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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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GGO編
  第199話 真名

 
前書き
~一言~


 何とか、早めに投稿をできて良かったです。今回の話は やっぱり 原作に近しい展開と内容になってしまってます……。自分もちょっとオリジナル分が少ない……と感じながらも この程度で精一杯でした! すみません…… どうか、温かい目でよろしくお願いします。

 最後に、この二次小説を見てくださって ありがとうございます! これからも、がんばります!


                                      じーくw 

 

               
 リュウキの言葉に驚きを隠せられないのは無理もない事だった。

 これから共闘を、と考えていた、提案していた所での《遊撃》と言う発言だからだ。

 遊撃とは、あらかじめ攻撃する目標を定めずに、戦況に応じて援護や攻撃に回る者の事であり、云わば後衛だ。戦術(スタイル)的に言えば、どちらかと言うと、狙撃手(スナイパー)であるシノンが その役割に相応しいと言えるだろう。
 超接近戦、剣を主体とするキリトと同等クラスの接近戦をしているリュウキには、若干似つかわしくないからこそ、驚いたのだ。
   
「何でまた遊撃に?」
  
 キリトは疑問を上げていた。
 確かに リュウキの眼は視野が異常に広い。戦況に応じてスタイルを変える事など、造作もない事だろう。銃の世界(GGO)で 直ぐに戦える事の出来る適応力が半端じゃないからだ。

 だが 今回の戦いの場合においては珍しいと言わざるを得ない。

 命が関わる戦いでは全てと言って言い程、彼は前に出てきているから。口では色々と言っていても、常に前に立ち、全部仲間たちの為に戦い続けている事が 本当に多かったから。リュウキの事を妬み、そして疎む者達も多かったあのSAOの世界。……だが、後半では 感謝される事の方が多かったのだから。

「そうよね。……BoB予選のあの戦いぶりを見てるし。ちょっと違和感があるわ」

 シノンは、SAO時代のリュウキを知らないが、それでも キリトと大体同じ感覚だった。
 あの予選のリュウキの戦いは まだ目に焼き付いている。予選の常連組でさえ 屠ってのけて、極めつけは 本戦で結果を残したプレイヤーが更に戦車(チート)を使用してもあっさりと倒してのけたからだ。
                 
 死銃や死神の力も未知数で、不気味にすら感じる所があるが よくよく考えたら、目の前の男も決して負けてはいない事は判る。

 リュウキは、それを訊いて 表情を少し険しくさせた。
                            
「……死神が、いるからだ」
「っ……」   
                                      
 リュウキの言葉を訊いて、キリトは はっとした。
                            
                   
 SAO最悪のギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)


 その中でも 特に注意が必要だったプレイヤー達。その中でも特に最悪だと称されたのが……あの《死神》だ。
 正面からの戦闘に関しては、最前線の攻略組を上回りこそはしない。だが、あの男の恐ろしさはそこではない。笑う棺桶(ラフコフ)の戦闘スタイルは、基本的に闇討ち、騙し討ち、罠、と言った具合であり、正々堂々とは程遠い攻撃を一切の躊躇もせずに仕掛けてくる。つまり、最大の武器は《悪意》だと言えるだろう。一切迷わない。人を殺す事を迷わない。どんなプレイヤー…… 人間であっても、人1人を手にかける時、何らかの反応をしてしまうものだ。

 だが、ヤツは、まるで息をするかの様に 普通に人を傷つけ 命を奪う。

 そして、背後より忍び寄り、命を刈り取る(シックル)型の曲刀(タルワール)《ヘルズコア》を操るその姿を見て、あの男は《死神》と称される様になった。

 神出鬼没(a-phantom)

 それが死神と呼ばれる男のもう1つの異名。

「アイツが正面から 来るとはどうしても思えない。……アイツが まず狙うのは シノンだ」
「っ……」

 シノンは顔を顰めた。
 死神と直接的に相対をした訳ではない。だが、キリト、そしてリュウキの警戒の仕方を見たら、只者じゃないと言う事はよく判っている。使用しているレア短機関銃 《スオミ KP/31》も十分驚異だし、更に あの男も、持っている筈だから。
 五十四式黒星(あの悪夢)を。

「神出鬼没には、神出鬼没を。……敵側は オレ達は絶対にシノンの傍にいると思っている筈だ。……あの世界でも色々と言われているからな? オレ達は」
「まぁ、そうだったな」

