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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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Extra Edition編
  第156話 夏の日差しの下で

 

~竜崎家~


2025年 7月25日 8:00



 7月ももう下旬。
 太陽もすっかりと顔を出し、町を照らしていた。7月の日の出の時刻は、大体4時半と言った所だろうから、もう 8時にでもなれば外は完全に朝の空だ。

「ん~……」
 
 朝の日光を浴びながら 背伸びを1つする。目覚めた時にする習慣の1つだ。これは割とメジャーな健康法らしい。

 朝背伸びをする事で、気分がリフレッシュ、ストレスの解消効果もあり、且つ背伸びとともに空気を吸い込み全身に活力を入れる事ができるとか。……噂では、背が伸びるとかなんとか。

 する切欠がそれだったと言う事は内緒だ。それが何なのかも 勿論内緒……。

「おはようございます。坊ちゃん」
「あ、おはよう。爺や」

 朝の背伸びをする場所は、テラスと言うのは決めている。そして、そこに備え付けられているテーブルで朝食を取るのも日課。挨拶も勿論だ。

「ハムとレタスのサンド。タマゴサンド。ハーブティー。……色々とご用意してますよ」

 爺やはニコリと笑いながらそう言う。そう、全て用意はしてくれているのだ。

「爺や、ありがとう。……でも、言ってくれたら、一声掛けてくれたら、手伝うのに」

 隼人はそう言っていた。
 今まで、不自由な事は全く無かった。でも、昔の様にずっとずっと甘えてばかりはいられないから。

 これは、隼人が自然と思いだした事なのである。隼人の中に芽生え、そしてそれが すくすくと育っていった証なのだ。それを聞いた綺堂は笑顔の質を更に上げた。

「ふふ、坊ちゃんが私と暮らしている間、その間だけはどうかさせて下さい」
「えっ! 爺や、何処か行くの!?」
「違いますよ。……坊ちゃんには、家族ができるんですから」
「っ……///」

 隼人はそのことを聞いて、顔が一気に紅潮した。言っている意味が判ったからだ。新しい家族ができると言う事を。

「家族が出来たら、坊ちゃんは家族を守る為に、一緒に守る為に、もっともっと頑張らなくてはなりませんよ。お嬢様と。……玲奈お嬢様と一緒に育んで行って下さい。私は応援しております」
「え、えっと/// じ、爺やも一緒でもぼ、僕、お、オレは……」
「新婚さんの間に入る訳にはいきませんからなぁ? ……お仕事関係ならまだしも、私生活は坊ちゃん達にお任せ致しますよ」

 ……隼人は、顔が紅潮するのが止められなかった。親公認の仲……なのだから。玲奈達の親御さん達も大賛成だと言う事をそれとなく聞いている。明日奈と玲奈から。何処となく、2人の表情が硬かった気はするけれど、その時、隼人は驚いて、そして顔を赤らめていたから、深く考えられてはいなかった。

「え、えっと! きょう、今日はね? 後、もう少ししたら、予定が入ってるんだよ!!」
「はい。聞いておりますよ。AM10:00。臨時カウンセリングとの事ですね?そして、終わり次第、皆様と遊ぶと」
「う、うん。リー……、直葉は泳げないんだって。だから、皆で一緒に教えよう……って事になったんだけど、きり、和人とオレが同じ日にカウンセリングを受けるって事になったんだ」
「……そうですか、坊ちゃんなら大丈夫でしょう。勿論和人様も。……楽しんできてください」
「う、うん!」

 隼人は、さっと食事を済ませる。時間はまだあるし問題無い。今日は、玲奈達は他の皆と一緒に行く。

 ……そもそも、自分の家から結城家の間に学校があり、迎えに行く、と言っても『それじゃ、完全な遠回りだよ?』と言って笑うのだ。

 遠回りするなら、互いに早く行って、長く学校で会う方が良い。と玲奈は言っていた。だが、迎えに来てくれる事自体はとても嬉しいし、そう言うのも大好きだ。だから、家にまで迎えに来てくれるのは、別に学校の行き帰りじゃなくても良い。

