迷子の果てに何を見る
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第五十話
前書き
全力ならともかく今の状態じゃあこの結果か。
by佐久間
修学旅行 二日目 その2
side 佐久間
「裏神鳴流決戦奥義、万華桜吹雪」
いきなり決戦奥義か、まあ相手が力量も分からずに挑発したのが原因だから仕方ないか。
「痛ててて、破片が身体の中に入りっぱなしになってる」
「ほんなら早よう取り出してきい」
「そうするよ鶴姉。あっ、そうだ。できれば僕の友達に稽古をつけてもらえない」
おい、何を言い出すんだれいっ!?
振り下ろされた木刀を寸での所で回避する。
「ぎゃあああああ」
君尋は回避できずにダウンしてしまったが。
「ふ~ん、この子はともかく残りの二人は殺りがいがありそうやな」
「君尋は最近こちら側に来たばかりなんで、残りの二人はそれなりに楽しめると思いますよ」
「おい、零樹、ってアブな」
「鋭た、くっ、そこの」
レイフォンが持っていた鋼糸で木刀を絡めとりながら一瞬だけ俺の後ろの壁に視線を向けたのでその意図に気付き、視線の先にあった木刀をレイフォンに向かって投げる。投げた瞬間、鶴子さんが目標を俺に変えて突っ込んで来た。戦いの歌を発動して斬撃をすり抜けレイフォンの後ろにつく。
「ホンマに楽しめそうやね。零坊も良い友人を持ったんやな」
「鋭太郎、本気で不味いよ。完全に遊ばれてる」
「分かってるけどやるしかないだろう。フォローするから突っ込め」
「頼んだよ」
レイフォンが突っ込むのと同時に無詠唱で魔法の射手・氷の矢を打ち続ける。
「連携もうまく取れとるみたいやけど、これやったらどうや」
そう言うと鶴子さんが分身した!?しかも密度が異様に高いのが20体。
「レイフォン」
「分かってる」
レイフォンも分身するがフォローする俺が分身出来ない以上今まで保っていた均衡が崩れ出して来る。
「鋭太郎も分身してくれない」
「無茶を言うな。魔法使いの俺にそんな物を要求するな」
俺もできれば分身してやりたいがやり方が分からん。くそ、こういう時に零樹が居ればうまい事援護してくれるのに。
「がぁ」
その内レイフォンの分身の一体がやられ、鶴子さんの分身が俺に向かって来た。
「後衛としては十分やけど接近戦の方はどうや」
胴を狙った横薙ぎに対してフォローする手を止めて迎撃に移る。右膝と右肘で木刀を挟み左の手刀で木刀を叩き折る。気で強化されている木刀を折られ驚いているところに無詠唱遅延魔法で用意しておいた風の矢を至近距離で当て、おなじく無詠唱遅延魔法で用意しておいた光の吹雪を叩き込む。
すぐさまレイフォンのフォローにまわろうと
「よそ見して良いのかしら」
いつの間にか3人の鶴子さんに包囲されていた。
「接近戦の方もまあ及第点と言ったところやな」
「ははは、天下の神鳴流師範代にそう言われるとは思っても見ませんでしたよ」
「謙遜せんでもええよ。まさか気で強化した木刀に魔力を通して反発させて無理矢理折るなんて考えをする時点で十分及第点や」
「昔、零樹に教えられましてね。成功して良かったですよ」
実際、今日初めてやったのだが本当に成功して良かった。
「勝負度胸もある。70点やな。ほならお休み」
ふう、ここまでか。零樹みたいに痛覚を遮断できれば良いんだけどな。
「「「神鳴流奥義、雷鳴剣」」」
「のわあああああああああああああ」
side out
side レイフォン
「裏神鳴流決戦奥義、万華桜吹雪」
あれが裏神鳴流か、普通の神鳴流と違って少し荒々しい感じだね。いや、これは零樹が怒ってるからかな。家族が貶されたら普通は怒るし。
「痛ててて、破片が身体の中に入りっぱなしになってる」
