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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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GGO編
  第174話 避けゲームと撃ちゲーム




 ここ、GGOでのバトルロイヤルイベントと言えば1つしかない。

バレット・オブ・バレッツ(BoB)

 全VRMMO中、最もハードだと言われているGGOにおいてNo.1ガンマンを決める戦い。
《バレット オブ バレッツ》即ち《銃弾の中の銃弾》《最も優れた銃弾》と言う意味を持つ。

 そんな大会にいきなり出ると言うのだ。だからこそ、感心した様子だった。

「そっかー。でもそれでいきなりBoBに出ようだなんて、根性あるね」

 だから、彼女はキリトの話を聴いて、ニコリと笑い、大きく頷いた。きっと、強い思いがあるのだろう、と思った。ただ単に記念なのかもしれない。だけど、このイベントのハードさは知っているだろう、と。

「うん、いいよ。案内してあげる。私も明日は参戦するつもりだったし、下見に行く……って言うのも、久しぶりで新鮮だしね。 っと、その前にガンショップだったね。好みの銃とか、ある?」
「え、えっと……」

 成り行きで剣と魔法の世界から銃の世界に来たから、そう聞かれても咄嗟には出てこない。キリトが答えに詰まると、女の子はもう一度微笑した。

「じゃあ、色々と揃ってる大きいマーケットに行こうか。こっち」

 くるりと振り向き、歩き始めた。
 体験してみたいから、こちらの世界に来たと言っていた。だから、銃の種類までは知らないんだろう、とこの時彼女の中で結論をしていたのだ。キリトも、歩き始めた彼女の後ろを慌てて追いかけた。彼女が身に付けてるマフラーが歩くたびに揺れ、まるで尻尾の様だ。おいていかれない様に、その尻尾目掛けて歩き続ける。

 暫く歩いて、キリトはある結論に達した。

 それは、絶対に、ぜーーったいに、ここまでの経路を記憶する事など不可能だ、と言う事。

 曲がりくねった路地、動く歩道に階段、それらを次から次へと抜けていったのだ。建物も幾つか経由しており、多分近道なのだと思える。

「(……アイツの眼だったら、すぐ覚えられるんだろうなぁ、……やっぱずるい)」

 キリトは、彼女の背中と尻尾を追いかけながら、やや的はずれな事を考えてしまっていた。モノを覚えるのは、記憶を脳であり、更に細かく言うと、短期の記憶中枢は海馬、長期の記憶は大脳新皮質だ。……細かな事は置いといて、つまり眼は関係ないと言う事。欲しいのなら、自分で頑張れ、といわれてきたのに。

 ……それが難しいのは身に染みている筈だけど、どうしても思ってしまうのは仕方が無い。

 そして、その後も色々と考えている内に、開けた大通りにでた。正面に大きなスーパー、百貨店を思わせる様なきらびやかな店舗が見えてきた。

「ほら、あそこだよ」

 女の子は、すいすいと人並みを縫って店へと向かった。キリトもそれに続き、店内に入る。その広大な店内は、様々な色の光と喧騒にみいていて、まるで店、と言うよりアミューズメントパークだ。NPC店員は皆揃って、露出の大きいコスチュームを纏っている美女達で、天真爛漫な営業スマイルを振り撒いている。キリトは、まぁ 男性率が高いゲームだからな、と考えていたのだが、思わずぎょっとして、目を見開いた。
 その美女達の手に握られているモノやその直ぐ傍の壁に立て掛けられているモノは、全て黒く光るゴツイ拳銃やら機関銃だと言う事で。

「な、なんだか、すごい店ですね」

 思わず圧倒されて、キリトはそう言うと、彼女も小さく苦笑した。

「ほんとは、こう言う初心者向けの総合ショップよりも、もっとディープな専門店の方が掘り出し物があったりするんだけどね。まぁ、ここで好みの銃系統を見つけてからそこに言ってもいいし」

 そう聞いて、改めて店内を見渡してみると、プレイヤー達の服も派手めな色のコーディネートが多く、説明をしてくれた彼女の服に比べたら、ビギナーっぽい印象は見受けられる。