『遊びに行く時に、宜しくね♪』と言って、玲奈は ニコリと笑うのだ。

 公共機関を使う事が当初は多かったが、どうしても足に不自由をしてしまう為、隼人は和人と示し合わせて、原動機付自転車免許 所謂 原付免許を取得する為、自動車学校にも通った。

 そして原付自体は和人は、エギル伝手で。隼人はお古を譲って貰った。

 たまに、2人でツーリングに行くのも楽しいものだった。ただ、……速度制限は必ず守り、絶対に安全運転をする事!と言う旨を延々と爺やから、そして玲奈にも聞かされ、それは和人も同じような感じで、明日奈や直葉、翠に聞かされ……。だから、あの世界の様に無茶な速度を出したりはしていない。
システムのアシスト~なんて代物もないし、1回のクラッシュで全てがおじゃんだから、そもそもできるものじゃないのだ。

 直葉は、時折通学に乗せてもらっている様だけど、評価が辛辣。

『うるさい・臭い・乗り心地悪い』の三拍子。

 直葉の評価はともかく、隼人は……、いや 和人もきっとそうだろう。風の様になれるバイクの気持ち良さは確かにあった。あの世界では、空を飛ぶ楽しさがあるから、それには負けてしまうが、現実世界の翅。それが自身ではバイクだった。元々レース系のゲームもプレイした事がある、と言う訳もあるとは思うけど。

「うん。今日はいい天気だし……」

 時間もあるし、気晴らしに回してこよう。隼人はそう思った。……それが判っていたのか。

「安全運転でお願いしますよ?」
「わぁっ!」

 後ろで、珈琲を楽しんでいた綺堂にそう釘をさされる。いつもそうだが、爺や事綺堂は、隼人の思考を完全にトレースし、確認もできるのだろうか……? だとしたら、稀代の天才は隼人ではなく綺堂のものだ。

「判ってるよ、大丈夫。……それよりさ、心 読まないでよぉ……」
「ふふ、隼人坊ちゃんはお顔に出やすいですからなぁ。その辺は玲奈お嬢様も同じですが」
「うーん、玲奈に関しては オレ自身もそう思うけど……、オレも そうなの?」
「自分では判らないものなのですよ」

 綺堂はそう言って笑う。間違いなく、隼人は綺堂の前では完全に緩んでしまっている、信頼をし切っているからこそ、出やすいのだ。それは、玲奈の前でも言える……事だが やはりまだ爺やには及ばない。玲奈を想ってるのに、嘘偽りは無いが、玲奈に甘えられる事はあっても、甘えたり……等はあまり無いから。

「では、お気をつけて。午前中と言えど、公道に出ればそれなりに多いですから」
「うん。判ったよ」

 隼人は、そう言うとテラスから家の中へと戻る。部屋に置いてあるヘルメットを持ち、軽く着替える。走った後はもういい時間になっているであろうから、もう学生服に。

「よし。……行こう!」

 隼人はそう呟くと外へと出て行った。夏の風物詩、蝉の鳴き声が響く外へと。















~桐ヶ谷家~


AM9:30


――……今日も快晴なり。

 簡単な朝食を終えた和人は、部屋に戻り制服に着替え直していた。今日は、母親である翠は夜勤帰りな為、部屋で眠っている。だから、そう言う時は必然的に妹である直葉と共に朝食を終わらしているのだ。

 これがもう日課。

 料理のレパートリーでも増えたものか……?と思えるだろうが、別にそうではなかった。妹の直葉はそれなりに、進歩したようだが、生憎男である自分に料理の興味が薄かったからだ。
 ……あの世界で、認識が大分変わったが。

「おにいちゃぁん! 遅れちゃうよー!」

 そんな時だ。直葉から声がかけられる。

 そして、和人は部屋に備え付けられている時計で現在時刻を改めて確認した。
 もう、時刻は9時30分だ。後30分で約束の時間が来てしまう。だが、そこまで急ぐ距離でもない。愛車があれば楽勝だからだ。
 ……だが、妹を乗せるし 『安全運転を!』ときつく言われているから、そこまでゆっくり……とは言えないが。

「判った判った!」

 和人は、直葉に返事を返しながら、部屋の窓のカーテンを閉めた。そして、部屋をようと入口の扉を手にかける。

 ……なぜだろうか?

