いたらどうだ】
「別に覚醒したところで大して変わらないだろ」
【我といつでも話せるようになるのだぞ。少しは喜べ】
「ご先祖様が巨乳のおねーさんなら跳び跳ねて喜んでた」
【よし、何枚に下ろして欲しい?】
青筋が浮かび上がり一目でご先祖様が激オコ状態になったと分かったので逃走を始める。
しかしご先祖様は一瞬で回り込んできた。煌めく刃がやけに眩しい。
そしてリヒターは諦めた。
【安らかに眠れ、我が子孫】
「俺を倒しても第二、第三のリヒターが―――」
峰打ちって実は洒落にならないほど痛いのだと改めて知った真夜中だった。
【ふむ……そろそろ頃合いか。後は、せいぜい上手く踊ることだな】
彼女は一人闇の中で楽しげな笑みを浮かべるのだった。
後書き
おまけ? ~リヒターが強かったら~
「アインハルト・ストラトス……参ります」
「……来い」
碧銀の髪が宙を花のように美しく舞い踊る。
されど彼女の拳は獣の牙より鋭く、弾丸が如き速さを持つ。
当たれば怪我ではすまないそれを彼は最少の動きで避ける。
そこには焦りなど存在せずただなすべきことを無しただけという無感情さだ。
「逃がしません!」
「ッ!」
だが、そんな彼と戦う彼女も避けられたことに驚きなどない。
否、避けてくれねば興醒めだ。
柔らかくしなる腕を使い死角から裏拳をもって襲い掛かる。
ここまでは彼女の予想通り。だがそこからが予想の範囲外だった。
「甘い!」
「見ずに避けた!?」
彼は振り返ることも目を向けることもなく彼女の攻撃を避けてみせた。
そして、そこで生まれた僅かな彼女の動揺を逃すことなく両手に持つ二本のサーベルを振るう。
「ティオ」
「にゃあー!」
しかし、彼女もそこでやられるようであれば最初から戦いなど挑んでいない。
相棒のティオの補助によりダメージを軽減し、僅かなロスだけで食い止める。
そこからすぐに反撃へと転じる彼女は流石といえよう。
だが―――僅かな隙であっても彼は逃さない。
「頂くぞ」
「しまっ…!」
本来、剣を獲物として使う者にとっては不利である近すぎる間合いから強引に腕を振るい勝負を仕掛けに来る彼。
その行動に驚愕の表情を浮かべる彼女だったがその間合いは彼女にとって本領を発揮できる間合いでもある。
すぐに迎撃の構いを見せ拳に魔力を溜める。
「はぁぁあああっ!」
「ふっ!」
剣と拳。刹那の差で先に届いたのは彼の剣だった。
そして無残にも切り裂かれたのは―――
「またつまらぬ物を斬ってしまった」
「だからなんで女の子の服ばっか斬るんやー!」
アインハルトのバリアジャケットだった。
強烈なドロップキックと共にツッコミを入れてきたジークの言うようにリヒターは相手のバリアジャケットを切り裂くのを趣味としている。
勿論女子限定で。
「問題ありません。チャンピオン」
「ハルにゃんも無理せんでええって―――だ、大事な布だけ残っとる!?」
「やるな、アインハルトちゃん。それでこそ我が好敵手だ」
「感心するとこちゃうやろ!」
何やらドヤ顔のアインハルトに感心した表情のリヒター。
もはや、ジークの頭は何が常識かを知るすべが残されていなかった。
「歴代最強にして最も残念なチャンピオンって言われる理由がようわかったわ……」
「それ、お前も含まれてるからな」
リヒターからのツッコミを敢えて無視してジークは深くため息をつく。
どうしてこんな相手に惚れてしまったのかと。
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