 キリトは苦笑いをしていた。
 リュウキは、後半。……あの世界での終盤でこそ、常にパーティを組んでいたが(主にレイナと)、それまでは 基本的にソロ。恐らくはあの世界で誰よりも1人で戦い続けていた筈だ。そんな中 確かに他のプレイヤーと比べたら リュウキとキリトがコンビを組んでいた事が多いが、それでも 全体を通してみれば、少ない期間だ。
 その少ない期間。たったそれだけの時間で 妙な字名が付いた。

 それが 所謂《白銀と漆黒》である。

 誰が、そんな情報を回したか? それを知るのは、簡単だった。あの鼠がまた妙な事を言い出したのだろうと。因みに、問い詰めたら、あっさりと吐いたから 裏も取れたのは別の話。その後 あの情報屋の彼女が大変な目にあったのも別の話である。

 
 そして、決行は次の衛生スキャンの開始時間の2分前と決めた後。
 
「とりあえず、キリトは 狙撃手(スナイパー)の方の死銃を、オレは もう1人の死銃、死神を担当する、と言う手筈で行こう。相性的にもそっちが良いだろう」
「ああ。了解だ」

 互いの相手を確認しあう2人。作戦に関してはキリトは 何も付け加える事はなかった様だ。だけどそれを訊いていたシノンは、疑問をあげた。

「ん……、でも 何処に潜んでいるか判らないし、相手を分担しておくのって、どうなのかしら? いきなりキリトが、その死神の方になるかもしれないし、相手に関しては分けておかない方が良い気がするけど」

 そう、この戦いは基本的にソロの遭遇戦だ。一緒に行動をしていれば、確かにほぼ100%遭遇するだろう。だが、遊撃に回ると言う事は 云わば自由に動くと言う事だ。だから 必ずしも 決めた相手と遭遇する訳ではないのだ。

「問題ない。キリトなら、どちらが相手でも 勝てる」
「……オレも同意見だ」

 2人が互いに笑い合うその姿。そこには 本当に信頼していると言う事がよく判ると言うものだった。シノンは、それが 羨ましくも思えた。……今回は 本当に 心からそう思える事が出来たんだ。 己の過去も、全てを抱えたままで 本当に……。だから、シノンは穏やかな表情をしていた。

「……ふふ。まぁ、どっちが当たるか 判らないけど、狙撃手(スナイパー)の方の死銃の最初の一発で、一撃死とかはやめてよね」

 確かに戦闘力は凄まじい。だが、射程外からの 凶悪なあの狙撃銃(サイレント・アサシン)の弾丸を受けてしまえば、一撃死してしまっても不思議ではないのだ。そして、最大の強みでもある、その異名の通り、《サイレント》 即ち消音器(サプレッサー)の装備による無音の一撃。
 気づく間もなく攻撃を受けてしまうのだ。

「ゔ……」
「それに関しては 大丈夫だ」

 実に対照的な反応を見せてくれた2人。それを見て、シノンは思わず軽く吹いてしまった。

「あっちゃあ、あんたの相棒、自信ないみたいよ?」

 手を口元に当てながら軽く笑うシノン。

「うぅ……、シノンは知らないだろうが、こいつの眼は異常なんだって……」
「はぁ。異常な反射、反応速度をしてる癖に、何言ってんだ。できるだろ? キリトも十分。っと言うか、さっきは『任せてくれ』って言ったよな?」
「ど、努力はするけど、リュウキの様な100%の自信が持てないってだけで……、アイツのライフル 音無いんだし、最初は予測線だって、見えないんだし」

 そこまでの話を訊いた所で、シノンは言う。

「何言ってるのよ。その予測線を予測する、とか言ってた癖に。あれはどこの誰だったのかしら?」

 笑いながらそう言うシノン。

 だけど、今は本当に不思議だ。
 シノンはリュウキと密着したまま その温もりを感じたままでいて、こうやって、キリトも含めたやり取りをしている。背中に付きまとう怖れも僅かに遠ざかるようだった。

――……現実世界の自分の部屋に、殺人者が侵入しているかもしれない――と言う あまりにも恐ろしい推測からは、正直ただ眼を逸らし、考えない様にしているだけだ。

 死銃を倒せば、奴らは何もできない、と言う彼の言葉を信じ、いまは只管にしがみつくしかない。いや、それは 言葉だけじゃない。触れ合う仮想の体温に、だろう。
 そして、心の奥にまだ引っかかっている感覚。はっきりと判った訳じゃない。もどかしい感覚。それも、何処か自分自身に心地よさを与えていた。判らないのに、そう思ってしまう。まるで矛盾だった。