 この時、不意にあの機械に目がいった。あの運命の日、自分達をあの世界に閉じ込めた楔となった機械、ナーヴギアに。

 全てが回収の対象になっているが、和人はまだ、持っていた。全てが始まった機械だったから、捨てられずに持っていたのだ。人によれば、悪夢の殺戮兵器とも見えるだろう。それは当然だ。現実世界で3000もの人々の脳を破壊した機械なのだから。

 直葉も当初は、悪寒すら感じる程だった。
 彼女もある意味では当事者の1人。兄を閉じ込めている機械だったんだから。

 だが、それはもう過去の事。捨てられずに置いているものの、使用したりはもうしていない。今は安全第一。バイクと一緒で、安全が第一のアミュスフィアだ。

 なのに、なぜ今更、ナーヴギアが目に入るのだろうか?

「もー、おにーーちゃーーんっ!」
「わ、判った判ったって! 直ぐ行くよ」

 直葉に再び催促された為、和人は考えるのを止めて下へと降りた。頬を膨らませている妹の頭をぽん!と軽く叩くと、これまた軽くネクタイを締め、外へと向かう。

「スグ、忘れ物は無いか?」
「もう! あたしはずっと前から準備できてるよっ! 待たせたの、お兄ちゃんじゃん」
「はは、そうだったな。ほれ」
「んっ」

 頬をまだ膨らませている直葉に、和人は直葉用のヘルメットを投げ渡した。直葉はそれを難なくキャッチすると、すぽっと頭に取り付ける。そして、とある目的の為に準備していた荷物もしっかりと背負う。和人は、エンジンをかけ準備をする。
 ……やっぱり、いつも鼻につく臭いがするなぁ、と直葉は思わずにはいられないが、これが無いと間に合わない。

「じゃ、行くぞ」
「うん。お兄ちゃん。次は完全電動の二輪車にしたほーが良いよ?」
「そんな金あるか?」
「う~ん……」

 勿論、そんなのは無いと言う事で早々に諦めた。これもエギルに頼んだものだが、それなりの金額はしているのだ。……ぼったくられた訳じゃないから、良しとしよう。

「さ、しっかり捕まれよ?」
「うんっ」

 どっどっどっ!と言うバイク独特の音を出して、音と共に振動も伝わってくる。和人葉アクセルを捻り、家の敷地から公道へと出た。左右をしっかりと確認するのは後ろで座っている直葉も同じだ。
2人で確認すれば絶対に大丈夫だから。

 ……最初こそは、大好きな兄にぎゅっとしがみつけるこの状況も……良かったと言えばそうだ。でも、どうしても乗り心地が悪いし、臭いし、うるさいのが嫌だったから、そこまででもなかったりする。

 色々と考えている内に、バイクは道路、国道に出て数多の流れる自動車の波の中に乗った。

 流れに身を任せる様に、スイスイと先へと進んでいく。……風も感じる事が出来て、それだけだったら、本当に心地いいんだけど、あの三拍子が全て台無しにしてしまうから、残念だ。

 そしてやがて、一際大きめの建物が目に入った。

 いつも和人達が通っている学校だ。隼人は、それを確認すると、ウインカーを出し、正門から学校敷地内へと入っていく。門をくぐった直先には駐輪場があり、本日は夏休みだと言う事もあり、ガラガラだ。だから、大胆に駐輪場を使用。
 タテではなくヨコに起き、太陽がどっちに動いても強い日差しが当たらない様にした。

 直葉は、バイクから飛び降りると、軽く背伸びをする。

 密着するのは心地よいとも思えるが、如何せん乗り心地が悪いから、どうしても身体が硬くなってしまうのだ。これが、もうちょっと距離が伸びてしまえば、どうなってしまうのだろうか……、と思わずにはいられなかった。

