ソードアート・オンライン〜Another story〜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
Extra Edition編
第158話 Debriefing vol.2
直葉は、プールの中に飛び込んで、ニコニコと笑っていた。
そう、その笑顔だけ見てみれば、十分水は克服できてるっ!と思えるだろう。だが、装備?している物が既にOUT!どんなクエストでも、自身の、そしてパーティの装備は大切で重要。
だけど、所謂『桐ヶ谷 OUT!』なのだ! いや 苗字だと、和人もいるから『直葉OUT!』かな??
兎も角、今回行くクエストは、水の上じゃなく、水の中。
それももの凄~~く深~~い海の底。そんな場所に、浮き輪は持っていけない。
「えへへっ! きもちいい~♪」
子供みたいに随分と、はしゃいでいる様だけど、そうはいきません。そろ~っと直葉の近くまで忍び寄る人影あり。そして、隙を見て浮き輪の栓を ぽこっ!と外す。〝しゅ~~〟っという音と共に、直葉の浮き輪の空気が抜けていく……。浮き輪にしがみついているから、抜けるのが更にいっそう早い。
「いつの間にこんなもの持ち込んだのよー、あの時、持っていくもの~って慌ててたのはコレだったのね? 大体こんなの使ってちゃ泳ぎの練習にならないでしょっ!」
「わ、わぁ! ちょ、ちょっとダメですって! こ、これが無いと沈んじゃうんですっ!」
接近して、浮き輪の栓を外したのは、リズだ。リズは、ぎゅ~~っと浮き輪を更に握り絞り、外へと空気を追い出す。直葉は、必死に抗議をしてるけれど 聞いてくれない。
それどころか、リズはキリト顔負けの速度で、直葉の背後に回り込むと。
〝もにゅっ!〟
っと、効果音がまるで、聴こえてくるかの様に……、直葉の豊満な乳房を両手で揉みしだいた。
「だ~~いじょ~ぶですよ! だいじょうぶ! こ~んな、立派なものが2つもついてるんですから~♪ 沈みっこないって~♪」
「ぁ……///」
暫く放心しかけた直葉だが、かぁぁ!っと赤くなり。
「や、やだっ/// ど、どこ触って///」
「何食べたら、こんなに大きくなるんだか!いやぁ、けしからんですなぁ?? こ~んなに大きくなるなんて~、不公平ですなぁ~?? まったく~~」
「い、いやぁぁ////」
弾力がとても良く、食い込んでも直に元の形へと戻されてしまう。リズは、2度 3度 4度……と何度も何度も揉みしだく。……これは、同性同士とは言っても、完全にセクハラである。
「ぅぅ………」
その2人を見ていて、寂しそうな表情になってしまうのはシリカだ。何やら自分のを見て、手を当てて……さらにさらに表情が暗くなってしまうのは、御愛嬌。
「ちょ、り、リズさんっ!? 直葉ちゃんが困ってるよー?」
女同士とは言え、行き過ぎたスキンシップである。レイナが、止めようと近づいたが。
「むっふふ~、レイの弱~~い所だって、知ってるんだからね~~♪ ちゃ~んと、後でレイも攻めて上げるから、愉しみにしててねん♪」
「っ!! え、ええっ///!?」
「喜ばない喜ばない! スキンシップじゃん♪」
「そ、そんなスキンシップいーですっっ/// それに喜んでないよっ!」
「は、はぅ/// や、やめ~~」
リズの言葉にレイナは、思わず顔をかぁぁ、っと紅潮させた。あの時の事、覚えてるんだ??と思ったのだそして、リズの手はそのまま止まらず、直葉の胸を揉みまくってるから、直葉は思わず目をぎゅ~っと閉じて悶えていた。
このセクハラ女がこのまま大暴れして、世の男子が喜ぶシチュエーションを魅せ続けるのか!!??っと期待に胸を膨らませていたが……。
「あれ?」
リズの身体がひょいと浮き上がる。なんだか、掴まれてる様な気がする。……気がする~ではない。実際につまみ上げられているのだ。まるで、猫をつまみ上げるかの様に……。
「リ・ズ?」
ジト目をしながら、リズをつまみ上げているのはアスナ。いくら浮力のある水中だとは言っても、結構力が無いとこんな芸当はできないだろう。それも、片手で……。
その眼と言動は、あの世界の『閃光様』の威厳がばんばんに出ている。だから、リズは直ぐに……。
「……すみません」
白旗を振った。頭に手をおいて反省のポーズをしたのだ。あの酒場でもそうだったが、リズはアスナには弱い様だ。でも、たまにアスナにも攻める時はあるから、一概には言えないが(殆どがキリト関連!)
