ソードアート・オンライン〜Another story〜
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GGO編
第172話 似た者同士
~竜崎家~
隼人は、GGOへのログインは、暫くは綺堂のIDを使用していたが、約束の全てを完了させ、満を持して、自らのIDをコンバートする事になった。
既にGGOでプレイしている綺堂のIDのままで調査する事でも良かったのだが、件の男にこのIDは見られていると言う事もある。話によれば、死銃は、マントとマスクで素顔を完全に隠しているらしい。普段はその装備を外し、潜伏。そして何らかの方法で相手を死に追いやっていると推察された。だから、こちらは姿が判らず、相手側は覚えている可能性は十分にある。
相手に見られれば、色々と不利になる可能性もあるのだ。
「……隼人坊ちゃん」
綺堂は、アミュスフィアを装着しようとしている隼人に声をかけた。
心配なのだろう、と言う事はその顔を見れば判る。
親としては当然だ。……が、現実世界で隼人の身体を見る事、アミュスフィアの状態、仮想世界が及ぼす影響をモニターする事。そして、もう1つ、しなければならない事がある。この相手を止める為には少なくとも2つの世界で、と言う事になるのだ。流石の隼人も領分を超える事になる為、其々の得意分野で行動をする事になったのだ。
仮想世界の銃弾が仮想世界での人物を殺したとしても、現行の民間用VRマシンで死に至らしめる事は不可能。それは、綺堂を始め 菊岡と同じ所属である渚、そして開発社への問い合わせも含めて論議した結果だ。まず間違いなく、本人が使用しているハード機を殺人マシンにでもしない限り不可能だという事。頑なに行く事を止める事も考えなかったと言えば嘘になるだろう。
だが、それは出来なかった。
隼人があの世界を想っている気持ちを良く知っているからだ。あの世界で大切なものが出来、生まれ、そして戻る事が出来たのだから。そして、並々ならぬ決意の表情も見ている事もあったのだった。
「大丈夫だよ。……現実では爺やが見ててくれるんだし。仮想世界は任せて。……この世界は オレの土俵だよ」
綺堂が言わんとする事が当然、判った隼人はニコッと笑った。確かに、不安な面は勿論ある。隼人とて、死を畏れていない訳ではないからだ。如何に可能性はほぼ無い。全く無いと言ってもだ。
だが、今回の件。
隼人には何か引っかかっていた。
心の奥に巣食っている暗闇が溢れてきているかの様な不穏な気配を纏っていた。その根源が、以前に綺堂に見せてもらったゲーム内でのスクリーンショットを見てだった。
あの髑髏の面の下に、その答えがあると言うのなら……。
「……行かないと、な」
隼人の視線がぐっと鋭くなる。
綺堂と話していた時の隼人じゃなく、あの世界で戦っていたリュウキの姿に。
「こちら側についてはお任せ下さい。隼人坊ちゃん」
綺堂は、隼人にそう言う。こちら側でも色々と手を打たなければならない事が多い。正直全てに対応する事は難しいだろう。
GGOを運営しているザスカーがアメリカに拠点がある、と言う事もそれに拍車をかけている。
捜査当局に事情を説明し、そして令状を取る。と言う方法もある事はあるが、如何せんGGOをプレイしている者達の数を考えたら現実的ではない。故に少なくともあの死銃を名乗る男のアバター名が判らなければ、何も出来ないのだ。そして、如何に現実世界で2名の死が確認されたからと言って、それらの状況証拠だけで令状を取る事も難しいだろう。
