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第四章

「尻尾を掴むのに苦労した」
「黒ければ黒い程です」
「闇に隠れてな」
「見えなくなりますので」
 その闇の中においてというのだ。
「それだけあの教授が黒いということですが」
「何とか尻尾は掴んだ」
「後はその尻尾を公にするだけですが」
「そこでだな」
「討論の場を設け潰しましょう」
 その自分の正体が誰にも知られていないと思っている教授をというのだ、それで議員と秘書は二人でだった。
 教授にその麦の件での議論を申し出た、するとだった。
 秘書の予想通りだ、教授は。
「議論に応じられると」
「答えてきたか」
「はい、テレビとインターネットの同時中継です」
 インターネットの方はテレビのそれをだ、議員の事務所がユーチューブやニコニコ動画を使って実況する形式だ。
「そしてその討論がです」
「次の日にだな」
「新聞に載ります、総合雑誌とも話をつけました」
「ではだな」
「後はです」
「あの教授を潰すだけだな」
「教授は自分のガードを完璧だと思っています」
 秘書はここでまたこのことを指摘した。
「その主張の件はともかくとして」
「正体についてはな」
「はい、知識人ですから」
「知識人は、だな」
「その主張を幾らでも言い繕えますから」
 例えどの様な胡散臭い主張でもというのだ、そう言われることだけで。
「しかもそれが我が国で最も権威のあるあの大学の教授なら」
「絶対だな」
「何しろ我が国第一の知識人ですから」
 その大学の教授ともなればというのだ。
「誰もがその様なことはないと思いますし」
「知識人の言うことなら、だな」
「そして我々ならともかく」
 政治の世界に生きている人間は、という言葉だ。
「あちらの世界は清潔とです」
「思われているからな」
「教授は完璧だと思っています」
 自身の正体、そのことについてというのだ。
「ですから」
「ここで私が出すとは思っていないな」
「全く、そこが狙い目です」
「そういうことだな、ではな」
「はい、あの男を潰しましょう」
「絶対にな」
 二人で誓い合いだ、そして。
 議員は教授との討論に挑んだ、教授は自信満々という態度だった。
 その態度で場に出て来た、そのうえで。
 議員との話を進める、議員がどうした科学的根拠を出しても。
「いえいえ、それはです」
「また違いまして」
「その件はですね」
「この研究所の主張によりますと」
 学者特有の難解な主張や権威のありそうな根拠を出してだった。
 そうして議員の主張を煙に撒く、そうしてだった。
 議員に攻めさせない、だが。
 ここでだ、議員はだった。
 頃合が来たと見てだ、教授に言った。
「あの、それで」
「何でしょうか」
「この企業のことをご承知でしょうか」
 こう何気なく言ってだ、話を切り出した。
「キムダイグループを」
「キムダイグループ!?」
 その名を聞いてだ、教授は明らかにだった。
 動揺した、それまでの冷静さを消して。
 そしてだ、顔中から汗を流して言った。
「し、知りません」
「本当にですか?」
「は、はい」
 議員の問いにも狼狽しきりだった。 
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