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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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GGO編
  第171話 ただの犯罪者

  
~????????~


 その場所はある家の一室。

 薄暗い部屋の中でただ、光が点っているのは男が操作しているPCのディスプレイの灯りのみ。

 《男》が、ブラウザを起動すると同時にスタートアップURLに設定されたサイトに自動でアクセスが行われ、幾つものタブ・ウインドウが重層的に表示された。

 その予め、設定されたサイトは全てGGO関連の情報局。特に《死銃》についての情報を扱っている所は重点的に集められている。《男》は、右手の指先で3Dマウスを操り、現在最も注目しているサイトをアクティブにした。
 トップページには、《死銃情報まとめサイト》とあり、死銃の文字だけが赤く色づけされている。
まず確認するのは履歴だ。ここでは まだ管理人による更新がないのを確認すると、提示版に移動し、前夜にチェックした時からいくつかの書き込みがあったらしく、記事ツリーのあちこちに《New》のマークが点滅している。

 だから、順に読んでいくことにした。




□     □     □     □     □     □     □



53.名も無きガンマン:

 現れないね。ゼクシードとたらこの2人。もうじき一ヶ月? いい加減アカウント切れるんじゃないの? だれかリアルで連絡取れる奴、情報あったら、投下プリーズ!

54.名も無きガンマン:

 だからいないって、スコードロンのメンバーも誰もリアル連絡先知らないっつったろ? ってか、GGOで個人情報を漏らす奴……いや、ネトゲで個人漏らす奴はアホだろ。アホ。

55:名も無きガンマン:

 死銃に撃たれた日付と時間はわかってるんですから、仮にほんとに2人が死んだとすれば、丁度その死んだVRMMOプレイヤーがいなかったか調べれば判るのでは?

56.名も無きガンマン:

>>55 オマエ馬鹿か? 何回も同じような話題ループさせんなよ。過去ログ嫁。
 一人暮しだったら、死んだって誰も気づかないし、警察に問い合わせても教えてくれないのは確認済み。ちなみにザスカーに英文メール送ってもユーザーの個人情報に関しては~って定型レスが来るだけ。

57.名も無きガンマン:

>>56 馬鹿と言いつつも、教えてくれる心優しきガンマン乙。
 とまぁ、ふざけんのも置いといて、これあれじゃン? ゼクとたらこのは引退記念ドッキリでしょ。おふたりさ~ん? そろそろ出てきてネタバレしないと賞味期限切れますよ!

58.名も無きガンマン:

 まぁ、彼ら程の廃人ならやめるなんて考えにくいですがね。それと同様に同じ理由で一人暮し率が高いかと。つまり、実際に死亡したかどうかは判らないですね。
 なので、自分のカラダで検証するしかないでしょう。というわけで、明日の二三三〇にグロッケン中央銀行前で赤いバラを胸に挿してお待ちしてますので、死銃さん。わたしを撃ってください。

59.名も無きガンマン:

>>58 勇者登場! でも死ぬ前に本名と住所晒してないと無意味でしょ? つまり 晒す奴は馬鹿だから、馬鹿を認めて勇者にナレ!

60.名も無きガンマン:

 いやいや、寧ろ話題性を集めるなら、どっかのネカフェから公開ダイブでお願いします!



□     □     □     □     □     □     □




 等と、誰が見ても低脳なやり取りが続く。それも、これはまだほんの一部に過ぎないのだ。
 《彼》は、それを読むのを止め、苛立たしく舌打ちをした。マウスホイールを回し、次のウインドウをアクティブにするが、どこの掲示板や情報サイトでも……。

「!」

 丁度その時、苛立ちのあまり、マウスを握りつぶさん勢いで握っていた時だ。


 突如、様々なユーザーIDの発言が連続して現れたのだ。
 発言、と言うのは適切ではない。ただの無茶苦茶にキーボードを叩いた様な文。


 同一人物の成りすまし……ではなかった、何故なら、それにしては数が多すぎるからだ。
 何台もあるPCに、複数のメンバーが示し合わせて、やるしか出来ないと思える程の量だった。そして、それらがある程度落ち着いた後、妙な文字、英数字の呪文の様なモノも見れた。今度はまるで、バグが起こったかの様にだ。そして、IDも訳が判らぬ記号、数値の羅列になっていた。




□     □     □     □     □     □     □





??????????