「さてと、あなたのステータスはどんなタイプ?」

 女の子はそう聞いた。
 この世界でも勿論ステータスは存在するし、指定された能力の数値が足りなければ装備する事が出来ないのだ。故に聞く必要があった。

 ……キリトはと言うと、コンバートした事を考える。聞いた話によると、キャラの能力的傾向は引き継がれる様になっているのだ。だから。

「えっと、筋力優先、その次が素早さ……かな?」

 そう説明をした。
 それを聞いた彼女は軽く考え。

「STR-AGI型、か。じゃあ、ちょっと重めのアサルトライフルか、もうちょっと大口径のマシンガンをメインアームにして、サブにハンドガンを持つ中距離戦闘タイプがいいかなぁ……、あ。そう言えばあなたコンバートしたばかりだよね? てことは、お金が……」
「あ、そ、そっか」

 キリトはその指摘を受けて急いで右手を振って確認をする。ステータス画面で確認すると、コンバートで能力値は引き継がれているが、アイテムやら所持金やらは移動できない様だ。

 だから、ウインドウの下端に表示されている数字、金額は――。

「ええと……、せ、せん、クレジット」
「あぁ……バリバリ初期金額だね」

 顔を見合わせて困った表情を作る2人。

「うぅん。外に出てMob狩りをして貯める方法も無いことは無いけど……明日までって言われたら、ちょっと無理だし」
「え、えと……武器買えなかったら、どうやって戦うんですか?」

 キリトはそれを聞いた。
 ALOとかでは、体術とかのスキル、またはあの世界の象徴の一つである魔法スキルで何とかなったりした。……それでも、武器の消失はMMORPGでは死活問題なのは変わりないが。

「あ、えっとね。初心者用の店で、銃のレンタルショップもあるのよ。期間は決まってるけど、それなりに良い銃選んでも、初期金額でも問題なく借りれるよ。レンタルだから、当然自分のモノにはならないけどね」
「ああ……成る程。えと、そのレンタルでBoBっていう大会には……」
「絶対無理ね。さっき言ったとおり、初心者が扱う武器だし。対人戦するには性能が悪すぎるわ。そんなので出ても、予選一回戦すら難しいと思う」
「……それは困ります」

 借りた銃など魂の通っていないただの道具だ。
 心身をあずけられる武器でなければ、あの大会で戦うことすら叶わない、と彼女の中では戒めている。キリトは、目的を考えたら武器の性能が悪すぎるのは好ましくない。
 強い相手じゃないと、接触してこない事を考えたら尚更なのだから。

「うーん……」

 とりあえず、現時点で取れる最善の事を彼女は考える。薄い唇の下に右手の指先を当てながら、首を傾げ、考える。

「やっぱり、初期金額だと、小型のレイガンくらいしか買えないかも……、実弾系だと、中古のリボルバーが……どうかなぁ……。――あのね、もしよかったらだけど、お金出そうか?」

 キリトは、彼女がそう言うだろう事は、察した。
 だから、言われたと同時くらいに、首を横に振る。どんなMMOであっても、初心者が熟練者から過剰な援助を受けるのは決して褒められた事ではない。この世界にはゲームを楽しむ為に来たわけではないが……、それでも、ゲーマーとして譲れない一線というものはあるのだから。

「い、いや、いいですよ。そこまでは。えっと……、その、正攻法じゃなくても良いので、どこかにどかんと手っ取り早く儲けられるような場所ってないですか? 確か、このゲームにはカジノがあるって聞いたんですが……」