 シノンは、微笑みを浮かべながら 再び 今度は意識して リュウキの身体に自身を預けた。直ぐにでも、敵が来るかもしれない。……死銃だけじゃなく、他にもまだ生き残りがいるかもしれない。その連中が ここに手榴弾(グレネード)を投げてこない保証なんて何処にもないんだ。

 だけど、根拠は無いに等しいけれど 安心が出来る。

 決行まであと数分。……この温もりを感じていられるまでの短い時間。今の精神状態を維持できるかどうか、判らない。

――だからせめて、後少し、ほんの少しの時間だけでも、温もりを感じたい。

 シノンは、そう思っていたのだ。


 リュウキ自身も、勿論 シノンが寄りかかってきている事には気付いている。震えはもう収まってはいるものの、これから相対する相手を考えたら、また 震えてしまうかもしれない、と言う気持ちがあるのだろう。
 リュウキも その畏れに関しては判るから、だから シノンに応える様に再び包み込んだ。
 ぎこちなさは、あるだろう、上手く出来ているかは判らない。それでも 傍にいる事で少しでも 救われるなら、と。

 そんな時だ。再び『オレ、空気になるんだろうなぁ……数分だけど』と思っていたキリトは、ある事に気づく。

「あの……、2人とも」

 なんと、こんな状態の2人に話しかけたのだ。確かにさっきまで会話はしていたとは言え、シフトチェンジをしかけている状況で、今回はキリトが話をしだした。勿論、それには理由がある。

 宙に、何かが漂っているのに気づいたからだ。今さっき気づけた。

「これって、なんだ? この飛んでるの。……それに、視界の右下に、へんな赤いマルが点滅してるし……」
「え……?」
「ん、本当だな。……これは」

 シノンは、反射的に キリトが言う場所を、頭上を見上げた。そこに浮遊しているモノ(・・)を見て 思わずリュウキから、飛び退こうとしたのだが、もう今更無駄だろう、と考えてため息をついていた。

「ああ……しまった、油断したなぁ……」

 頭上に浮いているモノ、それは奇妙な水色の同心円だった。実体ではなく、ゲーム的な単色発光オブジェクト。悪意の類は無い事は直ぐに2人とも判った様で、慌てた様子は無かった。

「ライブ中継カメラよ。普通は戦闘中のプレイヤーしか追わないんだけど、残り人数が少なくなってきたから、こんな所にまで来たのね」
「ええ! そ、それは不味くないか? オレ達の会話が……」
「確かに、ゲーム内のプレイヤーには発信してないと思うが……。まぁ バレた所で ゲーム内の連中に伝える事は不可能。……考えたくないが、シノンが無事な以上、何かをしてくるとも思えない」

 慌てているキリトと、極めて冷静なリュウキ。本当に対照的な2人だった。それを見てシノンは、苦笑して。

「大丈夫、大声で叫ばない限りは音声は拾わない。そんな小声まで拾ってたら、銃声が鳴り響いた時、向こうじゃ 壮絶な音響が響いちゃうしね。――いっそ、手でも振ったら?」

 そして、少し、ほんの少しだけ 声のボリュームを下げながら続けた。

「……それに、この映像を見られて困る相手でも、いるの?」

 これは、キリトではなく、リュウキに対しての言葉だった。密着しているのはリュウキだから、といえばそうだろう。リュウキは、眼をパチパチ、と瞬きをさせながら 考える。

「ん…… 困る? 何故だ?」

 わかっていない様に 首をかしげるリュウキ。それを訊いたシノンは どう反応して、表現していいのか 判らなかった。彼女はそこまではまだ、考えていなかったが、ここでの100点満点の回答は『いない』に限るだろう。だけど、彼女はリュウキと言う男の性質を知らなかったから。

「あー…… あのな? りゅーき君、盛大にヤキモチ妬かれる姿が目に浮かぶんだが……。そりゃもう、これまでで、トップクラスの」

 頭をかきながらそう言うキリト。この時ばかりは、成長しきっていない弟を見ている気分になる。リュウキも、色々と経験をしてきているから、判る筈だと思っていたのに、と苦言を思う。

「………」

 シノンは、複雑だった。
 ……正直な所、この世界で出会っただけの相手。そんな思いいれをする方が、客観的にはどうかと思うし、以前までの自分だったら特にだ。
 ……だけど、そんな単純な事じゃない。自身の過去を知っても尚、迷う事なく、『手くらい、幾らでも繋いでやる』と言ってくれて、掴んでくれたんだから。