「ぁぅ~……///」
漸く解放された直葉。顔はまだ赤くなってるけど、大丈夫そうだ。
「り、リズさんっ! ほんと、ダメなんだからねっ! 次から、お姉ちゃんにお仕置き、してもらうよっ!」
「ごめんってばっ! それに、レイの可愛いお胸は、リュウキくんに、任せるってばっ!」
「っっ///!?!?」
「こーら! レイをからかって遊ばない!」
「いてっ!」
アスナのゲンコツが、ぽこんっ! とリズの頭を直撃。
目の前に星が、ぴょこん!と生まれた所で、このお話は取り合えず終了。レイナも直葉も顔、やっぱり赤いけど、早く練習をしなきゃ、だからだ。
「さっ、最初は水に顔をつける所から、始めようか? 慣れたら、水の中で目を開けてみよう」
「あ、は、はい!」
アスナは、リズを離すと直葉の傍にたつ。
「深呼吸を3回程して、いち、にの、さん! で、やってみよう? 自分のタイミングでいいから」
「はい、判りました、アスナさん」
アスナは、勉強もそうだが水泳、スポーツに関しても教えるのが上手だ。優しい先生の様に見えてきた。
「……む~~、リズさんはプールのお水で頭、冷やしてくださいよっ、もぅ……」
「あ、っはは~、ちょっと悪ふざけが過ぎたわね~」
リズは、頭を掻きながら、てへへ~と笑う。この分じゃ、また色々と言われそうだ、と思ってしまう。
「私達も、何か手伝いたいですね?」
シリカは、苦笑いをしつつも、直葉の役に立てれば、と立候補をしていた。
「よしよーし! 私達もいっちょ頑張ろう!」
「リズさんは、へんなこと、しないでよ??」
「だいじょーぶだいじょーぶ!」
如何にも安心できない笑みを浮かべながら、3人とも、直葉達の方へと向かった。
~学校校舎3F・カウンセリング室~
菊岡は、キリトとリュウキ、2人のプレイスタイルについてを聞いていた。
このデス・ゲームと化したSAOにおいて、何よりも重要なのは勿論《死なない事、HPを全損させない事》なのだ。その為には、何よりも徒党を組む事が重要。
即ち、パーティプレイである。
だが、彼ら2人は殆どと言っていいほどソロだった。時折、コンビを組んだりはするものの、大体は1人だ。
「本当に死ぬ世界で、どうして2人はこんなリスキーな事を?」
菊岡は、それが訊きたかったのだ。その言葉にまずキリトが口を開いた。
「……オレだって、最初からソロプレイヤーになるつもりは無かったですよ。でも、責任の全てを、オレ達βテスター上がりのメンバーのスケープゴートを、たった1人に任せる訳にはいかない、っていう気持ちが1番大きかったですね」
キリトはそう言うと、リュウキの方を見た。リュウキは、目をつむっている。
「……それはどういう事だい?」
菊岡は、その話に食いついた。
そして、キリトは、目を瞑り……あの時の事を思い浮かべた。
それは、第1層BOSS戦での事。
44人と言う大人数のパーティ、レイドを組みBOSSに挑んだ。
その中でリーダーたる素質も、資質も持ち合わせていた彼が、騎士ディアベルが命を落としてしまったんだ。
2人に全てを任せる、頼むと託して、ディアベルの身体は硝子片に姿を変えた。……今でも、思い出せる。辛く、苦しい記憶。だが、確かに彼が皆の為に戦い抜いた、最後の最後まで戦い抜いた証。それを忘れてしまっては、彼に申し訳が立たないだろう。あの44人と言う大人数をまとめあげ、BOSS攻略にまで踏み切らせ、そして……『いつかはクリアする事ができる』と言う事を示した。
先を征く者として、皆に未来への道筋を残したのだから。
だが、彼の死の重さは計り知れないのは事実だった。彼の事を信頼していた者達からの不満が一気に弾けた。BOSSを倒した後、一気に。
その時、気づくべきだった。
意図的に争いを誘発していた者がその場にいるという事を。後の最悪のギルドを立ち上げる者がいたという事を。
……だが、それはもう過去の話であり、変える事はできないのだ。
だから、この場ではいう必要性は無いと判断した。そして、ここで起こった事は、そこである単語が生まれた事。
