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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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GGO編
  第175話 男の娘?同盟結成


 このシューティングゲームも無事に終了。

 メイン・ウインドウを開き、賞金であるプール内の全額が入り、さっきまでは寂しい数値が並んでいたと言うのに、一気に十万長者と言った所だ。肩を軽く振り、そして鳴らしながらゲートから出たその瞬間だ。


『うぉぉぉぉ!!! す、げぇぇぇ!!』


 突然の絶叫とも言える歓声と共に、あれよあれよと言う間に一気に囲まれてしまった。

 確かに、ゲームクリアをすれば、それなりに注目されるかもしれない、とは思っていたが……、考えていた以上の人数だった。多分、と言うかまずあの少女が反対側にあるゲームをクリアしたから、だと言う理由もあるだろう。

 それ以前に、するタイミングを見誤った事もあった。

 ゲームをプレイする前に少し様子を見て、ある程度熱も冷めて、人がいなくなったら……と今なら冷静に考えられる。実際に起こった後と、する前ではどうしても、そう思ってしまう。

《後悔先に絶たず》とはまさにこのことである。

 そして、実際の所、注目を集めていた彼女達の視線が変わった事が最大の理由でもあった。このゲームプレイはそこまでかかるモノじゃなかったから。それ程時間をかけていなかったから。……ちょっと腕がありえない、と思うけれど。

「え、えっと……」

 想像以上のプレイヤー達で、はっきり言って通行妨害だ。悪質なブロック、とも言えるが これは意味が違ってくるから、置いといたとしても。

 だからと言って、蹴散らしたりする訳にはいかない。
 圏内だけど、SAO同様カーディナル・システムであれば、圏内戦闘も問題なく出来るだろう。だから、投げ飛ばすなり、ぶっ飛ばすなりすれば、必然的にノックバックが発生して、人の弾丸でも発射させれば、道を開ける事が出来ると思えるが……、悪名でも轟くのは好ましくないのだ。

「わ、悪いんだけど、ちょっと用事があるから……」

『そこを通してくれないか?』と穏便に済ませようとしていた時だ。
 最初は気付かなかったけれど、ある一部の装備がちょっと意味をなしてなかったので。

「お、女の子!?」
「今日は一体どーしたってんだ?? GGOにレディース・デイでも出来たってのか??」
「うおおおっ! スーパーガールが、2人もGGOに降臨した!」

 ……前方にいた数人が、そのフードの下の顔を見たのだ。

 先ほどのゲーム。50対1の戦いは、当然過激なモノだった。

 激しい動きは、フードを再びすっ飛ばしてしまっていた。マントと一体式にしているから、何処かに飛んでいった~なんて事は無い。ゲームシステム的にもそんな事は起こらないのだが……、結果的には最悪、素顔を見られる事まで想定していない。
 色々な状況が重なりに重なってこの状況に至る。

「………」

 固まってしまった。
 本当に数秒間。所謂マジ放心をしてしまっていた。

 それも、こんな公衆の面前でだ。これで、公認されたも同然だろう。先ほど戦ったスコードロン数人よりもはるかに多い人数に見られたのだから。……女の子プレイヤーとして。

 そんな時だ。

「ちょっと! ちょっといい!? アナタっ!」
「………」

 放心していた時、思いっきり手を引かれた。『一体何ごとか?』と、いつもなら思案するだろうけれど、そんな事出来る精神状態でもない。間もなく、連れ去られる。

 一瞬、その姿が見えたけど、先ほどの少女と共にいた同じく女性プレイヤーだ。

 男プレイヤーだったら、抵抗の1つでもしようか、と思ったが これでは強行手段が取れるはずも無く……、と、言うよりもうどうとでもなれ、と何処か投げやりな様子だった。

 当然だけれど、かなり不審な目を向けている2人の事、この時は全く目に入ってなかった。





 そして、店からも飛び出し、ある程度発狂してる?男連中を撒いた所で掴まれていた手を離された。

 聞きたい事があるからこそ、連れ出したのだ。一緒にいたキリトを放っておいて。でも、勿論ちゃんとついてこれている様だ。

「……急に連れ出して悪かったけど。1つだけ教えて」
「………」
「ねぇ、……ちょっと、聴いてるの?」
「………はぁ、良い。何でも、どうでも」

 返答がなんだかおかしい。
 でも、『良い』と言っているので、聞く事にした。

「あなたがさっきのゲームで見せた技術の事。……私、この世界に来てそれなりに長い。だけどアレを、あの撃ち方をしたのは2人しか知らない」
「……そう」
「ひょっとして、知り合いなのか、……いや顔見知りかと思って」
「……そう」
「……今日って、木曜日? 金曜日?」
「……そう」
「はぁ」
 