 それを聞いた彼女は、やや呆れた様子で、笑みを浮かべた。

「ああいうのは、お金が余ってるときに、スるのを前提でやったほうがいいのよ。そりゃあ、あちこちに大小あるけど、……ん。この店にだって何点か」

 くるりと頭を巡らせ、店の奥を指さした

「ほら、あれが似たようなギャンブルゲームよ」

 その細い指先が示す先にあるのは巨大な装置が2つ。
 大きなエリアを二分割に分けており、2つのゲームがあるのだという事は判った。

 1つは、長さ20mはあろう人が2人通れるほど程度の通路のある装置。
 もう1つは、大きな空間。西部劇にでも出てきそうな酒場の前広場がある。

 両方とも共通しているのは、其々の装置にガンマンのNPCが立っていると言う事だ。一体どんな事をするのか、一見では判らない。

 ピンクのネオンで《Untouchable!》と《Shot! Shot! Shot!》の文字が光り輝いていた。


「……これは?」

 訊ねると、女の子は指先を動かしながら解説してくれた。

「右手にあるのが、手前からゲートに入って、《奥のNPCガンマンの銃撃を躱しながらどこまで近づけるか》 っていうゲーム。もう片方が、所謂ガンシューティングゲームね。《無数のNPCガンマンを全滅させる事が目的。倒した数をどこまで伸ばせるか》 ってゲーム。其々に最高記録が表示されてるわ。あそこと、あそこに」

 人差し指を交互に動かした。それらを確認したキリト。

 片方のガンマンに近づくゲームは柵の内側の床面に赤く発光する細いラインがあった。見た所、全体の3分の2を僅かに超えたところだろうか。そして、片方はそのステージの一番大きな建物の頂点の電光掲示板表示されている。20の数字だ。何人中なのか、それは判らないけれど。

「へぇ。……幾ら貰えるんです?」
「えっと、確かプレイ料金が其々500クレジット。あっちが10m突破で倍の1000、15mで4倍の2000クレジットの賞金かな。で、もしガンマンに触れれば、それまでプレイヤー達が注ぎ込んだお金、全額バック」
「ええっ!!」
「それで、あっちのヤツがガンマン50人いて、それをどれだけ倒せるか? ってゲーム。勿論、武器は指定されたもの固定。で、10人倒す事に倍々になるシステム。500からスタートで1000、2000、4000……、で、パーフェクトであれと同じの全額バック」
「……す、すごい金額ですね」

 キリトは思わず息を飲んだ。標示されている金額は、直ぐに目に入ったから。片方の触るゲームが30万。もう片方の倒すゲームが50万だ。

「まぁ、だって無理だもん」

 女の子は即答し、肩を竦めた。

「あのガンマンはね。8mを超えるとインチキな早撃ちになるんだ。リボルバーの癖に、ムチャクチャな高速リロードで3点バースト射撃するの。予測線が見えた時にはもう手遅れ」
「予測線……。えと、それで向こうのは?」
「あっちはね……」

 更にため息をしながら言っていた。

「触る方よりインチキよ、アレ。GMに抗議してもいいレベル」

 そう言うと更にため息を吐く。
 この感じから、挑戦したことがあるのだろうか……? 勿論、キリトは口には出さなかったけれど。

「アレはね。……10超えたら、出現量と連射がもれなくアップ。15を超えたら更に アップ。その上、180度以上の範囲から撃ってくるから、物凄く避けづらい上に当たったらそれでOUT。 敏捷値(AGI)一極型のプレイヤーが多いのに、回避しきれない程の弾幕だから、事実上パーフェクトクリアは無理ね。だから、20くらいで止めちゃうのが懸命。……ま、挑戦心を刺激するから、無理に行っちゃう連中が後を絶たない。だから、膨れに膨れて 今のあの金額なのよ」
「な、なるほど……」

 キリトはこの時、そのゲームは早々に断念した。
 避ける位なら、ALOから培われてきた回避技術が使えるかもしれない。……だけど、敵を撃ち倒すとなれば、それなりに射撃の技術が必要だろう。射撃はした事ないし、現時点ではクリア、と言うより、10を倒すことも難しく、稼げるとは到底思えないから。

「ほら、またプール額を増やす人がいるよ。あっちのゲームで」

 視線を向けた先は、あの避けゲーム。
 3人連れの男が近寄っていくところだった。そのうちの1人がゲートの前に立った。彼女の言う様に、挑戦をする様だ。気合も十分で、周囲を煽っている様子、あっという間に観客も集まってきた。

 そして、男は右手の掌をキャッシャー上端のパネル部分に押し付ける。

 どうやら、それが支払いの様だ。支払いを終えるよファンファーレが響き渡る。NPCガンマンも反応した様だ。
 英語で『テメェのケツを月まですっ飛ばしてやるぜ』的なスラングを喚き、銃を収めたホルスターに右手を添えた。