だが、限りなく黒だという事は彼らも感じているのだ。
だからこそ、出来ることは全てするつもりだった。
「うん、任せたよ。……行ってきます」
隼人は、アミュスフィアを装着した。
そして、隼人の身体には幾つもの心電図モニターの電極が貼られている。アミュスフィアは安全を謳っているだけあり、安全面においては最高基準だといえるだおる。だが、万が一にでもアミュスフィアに搭載されている機能がクラッキングによって殺されたら? ……確かに、この家のセキュリティは万全だ。……だが、過信をするのは危険であり、三流がする事だ。
全て万全を喫する為にだった。
「リンク・スタート」
全て、今出来る事を終えて、あの世界へと再び戻ろう。
戦場。と呼ぶ以外に形容の仕様のない世界。
銃の世界へ。
~????????~
そして、それは偶然なのか、必然なのか。
某病院にて、ある男が同じく別世界からコンバートし、あの世界へと向かう者がいた。その場所でも、万全を期しており、ゲームの世界だというのに、病院でのダイヴ。
彼もまた、同じ理由で同じ世界、《ガンゲイル・オンライン》の世界へと入るのだ。
「えと、それじゃあ……行ってきます。多分、4,5時間くらい潜りっぱなしだと思いますが……」
自分自身の身体、現実世界での身体を見ていてくれている看護師に向かってそう言う。電源を入れ頭にアミュスフィアをかぶる。そして、看護師が彼の名前を口にした。
「はーい。桐ケ谷君のカラダはしっかり見てるから、安心して行ってらっしゃい」
「よ……よろしくお願いします」
桐ヶ谷。
そう……彼は《キリト》である。
この一件について、菊岡が意見を聞き、そして菊岡が依頼をしたのはリュウキだけではなかったのだ。そして、皆に内緒にしていたリュウキだったが、菊岡自身に、リュウキの方から口止めをした訳ではなかった。菊岡が、リュウキの他に依頼をした事は半ば必然。かの世界に精通しており、ここまで腕が拮抗している者は、リュウキ以外ではキリトしか知らなかった。
そして、キリトは看護師、……美人看護師の手厚い看護を受けつつ、ドギマギしていたが、内心では複雑な思いだった。
この一件を聞いたのはつい最近だ。
当初は、依頼された時、『何かあったらどうするんだ!』と、菊岡に反発をしたのだが、かの世界にリュウキが行っている事実を知り、意思を変えた。そして、何も言ってくれなかった、相談さえしてくれなかったリュウキに怒りと悲しみを覚え、同時に何故そうしたのかも理解出来た。
リュウキは全てを背負おうとする。
それは、あの世界でもそうだったから。
リュウキに、隼人に現実やALO内で聞こうか、と思えたが、もうリュウキはコンバートをした後だった為、話はあっちで会えたら、と結論したのだ。
そして、あの男が受けている以上、必ず何かがあるとも思えた。
その後、菊岡が何やら報酬を……とも匂わせた。正直、リュウキの事が頭の大半を締めていたが、それを聞き、新たに画策をする。あの世界で無事にことを終える事が出来たら、盛大に打ち上げをしてやろう、と。
今度はリュウキ1人で全員の前で、と。
「リンク・スタート」
コマンドを唱えると、もう見慣れた白い放射光が視界を塗りつぶしたのだった。
~GGO・中央都市 SBCグロッケン~
別に始めてこの場所、GGOへ入った訳ではない。
綺堂のIDを使い、何度か訪れた場所でもあるからだ。この最終戦争後の地球、即ちGGOでの世界観を模しているこの憂鬱だとも言える黄昏の色。あの世界で4人で見たあの朱い空とは大きく違う印象を受ける。鮮やかで美しい世界ではなく、殺伐とした世界。