 もう、ため息が出てしまった。
 そして、『……ダメだこりゃ』 と思ってしまうのも無理はないだろう。
『話、聞けそうにない』とも思ってしまうのも仕方がないだろう。何聞いても『……そう』だけなんだから。

 あの時のプレイヤーの事を知ってるのでは? と思って連れ出したのが一番だったのだけど。

「……あなた。目立つの、嫌いだった て事ね。でもそれ、私も判るけど…… あんな無茶なゲームをクリアしたら、其れぐらい想定しなきゃいけないんじゃない」

 冷静なツッコミを入れていただいた。確かにこの少女の言う通りだ。


――だが、誤算はまだある。あのゲームが長くクリアされていない、と言う事を知らなかったと言う事。


 ただ、金額が増えていっている程度にしか。
 だけど、あの避けゲームと撃ちゲームの両方がインチキゲームと周知されているのは結構前からだ。そんなゲームをクリアしてしまったら、否応無しに注目の的になってしまってもおかしくない。現に、クリアしたこの2人は注目の的になってしまっているんだから。片方は別にそうでもなさそうだけど、もう片方は明らかにげんなりとしている。

「まぁ~、気持ち、判りますケド。元気、出してください」

 もう片方の女の子? が肩を軽く摩った。違和感がバリバリに感じる。あのゲームプレイもそうだけど、この少女?が持っている髪、銀髪のポニーテール。
 そして、眼は《クリムゾン・レッド》即ち深い赤、真紅の赤。常時その瞳の色が発現されているから、デフォルトだとは思うけれど、色々と被っている。

――……確か、こんなの前にもあったなぁ。と言うか、ずっと、こんなのばっかな気がする。

 とも、キリトは思わずにはいられない。

「(九割九分九輪……、99.99999………∞%、絶対、アイツ……だよな? このコ。……一応100%じゃないから、多分だけど)」

 100%になってないからコンタクトが取りづらい。
 それに、ちゃんと色々とレクチャーをしてもらうまでは、行動は慎んだほうが利口だとも思えた。軍資金を得ることは出来たけれど、銃の選び方、そして総督府の事、BoBに関する情報、等々……。
 この女の子? がキリトの言う『アイツ』なのだとすれば、全部指南してもらえば良いだけだけど……、このもう1人の女の子に頼んだ事もあるし、何より100%じゃない。
 それに、そうだったとしたら、ライバルだから やや躊躇してしまうのもあった。

「……どーも」
 
 とりあえず、その励ましは聞こえていた様で、相槌をうっていた。

「はぁ……、ま 女の子には共通の悩みよね」
「……も、いいや。それでも。何でも」

 否定するのもめんどくさくなって来た様子だ。何が、何でも?と思うけれど、とりあえず置いといて。

「今日はもう落ちる……。励まし、どうもありがと」

 ヨロヨロ~と立ち上がる。
 よくよく考えたら、今日はそれなりの時間、潜っているから頃合だ。

「あ、ちょっとまって。……アンタもBoBに出るの? 有れだけの射撃スキル持ってるみたいだし」
「……まぁ」
「なら、明日も合流しよう。……はぐらかされたけど、まだ聞きたい事あるし、何より固まってた方が、あんな場面にならないと思う。私たちが3人揃ってたら目立つ事は目立っちゃうけど。あそこまでにはならないと思う」

 逆転の発想だ。
 無理にコソコソするくらいだったら、集まって、堂々としていた方が幾らかマシだろう。集まらるかもだが。それはもう仕様がない。自分の回りは、あそこまでアカラサマに集まったりしないから、多少は抑制になるとも思える。
 それに。