 始終O前葉。

?????????

 多田ノハンザイシャ。

?????????

 チカラヲモッタトカンチガイシタ。

?????????

 暮れ入じーナハンザイシャ。



□     □     □     □     □     □     □





 思わず、画面を食い入る様に見つめた。
 先ほどまでの低脳なやり取りは一切なく、ただただその誤変換を繰り返したやり取り……、いや、この提示版を見ている全ユーザーへのメッセージとも取れる、引いては、ここを見ているだろう、と思いメッセージをよこしたのだろうか。

 即ち、《死銃》あてのメッセージだ。



□     □     □     □     □     □     □




?????????

 オマエハ。亜の時、oreヲ撃テna 買った。

?????????

 亜の時。撃てズダ。ダガ、ニゲタ。ソコニ、トリッ区、アル。カナラズ、暴ク。時のモンダイだ

????????

 何カ、起こソウモノなら……、……なら、止めておけ。

?????????

 死を齎されるのはお前自身になるだろうから。




□     □     □     □     □     □     □




 途中から、変換が正しくなり、明らかに警告……いや、挑発、挑戦的な文となっていた。《男》の額に何かが流れる。感覚がない何かが流れ出る。
 それと同時に表情も曇っていく。




□     □     □     □     □     □     □




?????????

 偏に《死》とは言っても、わたしはお前の様な異常者じゃない。そんな愚かな真似はしない。
 つまり、現実での、社会での死だ。一生、死ぬまで監獄の中だ。

??????????

 お前が費やしてきた時間も、費やしてきた金銭も、……いや それは些細な事だ。お前の全てが、何もかもが無になる。

 《ALL OR NOTHING》と言う事だ。

 それでも、イチかバチかを仕掛けてみるか?

?????????

 なら、お前の墓場はあの場所(・・・・)に決まりだ。あの場所でしかない。


?????????

 公開断罪。それに相応しい場だ。
 ……お前なら、判るだろう? お前もしようとしているのだから。

 今一度言おう。

 お前が取ろうとしている行動は悪手であり、死路。……それ以上でもそれ以下でもない。

 お前に特別なチカラなどない。



 ……お前は





□     □     □     □     □     □     □








 そして、暫く間を空けた後。文字のフォントを変えた。目に付く大きさにも変え、文字色も変えた。








□     □     □     □     □     □     □




?????????




――ただの犯罪者だ。






□     □     □     □     □     □     □





 そこで、その現象は終わった。
 後に続いたのはいつも通りの提示版の風景。先ほどの異常な光景は、不特定多数に見えていた様で、『何? いまの……』『バグって奴? もしくはイカれただれかが?』『或いは、管理人かもよ?』等と、発信が現れた。

「………」

 不自然に込められた力は、指先に現れ 3Dマウスにいやな音が起きる。流石に壊す程の腕力はないが、変な場所に力が加わったのだろうか、音が鳴っていた。そして、頭の中にさっきまでの現象のことが流れ出る。


――今のは一体何だ? この死銃の力を信じずに、馬鹿をやってる奴がいるのか?


 そう思うが、直ぐに頭を振って否定した。
 そもそも、信じずに巫山戯てる、馬鹿をしているのは、今まさに提示版に書き込んでいる連中だ。この文面を見る限りでは、まず間違いなく死銃がもたらした現象を知っている。あの世界で、あの銃で撃った相手がどうなったのかを知っている人物だろう。


――ならば、警察関係者?