それはそうだ。この世界が存在する理由は《戦い、殺し、奪う》これらが、先鋭化されている。
これは、自分自身での考えであり、証拠もないが、この世界を運営しているザスカーの真の狙いをこう分析してみた。
それは、デジタル世代の陸軍兵士を育成する為のプログラム。
あくまで表向きはゲームとして運営をしているが、これらのゲーム結果を元に、更に改良された仮想世界を軍部内で使用するのだろう、と言う考えだ。
ある議論では、仮想世界での訓練は実践を超えるという声も上がっているし、少なくはない。実際の訓練では、死傷者が出る事態も珍しくないが、仮想世界では人は死なないし、負傷しない為、実戦身に欠ける、と言う声もある。
だが、仮想世界でも擬似痛覚と言う物もあり、五感でプレイしている為、現実感もある。《現実では起こっていないだけだ》と上がる声も多い。
だが、そこが最大の落とし穴だとも思えるのだ。現実感はあるが、実際に現実では起こっていない。そんな訓練を続けていれば、実戦時での恐怖を抑制する事も出来るだろう。
日本でも少なくないゲーム感覚で人を殺すと言う行為。
それが、軍内で推進されようとしている。そこにも勿論、命を軽んじる危険性があるのだ。
故に、GGOの運営の真の目的は最強の兵士を作り上げる為の養成プログラム、と認識をしていたが、それを議論し、どういう形になるのかは知る由もないし興味もない。
ただ、そう思った、考えた。それだけであり、そこへと干渉するつもりも毛頭ない。ゲームなら兎も角、現実世界での争い事は昔から毛嫌いしている事もあってだった。
話は大分それた為、元に戻そう。
この世界、銃の世界へと脚を踏み入れた者が、周囲を確認していた。初期配置はこの場所なのだろう、と理解する。いつ見ても、ALOとは全く逆の町並み。
メタリックな質感を持つ高層建築群が、大都市の様に並び、そして天を衝くように黒々と聳えている。機械の街。と形容した方が判りやすい。いたるところで、機械的な色と音の洪水で、自然だといえるのは、この天に浮かぶ赤い空だけだから。
「………」
頭の中で様々な思考を張り巡らせつつ、脚を進めた。ゲームを開始する時の癖でもあるだろう。
初期配置されているドーム状の建物の前に広がる金属板の通路には、無数のプレイヤーが歩いている。ある者は、武器を見せ合う様にし、ある者は腰をかけて座り込み話し込んでいる。一連して言えるのは、皆が屈強な兵士の外見。以前までの、キャラクターは獰猛な外見、とは何処か程遠いモノでやや好みからは外れるモノだったが、素顔を曝されたあの世界と比べたら全然マシと言えるものだ。……が、とは言っても、もう何年も殆ど現実の容姿に近いアバターで過ごしているから、最近ではそれは薄れている。
それでも、男であるならば屈強な肉体。
簡単に言えば、ハリウッドのアクション映画で主役を張るような屈強な外見が望ましいだろう。これからの事を考えると、どうしても目立つ必要があるからだ。と、内心思いつつ、自身の手を見た。
――その瞬間、嫌な予感がカラダを廻った。
驚くほど細い指、そして白い肌。
以前入った時のアバターのそれよりもはるかに小さいし細い。目を何度も瞬きさせて確認するが一向に大きくならない。……当たり前だが。そして、軽く頭を振った時だ。背中に何か感触があった。
いったいなんだ?と手を伸ばして確認すると……、髪の毛が異様に長い事にも気がついた。そして、縄の様に纏まっているのは縛っているから、だろう。
別にコーディネートをしたわけでもないから、これは初期仕様?