《ビーター》と言う名前が生まれた事だった。
「……ふむふむ、成る程。ビーターと言う言葉を作り出したのは、リュウキくんからだったのか。悪役を引き受け、演じる事で、他の元βテスター達が恨まれない様にした訳だ……。そして、キリトくんが彼を追いかけた。何千人と言う数の憤怒にも似たものを背負わす訳にはいかないと。……そういうことだったか」
「……オレは、直前までずっと考えていた。でも、実行出来ずにいたんだ。後出しで格好は悪いけど、それでも1人だけ、そんな損な役回りをさせる訳にはいかないから」
キリトがそう答えた所で、リュウキは目を開けた。
「……元々オレはソロだった。MMOに関しては言わずもがな、だ。だ……だけど、あの時は心が軽くなった気がしていたよ。……当時のオレでもな」
リュウキはそう言うけれど、キリト自身もソロだ。
だがリュウキがこれまで経験してきた事を考えたら、その同じソロと言う言葉でも、重みが違うと言う事はキリトにもよく判っていた。だけど、そんな彼だったけれど、軽くなっていたと言ってくれた。
……それが何よりも嬉しかった。
キリトは、リュウキの言葉を聴いて、軽く笑い手を上げた。リュウキも、判ったと言わんばかりに、手を上げて返事をしていた。
「……気軽に言える事じゃないのかもしれないが、僕から見てみれば、2人ともだよ。本当に辛い役目だったんだとしか思えない」
菊岡はそう返していた。
《VRMMO RPG》
従来のそれは、基本的にソロでプレイする事は遥かに難しい、……攻略する事はできないとも言われる程、難易度が高い。当然だ。通常のゲームと違い、ネットゲーム。マルチプレイが売りのゲームだし、多くのユーザーに少しでも長くプレイしてもらう為に、簡単にクリアできない様に設定している。
そして、コミュニケーションの場としてでの意味もあるのだ。
メリット・デメリットを考えたら、ソロでのプレイはデメリットしか無い、と言えるだろう。従来通りのMMOであれば、問題無い事だがデス・ゲームにおいては、最悪だと言っていいだろう。
「……辛い、か」
「………」
リュウキは、目を再び瞑った。キリトも同様だ。
2人が考える事、それは示し合わせた訳じゃない。本当に2人ともが同時に思った。
――……そんな事は、辛さの内に入らない。
本当に辛いのは、心を通わせる事が出来た相手を失う事。仲間だと思える相手を失う事、だった。
キリトにとっては、あのギルド、月夜の黒猫団。
リュウキにとっては、ギルドDDA、聖龍連合。
……失ってしまったんだ。大切な戦友を。
《月夜の黒猫団》
キリトが初めて所属したギルド。ソロと言うプレイを長く続けていたせいか、忘れていた暖かさをくれた人達。自分を偽って、その暖かさに飢えてしまって。
甘えてしまって……。そしてギルドの3人を失う結果となってしまったんだ。
今は、支えてくれた人達のおかげもあり、心に傷を負っても、立ち直る事が出来た。でも、当時の心の傷は、まだ深く残っているのは事実だった。
《聖龍連合》
彼らとリュウキに関しては直接的にはそこまで面識は無い。
だが、ビーターと言う侮蔑の的になっていたリュウキの事を普通に……いや、友達の様に接してくれた人がいた。《シデン》と言う名前のプレイヤー。
聖龍連合の攻撃部隊隊長を勤めている男。ムードメイカーでもあり、攻略に関して熱心にリュウキとも言葉を交わしていた相手だ。その実力に いつか、追いつきたいとまで言っていて、本当に妬みや嫉妬の様なものは持ち合わせていなかった。そんな彼を失う事になったのは、あのギルドとの戦いの最中だった。
~学校専用プール~
直葉の特訓は続いていた。
最初は、水に潜る所から入り、そして今はバタ足で泳ぐ所までいけている。苦手だと言っていても、直葉自身の運動能力は高く、本当に飲み込みも早い。……水が苦手。だと言う意識を無くせば、本当に直ぐに泳げる様になるだろう。だけど、その意識を無くす事が、苦手意識を克服をする事が何よりも難しいのだ。
