ソードアート・オンライン〜Another story〜
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現実世界
第151話 追憶のアインクラッド・シリカ編
~エギルの店 ダイシー・カフェ~
体内にアルコール度数の強い酒を入れた瞬間、盛大にすっ転んだリュウキは、そのまま目を回していた。一時は騒然としたが、暫くした後、その姿を見て皆何処となく笑顔にもなっていたのだ。
今倒れているのは、あの世界では、超人的な力を見せ続け、あの茅場晶彦にも負けない程の伝説を作っていた男だ。
そんな超人が顔を真っ赤にさせて、目を回しているんだ。随分と可愛らしくて、そして愛らしい。間違えて酒を飲んで……と言う展開から考えてもそうだった。
「ひゅーひゅー! お熱いね~! あ、次予約していいかな?」
「あっ、私もお願いしますっ!」
そんな時、何故かリズとシリカが何かを立候補していた。……彼女達も、多少はアルコールが入ってしまってるから、テンションハイになってしまっている様だ。だからこそのセリフだろう。
「だ、ダメだよっ!リューキ君は私のっ!!」
レイナは、顔を赤くさせながらそう力説!
彼女も、恥ずかしがり屋なのに……ここまでしてしまうとは、流石は酒の力、と言った所だろうか。因みに、リュウキは今レイナの膝枕をして貰っている。……と言うより、レイナがそうしたのだ。
周囲からは、キッスを! と言われていたけど……、流石に まだまだ理性が優っていた様で、そこまで実行できなかったのだ。
「……大丈夫なのか? この後一応二次会あるんだけど」
「大丈夫だろ。二次会は ゲームの中だし」
エギルはなんの根拠も無いのにそう言っている。
飲酒は当然だけど、それなりに脳への影響はある。確か、理性を司っている大脳新皮質が低下して、本能や感情を司っている大脳辺緑系の活動が活発になる……。即ち、脳でプレイする仮想世界でも影響は少なからずあるだろう。現実世界程ではないと思えるが。濃度を考えたらそこまで……と思うが(リュウキは微妙……)、今は絶対に無理だろう。
バイタルデータを確認して、ログインした所で、脈拍や血圧等で強制ログアウト措置されてしまうのが目に見えているから。
「あはは……」
「あれ? アスナは大丈夫なのか?」
苦笑いをしているアスナを見て、キリトはそう聞いていた。陽気に笑っている彼女達の輪の中にアスナがいないのが、非常に不自然だった。いつもの彼女なら、あの中に……、レイナの傍で笑っているんだけど。
「……キリト君、鼻の下伸ばして楽しそうだね、って思ったから」
じと~っとキリトを見る目は、本当に細く嫉妬の感情を全面に出していた。今は、さっきまでのリュウキの一件があったから、周囲の目はリュウキに向いている。レイナはレイナで、今は理性の部分が薄れて本能に……、つまり 1%以下でも慣れてないから、十分に酔っている状況。(因みに、飲ましたのはリズだったりする)
「うえっ!? な、何言ってるんだ??」
「……ふ~ん、キリト君、すっごく動揺してるよ」
目に宿る炎が徐々に大きくなるアスナ。確か、レイナに以前言われた事があった。
『お姉ちゃんは、とってもやきもち妬きさんなんだから!』
病院で言われたあの言葉を思い出していたのだ。確かに、その通りだ。
「それに、可愛い子達に囲まれてたもんね~??」
「う……」
キリトは言葉に詰まる。《あのセリフ》を言えば、多分アスナは喜んでくれるとは思う。……だが、あのセリフはリュウキの専売特許のような気もするし、何より……あそこまではっきりと言うのにも勇気がいるのだ。
「むー……」
アスナは、ずっと、ご不満だった。まだ、じと~っと見ているから。
それを見たキリトは 気合を入れ直した。ゆっくりとアスナに近づく。……公衆の面前では流石に言えないから、そっとアスナの耳元であの言葉を囁いた。
「っ……」
それを聞いて顔を少し顔を赤らめるアスナ。そして、少し意地悪な顔をすると。
「キリト君。……りゅーき君の真似は格好悪いよ~?」
「う゛……、で、でもオレの本心だよ!それ以上の物だ」
「えへへ……」
アスナは、ニコリと笑うとキリトの腕を取った。そして、キリトの肩に頭をぽふっと乗せていた。
