麦
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第三章
「全く以て」
「これはな」
「あいつは許せないな」
「放っておいたらとんでもないことになります」
「潰すぞ」
それを誓っている言葉だった。
「あいつを」
「はい、ただ」
秘書は議員に対してここで進言した。
「相手は知識人です」
「だからだな」
「辞任させることも」
「象牙の塔だからな」
議員も秘書の言葉に応える。
「あの世界は特別な世界だ」
「独自のルールが幅を利かせていまして」
「例え普通にその過ちを公にしてもな」
「それを都合のいい学説を出して否定すればです」
「残れるな」
「そして嘘を言い続けます」
象牙の塔と言うべき学界の中にいてというのだ。
「そうなれば同じです」
「そうだな、ましてやな」
「国立大学の教授といっても」
「人事権等は大学にある」
「そもそも政治家が大学の人事に介入するなぞ」
「あってはならない」
「それでは独裁国家です」
この国は民主国家なのでルールと倫理両方でだ、これは出来なかった。秘書はここにさらに言い加えた。
「若し人事権に介入して辞任させて潰せば」
「言論弾圧だの言われるな」
「下手に。先生の立場で反論されても」
「やはりそう言われるな」
「はい、言論弾圧という言葉はです」
相手が使えばというのだ。
「それだけで強力な武器になります」
「自分を守り相手を攻める」
「まさに攻防一体の武器です」
言論弾圧という言葉はというのだ。
「そこに表現の自由だの主張の自由だの加えれば」
「余計に強くなるな」
「この場合は学説の自由ですが」
「そう言って来るからな」
「大学側にあの教授の正体を言って辞任させることも」
「出来ないな」
「しかもそうしても教授は教授でなくなるだけで」
肝心の教授本人はというのだ。
「生き残りますので」
「潰したことにはならないな」
「要は完全に、こちらがダメージを受けずにです」
「教授を潰すことだな」
「そうです、ですから」
下手なことは出来ないというのだ。
それでだ、秘書は議員にこうも進言した。
「ここは先生が直接です」
「あの教授とだな」
「討論されてです」
「その討論の場所はだな」
「テレビ、新聞の両方で」
つまり報道機関を使ってというのだ。
「あとインターネットもですね」
「そちらの媒体もだな」
「使って、そしてです」
「教授をその場に引き摺り出して」
「討論の場を設けてです」
そしてその討論の場でというのだ。
「潰しましょう」
「そうするべきか」
「相手は自分の正体を誰にも知られていない、そして知られないと思っています」
「そうだな、私達にしても」
議員もここで言う。議員も言葉に身が入っていて口調が厳しいものになっている。それは声の色にも出ていた。
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