直葉は、アスナの手を握りながらも必死に足を動かして泳ぎ続けた。……3m、5m、8mと徐々に距離を伸ばしながら。息継ぎの仕方もまだできないから、当面は、行けても10mくらい、この辺までが良いだろう。
「直葉ちゃんっ! がんばれー! もうちょっとで10mだよっ!」
「がんばれー!」
「ファイトですっ!」
1つ隣のレーンで応援をするのはレイナ達だ。直葉も、それに応える様に足を動かすが……、やはり息が続かず、8m程で足をつき、「ぷはぁっ!」と言いながら顔を上げた。
「うん、さっきよりも進めたよ? どう? 少しは水に慣れた?」
「あ、はい……、何とか顔に水は付けられるようになったんですけど……、やっぱり、目を開ける事が出来なくて……」
そう言いながら、隣のレーンを見て恥ずかしそうにぺこりと頭を下げる。顔をつけていても、耳まで水につかっていても、ちゃんと皆の声援は聞こえていたから。それに、笑顔で応える3人。
「ふふ、焦らないで。ゆっくりで良いから、少しずつ慣れていけば良いよ」
アスナは、そう言った後 プールサイドに備え付けられている時計を見た。練習を始めてもう1時間は経っている。それを確認し。
「そろそろ、休憩にしよっか!」
アスナはそう判断した。適度な休息は、練習と同じ位重要だ。無理して練習した所で、集中力が続かなければ、効果も半減だろう。何事もメリハリが大切だから。
そのアスナの言葉を聞いた3人は、敬礼のポーズを取りながら『ラジャっ!』と一言いい プールサイドへと上がった。
そのまま、5人はプールサイドに腰かけ、足だけを水につけた状態で涼んでいる。今は夏真っ只中だ。空を見上げたら、朝見た時、同様 快晴の青空が広がっている。そして、耳をすませなくても聴こえてくるのは、蝉の鳴き声。
「ふぁ~……夏だねぇ」
だから、リズがそう呟くのも無理は無いだろう。それに応える様に、隣に座っていたレイナも、頷いた。
「そうだよねー、快晴の青空って、やっぱり好きだなぁ~……気持ちもスッキリする」
「ほんとですね。その上プールですし、気持ちいいです」
一緒に青空を眺めながらそう同意するレイナとシリカ。そして、話は今日の夕方に行くクエストの話になった。
「そう言えば、今回のクエストも、常夏のエリアなんだったよね?」
「うん、シルフ領のず~っと南だから、かなり暑いらしいよ?」
「あははは、ゲーム内だけど、日焼け止めが欲しいって思っちゃうかも」
「アバターの色はある程度は変えられるけど、それくらい暑いと確かにそう思いますね」
今回皆で行くクエストの話だ。
水中が苦手な直葉にとっては、正に鬼門。だけど、皆と一緒に行きたいと言う気持ちがあったから、練習をしている。まだ、いままで行ったことのないクエストだから、楽しみも多い。
「今まで見た事の無い仕掛けもあるらしいから、とっても楽しみですね」
シリカがそう言う。
そう、未知のクエストには、未知の仕掛け、それも醍醐味の1つだ。
「キリトが突っ走らない様に、ちゃ~んと見張っておかないとね?」
「あはは、それならリュウキくんもだよ、必死に隠そうとしてるのが、よく判るからねー、でも ちょっとした切欠で、一気にスイッチ入っちゃうかもだから!」
「ああ~、まぁ、そうね。アイツも冷静な時もあるけど、負けず嫌い。男の子な部分も多いし」
「うんっ、リュウキくんにキリトくんだからねー」
「あはは、本当に仲良しな お2人ですから」
皆が見る2人がそう言う感じだ。
SAO時代から、何かと張り合っている部分も時折見えたりしていた2人。あの時は状況が状況だったから、そこまでは……、だったが もう純粋なVRMMOとなったALOでは、違った。そこまであからさまじゃないが 2人は互いに競い合っているのだ。
協力している事が殆どだけど、敵を倒す数等が主なお題。そして、見た所殆ど五分五分だった。
(……リュウキくん、もう殆ど《眼》は使ってないって思うから、一概に本気って訳じゃなさそうだけど、それはキリトくんだって一緒。……もう、そんな場面は無い方が良いんだよね)