 それも直ぐに首を振った。
 警察が、こんな真似をするとは思えないからだ。

 それに、これまで報道を確認したが、有名プレイヤーである2人の死は一切報道されなかた。事件性の薄い変死と言うものは、この日本でも至る所で起こっていることであり、そういう場合は報道などはしない。それを知り、これまで《彼》は自ら銃撃した2人の心臓が現実世界で確実に停止し、死亡に至っている事実を、この情報サイトの提示版に書き込みたかった。
 その誘惑は強烈だった程だ。


――なら、いったい誰がこんな事をする? この死銃相手に。


 男は考える。
 その答えは、自分ではなく、他人から齎されることになった。





□     □     □     □     □     □     □



101.名も無きガンマン:

 これってあれじゃね? 死銃って奴と一緒に現れたジェントルマンが降臨か!?

102.名も無きガンマン:

 何それ?

103.名も無きガンマン:

>>102 ググレ、カス。

104.名も無きガンマン:

>>103 無茶言ってやるな。ジェントルマンでググっても紳士とかの説明は出るだけだって。……ってか老紳士降臨か!? そりゃ、考えてなかった! うっひゃー しびれるねぇ!!

105.名も無きガンマン:

 あの音声データ持ってる奴いたら、投下プリーズ! マジかっけーし。『しがない一匹狼気取りの老害』って、ガチで言う奴、二次元だろ??

106.名も無きガンマン:

>>105.ま、GGOも二次元みてーなもんじゃん!



□     □     □     □     □     □     □




 それらのやり取りを見て、はっきりとした。そして、はっきりと思い出した。

 あの時(・・・)の事を。


「チッ……」

 思い出したからこそ、男は思わず舌打ちをした。

 そう、あのゼクシードの心臓を止めた時に現れた人物。
 
 普通であれば、周りの様に気味悪がって近づく事なんかしないだろう。当然だ、目の前で撃ち、そして撃たれた相手が苦しみながら回線落ちをしたのだから。睨んだ通り、あの酒場にいた殆どの者が驚愕し、中にはやや恐怖もしていた者もいた。

 それなのに、あの男はまるで臆する事なく距離を詰めてきたのだ。あまつさえには、あの銃を撃つと言ったも同然なのに、『今じゃないのか?』とも返した。無知、無力な男だ。と思ったが、あの時は撃つわけにはいかなかったのだ。
 平静を装い、その場から姿を消す事は出来たが……、どうしても屈辱感は生まれた。


――この騒動もあの男だというのか?


 老紳士(オ-ルド・ジェントルマン)と言う渾名は、名乗っていた訳ではなく、あの場にいたユーザーのだれかがその情報を発信し、その容姿、仕草から発展し、今の形に鳴っていたのだ。

「……面白い」

 明らかな挑発だが、それに屈すると思われているのならば、心外だ。

 死銃は伝説となる存在なのだから。

 これまでに殺したのは2人。そして、次にも2人、いや3人。そこまでいけたらならば、死銃の力を信じない者はいなくなるだろう。
 注目を集めれば、現在のアカウントは流石にもう使えなくなるだろうけれど、構うことはない。死銃、あの銃があれば、新しい《死銃》が荒野に降り立つのは容易なのだから。

 そう、力はある。

 死をもたらす事が出来る力が。それを知らしめてやろう。

 先ほど書き込まれていた公開断罪、と言うのが何なのかは判りきっている。


 間違いなく、もうすぐ開催される《第3回 バレット・オブ・バレッツ》


 あのBoBの注目度は絶大だ。
《MMOストリーム》が放送するリアルタイム中継番組は、GGOだけでなく他のVRMMOのプレイヤーも大勢視聴する。その中で、確かに正体を明かされ、負ける様な事になれば……、確かに断罪だろう。

 だが……、それは逆なのだ。

 死銃が名実ともに最強となり、あの銃を使い伝説となるための幕開けがあの舞台なのだから。



《死銃》の伝説。



 かの呪われたデス・ゲーム《ソードアート・オンライン》が生み出した死者の数には到底及ばないが、あれは単なる狂人が、電子レンジでユーザーの脳を茹で回ったに過ぎない。死銃の力は、そんな低次元ではない。仮想世界で放たれた銃弾が、現実世界での心臓の動きを止める。その秘密を理解出来るものは、《彼》とその半身以外にはない。