「……(GGOで女の子プレイヤー少ないから……、やっぱり嬉しいかな。……気になる事は気になるけど)」

 と、言うことだった。同性のプレイヤーが増える事は好ましい事だったのだ。

「……はぁ。判った」

 そのまま、指をふりウィンドウの中のログアウトを選ぶ。

「BoBのエントリーだけど 明日、15時〆切だから、14時位にはココに来てて」
「……判った」

 そう言うと、そのアバターが消失。現実世界へと戻っていったようだ。

「……はぁ、何だか凄い子、でしたね?」

 残ったキリトがそう呟く。

 正直、十中八九、判っているけれど、この目の前の女の子が判る訳もない。
 だから、『アレ、多分男だよ?』とも言える訳もない。もし違っていたら、最悪だし、何より打ち明けれてない自分が言う筋合いでもないから。

「……まぁ、私から言えばアナタも、なんだけどね。さ、武器選び行きましょ。……それに、もし良かったらだけど、アナタもどう? 明日一緒に」
「え、えっと……」

 キリトは、考える。
 情報不足なのは間違いない。現実に帰って調べるよりも経験者に聞く方が良い。そして、二段構えとして 現実世界でアイツにも少なからず聞くのが一番だろう。……捕まるかどうか判らないけど。

 色々と秘密にしている様だけど、ちゃんと聞く必要もある。

「あの~、よろしくお願いします♪」

 演技だけど、傍から見てたら、ひじょーにノリノリに見える。間違いなくもう1人の彼よりも……。

 そして、2人はとりあえず、再びマーケットの方へと戻っていった。

 そこで武器を選ぶキリト。

 銃の世界だと言うのに、キリトが選んだのは剣。それもただの剣ではなく光の剣。昔の映画で出て、一気に人気が急上昇した光剣。

 正式名称《フォトン・ソード》。

 だけど、プレイヤー達の呼び名は違う。
 そう、レーザー・ブレード、ライト・セーバー、ビーム・サーベル等と呼ばれている。間違いなく、某映画の影響があっての事だろう。

 それを知り、キリトは目を輝かせた。

「好きで、ソレを選ぶのは良いと思うけど、滅茶苦茶不利だよ?」
「な、なぜ?」
「そりゃあ、だって……超至近距離じゃないと当たらないし、そこまあで接近する頃には間違いなく蜂の巣に……」

 女の子はそこで言葉を切り、唇をわずかに開いたままじっと、キリトを見ていた。それを見たキリトは、ニヤリと笑いそうになる。剣の腕は……正直自信があるからだ。

「つまり、接近できればいいわけですね」
「で、でも、そりゃあなたの回避技術は凄いけど、フルオートの銃相手だと、それにさっきの子もいるし、あんな早撃ちされたら、……あ」

 女の子が言い終える前に、もう決済をしてしまっていた。
 ポップアップメニューから、《BUY》を選択し、あっという間にNPC店員。
 ロボット、これまた某映画に出演する様な、ローラー付きのロボット(R2‐D○?)が現れる。そしてあのゲームと同じようなキャッシャーについていた緑色のスキャナ面に右掌を押し付ける。すると、効果音が響き、パネル上面に黒いフォトンソードが効果音と共に現れた。
 
お決まりである、『お買い上げありがとうございましたぁ~』と、フル機械から女の子ボイスが流れ、そして来た時と同じ速度で帰っていった。

「……あーあ、ほんとに買っちゃった」

 女の子が右斜め45度の視線でキリトを見ていった。でも、直ぐに微笑む。

「ま、戦闘のスタイルは好きずきだけど、さ」
「そうですよ。売ってるって事はそれなりに戦える筈ですよ。コレでも」

 答えながら、右手でしっかりと筒状武器を握り締めた。
 親指の位置にある、ボタンが起動装置だろう。それを押し込むと、ぶぅん、と低い振動音と共に紫がかった青に光るエネルギーの刃が1m強程、伸長して周囲を照らす。

「おぉ……」

 思わず少し感動してしまった。
 今まで大小様々な剣を使って来たけれど、刀身が実体のない光でできた剣は初めて。初めての武器と言うものは、どうしても心躍ると言うものだ。……軽すぎるのが、不満だけれど、それは置いといたとしても。

「……」

 そして、中段に構えてから、もうシステムアシストなしでも動作が体に染み付いているSAO時代の片手直剣ソードスキル、《バーチカル・スクエア》を繰り出してみる。心地よい唸りを上げながら、空中に軌跡を描いた。……だけど、この動きでアイツを捉えられるだろうか?