 そして、ゲート上部の表示がカウントダウンを始める、3,2、1とカウントが進み0になったと同時に、がしゃん!と金属バーが開いた。


「ぬおりゃああああ!!」


 男は雄叫びをあげながら数歩ダッシュし――たかと思ったけど、突然両足を広げて急制動、目をいっぱいに見開いて、いきなり状態を右に傾けて、更に左手、左足を上げるという……外から見たらよく判る、変なポーズを取っていた。踊り……?とも思えるポーズで、一体何の意味が?とも思った瞬間、男の頭左側10cmのところ、左脇の下と左膝の下を赤赤と輝く弾丸が通過した。
 立て続けにリボルバーを3発殆ど連射したガンマンも凄いとキリトは思うが、見事に回避した男もそうだ。

 ……だが、違和感もある。

 まるで、弾筋が最初から見えていたかの様に。

「あ……、成る程、今のが弾道……?」

 顔を寄せて、囁くと彼女もこくんと頷いて応えると同時に小声で答えた。

「そう、《弾道予測線(バレット・ライン)》による攻撃回避」

 彼女の指南を受けつつ、あの男の動きを見て学んでいった。この世界で戦うには確実に必要なシステムだから。












 一方マーケットに向かっている影が1つ。

「……おい、アレ、アレ見てみろよ」

 待ち行く人達の中には勿論NPCが殆どだが、プレイヤーも無数にいる。その内の1人が見た。フードをかぶったプレイヤーを。NPCではなく、普通のプレイヤーだという事はタゲを見れば判る。
 だからこそ、不審に思った様だ。

「マントとフードって……、例の《死銃》ってヤツじゃね?」

 その内の1人がそう言っていた。
 噂の程度、都市伝説程度の浸透なのだが、街中でマントとフードで姿を隠しているプレイヤーなんてあまり見ない。自分の武器を隠している~等なら考えられるが、それならウエポン・ストレージに収納しておけば、オブジェクト化されず、見られる心配も知られる心配もない。防具系の装備に関しても、圏内仕様と圏外仕様で分けているのがスタンダード。故に、マントで隠す必要は……考えられるのは少ない。
 ブラックリストに乗るようなプレイヤーだと言う事。
 ……それが、噂、都市伝説で言われている死銃である可能性だって高い。もしくは。

「ただのコスプレだったりして?」
「あぁ、それはありそうだな」

 そう、ただのコスプレ。それの可能性も勿論あるから。

「……はぁ(結局はこんな感じか。……ほんと戻った気分だ)」

 フードの中でため息をしているが、周囲には判らない。そのまま、目的地であるマーケットの中へと入っていった。

 目的は決まっている。

 所謂金稼ぎに来たのだ。この街にあるカジノは無数に存在しているけれど、その中で一番稼げる可能性があるのが、この店にあるギャンブル。所謂1発台と言うジャンルと酷似させたモノであり、1回でもクリアすれば今までプールに貯められていたその金額を全て獲得する事が出来るのだ。

「まぁ、難易度を考えたらこの方法を取る者はいないだろうけど」

 そう呟きもする。この手のギャンブルは、難易度がかなり高い。ただの確率でのギャンブルではなく、プレイヤーの腕次第でどうとでもなう代物だからだ。簡単なモノであれば、店側は回収する事が出来ない。実際、現実での金として換金できるこのGGOであれば尚更だ。

 色々と考えつつ、店内の目的場所へと向かう。

 そこには観客が多かった。どうやら、誰かが挑戦をしているようだ。……そして、驚くべきことに。


「DIE!! YOU LOSER!! GO TO HELL!! 」


 物騒な英語と弾丸を喚き散らすNPCガンマン。カウボーイ仕様のスタイルで、リボルバーを手に銃を乱射していた。

 それはいつも通りであり、違うのは挑戦をしているプレイヤー。紺色の長い髪を靡かせながら、ガンマンへと接近する。

 あまりの速度の為、その髪は真横に靡いていた。


――以前、ここに来た時、最高到達点は8m程だった筈だ。


 だが、あの少女の姿をしたプレイヤーは、もうその8mはゆうに超えているのだ。

「……へぇ」

 驚きながら、その動きを観察していた。
 弾道予測線(バレット・ライン)が表示される前に、回避行動を取っている、と言う事は動きを見てよく判った。通常、一般的なプレイヤーであれば、ラインが表示された時、立ち止まり躱してから次の行動に入る。だから、遅れが生じてしまうのだ。
 だが、彼女は一切止まらず、巧みに躱していく。