 あの男如きに止められる筈がない。止められる訳がない。死銃こそが絶対強者。

 絶対の力――伝説の魔王――最強――最強――最強――……

 そうなる日が待ち遠しい。




――この男は1つ目のミスを犯した事に気づいていない。




 そう、死銃の半身に今回の事を共有しなかった事だ。

 この時、半身である者に今回の事を共有していたのなら……、また違った事が起こったかもしれない。だが、この世界では、この時の流れの世界では、彼はこの時、死銃の半身に今回の事を言わなかった。



 この男は、ただ……彼女の姿を眺めていた。

 淡いブルーのショートヘアの少女。

 マフラーを装着しているせいで、口元が見えず残念だ、と考えていたのだ。ゲーム内で直接彼女を見た事はあった。マーケット街で買物をしている彼女、路上で、公園のベンチで屋台売りのホットドックを齧ってる姿。

 そして、戦場では巨大なライフルを背に疾走する姿。


 そのどれもがこの男に所有欲を掻き立てずに置かない。常に笑顔をみせる事なく、瞳の奥には常にある種の憂いが満ちているのだが、それをも、この男を惹きつけてやまない。

 その少女の名前は《シノン》


 この冥界の女神はGGO内部では知らぬ者はいないほどの有名プレイヤー。

 死銃伝説の花として捧げられるのに相応しい存在は他にはいないだろう。

 だが、迷っているのは事実だった。ゲーム内だけにとどまらず、現実で身も心も、彼のものになってくれるのなら、と。

 だが、彼女が今夢中になっている相手が居る事を知っている。彼女が盲目に見続けている。その目を覚ませてやる事に迷いはないのだが……、それよりも、先刻に言った様に花に添える事を優先させようとするだろう。

 ……もう1人の死銃、死銃の片方の腕は、彼女の死を望むだろう。

 だから、今だけは、彼女を愛でる。指先でそっとシノンの写真を撫でた。
 つるりとした光沢パネルの感触に、彼女の、生身の少女の柔らかさと暖かさを感じていた。


 だが、ノイズがまだ走り続ける。そのノイズは、彼女を触れる時すら、邪魔する。



――お前はただの犯罪者だ。


 愛でる事を邪魔する。


――犯罪者。力などない。


「……いやある」


――今のお前に、だれかを愛でる資格などない。ただの犯罪者に。

 その声は、幻聴となり、耳元で囁かれる。あの時のあの姿も。


――……続けるのなら、煉獄へと堕ちる。それは確実だ。


「黙れ!」


 その幻聴に向かって怒声を思わずあげてしまった。……今日が1人だった事が幸運だった。家中に聞こえる様にでかい声だったから。
















~ALO内 アルン周辺フィールド~




 その日は、約束があった日だ。
 あの時、レイナに例の件を告げ、大層驚かれた約1週間後。アルンの街で支度を整え、フィールドへと出た。

 メンバーは 《シリカ》《リズ》《リーファ》《リタ》《アスナ》《レイナ》《キリト》《リュウキ》だ。

 今日の目的は狩りもあるが、純粋に集まろう、と言う事もある。リタは 始めこそは渋っていたものの、来るや否や、元気いっぱいだ。

 以前、リュウキと共にクリアした特別魔法クエスト《天災の力》

 超高難易度クエストであり、数多のプレイヤーが、熟練者達が、キリトやアスナ、レイナ、クライン……SAO生還者(サバイバー)達をも 遮った程のものであり、超が10程は付くであろう難易度。

 それに始めてクリア成功したのはリタとリュウキのコンビだった。

 ……そして、レイナが大層嫉妬してしまったのは言うまでもない。

 そして、アリシャもこの時、嫉妬していた。もちろん、リュウキに対して。


『リタっちと相性バッチリなのは、わたしダヨー!』


 ケットシーの特徴である尻尾を逆立たせながらそういう。リタは、顔を赤らめながら否定し、抗議をしていたのだが……、それをも見越していたのだろうか、アリシャはニヤニヤと笑っていたのは今でも覚えている。