そして、嫌な予感、と言うより殆ど確信に近かったが、認めたくない、と言わんばかりにゆっくりと、鏡の様に磨かれた高層ビルの外壁へと歩み寄った。自身の姿は一体如何なる者になってしまったのかを確認する為に。
「………だれ?」
思わず聞いてしまった。
まわりからすれば、1人で何自問自答してんの? と思われるかも知れないが、鏡に映ったその人物が自分だと、思えない、思いたくなかったというのが本音だろう、絶対。鏡に映された容姿は、自身が密かに願っていた容姿とは何百光年ほどかけ離れている。……だがそこまで、高望みは無理かな?と少し妥協した姿とも百光年は離れている。以前でのゲーム、とある事情……と言うよりトラップに近いそれを受けてしまった? 時、自身の容姿が激変したが、それ以上だ。
髪の毛が白……と言うより、銀色なのは良い。銀色は好きな色だからだ。
……望まない事だったが、その色にちなんだ呼び名があったし。掌は何度開いて握っても大きくはならず、こんな手で機関銃等の大型銃をもてたりするのか?と思ってしまう程小さい。あの世界でプレイしていたアバターと近い……事はない。こちらの方がどちらかといえば華奢だ。
そして、何よりも認めたくないのは……。
「……おん、な?」
と、言う事である。外見がどう見ても男に見えないのだ。
長く鮮やかな銀髪、それをゴム?で束ねており、これは俗に言うポニーテールと言うヤツだろうか?目元にかかってしまって視界を遮る心配は無い……が、なれるまで本当に鬱陶しそうだ。瞬きをすると、本当に良く判るのが、マツゲの長さ。ぴょこぴょこ、と動くそれは、まるで手入れでもしているかの様。
「………」
そして、数秒間、現実逃避(これは正解である)をしていて、漸く。
「はぁっ!!!」
声を発する事が出来た。いやに注目を集めてしまっているが、これは仕方がない……、と言うかダイブしてから、ちらちらと見られていたから、それに拍車をかけてしまった。見られていた理由がこれで判った。……全然嬉しくない。
頭の中で葛藤しつつも、色々と今後の事やら、自分が最もしなきゃならない事やらを思考していたその時だ。
「おおっ!? お姉さん運がいいね! そのアバター、F1400番系でしょ! さいっしょっから、髪束ねてる仕様って、その系統しかないからねー、 可愛いし、め~~ったに出ないんだよ、それ。 どう? 今ならまだ始めたばっかだろうしさ? アカウントごと売らない? 2メガクレジット出すよ!」
「………」
思考の渦におぼれかけていた時、助け舟を出して?くれたのは無骨な男。
髭も生やして、それなりにダンディ。間違いなく男だ! と言える者。願ったり叶ったりだ! と思わず手を掴んでしまった時、何か知らないが『ふへっ!?』と変な声を上げられて、我に返った。
「……悪い。こんな外見してるが、俺 男なんだ。ネカマじゃない。……っっ!!」
ため息を盛大にしつつそう断る。それと、同時に急いで自分の胸部を弄った。
幸いな事に、その場所は女性である証はなく、ただの平べったい胸板でネカマじゃないと言った瞬間、予感した恐怖の性別逆転事故は起こっていなかったことに心底安堵した。
「ほっ……」
「へ? ……って、じゃあそれ、M9000番系かい!? 噂にしか聞いたことない幻のアバターだよ! それ!! それなら、4、いや5は出す! う、売ってくれ! ぜひとも!」
「………」
正直、またこの男の手を握ろうとしてしまっていた。ネカマじゃないし、現実でそんな趣味もないと強く断言できるのだが……、辛うじて手を引っ込める事に成功。本当に願ったり叶ったりで、外見を無償で提供する、と言いたかったのだが、そうはいかない。この一見華奢で、弱々しい女性……と言えば、かの世界の線は細いがその細い線に似た獰猛な細い剣を振るい、敵を屠っていた彼女達の事を思えば失礼だ、とも思ったが、この身体にはその外見からは考えられないほどの力を内包しているのだ。
何故ならば、初期ではなくコンバートだから。以前にいた世界のステータスデータを受け継いでいる。