 かなり高いステータスの、高い敏捷値(AGI)の持ち主だと言う事が判る。

「……(あの動き、多分予測線はみてない。……見てるのは)」

 フードから、表情がでそうになったから、慌ててフードをかぶり直しつつ、思う。

 おそらく、あの動きをする為に見ているのは、撃ち手の《眼》だ。
 
 眼から射線を読んでいる。そのやり方はよく判っている。
 あの世界、ALOの世界で魔法や弓、遠距離系の攻撃を回避する方法を散々あの男と議論したからだ。勿論、特殊な技は使わずに、あくまで技術の範囲内で。
 この世界、カーディナル・システム上で動作するVRMMOのモンスターは全て、照準箇所に寸分の狂いもなく視線を向けるという特性を与えられている。

――……勿論、眼に類する器官を備えている場合に限られる。

『まぁ、それならオレにも出来そうだ』
『……だな』
『ムカッ!』

 と言う事もあり、習得する事が出来たのだ。
 そして、それらを回避、弾くするまでに昇華させる事が出来た。片方は、不正ギリギリの業を使わずに、だ。気持ちの良いモノだったと記憶している。


 思い返している間に、勝負は終わっていた。


 あの少女は、NPCの視線から読んだ最悪の手、実弾銃では撃てるモノじゃないノーリロードのレーザー6連発。開発者の意地の悪さが露呈する様な仕様だったが、難なく跳躍で回避し、あのNPCガンマンに触れ。


「オーマイ、ガーーーーーッ!!!」


 流暢な英語を発音させていたガンマンがなんだかエセだと思える様な発音で、大げさに絶叫、そして地面にがくりと膝をつき、ファンファーレの嵐が巻き起こった。それに混ざってガラガラ!と言う音が響き、ガンマンの背後にあった建物の扉が開く。
 その奥から金貨が雨の様に、ザラザラと流れ出してきた。


「……初めて見たが、壮観なものだな」


 金銀財宝が雨あられの様に降り注ぐ。
 ……降り注ぐ、と言うよりは無理矢理押し込んだ荷物が、その重さに耐えられずに雪崩の様に出てきた、と言うイメージに近い。それでも、この世界ではもちろん、現実世界でも使えると言うのだから、更に一段階、重みも増すというものだ。

 そしてそして、彼女の周辺には一気に人だかりが出来る。

「あ、あなた、どう言う反射神経してるの? 最後のヤツ、……目の前……2mくらいからのレーザーを避けた……あんな距離だともう、弾道予測線と実射撃の間にタイムラグなんてほとんど無いはずなのに……」

 人だかりの中で、少女のモノであろう声が聞こえてきた。確かにその通りだ。そもそも距離を詰めているのに銃弾を避けるのは現実味に欠けるところがあるだろう。かと言って、現実の様な銃撃戦をするのは無理がある。

 これまでのFPSであれば、問題ないがVRMMOであれば、それはゲーム性に欠けるだろう。

 仮想世界と言うもう1つの世界、現実でおこなうのだから。

 少女の言葉は一般常識と言うべきもの。だけど、あのプレイをしていた少女には当てはまらないと思える。相応の腕、技術を持ち、そして膨大な経験を持っているのだ。動きを見れば判る。

「えっと、だって……、この弾避けゲームは弾道予測線を予測する、って言うゲームですよね?」

 そんな声が場に響く。

 シーンと静まり返る中。

「……さて、と。 オレもオレの目的を果たさないと。あっちはクリアされたけど、こっちはまだクリアされてない様だし。……どちらかといえば、オレはこっちの方が好みだったし。運が良かった、と言えるかな」

 人ごみを縫いながら、そのゲームへと向かう。

 内心では、あの少女に少し感謝をしていた。
 これだけ、注目をそっちに集めてくれていれば、こちら側に目を向ける事もかなり少なくなるだろう。GGOでは、女性ユーザーは圧倒的に少ない為、そこでも注目を集めてくれるから。