 狩りの真っ只中で。

「あんた達、吹っ飛んでもしらないわよ!」

 リタが構えていた。無数の詠唱文が円を描き、天へと上り……そして、光を放った。

「わぁ! ちょっと待ってよ! リタっ!」

 リーファは慌てて回避行動を取る。
 何が来るのかは判っていたからだ。そして、勿論もっと驚いているのは彼女。

「ひぇぇぇ!! り、リタさんっ! わ、わたし捕まっちゃってるんですぅ!」

 動く花の化物の植物の蔦に捕らえられて、宙ぶらりんの状態になっているのは、ビーストテイマーシリカ。相棒のピナも必死にフォローをしようとしているが、モンスターに捕まったシリカを解放する様な事はできず、“きゅるるー!”とモンスターを威嚇するように鳴いていた。

 この状況は……、あの世界での事を思い出してしまう。

 あまりいい思い出ではない。釣り上げられて……、スカートの中が……。

「ならなーに? ずっと、スカートの中身をサービスし続けんの?」
「そ、それも嫌ですーーっ! り、りずさぁんっ!!」

 ぶんぶんと首を振って助けを求めるシリカ。。

「んもぉ、しょうがないわねっ!」

 そんな会話のやり取りをしていた事で、リタが発動させていた魔法に遅延が発生したようだ。その隙に、突撃していったのは、ご指名された 桜色の髪を持つ鍛冶屋(マスタースミス)兼マスターメイサーのリズベット。

 突撃し、丁度花の口下辺りを思い切りぶっ飛ばした。ごほぉっ!!と、シリカを吐き出す様に、放り投げる。

「よっしゃ、リタっ! ぶっとばしなさーい!」

 リズは、手をブンブンと振ってい合図を送る。
 一撃必殺とも言える魔法だから、やはり魔法使いと言うのはいつの時代も砲台だ。即ち、後方支援最強と言う事だ。

「構わないけど、アンタも吹っ飛ぶわよ?」

 リタが一瞬だけ、ニヤリと笑ったのをはっきりと見たリズ。

「え?」

 リズは、思わず呆けた表情をしていた。以前にも、リタの魔法は見た事があるから、攻撃範囲は大体把握しているのだ。だから、この辺りなら、大丈夫だとタカをくくっていたのだが……。
 リタは、大体何を考えているのかを悟った様で、更に笑うと。

「威力が当時のままな訳ないでしょ。魔法スキル、上がってんだから」
「ちょっ!! まっ!!」
「メテオ・インパクトってね」

 リタがそう呟くと、天が開いたかの様にばっくりと割れ、そしてそこから人間大の大きさの炎を纏った岩石。……いや、隕石が降り注いだ。

 まさに天災。この世の終わりとも言える光景。

 怖いもの見たさ、と思ってたリズは直ぐに後悔してしまうのだった。凄まじい大爆発と共に、何とか逃げ出す事が出来たリズは、爆風に乗って、空高くにすっ飛んでしまったのだ。
 勿論、シリカ達も同上。




「……成る程、所謂 たーまや。ってやつか」
「だな」

 高台でその光景を見ていたのはキリトとリュウキの2人だ。

 今、盛大に花火が上がった所だったからだ。……正確には落ちてきた、かな?

「嫌な事、思い出したよ」
「ん?」
「あの時、だ。……オレに無数の隕石(アレ)を落としたろ? 洞窟だってのに」

 キリトは苦笑いをしていた。あの時とは……判る。

 ALOに入って数日の時の事だ。

「まぁ、オレも驚いたんだぞ? 悪魔の姿が、あの洞窟の中にあったんだからな」
「驚いたって顔か。……メチャ楽しんでただろ」
「……それは お互い様だ」

 苦笑いをし合っている2人の間に入るのは2人の少女。2人にとって、大切な人達。

「もー、ほんっとに仲イイね?」
「ほんっと、そーだよね」

 レイナとアスナだった。

「レイも頑張ってあれ、覚えないとね? じゃないと、リュウキ君は、リタちゃんの方が相性抜群って事になっちゃうみたいだよ?」
「ぁぅ……、あ、あんなの無理だよー。……お姉ちゃんだったら、出来るの?」
「ぅ……、そ、それは~」