 でも、この世界でいる以上、今はどうしようもない。

「何言ってるんだ? まぁ……、そう言われれば確かにそう思うが、考えても見ろ。今のアバターは オレとは程遠いだろ?」
「あ、そう言えばそうだった。……って事は、 シノンの方が厄介な事になるんじゃないか? ここにいるのは……その、3人とも女の子って 認識されてるんだし………」

 自分で言っても本当に複雑な事を口にしているキリト。今大会が始まる前に、『すぅぱぁ・がぁる』等という、実際には、不名誉極まりない言葉を受けたのだから。

 シノンも当然ながら、それに改めて気づいた。確かに言われればその通りだ。複雑なのは変わりない事だが、いずれ厄介な弁明を強いられることになるのも複雑だ。

 だけど、全ては今 無事にこの状況を乗り切ってからだ、とシノンは短く鼻を鳴らしていった。 
   
「――カメラに気付いてジタバタと取り乱す方がかっこ悪いわ。いいわよ、別に。……その、そう言うシュミの持ち主、って噂でも立てば、面倒なちょっかいも減るだろうし」
「……シノンには悪いが、オレはいつまでも、女の子でいるつもりは無いんだぞ? キリトは兎も角」
「うぇ!?」
「ああ、確かにそうね。あんた、忘れた訳じゃないでしょ。女の子のフリして、私に街の案内させたんだから……っと、消えたか」

 あのライブ中継カメラはいなくなった。外部の観客からは到底こんな皮肉の応酬をしている様には視えないだろうな、とシノンが考えていた。

 そして、この件と リュウキの件があってからか、今度こそ 身体を預けていたのを離して立ち上がった。

「そろそろ時間ね。……次の衛生スキャンまで後3分ちょっと。……私はこのままここにいて、あなた達だけが洞窟の外で端末をチェックするのね?」

 シノンは、そう言いながら 完全に立ち上がると、今の今までずっと自分のクッション、抱き枕の様にしていたリュウキに手を貸して引っ張り上げた。一歩、下がると 砂漠の冷気が全身を包み込んで、思わず首を縮めてしまう感覚に見舞われる。……彼の温もりが無ければ、再び震えていたかもしれない、と思える。

「ああ。そうだな」
「ん。スキャンをされている間は、オレ達は固まっていた方が良い。……2人で行動をしている、と思わせられるだろう。 まぁ、これは100%とは言わないし、言えないが」
「ん。その手筈で……」

 シノンも頷き、愛銃(へカート)に手をかけたその時だ。

「あ、そう言えば……」

 キリトが何かを考えだした。何やら眉を潜めながら。
 
「ん? どうした?」
「なによ。今更? もう作戦変更している時間はないわよ」
「いや、作戦は変わってないし、変えるとも思わない。これが最善だ。……そうじゃなくて、結局、死銃の本名、って言うか正式なキャラネームの事だよ。ええっと、《銃士X》は違って、《ペイルライダー》も違う。……《ジーン》もそうだとすると、残った2つがアイツ等、って事になるよな?」
「だな。それで間違いない」

 リュウキも頷いた。この世界の常連であり、強者でもあるシノンが知らないプレイヤー。それもこの凝縮された空間の中にいるメンバーの中で知らない名前が2つ。つまり、完全にあの2つが死銃と死神のアバター名になる。

「確か《スティーブン》そして、《赤羊》だったよね……。位置的に考えたら、私達が追いかけてたのは スティーブンの方だと思う。赤羊の方は 位置情報載ってた筈だから」

 時間が無い、と言ったシノンだったが、キリトにそう言われてみると、なんだか気になり出し、考え込んだ。それを訊いたリュウキは首を振った。

「片方は合っているが、もう片方は違う」
「え? 違うって?」
「いや、間違いないと思うぞ。リュウキ。銃士Xさんは、マスケティアさんは オレが合ってるんだし」

 シノンと、キリトがそう言うと同時に、再びリュウキは首を振った。

「違う、と言ったのは、呼び方だ。アイツの名は《スティーブン》じゃない。スティーブンなら、綴りは《Steven》になるだろ? アイツのは《Sterben》だ」

 一字一字を発音よく言うリュウキ。だけど、キリトは少しだけ反論した。

「それって、スペルミスじゃないか? オレは英語得意って訳じゃないが……、そんな単語、他に無かった気がするが」
「うん。私もミスだと思って、《スティーブン》って読んでた」