「よ……予測線を予測ぅ!?」


 そんな可愛らしい叫びが店内の空気を貫いている時に、悠々とゲームスタート地点へと脚を踏み入れる事が出来た。静まり返った店内に、少女の叫び声だけが響き……、ゲーム開始のファンファーレも同時に響いた。










 てっきり、注目を浴び続けているだろう、と思っていたのだが、残念な事に少女、あのゲームをクリアした少女? がそのゲームの方を見たのだ。

「……ん?」

 少女……、ではなく彼はキリトだ。
 キリトがそちらを見たのはただ何となく……、と言うレベルだ。

 別に気になったとか、そう言った事ではなく、ただゲーム開始の音楽が鳴り響いたから、見た。静まり返った場に、その音はよく響いたから。

 視線の先にいたのは、フードとマントをかぶった者だった。

「……フードと、マント?」

 キリトはこの時頭の中を過る。
 そう、死銃(デスガン)と呼ばれる者の格好も確かこんな感じだった、との情報があったのだ。姿が判らず、表情も髑髏のマスクをかぶっており、見えない。そんな格好だ。

「無茶苦茶ね……。って、どうしたの?」

 もう1人の女の子もキリトの視線に気がついた様だ。
 大金を手にいれ軍資金も整った、所謂、最高、良い事ずくめなのに何処か真剣味を帯びた表情をして見ている。さっきまでの妙な笑顔が消え去っている事に気になった様だ。
 
 その視線を追っていくと……、あのもう1つのゲーム、所謂 弾避けゲームじゃなく、弾撃ちゲームを今まさにしようとしている者がいた事に気づいた。


「ああ、あっちにも挑戦する人、いたんだ」


 確か、あちらのゲームをプレイしているのは見ていなかった筈だ。溜め込んでいる金額は上だけど、難易度があって挑戦するプレイヤーがいなかったから。

「………」

 キリトは真剣な表情のまま、見ていた。
 何をそんなに気になるのか、そこまで気になるのか、と思った彼女も自然とその姿を見ていた。……2人のせい?で回りの観客も自然とバラバラに散らばる事なく注目。


 視線が集中している事は薄々……と言うか、完全に気づいている。だけど、ゲームはもう直ぐに始まる。

 カウントも《2》を示しているのだ。後、1と0 のみだ。

「(無心、無心だ……)」

 元々、注目を集めてしまう事は承知だったから、元々これくらいの覚悟はしていた。……正直、予想以上の注目具合だと思えるけど、そこは間違いなくキリト達のせいだろう。キリトが思いっきり注目を浴びて、そしてその渦中であるキリトが視線を誘導?したら……こうなってしまうのも必然と言うモノだ。

 そして、無心のままで、その真紅の瞳が暗く沈んだ瞬間に……カウンターが0になった。

 まず現れるのは、正面の建物、入口より現れるNPCガンマン、その2階窓より、狙いを着けてくるNPCガンマン。建物と建物の間、路地から出てくるNPCガンマンの計3人。

 避ける為に動けるエリアは半径5mの空間。そして複数セットされている耐久度のある遮蔽物。隠れる事は出来るが、何発か弾丸を受ければ破壊される、と言う仕様だ。


「……最初の内は、予測線を予測ー、なんて無茶な反応が無くたって避けるわ。だけど、さっきアンタがしたゲーム同様、どんどん早くなって、多くなって、最終的には撃ちゲーって言うより、こっちも殆ど避けゲーになる。でも、撃たなきゃ勝てない。 ……正直、同じ系統のゲームは他にもあるけど、あのカウンター以上のスコア叩き出したプレイヤーはいないわ」

 集中しているキリトを見ながら、そう言う女の子。
 だが、キリトが注目しているのは、ゲームにではない。興味が無い訳ではないが……、それよりも気になるのはあのフードの中の人物、だったから。その集中が、女の子にも伝わった様で、それ以上は何も言わず視線を向けて見守っていた。