 レイナの疑問を訊き、完全に目が泳いでいるアスナ。そして、続けてレイナは、キリトの方を見て訊いた。

「キリトくんは? あのクエスト、イケル?」
「ムリ! ム・リ! だ! ……なんで、ゲームなのに、センター試験みたいなの受けなきゃいけないんだ。……マークシート式じゃないから、もっとタチが悪い! それにカネない!!」

 キリトは、頭上で両手で盛大に《✖》マークを作りつつ、豪語する。男らしいセリフとは思えないが、それを非難する訳も無い。難易度は十二分に知っているのだから。

「……あれ、そんなに難しいか?」

 そんな中で、リュウキだけは不思議そうにそう訊いていた。

「当たり前だ!」
「「そうだよ!」」

 勿論、口を揃えつつそういうのはキリト、アスナ、レイナだ。


 そう、リタとリュウキが受けた試験……じゃなく、クエストは、その報酬はアイテムでなく魔法スキル取得。取得出来るのは魔法 《天災》のスキル。

 嘗て、リュウキがこの世界で使い……、そして消した力。


《根源元素》


 新たな運営達が、それを再現したのか、或いは最初から配信するつもりだったのか……、それは判らないが、アップデートしたものの1つだ。

 膨大な詠唱文を完全に覚える。一言一句間違えてはならずのテスト形式だ。

 間違えたら最初からであり、……いや、最初から、と言うのはそのテストが最初からじゃなく、《クエスト》そのものが最初からだ。更に鬼畜だと言えるのが、ペナルティの存在。

 再度受けるペナルティは……、受注料金が二乗していくと言うものだ。

 つまる所、ミスしまくって行ったら、各領主館の年間予算を軽くオーバーしてしまうような金額に膨れ上がってしまう。


 勿論、出題傾向はアトランダム。
 ……習得すれば、パターンは同じなのだけど、受けるテストは違った。

 リタは、魔法関連となれば、兎も角すごい。リュウキに魔法が負けたくない事もあったとは思うがそれ以上の出来で、リュウキと共にクリアをしたのだ。

 そして、テストと名のつくものなら、アスナやレイナだって負けてはいないが、単純な暗記は膨大な時間を要するし、覚える時間・期限も決まってて、3度目のトライで諦めたのだ。金銭的にも辛かったと言うのも勿論ある。

 ……レイナは4度目を行こうとしたのだが、リュウキにそれとなく止められた。

 リュウキの目からも、ムリをしてるのがよく分かったし、金銭面でもそうだ。何よりもう少ししたら新生アインクラッドが開通するかもしれない。

 新たな階層で良いアイテムがあったらどうする?と言ったり、そしてリュウキは頭を掻き、照れくさそうにしながら、《22層》という言葉も言っていた。

 その言葉で、レイナは納得した。

 ……自分が決めていた計画の事、でもあったから。そして、その想いも同じだった事が本当に嬉しかった。思わず涙を流してしまった程に。



 そして、一行は戦闘を終えて、戻ってくる。
 リズは、昔のアニメか? って思える様な爆発頭をしている。……随分と再限度が高い様だ。ギャグ方面に。

「どーよ。あんたのより、威力上がってるでしょ? そう言えば、あんたは魔法スキルどれくらいなの?」
「ああ、見事だったよ。ん。……スキルか、……420だったか?」
「っっ!!」

 リュウキの言葉を訊いて、リタの顔色が変わっている事に、皆が気づき、『こりゃ地雷だな』と一斉に距離を置いていた。

「……もっとヤらなきゃ」
「……ここを焼け野原にする気か? そろそろやめとけよ」
「っ~~~!!! あ、あんた! なんでそんなにスキル上がってんのよ!」
「ん? ……ああ、キリトと一緒にヨツンで邪神狩りを少々。……強行ツアーだったからそこまで粘ってなかったけど、何戦かしてたら、結構上がったぞ」
「邪神……って」