 あの銃捌きを目の当たりにした。

 銃の腕は間違いなく足元にも及ばないだろう。だから、勝つとしたら剣で何かしらの対策を取るしかないのだ。

「(……って、なんでオレはアイツの対策考えてるんだろ? 目的が違うだろうに)」

 キリトは、バーチカル・スクエアを完璧に決めたと言うのに、何だか疑問符を浮かべていた。……目の前であんなプレイを見せられたら、どうしても燃えてしまうのはゲーマーとしての性だろう。
 そして、剣の世界(SAO―ALO)では遅れを取っているし、この世界ででも、後塵を拝するのは、流石にプライドに触ってしまうから。

「へぇー」

 横で、キリトの剣技を見ていた女の子が短く手を叩きながら、少し驚いたような笑みを見せた。

「なんだか、結構サマになってるね。ファンタジー世界の技かぁ……案外侮れないかな?」

 そう評した。
 武器を構えたその時から、何処か堂に入っていると思えていたのだ。そして、流れる様な連撃をみせられ、中々無いとは思うが超接近されたら、本当に大変だとも思った。

「や、それほどでも……、しかし、軽いなぁ」
「そりゃそうよ、せいぜい軽いくらいしかメリット無い武器だもん。――それはそうと、メインアームは、まぁソレで良いとしても、サブに短機関銃か拳銃くらいは持っていた方が良いと思うよ。 接近する為の牽制も必要だろうし」
「……なるほど、それはそうかもですね」
「あと、幾ら残ってる?」

 キリトは、言われてメニューから金額を確認した。
 そこに残っている残高。先ほどは30万クレジット以上あったはずの所持金は、15万そこそこにまで減っていた。

「15万くらい、ですね」
「うへ、光剣って無闇と高いんだなぁ。残りが150Kだと……弾や防具にかかる代金も考えると、やっぱり拳銃かな」
「あ、あの、もう お任せします」

 ここは、確実に専門家、とも言っていい熟練者に見繕ってもらうのが最善、と思ったキリトは全て任せる様にした。自分自身には、剣があれば……とりあえずそれなりには戦える自信があったから。彼女もわかってくれた様で、嫌な顔一つする事無く続けた。

「BoBに出るんだから実弾銃がいいよね。……牽制目的なら、パワー系よりも精密さかなぁ……うーん」

 つぶやきながら、女の子は拳銃が並んでいるケースの前をゆっくりと歩き、やがてその数多くある拳銃の内の1つを指さした。

「残金ギリギリだけど、これがいいかな。《FM・ファイブセブン》」

 彼女の細い指の先には、握り部分がなめらかな丸みを帯びた、やや小型の自動拳銃が鎮座されていた。

「ファイブ……セブン?」
「口径の事。5.7mmだから、普通の9mmパラべラム弾に比べるとかなり小さいんだけど、形がライフル弾に近いから命中精度と貫通力にアドバンテージがあるの。特殊な弾だから、同じFM製短機関銃の《P90》としか共用できないけど、銃をこれしか持たないなら関係ないしね」
「は、はぁ……」

 すらすらと、取扱説明書を読んでいる様な、銃シリーズ百科事典を読んでいる様な、そんな具合に、なめらかな解説が出てくるのを聞いて、改めて、キリトはこの少女に興味が湧いてきた。元々、興味は湧いていたのだけど、もう1人の少女?が現れて、ややそちらに向いていたと言う経緯があった様だ。
今は現実に帰って(逃げて?)いってこの場にいないから。

 話を元に戻す。

 MMORPGを問わずに、ゲームをプレイしているのだから、ゲーム内のアイテム等の詳細な知識があるのは半ば当然だと思える。勿論限度はあると思うけど、それでもだ。
 例をあげるとすれば、ALO内において、アスナやレイナ、リーファ達だって、そのALO内のアイテム、剣や魔法について語らせたら5、10分では終わらない。

 でも、それでも、やはり《銃》はどこか別格であるように思える。

 銃が連想させるのは、ど考えてもう綺麗事さえ言えない。血と殺戮のイメージしかわかない。そんな世界で、あんな女の子が。……恐らく同世代だと思える彼女がこの世界にダイブして、あらゆる銃の知識を持ち、ベテランプレイヤーとなるまで戦い続ける程とは一体どのようなものなのだろうか……?