「ほんなら早よう取り出してきい」
「そうするよ鶴姉。あっ、そうだ。できれば僕の友達に稽古をつけてもらえない」
えっ?いきなりぃぃい。
振り下ろされた木刀を寸での所で回避する。
「ぎゃあああああ」
君尋は回避できずにダウンしてしまったけどしかたない。
「ふ~ん、この子はともかく残りの二人は殺りがいがありそうやな」
「君尋は最近こちら側に来たばかりなんで、残りの二人はそれなりに楽しめると思いますよ」
「おい、零樹、ってアブな」
「鋭た、くっ、そこの」
一瞬だけ壁にかかっている木刀に視線を向けて持っていた鋼糸を木刀に絡め時間を稼ぐ。鋭太郎は僕の意図にすぐに気がついてくれたので木刀を投げ渡してくれるけど、鋼糸が耐え切れずに千切れた。しかも鋭太郎目掛けて突進している。援護したいけど鋼糸の長さが足りない。やられると思ったら鋭太郎は器用に身体を捻って斬撃を躱していた。そのまま僕の後ろにつく。
「ホンマに楽しめそうやね。零坊も良い友人を持ったんやな」
「鋭太郎、本気で不味いよ。完全に遊ばれてる」
「分かってるけどやるしかないだろう。フォローするから突っ込め」
「頼んだよ」
鋭太郎に援護してもらいながら木刀を振るう。いつも使っている物より若干間合いが長く扱いにくい。それでも何回か打ち合いを続けてズレを整える。
「準備はできたみたいやね」
「ええ、おかげさまで」
「ならここからは本番や」
鶴子さんが抜刀術の様な構えを取る。ならここから来る技は
「「神鳴流奥義、斬岩剣」」
同種の技を放つも熟練度の差から微妙に押し負ける。だけど木刀を振り切る事は出来ると感じた。ならここから繋げれば良い。
振り抜くと同時にそのまま独楽の様に回転して木刀を叩き付ける。それを普通に受けられたのは少しショックだけどこれで良い。そこから身体を少し捻るとそこに鋭太郎が放った魔法の射手が通る。無理矢理躱す事で重心が崩れたところに気の量を最低限にした焰切りを放つが後方に飛んで躱される。
「連携もうまく取れとるみたいやけど、これやったらどうや」
そう言うと鶴子さんが分身した!?しかも密度が異様に高いのが20体。
「レイフォン」
「分かってる」
同じ様に分身をして迎撃に当たるけど鋭太郎の数は変わらないから援護が欲しい時に来ない事もあり段々と押され始める。
「鋭太郎も分身してくれない」
「無茶を言うな。魔法使いの俺にそんな物を要求するな」
さすがの鋭太郎でも分身は無理だったか。くっ、零樹が居れば何とかなるんだけど。せめて錬金鋼があれば。最悪、鋼糸がもう少し長ければもう少しマシになるんだけど。あっ、まずい。押し負ける。
「がぁ」
分身の一体がやられ、そのまま鶴子さんが鋭太郎に向かう。なんとかしたかったけど本体である僕を含めて残りの全部が動けない上に新たに分身を作る余裕も無い。どうにか鋭太郎には頑張ってもらうしかない。だが、鋭太郎に気を取られたのが失敗だった。一瞬の隙に分身6体が同時にやられてしまった。その内の半分が鋭太郎に向かい、残りの半分が分身体に2対1の状況に持ち込んでしまい次々とやられる。
「のわあああああああああああああ」
鋭太郎の叫びと雷鳴が轟いた。どうやらやられてしまったようだ。鋭太郎の周りに感じる気の数は3。つまり最初の1体はなんとか倒せたのだろう。もう負けは見えている。けど、最後に。残っている5体の分身に鋼糸を使わせて目の前に居る本体を拘束させようと動く。一瞬で良いんだ。その一瞬に全てをかける。5体の分身が目の前の鶴子さんに背を見せて鋼糸を放つ。すぐに意図に気付いて次々にやられていく。そして最後の一人がやられてしまう。だけど僕は全力で木刀を振りかぶる。なぜなら
「風の矢!?まだ気ぃ失うてなかったんか」
鋭太郎が右手を上げているのが見えていたから。