勿論、プレイするゲーム世界の能力を超える力は、無いが 殆ど変化無い。
「悪いな。提案は正直ありがたいんだが、これは初期じゃなく、コンバート。 金には変えられない。幾らつまれても」
この姿の中に存在しているデータは、あの世界で培われてきたモノだ。思い出が詰まっていると言ってもいい。それを金に変えることは絶対に出来なかった。
「そ、そうかい……」
「ぁぁ……(まさか、あの噂、本当だったのか……、プレイ時間にアバター外見が依存してるってヤツ)」
そう考えつつ、くるりと身体を翻した。男は、まだ未練があった様で、その場に暫く留まり、大声を上げた。
「また、また気が変わったら連絡してくれ!!」
ダッシュで、追いかけてきて、透明なカード上のアイテムを押し付けてきた。
これは、所謂 ネームカードだ。
キャラ名や性別、そして所属ギルド名などが記録されたカード。それを受け取ると、自然とアドレス帳に追加される仕様になっている。
「はぁ……、なんだか出鼻挫かれた感が凄いする……が、性能の確認はしないと、な……」
かのじ……じゃなく、彼はゆっくりと移動を開始。
自身のステータスは確認したが、体格が違うから、勝手が多少なりともずれてくるだろう。この一瞬に全てが終わる、と言っても過言ではない世界で、それはあまり快くない。覚束無い足取りは、ひじょーに彼らしくない。
そう、彼こそはかの世界で英雄の2人の英雄の内の1人だと称された歴戦の強者。
……リュウキ、なのだ。
その哀愁漂う後姿を見てしまったら……、どうしても霞んでしまうが、直ぐに実戦感覚を取り戻して、外見を気にしなければ、元通りに……戻ると思う。きっと、多分。
その後に彼が向かったのはガン・ショップ。
初期所持金は1000クレジットしかないから、この金額では、対人戦には必須である実弾銃など買えない。中古では買えるのだが……、メンテが必要だったりとかえって金銭が多めに掛かってしまうことになりかねない。メンテ不足のままに、実戦に出たりすると弾詰まりを起こしたり、部位破損……拳銃であれば、即使用不能にもなりかねない。
故に、方法のは1つだ。
「……これ、それとこれをレンタルで頼む」
「あいよ!」
購入ではなく、賃借り。時間制限は勿論あるが、体験用だという事と、金不足の初心者が取るべきモノだ。豪快な大柄な男の店員、NPCにそれを頼むと、直ぐに持ってきた。大型店であれば、全自動と言うか、機械が全てをしてくれるのだが……、初心者の武器屋という事で、雰囲気が出ていた。
入門編の様な感じだ、と言えばいいだろうか。
「さて、と」
リュウキは、手に銃を持って確認。
正直、こ~んな、華奢な手で銃なんか持てるのか? と疑ったりもしたが、問題は無い様だった。この世界での、筋力値もコンバートしているから、初期ではなく、あの世界でのモノだ。
元々のキャラの性能がバランス型だから そんな事はありえないのだが、そう思ってしまっても仕方が無いだろう。同じくレンタルした銃を納めるホルスター、そして 何よりもこれだけはレンタルではなく、買う。それは、フードつき、マント着用だ。
「……必須だ。絶対」
外見をすっぽりと覆うボロボロのマント。値段がかなり安い。
理由が隠蔽スキルが増すだけ。……それもデザートタイプなので山岳地帯や、それに似た色の地形でしか、望めそうに無い。それだけだから、防御、と考えたら全く無意味だ。
……それもそうだろう、この世界が飛び交うのは銃弾。こんな布切れ一枚で防ぐなんて事は出来ない。それなりに整えようモノなら、防弾ジャケットを購入しないといけないが、初期クレジットな為、購入は無理だ。……無くても問題は無いが。
「これで、とりあえず良しとするか……」
リュウキはそんな事、一切考えていない。外見を隠す事以外は……。
また、あの世界の頃に戻ってしまったみたいで、なんだか変な感じだったが、そこまで違和感はない様だ。
「……死銃と似たような格好になってしまうが……、まぁ仕様がない、か。背丈は相手の方が上だろうし」
綺堂のアバターを考えて、推察すれば間違いなく大きさは相手側の方が大きい。……が。