「ね、聞いてる?」
「あ、は、はい」

 キリトは慌てて思考を中断して頷いた。
 人のプレイの動機なんて、その人の勝手だろう。だけど、何故か……この時キリトは気になっていた。たまに見せる彼女の笑顔と驚いた表情を見せる時。
 本当に楽しそうにしている笑顔は、魅力的だと思えた。一見すると冷静に見えるのに、仄かに見せるそれらの表情を見たら。……多分、同性だと思ってるからだと思うけど。

「じゃあ、これを買います。他にも買ったほうがいいものって、なんです?」

 キリトは、やや騙している感じがするから申し訳なさそうにしつつ、他に必要なモノもご教授願った。彼女は、その表情を見て 見繕ってもらってる事に申し訳なさを感じているのだろう、と思った様だ。だから、その後も微笑みながら教えつつ、選んであげた。

《予備弾倉》《防弾ジャケット》《対光学銃防護フィールド発生器》……etc

 その時点で稼いだ所持金は、全て綺麗に消えてしまったのだった。

「今日は、ほんとにありがとうございました。すっかりお世話になってしまって……」
「ううん。女の子のプレイヤーって、なかなかいないから。さっきのコとキミ。2人と出会って良い刺激になったよ。無茶な早撃ちガンマンと回避ガンマンがいるって。……片方はガンマンと言うより剣士かしらね」
「あ、あはは……」

 微笑む彼女を見て苦笑いしか出ないキリト。
 やっぱり、言ってしまいたい気持ちが全面に出てきてしまうけれど……、どうしても言えなかった。ここまで引っ張っておいて、今更。だと。
 何か良い切欠があるまで、大変申し訳ないけど今のままで……、とキリトは自分の中で勝手に決議してそのまま苦笑いを続けた。



――これがのちの悲劇に繋がる事を、この時のキリトはまだ知らない。




「えっと、次は総督府、だったかな?」
「あ、ああ。すみません。その事、なんですけど……、現実の方で呼び出しがあったみたいなので……」

 キリトは頭を下げつつそう言う。

 このアミュスフィアには、現実世界での身体を揺らせたり、大声で読んだりすると、ゲーム中に警告が鳴る仕様になってるのだ。所謂、安全装置だ。

「ああ、成る程。うん。なら簡単な場所だけ、教えとこうか?」

 彼女も勿論その安全装置に関しては知っていたから頷きつつ、直ぐに教えられる方法を取ろうとした。

「あ、明日、さっきのコとちょっと話があるから、その後で良かったら案内するけど……」

 BoBに参加する以上は、明日も間違いなくログインしているだろう。だから、その時に教えると言う方法も提案した。

「あ、なら 明日14時にこの場所、でしたね。それでよろしくお願いします。……何から何まで、本当にありがとうございます」
「いや、本当に良いから。じゃあ、明日……また楽しみにしてるね」

 彼女はそう言うと背を向けた。

「あ、はい。また明日ー……」

 キリトは手を振った。
 彼女も軽く手を振り返すと、あっという間に人ごみの中へと消え去っていった。

 キリト自身での現実の用事……と言うのはリュウキの事だ。

 つまり、《さっきの娘=リュウキ》だと言う事を確認する事もそうだし、今回の事をちゃんと追求する事もある。……黙っていた事を少なからず説教をする為に。

「まぁ……、オレも皆に内緒、詳しい内容は内緒にして 来てるから他人の事言えないと思うけど」

 キリト自身、アスナには詳しい事は言っていない。菊岡に依頼された……程度にしか言っていないのだ。死銃の事件の事、ひょっとしたら、殺人事件かもしれない事を伝えていないから。
 その伝えていない理由を考えたら……。