レイナはそうも思い描いていた。2人の本当の本気時。それは2人とも違うが、ある程度のリミッターは2人の中で存在しているだろう。
リュウキは勿論あの眼。そして、表情。
その姿は、鬼と形容されていて、一部からは、畏れらさえしていたが、その姿はもう息を潜めている。
キリトは、リュウキ程まではいかないが、その鬼気迫る表情。……そして異常なまでの反射速度だ。限界を超えて、何よりも早く、閃光よりも早く振るわれる神速の剣。
そんな本当の本気になる様な場面は、健全なゲームの世界では見なくていい。……見せなくていいんだ。
レイナはそう思っていた。
そして、暫く考えていた直葉が口を開く。聞きたかった事があるからだ。
「そう言えば、前から聞こうとは思ってたんですけど、皆さんはどうやってお兄ちゃんと知り合ったんですか? リュウキ君とお兄ちゃんは一緒な時が多いって聞いてますけど、やっぱり 一緒だったんですか?」
《キリトとリュウキ》
2人の男との出会いの事である。
その場にいる皆は、それを語る事ができるメンバーだ。
「私はですね……」
まず、シリカが答えた。
――……今でも、目を瞑れば鮮明に思い出せる
あの日、自分は本当にいい気になっていた。
竜使いだと、珍しいビーストテイマーだと、皆に、もてはやされて。
そのせいで、当時の最愛の友達であるピナが自分を庇って消滅してしまったんだ。そして、その凶刃は自身にも迫ってきていた。だけど、動けない。死んでしまったピナを見て、動けなかった。そこで、助けてくれたのがキリトだった。
最初は、事態が飲み込めなかった。ただただ、涙を流して自分のせいで死んでしまったピナに謝っていた。
そうしている内に、リュウキにも出会った。
最初は、助けられたと言うのに警戒をしてしまった。ピナを失った事もあるが、男の人をあまり信用してなかったのだ。現実世界では、異性と付き合った事すら無かった自分が、求婚まで迫られた事もあり、恐怖の対象として見てしまった時期だってある。それからは、ビーストテイマーとなり名前も知られて、ちやほやされたから、少しは薄れてきていた。……その代償がピナを失う事態に見舞われる事も知らずに。
兎も角、自分が警戒していることが顔に出ていたんだろう。リュウキに、見破られてしまって慌てた。だけど、リュウキの素顔を見て、悪い人だなんて想いたくない、と自身の中で芽生えて、聞きたくなったのだ。……2人の事を。
キリトの理由が『君が妹に似ているから』
リュウキの理由が『大切な人に教わったから《女性は守るものだと》言う事を』
キリトのその理由はあまりにもベタベタな答え。悲しい事があった筈なのに笑うのを堪えきれなくなってしまい、笑ってしまっていた。
リュウキのその理由、『女性を守る』という言葉を聞いて、多分顔が赤くなってしまったんだと直ぐに判った。初対面なのに、はっきりと守ると言葉にする。まるで、物語に出てくる騎士の様に。シリカにとっては、2人は白馬に乗った王子様と言った所だろう。
……キリトは黒いけど、この際はおいておこう。
そして、シリカのその言葉を聞いて、5人は皆笑っていた。
「あははは! そ~んな事、真顔で言えるのはあの2人くらいだよねー、でもシリカ、お姫様って言われた方が良かったんじゃない?」
「ふぇっ!?」
シリカは、そうリズに言われて思わず声が裏返ってしまっていた。
確かに、あの時リュウキにそう言われていれば、一体どんな反応をしただろうか。当時は、リュウキの事をよく知らなかったけれど、きっとあの時よりも、もっともっと顔が赤くなるんだ、って確信ができるから。
「ふ~ん、でーも、シリカ、珪子と直葉かぁ……、実際はあんまり似てないよね?」
そしてリズは、徐々に視線を変えていく。シリカの顔を見ていた筈なのに、どんどん下がっていって……。
「ど、どこを比べてるんですかっ!」
シリカは胸を抑えながら顔を赤くさせ、頬を膨らました。それは、始めて直葉と出会った時にも思った事なのだ。
キリト曰く『昔は本当に身体も小さかった』との事だ。
確かに、2年も経てば、成長するだろうけれど……、それでも!っと思ってしまうのは仕様がないだろう。