「でも、実際に見た事あるヤツ、少ないだろうし……、噂とかが飛び交って結局は見られそうな気がする……」
そう、なのだ。
あの死銃が現れるときは、大体何かをしでかす時。以前は、《ゼクシード》の時、そして後に判った《薄塩たらこ》の時。だから、実際に見たプレイヤーなど少なく容姿云々は噂程度だ。
訝しんだり……、それと死銃の噂がそれなりにあったら、好奇心で近づいてくる者もいるかもしれない。かと言って、この装備を取ったら、先ほどの男の様に来る可能性が多いに大だ。
どちらを取っても最悪な結末、《正に前門の虎、後門の狼》状態だ。
それ程、珍しいアバターだそうだから、全く嬉しくないレアアバターとは珍しい。
「BoB予選は、明日だ。武器買う金は揃えとかないと、な。……ま 方法は決まっているが」
なる様にしかならないだろ……と何処か諦めムードも出しながら先に進むリュウキ。かの世界で素顔を曝してしまった。と言う経験が活きた様である。別になんら嬉しくもないけれど。
リュウキは、そのまま街の外へ。
この世界のMob、もしくはプレイヤーが蠢くフィールドへと歩んでいった。この初期装備では、心もとないけれど、……如何に武器性能で負けていても、この世界では負けるつもりは毛頭ない、と言うより自信がかなりある。
リュウキは、手に持った45口径の拳銃を引き抜き、トリガー部分に指を入れ回す。
ガンプレイと呼ばれる技の1つ。ガンスピン、所謂ジャグリングの様なモノ。慣れた手付きで、くるくると回し、そして、回った勢いのまま、ホルスターへと再び納めた。
外見はさて置き、その淀みないしぐさは歴戦のガンマンを思わせるが……どうしても外見が。
「……ふんっ」
何か言うわけでも無く、鼻息を荒くさせそのまま消えていった。怒ってる仕草なのだが、その素顔を見たら誰しもが必ず思うだろう。
――可愛い
と。
ここまで来ると、もう運命であり、決定事項・必然なのだろう。
もう1人、本日このGGOの世界へと舞い込んだ者がいた。
その者とは勿論先ほどでも話したキリトだ。キリトの目的は、リュウキと同じく死銃の調査。菊岡には『撃たれてこい』と言われていた様なものだったが、流石にそれは気持ち悪い。撃たせないまでも、接触・興味は持たれる必要があった。そして、もう1つは黙って、危険な事があるかもしれない世界に来たあの男、リュウキへの接触と軽い説教だった。
今後の事をアレコレ考えていると……、リュウキの時と同じ様に周囲の視線を集めていたのだ。そして、自分自身の姿を確認した瞬間。愕然と目を見開いていた。
「な……なんだこりゃっ!?」
ガラスに映っていた自分の姿に絶句。
恋人であるアスナやレイナに『SAOのキリト君って、かなり女顔だったよー』とよく言われていたが、今のこの姿はそのレベルではない。背丈は、自身のALOでのアバターである小柄なスプリガンよりも低い上に細い。顔と手は色白。『透き通る様な肌』はこの時に使うモノ、と教えてくれている様。その上、唇はこれまた女の子っぽさを際立てる紅色。髪の毛は黒。頭頂部から、肩甲骨あたりまですらーっと伸びている。
因みに、SAO時代のリュウキの事も同レベルかそれ以上。と、キリトの事を女顔だと言っていたアスナ&レイナは思っていた様だけど、本気でスネちゃうかな? と思ったらしくそんなには言ってなかった。……それなりには言った様だが。
「せ、せめて、もうちょっと兵士っぽくさぁ……」
がっくりと項垂れるキリト。そんな時だ。
「うおおおお!!!」
突然、絶叫染みた声が沸き起こった。一体何処から出てきたんだ? と思える程 すぐそばに男がいたのだ。
「きょ、今日、こんなレアなアバターを2回も見れるなんて思わなかったー!」
何やら、本当に興奮している様だ。キリトは何事か?と振り向いてみると。
「お、あんたはお姉さんかい? それともお兄さんかい?? そのアバターが女物なのなら、2メガ! 男物なら5メガクレジット出すよ! ……見た所始めたばかりのようだし! アカウントごと売ってくれない??」
突然の言葉。