「……強くは言えない、か。同じ気持ちだから」

 キリトは考えを少し改めていた。
 
 そして、キリト自身も現実世界へと一旦帰ろうと指を動かした時、ある事を思い出した。

「あっ……、さっきの女の子の名前、聞いてなかった」

 もう、彼女は人ごみの中を消えていったから、完全に見失ってしまった。

「ま、まぁ 明日また会えるし……、でも オレの名前はどう言ったら良いかな……? 《キリト》って名前の女の子はいない、よな……?」

 自己紹介はどんなネットゲームでもエチケットだ。相手に名乗らせたら、こちらも名乗る。それは、現実世界でも同じ事だろう。

 キリトは、そんな事を考えながら一旦現実世界へと帰っていった。




 丁度その頃、あの女の子も同じことを。

「あ、あの2人の名前聞いてないや」

 振り返りながら、頬をポリポリと人差し指で掻き呟いていた。

「折角会ったのに、ちょっと勿体無かったかな? まぁ 明日また会う……と思うし、その時で良いかな」

 そう言うと、再び歩きだした。

 そして、歩きながら考え、想う。

 この世界だったら、こんなに簡単に、まるで友達の様に楽しく会話したり出来るんだ、と。現実世界と同じ様に、この世界でももう友達なんていらない、と思っていたのに。それでも、色んな事があったけれど、本当に楽しかった事は否めないんだ。

「………私は」

 彼女は、軽く首を振った。確かに楽しかった。だけど、BoBとなれば、あの2人は敵なんだ。だから、線引きはしておかなければならないだろう。

「……戦いの前に、ちゃんと言っておかなきゃね。私、敗北を告げる弾丸を撃つ者だ、って、あの娘達に」

 それで、仮に嫌われたって構わない。その程度の関係だっただけの事だから。その時は、寂しさもきっと感じない。


――……自分は何よりも冷たい氷の狙撃手なのだから。





~現実世界・とある都立病院~


 病院のベッドの上で目覚めるこの感覚は、何処か懐かしさもあった。もう遠い昔の事、の様に思えるけれど、SAOから解放されたあの日の事と。まぁ、当時の様な自分の身体じゃない、様な重く辛い感覚はないけれど、目を覚ますと病院独特の薬品等の匂いを嗅覚を通して感じる。やっぱり、情報量は仮想世界よりも現実世界の方が遥かに多いなぁ、と思っていた時。

「まぁ、もうちょっと肉付きが欲しいかな? 本当に」
 
 ……声が聞こえてきた。
 その声も聴覚を通してはっきりと情報として……と、考えつつ、はっとして、目を見開くのだった。

 そして、病院の外に出たキリト。

 自分がダイブしている間、『何かした??』 と思わずナースの安岐さんに問い詰めたが、笑顔ではぐらかされてしまった。
 何度か聞くと、一応否定はしてくれたが、怪しすぎる。手荒な事をすれば、仮想世界に信号として届くし、それに彼女の目的、と言うか仕事は自分の健康管理。あの菊岡氏から依頼されているから多分……大丈夫だろうと思った。身体の隅から隅まで見られている……とは言え、年頃男子である自分にとって、どうしても異性の人に、それも美人ナースである安岐さんに視姦? されるのは、流石に、無理でキツいのだ。

 と、それは一先ず忘れたキリトは、端末を取り出した。

 電源を入れ、パネルに光源が出たのを確認、メイン画面にまで起動した事を確認。電話帳一覧から、竜崎隼人の名前を探す。

「あ、そうか、《リュウキ》で登録してるんだった」

 同じ《ら行》だから、別に時間は取らないけれど。リュウキの名前を見つけたキリトは端末画面に撮された番号に指先でタッチ。すると、TELL……と呼び出し音が鳴り響いた。どうやら、端末の電源を切っていたり、話し中だったりはしてない様だ。

――そして数秒間、コールした後。

『キリトか。どうした?』

 端末越しにリュウキの声が聞こえてくる。キリトも耳を当てて答える。

「ああ。……ちょっとリュウキに聞きたい事があってな。 今、出てこれないか? いつものカフェ辺りで」

 キリトはそう言う。
 いつものカフェ、と言うのはたまに一緒にバイクでツーリングした最後に寄る場所。珈琲で占めるのが恒例だ。

『……予定は無い。でも電話越しじゃ、ダメなのか?』
「ああ。会って話がしたい。ちょっと長くなりそうだからな」
『ん、判った。30分以内に行くよ』

 キリトは、通話を止めると足早に、自身のバイクを止めた駐車場へと向かっていった。

 そして、約20分後、キリトはカフェに着いた。
 そこには、リュウキの愛車がもう既に止まっていた。入口から入り、店員の案内を受けるのを、知り合いがいるからと拒否して、リュウキが座っているテーブルへと向かった。