 シノンもキリトに同意した。だけど、リュウキは 首を1度、振った後に 再び左右に振る。

「……キリトの言った事は間違っていない。英語で あの綴りの単語は無いからな」
「え……? ならどう言う」
「………」

 キリトとシノン。
 2人は、リュウキから 真の名を訊いたその時、再び悪寒が身体を突き抜ける事になった。

「あれは 《ドイツ語》だ。……読み方は《Sterben(ステルベン)》。意味は《死》。……日本では医療関係の用語として使われる言葉、だ。……らしい付け方だ」

 リュウキは、正直な所、不愉快極まりない事だった。自身の存在を恐れさせるが故に、つけた名前なのだろう事が判ったからだ。

 だが、同時に疑問符も浮かぶ。

 片方のスティーブン、改め ステルベン。これはドイツ語だ。マルチリンガルであろうあの男だったが、主に使っていたのは英語だ。話した事は少ないが、ドイツ語はこれまでで、使っていた気配はなかった。
 確証がある訳ではないが、恐らくは医療関係用語の方で、知り、そして使ったのだろう。

 ……それならば、見えてくる答え(・・・・・・・)もまた、有るから。 


「悪趣味な連中、だな。相変わらず。まだ SAOで使ってた名前の方が可愛気があるってもんだ。……ま、覚えてないが」
「………だな。片方は 最後まで判らなかったし」

 苦笑いをする2人。 

 一瞬だけ、《死》と言う意味をもつ《Sterben》。それを訊いて寒気が、悪寒が走ったが 今更 名前だけで怖気付いたりする者はこの場には誰ひとりとしていなかった。それは勿論シノンも。

「それじゃあ、最後の……死神の名前は、《赤羊》って事。こっちはなんなのかな?」

 シノンは、そう疑問を言っていた。
 正直な所、《死神》の異名を持つのであれば、その名前(ステルベン)は そちら側が相応しいと思ってしまう。どっちも死銃(デスガン)と言う人を殺す事をしているから、一概には言えないし、どっちもどっちだが、それでも思ってしまうのだ。

「……幼稚だって事だ。どっちも似たような そんな(・・・)名前を付けるんだからな。死神、赤羊もステルベンも」

 リュウキは、呆れた様な声を上げていた。

 その事に、シノンは勿論だが、キリトも声を上げた。

「ん? ステルベンの方は判るが、赤羊の方はよく判らないな。……そっちも判るのか? リュウキ」

 リュウキの説明を訊いて、相変わらず 物知り、と言うより移動式図書館端末か? と思えてしまうキリト。或いは 知識の宝庫か。 赤羊に関しては 存在こそはしないものの、日本語だから と言う事で判る事は判るのだが、リュウキが言っている(・・・・・)意味はイマイチ判らなかった。

「…………」

 リュウキは、軽くため息を吐いた後、応えた。

 赤羊の意味。自分が考えている 恐らく間違いないだろうと思えるその真意を。

 

 それを訊いた2人は、再び 身震いを起こし、改めて嫌悪をするのは言うまでもない事だった。













~ALO~



 固唾を飲んで見守る面々がいた。いつもの会話らしい会話は全くと言っていいほど、起こらない。いつもだったら、ただのゲーム(・・・・・)であったなら、今頃は、談笑しながら 2人の事を応援していただろう。

 リュウキやキリトの頂上決戦。

 銃の世界(GGO)だから、そこまでいくかは判らないけど、あの2人だったら、行くだろう、とまた談笑して……、彼らを想ってるコ達が、其々を応援して, アスナやレイナがやや嫉妬をしてしまう。そして、ユイは両方を笑顔で応援している。

 その、筈だったんだ。

 あの人(・・・)を呼びに行く、と飛び出していったアスナは戻ってきていた。

 アスナもレイナも、胸の奥ではどこまでもふくれあがろうとする不安感と戦っていた。そして、ただじっとその時を待ち続けたんだ。

 イグドラシル・シティの部屋から、一度現実世界の《ダイシー・カフェ》2階にログアウトし、携帯端末で、あの人を呼び出したのが、今から3分前の事。

 とんぼ返りしたその時に見たのは、レイナの不安そうな顔。……今回ばかりは自分は何も、……励ましの何も言葉が見つけられなかった。

「2人とも、ちょっと落ち着きなよ。……って言っても、無駄だよね」

 1秒1秒が、先ほどの倍以上にも感じられる中、ソファーの隣に座るリズベットがそう言葉をかけてくれた。だからこそ、漸く言葉を発する事が出来たのだ。……小さく、だけれど。