結構早口で言っている上に、衝撃展開を飲み込みきれずにいたキリトは言葉を理解するのに時間がかかった。
ほとんど思考停止状態、といっていいだろう。
他人が見ても明らかに女なのだ……と認識してしまったその時、思わず胸部をマサグッタ。その仕草をみた男は、全身を一通り再び見直すと。
「あぁ、あんた男なんだな?」
なぜか、たったその仕草の1つだけで見破った様だ。何とかキリトも立て直し、男の言葉の意味をタイムラグ無しで認識できる様になったから、この男が自分の性別を認識した事。それがやや不思議に思った様だ。
「あ、ああ。オレ、男……なんだけど、何で分かったんだ?」
キリトはそう聞いた。
この外見だ、一見したらまず間違いなく女なのは誰が見てもそうだろう。だが、目の前の男は、この後の展開が大体読めていたのか、興奮状態だったのに、冷静に戻っていた。
「えーっと……、因みにアバターの話だけど、ここにはコンバートしたのかい?」
「!! な、なんで??」
ぎょっとして、思わず仰け反ったキリト。この男は心の思考が読めるのか? と一瞬だが思ってしまった。確かに売れない、初期キャラではなくコンバートしたキャラクターだから金には変えられないと断ろうと頭の中で考えていたのは事実なのだから。
それを的確に見抜いたこの男はナニモノだ! とも同時に思うのだった。
「ぁ~……やっぱりか。そのアバター、超レアだし。……やっぱしコンバートが条件に入ってる、のかな?」
男は質問になかなか答えてくれない。一体どう言う事なのか、と訝しみつつ見ていたら。
「や、悪いね。 前にも同じ様に珍しいアバターのコがいてなぁ? 君と全く同じ反応だったからねぇ」
それを聞いてうんうんと唸りなるキリト。そして、1つの結論が頭に浮かんだ。
「え……、まさかだけど、ソイツってリュウキと言う名前、RYUKIって言うキャラネームだったか?」
「いや? 名前の表示はされてないよ。カードも見せてもらってないし。オレは気が変わって売る気になったら、と出したんだが」
キリトは、目を数回ぱちくり、と瞬きをして……そして1つの結論が頭の中で出てきた。
多分、リュウキも今日この世界へと入ったのだろう。
それもそう遠くない時間に。
キャラネームが表示されない・フレンドリストにも載っていない状況で、現時点で接触するのは非常に難しい。まだ右も左も判っていないこの世界であれば尚更だ。
『キリト君とリュウキ君って、なんだか似てるよねー?』
『あ、確かにそうだね? 私たちが言うんだから間違いないよー』
いつだか、言われた言葉を思い出す。
自分から言わせれば、姉妹とは言え彼女達の方が、と思ったが苦笑いをするだけにとどまった。目指していた男に似る……と言うの事は良い事なのか悪い事なのか……。どこが? とも聞けなかった。嫌な予感がするからだ。
「で? お兄さんはどうだい? 売ってくれるかい??」
キリトは考えている内に声が聞こえ、そう言えば、まだこの人がいたんだっけ、と改めて思い直すと。
「あ、ああ。悪い。オレも同じなんだ」
そう言って、諦めてもらった。正直キャラを交換してもらう。無料提供さえも頭に浮かんでいたが……、そこはぐっと堪えた。そう言った部分でも、某アバターを持つ彼と全く同じ。
似た者同士と言うのはこう言う事を言うんだろう。
「はぁ……、じゃあ 色々と準備、しておかないとな……」
ため息混じりに、キリトは歩き出す。
まずは、装備集めもそうだし。大会にエントリーをする為にどうすればいいか、の情報収集、そして まず間違いなく同じ葛藤を味わっている同士との合流。(もう説教とかこの時は考えてられない)しなければならない事はまだまだ山ほどにある。
「……ふん」
キリトは、我が身を一瞥し、息を鳴らしてから、メインストリートを目指して歩き出した。
その直後、揺れて頬にかかった髪を無意識のうちに指先でかきあげているのに気づき、暗澹とした気分に襲われるのだった。
最後にもう一度、言おう。
――本当に似た者同士だ。
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