 和人もヘルメットを脱ぐ。

 午前中だと言うのに、30℃くらいはあるだろうか……?運転中は風に当たるから多少は和らぐが、信号等で止まりでもしたら、忽ち強い日差しにさらされ、更にヘルメットで蒸され、汗が出てしまう。軽く頭を振った後汗を拭い、そして バイクにしっかりと鍵をかける。直葉も、持っていたヘルメットをバイクに引っ掛けようとするが、なかなか上手くいかない。

「スグ、置いてくぞ?」

 和人は全てをそうそうに終わらせていたから、先へと歩きだした。それを見た直葉は少し焦る。

「まってよ、お兄ちゃんっ!」

 どうにか、バイクのハンドル部分に上手く引っ掛ける事が出来たから、直に追いかけた。さっき降りてくるの待っててあげたのに!と再び頬を膨らませるのも無理がなかった。


 そして、その数分後。


 もう1台のバイクが正門を潜った。滑らかな動きのままに、駐輪場まで滑り込み、そして停車した。
そして、駐輪場に止められているバイクが目に止まった。あのバイクが誰のものなのかは直ぐに判った。何度も見て、そして何度か一緒にツーリングに出かけたのだから。

 そう、和人達より少し遅れてやってきたのは隼人である。

 ヘルメットを外し、鍵をしっかりとかけ、ヘルメットもバイクに引っ掛ける。やはり、気温が高く少なからず汗が出ている為、軽く頭を振って、汗を拭った。……鮮やかな隼人の薄い銀色の髪が揺らぐ。

「ん……、ちょっと遠くにまで行きすぎてたかな。キリトも来てる様だ」

 腕時計で現在時刻を確認しながらそう呟いた。

「いつもは15分前行動……なんだが、今回は少し遅れたな」

 苦笑いをしつつ、歩を進めた。もう、皆待っているだろうな、と思いながら。









~校庭~


 学校の校庭、並木の前のベンチの前で4人の女子生徒達が楽しそうに話をしていた。……が、時折表情が歪んでいる時もある。

「夏休みの宿題、もうやった?」

 そう、恐らく学生の大半が嫌なものだと連想するだろう。夏休みと言うのは1番長い休み。一ヶ月以上もあるものだから。だからこそ、宿題と言う代物もそれなりのボリュームであるのだ。

「ぅぅ……、まだですよ。でも、まだ始まったばかりですし……」

 表情を落としているのはシリカ。




※……ここからはキャラネームで呼ぶことにしましょう! SAO関係者しか来ないので。因みに、宿題の事を聞いたのはリズベット。……リーファさんの事は何故か皆 直葉、と皆呼んでますので 直葉で!




「そう思ってると、すーぐ終わっちゃうんだよ?」
「そうね。だから早いうちに終わらせちゃわないと。あっという間に、だよ」

 レイナとアスナがそう言って笑いかける。元々ずっと真面目で通っていた2人は、別段宿題と言う物を苦痛には思っていない。……だが、どうしても、宿題と言うものが苦手なシリカは渋い表情をしていた。

「あぅ……、が、頑張りマス……」
「ふふ、また一緒にやろうよ。シリカちゃん」
「あ、はいっ!よろしくお願いします」
「シリカ~? レイに頼りまくって 楽ばっかしちゃダメよ~?」
「そ、そんな事しませんよっ!」
「ふふふ」

 渋い顔をしていても、何処か複雑な内容でも。どんな会話でも同じ。……とても楽しそうにしていると言う事は同じだった。

 そして、そんな時だ。笑顔の質が上がる。

「あ、直葉さんっ キリトさんっ!」

 正面から、歩いてきている2人に真っ先に気づいたのはシリカだった。キリトは答える様に手を上げ、直葉は、4人に向かって頭を下げる。

「ごめんなさい。皆さん。態々集まってもらって……」

 まずは謝罪をした。
 因みに本日の集まりは、今度行くクエストでの事。海の中のクエストなんだが、直葉は泳げない。だから、それを克服しようと思った所、皆が手を差し伸べてくれたのだ。