「あ……ははは……」
直葉は、あまり話題にしたくないのか、声を小さくさせながら、苦笑いをしていた。
「それで、シリカちゃんはその後どうしたの?」
レイナがそう聞く。
その顔は純粋な疑問と、少なからずの嫉妬、羨ましさが混ざっている大体 2対8の割合で。当時は、リュウキとの関係も特に何も無かったから、仕方ないとは思うんだけど、それでも嫉妬は仕方ないだろう。
女の子だから、好きな男の子の事だから。
シリカは、目を瞑って……再びあの世界の思い出を脳裏に映し出した。
「その後、キリトさんとリュウキさんはピナを助ける為に私と一緒に冒険してくれて……」
――……あの美しい丘での出来事は今でも忘れられない大切な思い出。
ビーストテイマーの自分が来た事で命の花、プネウマの花が開花したんだ。
本当に……良い思い出……ダッタハズ。
でも、でも……、それだけじゃなかった。
そこは花の都、フラワーガーデンと呼ばれる程、美しい層。
なのに……そこには最悪なモンスターがそこを根城にしているんだ。変なネバネバな粘液を持つイソギンチャクみたいなモンスターに絡まれたり、さらに……、醜悪な歩く花に、持ち上げられてしまって……スカートの中を……。
「……////」
シリカは当然、そこまでは口にしなかった。皆も、顔が赤くなっているのは2人に助けられた思い出があるからだと想っていたから、そこまで追求はしなかった様だ。
出会いの話は取り合えず、シリカの番は終わりだ。
次に話をしたのはリズ。
「そーだねー、あたしの場合は、2人とも別々に、だったかなぁ?キリトとリュウキは一緒じゃなかったわよ」
「へー、そうなんですか」
直葉は相槌を打ちつつ話を聞く。その相槌を聞いたアスナは、補足をした。
「ふふふ、キリト君とリュウキ君って、一緒にパーティ、コンビを組んでるって印象が強いんだけど、期間的にはそうでもないんだ。キリト君も、だけど。それよりもリュウキ君がパーティを組むなんて、滅多に無い事なのに、キリト君とは何度もくんでいたから、強く認識されただけなんだよ」
「ああ……、成る程」
直葉は、アスナの言葉を聴いて頷いた。確かに、誰とも殆ど組まない人が、同じ人と何度か組み、それを数度見られたら、定着してしまうだろう。例え期間が短かったとしても。
「そ、だからあたしが先に知り合ったのはキリトから、だね。まー、シリカの様にドラマチックな出会いじゃなかったなぁ」
リズは、快晴の青空を眺めながら思い返す。
――……そう、あの世界の空もこんな感じだった。
詳細部分は、情報量が違い過ぎるから、やっぱり違うと言えばそうだけど、思い出の中では補正が掛かっているから、同じだと思える。いつも通り、接客をしなければ、と笑顔で迎えた所に、キリトが来ていた。オーダーメイドを頼みたいと言う事だ。……その全身真っ黒な成り立ちを見てリズは当初は財布の心配をしていた。武具を加工する為に必要な金属素材の相場がどんどん上がってきているから。
なのに、キリトと来たら『予算は気にしなくていい、今できる最高の剣を』と言っていた。
最強と言われても、それには様々な定義がある。
如何に強大な力があったとしても当たらなければ意味はない。
如何に俊敏に触れる剣があったとしても、ダメージを与えられなければ意味はない。
故に、具体的な数値データ、武器性能の目標値を示さなければならない。本人が、敏捷値型なのか、筋力値型なのか、それによって調整もしなければならないから。
それを言うと、キリトは一本の剣を差し出した。
『その剣と同等クラスのを頼む』と付け加えて。
そこからが、リズにとっては最悪の出来事につながっていく。
キリトが渡した剣エリュシデータは 魔剣と言われる程の性能値を誇っている。魔剣というのは、様々な段階があるが、NPCショップじゃなく、プレイヤーが作る事ができる最高の剣を遥かに上回る剣の総称だ。故に、モンスタードロップでしか入手する事ができない。