 どうせ、よくいけて10~15程度だろう、と思っていたから。


「………」

 無言のまま、次々と銃を撃ち、リロードを繰り返す。正確にNPCの急所に銃弾を当て、無駄弾を一切使わない。そして、向かってきた弾丸は全て躱す。

 それが所謂攻略法だけど、現実にはそんなに上手くいくはずもない。
 連射が出来る武器は基本的にNG、使用できない。

 既存に設置されている西部劇ヨロシク、ハンドガンで勝負なのだ。
 ……こっちは1人で相手は複数なのに……、とクレームが来そうだが、それはこの際おいておこう、ゲームだし。

 そして、西部劇にはそぐわないが、ボーナス武器として手榴弾(グレネード)もある。一度に多く仕留める事ができる武器なので、使い処が肝心だ。これも勿論所持数はそんなに多くないから尚更だ。


「は、はえぇ…… マジかよ? まだ遮蔽物(バリケード)手榴弾(グレネード)全部保持したままで、もう10かよ!」

 全てハンドガンだけで撃破していくその姿を見て徐々に驚きの声が響いてくる。
 グレネードで、一網打尽に、と言う事を考えるプレイヤーは多いがNPCガンマンもそれなりに高性能AIを搭載しているのだ。だからグレネードを確認したら爆発する前に物陰に隠れたり……、もされるから、数が増えても一気に倒す、なんて事は、実は出来ないのだ。

 主に使用目的として、投げて逃げる為に、と言うのがセオリーだ。


「……な、なに? アイツ、着弾予測円(バレット・サークル)どーなってるっていうの?」

 
 女の子も徐々に驚きの表情をしていた。
 最初に予測していたスコアはあっという間に突破。其れくらいなら、別に驚く様な事じゃない。だけど、ミスショットが全くなく、全てヒット。それもクリティカル・ヒットだ。
 無駄弾を一切使わないから、リロードも最小限度。効率的だった。それよりも、通常、ハンドガンの様な単発式(シングルアクション)を撃つ時は、着弾予測円(バレット・サークル)を見て攻撃をする。
 その円の中に捕らえなければ、確実に当たらないからだ。だが、構えて撃つまでの速度が速すぎるのだ。

 そして、19人目を撃ちは倒した瞬間。


『CONE ON!GOGOGO! KILL YOU!』


 あの弾避けゲーム同様、物騒なセリフを更に喚くガンマン。
 そのセリフと同時に、これまでとは比べ物にならない数になった。


「……って、ええっ!!」


 思わず声を上げてしまうキリト。
 集中していてあのプレイを見ていたのに、その集中を乱される程の量が出現。確か、増えると言う事はきいていたけれど、いきなり過ぎるのだ。徐々に上がる……、ではないからだ。撃破数が、10から15の時を考えたら、全くと言っていいレベルだ。

「……これが、あのスコアから先に突破出来ない理由よ。仮に爆弾投げても、物陰に隠れられるから、倒しきれないし、前方方向180度から一斉に撃たれるから、隠れるしかない。で、隠れてたら勿論バリケードも直ぐにスクラップにされる。ここまでノーミス、ノーアイテムでこれてるから、もしかしたら、超えられるかもだけど……、そこから先が鬼門なのよ」

 驚いた声を上げたキリトを見て、女の子はそう付け足した。
 だけど、気になってしまう、未だにあの20から上を見たこと無いからだ。パーフェクトをするのは無理だとしても、何処までいけるのか、見てみたい、と。

「……ふっ」

 プレイしている者が軽く鼻で笑った。


「ッ!?(……笑っ……た?)」

 キリトの横で、観戦していた女の子は、笑ったのを感じた。
 嘲笑、この程度何でもない、あくびが出来る、そんな感じに笑った様に見えたのだ。

 あのマントのプレイヤーは、素早くリボルバーを撃ち尽くした。右手で武器を構え、そして左手の五指を巧みに使い、撃鉄(ハンマー)を下ろす、そして右手人差し指で引き金(トリガー)を絞る。

 リボルバー早撃ち(クイックドロウ)でよく使われる技術だ。

 だが、勿論早撃ちが出来た所で、一番問題なのは、当たるかどうか、だ。早く撃てば撃つ程、システムに頼る事が出来なくなる。円を見ずに本当のランダムで撃たなければならなくなるのだ。だから、現実的に考えたら、ある程度の円を把握。そして その弾道を、パターンを見切ってから発射する。