「そんな、水臭いですよ! 大丈夫です」
「うん、皆それぞれ得手不得手ってあるからねっ」

 シリカ、レイナ共に笑いながら答え、他の2人も笑顔で頷いた。だが、当然ながら不思議にも思う。直葉は、体育会系であることは周知の事実だ。部活の練習もまったく欠かさず、朝の修練も怠らない。
皆もびっくり、剣道では全中ベスト8にまで上り詰めている。だからこそ、意外に思った。

「本当に、意外だよ。直葉ちゃんって、とっても運動得意なのにさ?」
「あ、私も思いました」
「この間も、大会で上位に食い込んでたみたいだし。キリトの強さって、直葉に叩かれて強くなってるんじゃないの~?」
「なな、そんな事ないってっ!!」

 笑い話が続く中、直葉は答える。

「う~ん……、仮想世界でも現実世界でも、水の中だけは苦手なの……」

 若干どんよりしながらそう答える直葉を見て、皆は軽く笑った。でも、『大丈夫、直ぐに泳げる様になるよ』と据え付けて。

 そんな中、リズは空を見上げた。そこは雲一つない青空。まさに快晴。

「しっかしねー、まさかこんなプール日和に臨時カウンセリングなんて、あんたもついてないよね~? あんたとリュウキだけ、だっけ?」
「まったくだよ……」

 キリトもリズの言葉を聞いて、少し落ち込む。

「あれ? そう言えばリュウキはまだなの? 一緒じゃ無かったんだ?」
「ああ、家が逆だし待ち合わせる意味合いないし。それに駐輪場にも、バイク見なかったし。まだ来てないよ」
「珍しいね。リュウキ君って早め行動なのに……。レイは何か聞いてないの?」
「ん? メールは貰ってるよ。いつもより少し遅れるって」
「あ~アイツの事だから、最近ハマってるバイクでも乗り回してるんじゃないの?」

 リズの言葉に皆が笑う。

 ……リズ、正解である。


「同じバイク仲間として、理解出来るな? ……うんうん」
「でも、リュウキ君のバイクの方がお上品だと思うよ?お兄ちゃん。音もそんなにうるさくないし」

 直葉のツッコミにうぐっ!と息を詰まらせる。

「ば、バイクはあれが良いんだよ!」

 キリトは、そう返すのに精一杯だった。思わず笑いが場に渦巻く。

「まぁ、珍しく2人のカウンセリング、一緒らしいし もうちょっと待っててあげよう。やってきたら、文句の一つくらい言ってね?」

 リズがそう言うと皆笑顔で頷いた。
 常習犯だったら、あれだけど……リュウキは基本的に15分前行動!だから、そんなに言わない。これが、所謂日頃からの行い、と言うヤツである。

「それにしてもなぁ……」

 キリトは腕を組んで唸らせた。今回のカウンセリングについて、だ。

「一学期はそこそこ真面目にやってたのに……」

 その事だった。キリトは、別に奇行をした訳でも、不良行為をした訳でもなく、無難にこなしてきた筈なのだ。
 だから、別に今更カウンセリングは……と思っていたのだ。

「あはは……、そうだよね? リュウキ君も真面目だったし」
「そうね。今度の中間テストも気は抜けないね? レイ」
「う゛……うん。学業はあまり……って言ってたのにぃ」

 今度はレイナが、呻らせる番だった。それを見たシリカは、苦笑いをする。

「そう言えば、リュウキさんとアスナさん、レイナさんの点差、殆ど無いって聞きましたよ?」
「そうなの。ほんっと凄いわよね。学校に転入した時期も私達よりも遅いのに。レイなんて、『教えてあげる~』って言ってたのに……」
「わ、わぁっ! い、言わないでっ お姉ちゃん!」