「……うん。ごめんね。でも やっぱり 嫌な予感がするのよ」
「私も……同じ。だって、だって……」

 レイナは顔を暗くさせた。

「リュウキ君、何も言わなかったよ。……あの《ラフィン・コフィン》の事も、何にも。……だから、余計におもっちゃって……その、その……」
 

 後半になって、途切れ途切れになるレイナの言葉を繋げたのがアスナ。そのレイナの肩をひと撫でして。

「うん。……ただの因縁とかだけじゃない、って思うの。現実の危機みたいなのを……」
「考えすぎ、ってあたしは思うけど、……もう、言えないかな。さっきのアレを見ちゃったら。それも2度も……」

 リズベットの言うアレとは、先ほどから中継されているBoB大会での事だ。

 あのぼろぼろマントの男、リュウキらしきプレイヤーと対峙して、そして1人のプレイヤーを消し去った。《イッツショウタイム》と《死神》、それらの単語を残して。

 そして、もう1つ、あったのだ。

 その場所は鉄橋での事。

 同じく ぼろマントで髑髏のマスクの様なものをつけた男が、 あの銃(・・・)を撃ったのだ。……最初と同じ様に 撃たれたプレイヤーは消失し、《イッツショウタイム》と言う言葉を残して。

 それらを訊いて、バーカウンターに座るクラインが驚愕しつつも 認めたのだ。

 片方はSAO、浮遊城アインクラッドの中でも最悪のギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》のメンバーだと言う事。……そして、その中でも最も凶悪だと言っていい。1,2を争う(死神)だと言う事を。

「っ……」
「………」

 アスナも、レイナも 恐らくはクラインが言っていた言葉を思い出したのだろう。

 そして、その言葉からあの禍々しいギルドのことを、そしてあの世界で戦った戦闘の中で、最悪の戦いと断言できるあの死闘、《攻略組合同部隊によるラフコフ討伐戦》の事を思い出してしまったのだろう。

 要所要所で、記憶は欠落、欠け落ちてしまっているのは2人とも共通である。

 そして、鮮明に覚えているのが、討伐隊の先頭で 鬼神の如く剣を振るい続ける男。

 あの戦いの始まりは奇襲だった。如何に攻略組でも、そして 以前失った命を想い、全損する事を、今回に限っては、躊躇わなくなった攻略組と言えども、同じく命を奪う事を躊躇しないラフコフのメンバーの奇襲攻撃を受けてしまい、瓦解、崩壊しかけない状況だった。

 そんな中で、まさに《鬼》……。皮肉な事に 奴らが 鬼と畏れ、蔑んだ男の怒号と一閃。それを受けてしまい、一気に攻略組へと傾いた。そして、鬼は1人ではなかったんだ。彼を支える様に、傍らにもう1人、鬼がいた。それは、白銀と漆黒の鬼だった。 

「キリトくん……」

 その戦いに関しては、アスナは見ている。思い出してしまったのだ。

 鬼の如く戦ったキリトの事を。『今回はリュウキだけに背負わせる訳にはいかない』と強く決意をしていた事も知っている。そして、彼も傷ついてしまった事も、知っているんだ。


「りゅうき……くん……」

 レイナも、思い出してしまう。

 あの戦いが終わり、……全てが終わり、立ち尽くして 涙を無言で流し続ける彼の姿を。仲間を助ける為に、命を守る為に 再びその手を振るってしまい、涙を流し続ける彼を。



 皆で 皆で 彼を支え続けた。時には涙を一緒に流した。



 以降は、あの戦いについては誰も語る事は亡くなったのだ。この場にいる元・攻略組。アスナ、レイナ、クライン。そして、今銃の世界(GGO)で戦っているリュウキとキリトも。皆が其々のやり方で忘れた筈だったのに……。

 
 部屋の中にいるメンバー。アスナ、レイナ、クライン、リズベット、シリカ、そして 直接には関係ないリーファすら、それ以上何も喋らずにただただ待ち続けた。

 今、何が起きているか、ある程度 知っているはずの人物の登場を。

 そして、部屋のドアがノックされたのは、アスナの再ログインから、約1分後の事だった。連絡を受け、可及的速やかにALOにダイブしたのだろうが、ドアが開いた瞬間に、リズが『遅ーい!』 と一言。他の5人の内心を代弁してくれた。
              

 そう、()が現れた事で、今 銃の世界(GGO)で起きている闇。良くない何かが起きている事を、この場にいる  
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