 その言葉を聞いて、呆れ顔ながら、リタは納得した。

 邪神と言うのは、とてつもなく強いモンスターだ、と言う事だけを説明しておく。

 そして、2人で倒せる程甘いものじゃないという事も。

「……ヨツンって。……まさか、お兄ちゃん?」

 リーファは、訝しみながら近づいていった。

 ヨツンと言えば、ヨツンヘイム。

 氷に閉ざされた世界だ。
 あんな場所に好き好んでいくのは、リュウキの言う様に、あの世界の邪神を倒しに行く事にあると思う。でも、割には合わない。人数が少なければ尚更だ。
 ならば、自ずと見えてくるものがある。割に合わないと言う事も無い事が。

「内緒で、……剣、取りに行ったんじゃないの!?」
「ぁ……っ、え、えっとぉ~」

 キリトは口篭もってしまっていた。それを見たら、皆の視線が一気に2人へと集まる。

「ん? ああ。PM(ポイントマン)はキリトに任せてたし、リーダーもそうだ。……行く先は全部キリトの指示だったな。オレは邪神と遊んでいた、っていうイメージだが」

 リュウキは、『いったい何を注目するんだ?』と思ったらしく正直にそう答えると、同時に、リュウキからは、視線が反れ、キリトへと視線が注目した。

「へ~~……、キリトく~~ん」

 アスナにもわかった様だ。あの世界に一体何があるのか、知っているから。以前教えてもらったから。

「ずるいわね~……、伝説武器(レジェンダリー)目当てだった、って事?」

 リズもそう言いながらキリトを見ていた。シリカは。

「で、でも無茶過ぎですよ、幾らお2人とは言え、そんな人数で攻略に行くなんて……」
「それは思うけど、お兄ちゃん、はくじょーだよねー。いつか一緒に行こうって言ってたのに」
「そーだよー。リュウキくんもっ! 新生アインクラッド攻略ばかりで、盲点だったけどっ! 気づいてよー」
「あ、ああ。そうだったな……、そう言えば」

 リュウキもどうやら思い出した様だ。キリトの目的がはっきりする。

「お、オレだって、2人でいけるなんて、思ってなかったさ。ただ、皆とも時間が合わなかったし、ただ下見に行っただけで……」

 と弁解をしていたが、暫くみんなに言い寄られる事になるのだった。

 そして、リュウキはやや離れた所でキリトのありさまを見ていた。

 ……隠れてこそこそと……というのはよした方が良いだろう、と判断するのも早かった。

「ね? リュウキくん」
「あ、ああ。レイナ。オレは別に伝説武器(レジェンダリー・ウェポン)目当てじゃなかったぞ。……でも、一緒に行ったのは事実だしな。言い訳は良そう……」

 リュウキは手を挙げた。降参だ、と言わんばかりに。だけど、レイナが言いたいのはその事ではない。

「違うよー。今回は、キリト君の独断っぽいもん!  ……まぁ キリト君がお姉ちゃんにも内緒なんて中々しないから、きっと本当に下見だった、っていうのはあると思うけどね? 本当に難しい場所だし」

 レイナは笑いながらそういう。……そう思ってくれているのはレイナだけだった様だ。

 まだキリトは尋問を受けているから。

 いや、アスナは笑っている様だから、本当はそう思ってるのかもしれない。……本気で怒っている人はこの中には1人もいないのは当然で、最後には皆笑って楽しんでいた。

「……リュウキ君が、ALOからいなくなっちゃうのは、だよ」

 レイナは寂しそうな表情をしていた。リュウキは、レイナに笑いかける。

「……戻ってくるよ。ちゃんと戻ってくる」
「うん……」
 
 レイナは頷く。でも、やっぱり寂しいのは違いないのだ。

「出来るだけ、早く帰ってきてね。お仕事だったら……やっぱり、わたしも強く言えないよ」
「……レイナの言うことなら、ちゃんときかないとな? ……後が怖そうだ」
「んもうっ! りゅーきくんっ! なんでわたしが怖いのよっ」
「いや、怒った時……たまに可愛いよりも怖いのが……あったりする事があって」
「むーー! それはリュウキ君が悪いよっ! ……(だって、他の女の子と、だもん……)」