 アスナの言うとおり、レイナとリュウキは一緒に勉強をする事が多い。勉強と言えば仕事関係くらいでの資格試験、そして一般常識を嗜む程度、とリュウキ自身は言っており、通常の学業の5教科を言えば得意なのは数学、そして英語、と言っていた。だから、レイナは教えてあげるーと言う事で一緒に勉強を。……教えてあげてたのは最初の方であり、リュウキは見る見る内に上達。
 今では互いに教え合っている現状なのだ。

 皆、それは知っている。

 それを聞いたキリトは若干ため息を吐く。完全に戦力外、と言うか競えるレベルにまでいけてないからだ。

「……オレ、なんだか立つ瀬がないぞ」
「あったりまえでしょー、キリト? 悔しかったら頑張んなさい」
「って、リズ!お前もオレと変わらないじゃないかー!」
「あたしは別に良いのー。ライバル視してないもんね~♪ それに ちゃんと8割くらいは取れてるし。大健闘なのよねん!」
「うぐ……」

 8割取れるレベルであれば十分に優秀だ。……が、キリトは負けず嫌い。だから、何かと張り合おう!と想っていたのだ。最初は勉強は……と想っていたが、リュウキの点が上がっていくのを見て触発されたのだ。

「ふふふ」
「「あははっ」」

 再び笑顔、笑い声に包まれる。

「そーれにしてもさ? あんた達2人とも、あたし達の水着姿を見られなくて残念ね~?」

 そして、話題が変わった。今日のプールでの話だ。カウンセリングを受けてる間は、皆で泳ぎの練習を手伝うと言う事になっている。つまり、数少ない女性SAOプレイヤー達の水着姿が拝める……と言うのだが、残念なことにお預け状態なのである。

「あっ、でも……」

 リズは、思い出したかの様に、人差し指をぴんっ!と立てて更に。

「だからって、あんた達? 美人のカウンセラーさんに鼻の下伸ばすんじゃないわよ~?」

 リズの一撃の言葉には威力があった。それは少なからず期待している事、だったからだ。カウンセラーさんは20代後半。大人の色気もたっぷりの正に美人に分類する先生だ。女性プレイヤー達とはまた違うものを持っている。
 ……ALOでのプレイヤーで言えば風妖精(シルフ)の領主サクヤが1番近いだろう。

 キリトは思わず抗議をしてしまう。

「べ、別に それくらい良いじゃないか。男だったら 仕方ないと言うか、誰しもが、と言うか……」

 そう、『健全な男の子ならば仕方のないことだ!』と力説するキリト。……アスナの表情がどんどん怖いものになっていく。

「何が仕方ないんだ?」
「ってうわぁっ!!! リュウキ!?」
「ああ、おはよう、キリト、皆」

 そんな時、背後から声が聞こえてきた。

「あ、リュウキさん! おはようございますっ!」

 シリカが挨拶をして。

「おっそ~いわよー」

 リズも宣言通り、文句を1つ。

「リュウキ君、おはようっ!」
「おはよう。リュウキ君」

 レイナとアスナも同じように朝の挨拶をした。

「ん。皆悪い。少しばかり遅れたよ……」

 リュウキは苦笑いをしながらそう言っていた。厳密には、集合……と言うか、カウンセリングの時間に遅れた訳じゃないが、彼が言っているのは15分前行動の事だろう。

「んで、それより……、何が仕方ないんだ? キリト」
「い、いや それはだな? 男なら誰しも美人な先生に目が行く~と言うか、奪われる~と言うか」
「き・り・と く~~ん……?」
「む~……りゅーき君にへんなこと、言わないでっ!!」

 アスナの重圧はやはり凄まじい。本人は笑顔なのに、笑顔のつもりなのに……、凶悪な何かをそこに見た。

「ん???」
「りゅーき君は良いのっ! 大丈夫だよっ! 知らなくても!!」
「そうなのか。判った」

 色々な単語は聞こえてきたが、正直意味を理解するのに時間が掛かり……頭の中でつなぎ合わせている途中で、レイナに荒らされる様に止められてしまった。

 キリトはと言うと、アスナの強烈な視線を受けてしまった為、直ぐに否定を!口にチャックをしていた。何処か呆れた様に見ている直葉。……それも仕方がない事だろう。思春期の女の子だし妹だし。