キリトの場合は、このエリュシデータは、50層のフロアボスのLAボーナス品だ。故に、その剣に見合う様な剣にこれまでにお目にかかれてなかった。
リズは暫く考えたあと、店一番の剣、リズ自身の最高傑作を差し出した。
……そして、その剣が折られてしまったのだ。折れた剣は、修復不能と言う無機質なシステムメッセージだけを残し、硝子片となってしまった。
それを見たリズは、数秒固まって……、青い硝子片になって消滅した所で漸く我に返ると……
『うぎゃああああっ!!』
っと、思わず悲鳴をあげてしまっていた。
リズは、そのシーンを再び思い返しながらため息を吐いた。
「いきなり売り物の剣をへし折られて、第一印象最悪だったわよ」
リズの言葉に妹の直葉としては、やっぱり兄のした事だから、と思い兄の代わりに頭を下げた
「す、すみません……」
「キリトさんも、時々とんでもない事、しますからね?」
「でもそれは悲惨だったね……リズさん。ま、まぁ 当てた方が折れちゃうって思わなかった、って言ってるらしいし、私だって、思えないし。わざとじゃ……ないと思うけど?」
「むむむ……、レイも言ってくれるじゃん。あ~たしの剣が気に入らないっていうの?今度、メンテ代倍にするわよー」
「ひゃぁっ! そ、そんな事ないですっ! 無いですよっ!」
レイナは、思わず首をぶんぶんと振った。リズの鍛冶職人として腕はまず間違いなく、あの世界ではNo.1だった。トッププレイヤーの何人もが御用達になっていた事もあるし、アスナとレイナが使用していた武器は、メイドイン・リズベット武具店だったのだから。リズは、にやっと笑うと話を続けた。
「まーそれは冗談としても、その後だって色々あったのよ? ドラゴンの巣穴に落ち込んだり、ドラゴンのンコを投げつけられたり……よーく考えたら、ろくな思い出がないわね」
「ごめんねー、リズ」
次にアスナが謝った。
よくよく考えたら、リズの店を紹介したのは自分達だからだ。そのおかげで、大損害を被ったのだから。だけど、リズは苦笑いをして。
「あははは! ま、今となってはいい思い出よ。……それに、大切なもの、あいつから貰ったし」
リズが更に思い返すのは、あのドラゴンの巣穴の中でキリトの手を握った事だ。ずっと飢えていた物が判った。それは心の暖かさ。心から暖めてくれるものの事。
それを知って、思い切って告白までして……、そして今に至る。色々とフラフラしてるって判ってる。
でも、ちゃんと自分の中できっちりと決着を付けるつもりだ。リズは、そう強く想っていた。
「あ、そう言えばリュウキさんとは何時出会ったんですか?」
「ぁ……」
レイナは、はっ!っとシリカの方を見た。そう言えば、リュウキとリズの出会いには自分も絡んでいるから、と思い出したからだ。
「んふふー、そうだったわね。今回は2人の男共との過去バナだったっけ」
リズは、レイナの方をにやっと見た。……勿論、レイナの事、判っていた様だ。随分と抜け目がないのである。
「……まぁ、あの時のあたしににとっては、世話の焼ける妹と弟を持った、って気持ちだったかな?」
「え? どういう事ですか?」
「あ、う……、そ、その~……」
「ん? レイナさんどうしたんですか?」
「い、いや、何でもないヨ? う~ん……、リズさんとリュウキ君の出会いの事……私にとってもちょっと恥ずかしい事があって……」
「え、そうなんですか??」
直葉もシリカも興味津々だった。その中で、リズはこほんと、咳払いを1つする。
「ちゃーんと、メインはレイの為に取っておくわよ。あたしは、途中まで だ・け。……えっとね」
リズが話し出すと、取り合えずレイナの方には視線が途切れる。レイナは、『次に言わないといけないんだよね……』と、思って顔を赤らめてしまっていた。
「まぁ、キリトにも負けず……っと言うか、本当に衝撃的だったわね……、圏内であんなに取り乱したのは初めてだったかなぁ」
リズは、はぁ~っと深く息を吸い込み、吐いた。リュウキとの出会いのインパクト。
それは、キリトに、いきなり自身の最高傑作の剣 をへし折られたそれよりも凄い事だったのだ。
ページ上へ戻る