 ……固唾を飲んで見つめている女の子も使っている技術だ。一度 弾道を見たら、次はより精密な射撃をする事が出来る。

 だが、それは単発式である自分の武器だからこそ出来る。連射して、全員に当てる事は難しい、いや 連射であれば、殆ど不可能に近い。

「うぉぉ!! す、すげぇっ! まじかよ、マジで!!? 40突破したよ!!」

 観客の内の1人が絶叫を上げた。

「っ!?」

 そこで、漸く彼女は、撃破数が表示されている電光掲示板に目をやった。
 鮮やかな銃捌き(ガン・テクニック)。あそこまで早い、早撃ち(クイック・ドロウ)は未だにお目にかかった事は無いかもしれない。そこをずっと見ていたせいか、薙ぎ払う様に倒されていく数に目は行ってなかったのだ。

 更に5人を撃ち倒し、残る敵は僅か5人。

 ここまでで、バリケードは、圧倒的な弾幕の流れ弾に当たり壊されたが、それは使ったから壊れた訳じゃない。

 完全に頼っていないのだ。弾避けのお手本の様な動きを続け、避けているのだ。あそこまでの回避技術があるのであれば、逆に視線を外してしまう物陰に退避する行動は逆に危ないとも思えてしまう。


 そして敵数が減った事により、一度に出現する数も明らかに減ったその時だ。


『FUHAHAHA!』


 何故か、その内の1人が高笑いを上げた。

 そして、その次の瞬間、残5人のガンマンの眼が光ったのだ。


『BOOOOM!』

 叫び声を上げた瞬間、5人の手にいつの間にか、爆弾が握られていた。無造作に安全ピンを引き抜き、こちら側に向かって投げてくる。

 空中に無数の黒い塊が 放物線を描きながら迫ってくるのが、ここからでもよくわかる。……逃げ場がないと言う事も同時に。

「なっ……! ず、ずるっ……!」

 あの避けゲームで言う、直前レーザー6連射と同じかそれ以上に卑怯な、インチキ攻撃だ。あれ程までに広範囲で投げられてしまえば、遮蔽物の無い行動範囲エリアではどうすることも出来ない。

 そう思い、思わず抗議の声を発してしまったのだ、……が。それは意味を成さなくなる。


「……だろうと思った」


 あのマントのプレイヤーは、もう既にリロードを終えているリボルバーを向けた。
 爆発する前に、5人を葬るつもりなのだろうか? と思ったが、アイツが狙ったのはNPCガンマンじゃない。

“ドドドドドッ!”

 それは、ほとんど同時に聞こえてくる銃声。
 その銃弾が捉えたのはNPCガンマンではなく……、あろう事か。

“どごぉぉぉん!!”

 あろう事か、投げられた爆弾に着弾したのだった。




「……な、ななっ」

 それを見た女の子は、いや、女の子だけじゃない。観客全員、騒いでいた者達も例外なく黙ってしまった。驚愕の表情で。
 空中に放り出された爆弾をそのまま撃ち抜く芸当をやってのけたのだ。一度に広範囲にバラ撒かれる散弾銃(ショットガン)なら、或いは可能だろうが、単発のリボルバーで正確に当てたのだ。有り得ない正確さだ。

 そして、この技術……彼女は見覚えがあった。はっきりと見たわけじゃない。投げた、投げられた爆弾を撃ち抜き、誘発させた射撃技術。


「……ほら、返すぞ」


 NPCもまるで、呆け取られているかの様に、呆然と立っていたその場所に、1つのボール状の影が現れる。さっき、彼らが投げたそれと全く同じ代物。

TheEnd(終わりだ)

 その言葉と共に、撃ち放たれるのは装弾数6発であるリボルバーの最後の一弾。
 芝居がかかった仕草で、撃ちはなったその弾丸は、正確に爆弾を穿ち、爆発を誘発。周囲に集まっていたNPCガンマンは避ける事も退避する事も出来ずに、爆弾によって吹っ飛ばされ、その瞬間。


「げ、ゲー、ム、オーバァ……」


 倒れふしながらも、そう呟き……消え去った。


 残されたのは、先ほどの様にジャラジャラと景気よく出てくる金貨、そしてクリアのファンファーレだった。


 
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