「じゃ、じゃあ! リュウキも来たと言う事で、オレ達はもう行くよ! あ、スグ! せっかく皆が教えてくれるんだから、ちゃんと練習するんだぞ??」

 強引に話を終わらそうと、そう言うキリト。呆れてた直葉だったが、流石にそれはそのとおりなので、『は~い』と返事は返していた。

「ふふ、アルヴヘイムの海に比べたら……ね?」
「そうだよ。プールなんか遊び場。すっごく浅いから、気楽に行こう? 直葉ちゃん」

 直葉のかなずち克服談義になったから、その隙にキリトはリュウキを押した。

「りゅ、リュウキ、行くぞ」
「判った判った。まあ、遅れといてなんだが、まだ時間はあるんだぞ?急ぐ理由があるのか?」
「い、いいから!」
「ん?」

 ともかく、早々に脱出を、と言う事だ。皆に聞かれないくらいの声でそう言うと、校舎を目指した。

 その後ろ姿を見た皆は。

「キリトく~ん、リュウキく~ん。また後でね?」
「頑張ってねー」

 その声援は良かった。だけど、その後の一言がまた、火種を生みかねない言葉。

「美人の先生によろしくね~!」

 誰の声なのかは、文面からでも判るだろう。勿論リズの声である。

 それを聞いたキリトは思わず、ずるっ!っとコケそうになっていた。

「美人の先生……ね。成る程」

 リュウキは、皆に応える様に手を振った時、大体察した様だ。

「むーー! 成る程~じゃないよーー! りゅーきくーん!」

 レイナの声が訊こえてくる。どうやら 呟きを訊かれた様だ。……中々に地獄耳である。

 リュウキは意味深に微笑むと、そのまま歩いて行った。レイナは、それを見て頬を膨らませるのだった。

「あっはは、レイ? ぜ~ったい、リュウキのあれ、からかってる時の笑顔だよ?」
「う、うぇ?」
「ですね。リュウキさんが ああいう顔するのって、悪戯心が出てきた時、だって思いますよ?」
「あぅ……」
「あはは! レイってやーっぱり、可愛いんだから!」
「も、もうっ!!」

 こりゃリュウキじゃなくたって、からかいたくなるのも仕方がないだろう。レイナは耐性がつくわけでもなく、いつも頬を膨らませる。……出来ればこのままずっと、可愛いままでいてもらいたいなぁ、と思わずにはいられなかった。

「ふふ、さ、皆。早く水着に着替えちゃお?」

 アスナの言葉で漸く女性陣達も行動を開始した。プールの更衣室へと。







~学校校舎3F~


 キリトとリュウキは暫く色々と談笑をしながら校舎内を進んでいく。ALOのクエストの話、バイクの話、そしてあの城の攻略の話。それらを話していたら、あっという間に着いた。
 3Fの中央に位置する教室《カウンセリング室》に。ここに来る事になっているのだ。

「さて、と」
「手早く終わらせよう。……待たせるのも悪いからな」
「そうだな」

 2人で、と言う形は本当に珍しい。通常のカウンセリングは、マンツーマンだ。受ける側の抱える問題や悩みを専門知識や技術を用いておこなわれる相談援助。SAOにおける、心理カウンセリングだから 1対1の方が親身になって話をしやすいだろう。
 だが、2人とも受けなければならない程、精神が不安定だというわけではない。……支えてくれている人たちが互いにいるから。


 キリトがゆっくりとノックをすると、中から返事が聞こえてきた。


 それを合図に「失礼します」と一言いい、扉を開く。後からリュウキも言い扉を閉めた。


 2人はこの時は知るよしもなかった。

 これが単なるカウンセリングじゃないという事を。

 ……相当長くなる、と言う事を。

 
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