「……お疲れさん、リュウキ」
「ああ、お疲れ。最近は新生アインクラッドの攻略、行けてないけど 順調か?」
「ああ。15層は突破してたみたいだよ。リーファとアスナ、レイナが大活躍だったようだ」
「シルフの剣士に、バーサクヒーラーとバーサクシンガーか。そりゃ大活躍だろうな」
「ははは、確かに。だけど、本人達が聴いてたら怖いぞ?」
「……だから、ココだけの話にしてくれ」

 苦笑いから始まったが、早速始めた。今日、呼び出した事を。

「リュウキ、お前、GGOに行ってるんだろう?」
「………」

 キリトの単刀直入の一言を聞き、思わず口を噤んでしまった。
 ある程度、ポーカー・フェイスとは言っても、ここまでアカラサマだと、もう無理だろう。

「ああ。そうだ。……菊岡氏か?」
「その通りだ」

 リュウキはため息を吐きながらキリトにそう聞くと、直ぐに肯定した。そして、リュウキは思っている事を口にする。GGOから戻ったすぐ後はげんなりとしていたけれど、直ぐに調子を取り戻していた。

「まさか、とは思うが…… あの弾避けゲームをしてた女の子、キリトか?」
「はぁ……、んで、リュウキは、弾撃ちゲームの方か?」
「………」
「………」

 2人とも、渋い顔をしながら、暫く黄昏ていたが……。最終的には、ゆっくりと首を縦に振ったのだった。本当に互いに似た者同士だな、と思ってしまう。

「多分、コンバートだ、と言う事と、プレイ時間が関係していたんだろうな……。じゃないと、2人一緒にあの系統のアバターになるなんて」
「だな、それ以外考えられない」

 そう結論をつけると、2人はその後同盟を結成するのだった。その同盟と言うのは……、今回の外見の事、他の皆には、ぜぇぇぇったいに知られない様にする、と言う事。

「はぁ、正に《男の娘同盟》ってヤツだな。……自分がする羽目になるとは思いもしなかったけど」
「……その名前、ヤメテクレ」

 リュウキは盛大にため息を吐きつつそう言う。
 そもそも、普通の状態?普通の顔? でも 何度か男らしくないセリフを言われているから、ある程度敏感になってしまっているのだ。

 その点は、キリトも《女顔》だと評されているから、気持ちは判るのだ。……リュウキ程じゃないけれど。

 兎も角2人して、外見が殆ど女の子なアバターになった、と知られれば、何を言われるか判ったものじゃないから。その辺は固く結束を交わしていた。

「それで、明日だけど……」
「ああ、あのコとも約束したし。……何話すのか、判らないが一先ずはオレも合流するよ」
「判った。オレもBoBでの情報を知りたかったから、あの子とは暫くは一緒の方が良い」
「……そうだな、バトルロイヤルのBoBと言う大会は歴史がまだ浅い。経験者に聞く方が良いだろう。外部からの情報収集は限界があるからな」

 事細かな情報を、と言えばどうしてもネット上では限界があるし、信頼性も含めるなら生で参加した者達の情報に勝るものは無いだろうから。

「そこで……、なんだけど、オレはあの子に……」
「ん? どうしたんだ?」

 キリトは、『実は女の子のふりをして接触してる』言おうとしたが、ちょっと口を噤んだ。

「い、いや、何でもない……。互いに目立つアバターだけど、何とか頑張ろう」
「……ほんとそうだ。 コンバートだ、って所が辛い。 SAO時代に戻った気分……いや、正直あの時以上だ。まいるよ、本当に。……逐一否定するのも疲れてきた位だ」

 リュウキは、肩をすくませつつそう言っていた。そしてキリトはそこを付く事にした。

「……お、オレも似たようなモノだよ。彼女が言うように、3人で集まるのが一番、だと思う。女の子3人で話してたら、会話に加わってくるのって、結構絞られると思うし、今日みたいな事も 大丈夫だろう。……多分」
「はぁ……、そうだな」

 それで、その日の会合は終了を注げた。



 
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