 レイナの最後の方の言葉は聞こえなかった。
 レイナが本気で怒った時は、まさにアスナの妹だと思える迫力があった。閃光の名は伊達でではない程の速度のパンチが飛んできた時は、リュウキも驚愕したモノだった。

 とまぁ、そんな事があったけれど、リュウキがレイナの事を大切に、一番大切に想っているのは間違いなく、それは信じている。

 でも、やっぱりヤキモチを妬いてしまうのは仕方がないだろう。それこそが、レイナのチャームポイントだったりするのだから。

 今回何処に行くのかは、レイナに話したが、まだ他の皆には伏せてもらっている。

 仕事の関係を妄りに言うものじゃない事はレイナには勿論わかっているから、言わなかった。それが功を成す事になるのだ。

 確かに以前から行ってみたい世界ではあったが、今回の内容が内容だからだ。


 死銃という者の存在もそうだ。


 単なる悪戯ではないことは、2人目の犠牲者が出た時点で、もう完全に薄れていた。何者かの悪意が再び、世界に蔓延しているのを感じた。だからこそ、爺や事綺堂と共に、ある事をして揺さぶる策も取った。力を誇示しようとする者は、必ず喰いつくと思ったから。

 そして、何よりも今回は仲間達の誰にも言っていない。

 キリトにもそうだ。……戦友であり、親友である彼に言わない事は心苦しかったし、バレてしまったら、怒られる事も判っている。

 だけど、あの世界(GGO)での戦闘とこの世界(ALO)での戦闘は違う。

 キリトなら、難なく順応しそうな気はするが……それでも怖かった、というのがあるだろう。また、誰かが自分の前からいなくなってしまう恐怖を、彼の中で持ち続けているからだ。レイナに救ってもらったけれど、その恐怖の根源は確実にリュウキの中に残っているから。

「レイナ」

 リュウキは、まだ頬を膨らませているレイナの頬をそっと触り、そして頭に手を触れた。

「約束する。直ぐにALOに戻ってくるよ。今回はガンゲイル・オンラインというゲームの内情をリサーチするだけだから。……不本意だが、仮想世界での《リュウキ》と言う腕もそれなりに、知られてしまったから。っていう理由があるな。今回のは」
「あっ……、あはっ それはしょうがないよ! だって、リュウキ君………だもんっ」

 レイナは、添えられた手を取り、そして頬ずりをする。とても強くて、大好きな人だから。そんな人だから仕方がないと。……ただ、他の女の人に……、と言うのは仕様がない、だけで片付けたくないけれど。

「おねぇさんっ!」

 そんな時、レイナの肩にひょいと飛び乗ったの者がいた。
 
「ひゃっ! ゆ、ユイちゃんっ??」
「はい!」

 ユイはニコニコと笑っている。笑顔で空を飛びながら、そして今度はリュウキの元へと降りた。

「いつも仲睦ましくて、私も嬉しいですっ!」

 そっと2人の元頬にキスをした。

「あ、あぅ……、ゆ、ユイちゃん……っ」

 レイナは顔をいっきに紅潮させた。

 この子は、たまに神出鬼没になる時がある。

 以前、リュウキと……その、ALO内で色々とシている時にも、何処で聴きつけたのか、単なる偶然なのか、判らないが危うく全部見られてしまう所だったのだ。

 何を? と言う説明は省くとします。


 因みに、ユイにキリト達が教えたいた人間の子供については、子供はキャベツから生まれてくると言う事。純粋な少女を騙すのは本当に心苦しかったけれど……。一先ず頷く事にした2人だった。ユイは、その時は珍しいリュウキの慌てた表情、体温が上昇し、心拍数も上昇しているのを見て、やや心配をしていた事はご愛嬌だ。

「いつまでも仲良くしてくださね! パパとママの様に! パパとママにも負けないくらいに!」
「……ああ、そうだな」

 リュウキは照れくさそうにしながらも、ユイの頬をそっと撫でた。にこりと笑うユイ、そしてレイナも同様に。

 そうこうしている内に、キリトを尋問していたチーム? も戻ってきて、レイナとリュウキがイチャイチャしているのを見て、再びドンチャン騒ぎになるのだった。




 
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