「やれぃ、レイフォン」
「はあああああああああああああああ」
他の分身との距離から確実にこれで決まる。そして、全力で振り抜き、
ボフゥン
目の前に居たのは本体ではなく分身体だった。
「ホンマに惜しかった。最後のには驚いたけど、ウチの勝ちやね」
勝ったと思った。けどその考えは甘かった。まだまだ強い人は大勢居る事がよく分かった。だからもっと強くなろう。リーリンや皆を守れる様に。
「零坊から聞いとるで、一回見たら真似れるんやろ。だからウチが使う中でのとっておきや」
「お願いします」
「ええ根性や。死なん様に耐えるんやでぇ」
気を全て防御に回し、魔力を眼に回す。気と肉体の流れを一切見逃さない様に。
「神鳴流奥義、滅殺斬鉄斬魔桜花斬」
「ぐわああああああああああああ」
死ぬ程痛かったけど、確かに見えた。今まで零樹に見せてもらった神鳴流の技を同時に放つだけでなくそれを複合させているのが。
「がはっ」
道場の壁を突き破りそのまま森の中にまで飛ばされる。運良く木にぶつからずにすみ、受け身を取って仰向けに倒れる。立ち上がろうとすると胸に激痛が走る。どうやら肋骨が何処かに刺さっているみたいだ。
「大丈夫ですか」
傍に誰かが近づいて来た。この声は確か零樹のお姉さんの刹那さんだっけ。
「大じょ、ごふっ」
「あまり大丈夫そうでは無いですね。どこがやられているか分かりますか」
「……肋骨が、ごほっ……どこかに」
「分かりました。とりあえず応急処置だけは施しますから気を抑えておいて下さい」
痛みを誤摩化す為に使っていた気を抑える。途端に激痛が走るけどすぐに刹那さんが何かの符を胸元に張ってくれる。すると痛みがほとんど無くなる。
「これで普通に動く分には大丈夫だと思います。一応後で本邸に居る治癒術士に診てもらって下さい」
「ありがとうございます。ここまで治っているなら後は気で治せます」
「それでも一度診てもらって下さい。鶴子姉上の一撃をまともに受けているんですから、もしかしたら何処かに異常があるかも知れません。あなたに守るべきものがあるなら余計にです」
「分かりました」
「では本邸の方に向かいましょう。長がお待ちになっておられるので」
「あっ、はい」
side out
side 零樹
「おや、レイフォン。無事、では無かったみたいだな」
「零樹、神鳴流ってみんなこんなに強いものなの?」
「鶴姉が別格なだけだ。もっとも麻帆良にいる魔法先生よりは遥かに強い」
「やっぱり別格なんだ」
「だが、今回の事で何か得たものはあったんだろう」
「うん」
「良かったな」
「ところで君尋と鋭太郎は」
「君尋なら医務室に運ばれていたな。鋭太郎なら既に怪我を完治させて広間の方に行っている」
そのまま4人で広間に向かうと黒こげになった鋭太郎と詠春さんがいた。まあ、近くに木乃葉さんと木乃香さんと草姉が符を、千雨さんがステッキ状態のルビーを構えているところから何となく察する。
「お久しぶりです木乃葉さん」
「あら、おひさしぶりやねえ。アリスちゃんと付き合い始めたんやって。おめでとうな」
「はあ、ありがとうございます?」
「なんで疑問系なんや」
「いや、どう反応すれば良いのかが分からなくて」
「笑えばえんとちゃう?」
「木乃香さん、それはたぶん違うと思います」
「まっ、とりあえずお祝いはせなあかんな」
とまあそういう感じで二日目が過ぎていった。
追記
鋭太郎と詠春さんは宴会を始める位に普通に復帰した。
君尋はホテルに帰るまで起きなかったが宴会に出されていたものを幾らか包んでもらっていたためそれで我慢してもらった。
side out
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