「けぇ~…… 良いなぁ良いなぁ…… おい!エギルっ!! もっと強いのくれ!!」
「おいおい、あんま無理すんな。キリトじゃねえが、これから仕事だろ?」
「良いんだ! 飲まずにいられるか! お、アレだアレ! あれをストレートでくれ! ショットでいってやるぅぅ!!」
「馬鹿な事言うな! 120パー潰れるだろ!その後のお前を介護する身にもなれ!」
酒場のマスターが言うようなセリフではないが……、しょうがないのである。クラインが指名しているのはポーランドの酒である《スピリタス》
アルコール度数は、そこでひっくり返っているリュウキが一気飲みしたバーボンの倍以上。アルコール度数96%を誇る酒だ。(酒と言うより危険物?)勿論、火気厳禁だから、店内でのタバコは厳禁である。この場でタバコを吸っている者はいないから大丈夫ではある。……頼む客は少ないから、まだまだ在庫も余っているが。幾ら酒飲みのクラインでも、それは頂けない。
クラインがやろうとしているそれは、普通にやる飲み方ですらないのだから。
「本当に、良い人達だよね」
「ああ……」
今は一緒に飲んでいるサチとケイタ。……因みに2人は付き合っている。この場所はカップル率がそれなりに高い様だ。
あの事件の後、サチは リュウキの言葉を胸に、頑張って生きた。勿論、ギルド唯一の生き残りであるケイタと共に。自分がいない所で、全てが終わってしまったケイタは、本当は自らも命を絶とうとしていた。……友を突然失ったのだから。だが、それを止め、支え続けたのがサチだった。
「笑って生きよう。皆の分も、皆と笑いながら……」
「そうだな。……ありがとな、キリト、リュウキ」
キリトを罵ってしまった事はある。だが、サチからあの時の事は全て聞いているんだ。原因についても、そして……キリトは最後の最後まで皆を助けようとしてくれた事を。リュウキも助けてくれた事を。3人は、確かに助からなかったけれど、想いを背負って生きる事はできる。
……あの2人のおかげで出来たんだ。
「……これからはちゃんとオレが支えるよ。……支えてもらっていたからな」
「うんっ……」
サチはケイタの肩に頭を預けた。あの時、助かってなければ、リュウキの言葉がなければ、今は無いだろう。
だからこそ、何度でも言う。
『ありがとう。2人とも』
恩人である2人に、何度でも……。
そして、リュウキ達はと言うと。
「わ、私もリュウキさんとの思い出っ! ありますよっ! リュウキさんから、指輪もいただきましたしっ!」
何やら自慢大会になってしまっていた。リュウキと、沢山の思い出持ってる!と言う。傍から聞いたら、『それが?』って思うだろうけれど、相手が相手だ。リュウキはあの世界では、色々と人気があったから。
「ふ~ん、あ~たしなんか、住み込みで働かせたのよ~? ひとつ屋根の下で!時間を考えたら、レイにも負けないかもね~♪」
それは、リズだって負けてない。リュウキがリズの武具店に住み込み~と言うのは嘘が入っているが、それこそリュウキがいた時間を考えたら強ち外れでもない。
「む、む~~!! わ、私なんか……あぅ……///」
力いっぱい言いたくなったけれど……、ちょっぴり正気に戻ってきた様だ。そして、だんだん過去の思い出話に派生していった。
「まずは! 私のエピソードをお話しますっ! どれだけ、リュウキさんが素敵か……」
「そ、それは、言われなくたって知ってるよっ! ……りゅーき君だもん」
レイナは何処となく複雑だが……、あの世界での、思い出話が始まったのだった。
~追憶のアインクラッド 第50層・アルケード~
それは、あの世界がまだクリアされてなく、まだ多くの人々が囚われていた時。
リュウキは、アルケードのエギルの店を訪れていた。
売買交渉をする為、と言う事もある。……エギルの儲けが何に使われているか、それは一般には知られていない。だけど、リュウキは知っていた。中堅プレイヤー達の育成。死亡率を少しでも下げようとしているのだ。攻略組によるゲームクリアも、最も大切な事だと言える。だけど、プレイヤーが死なないように、これ以上死なない様にする事も。間違いなく大切な事だ。これ以上、誰も死なせたくない。それを感じているのは、皆同じだった。
「今日はこれくらい……だな」
「おお、いつも悪いな。おめぇくらいだぜ? これだけ良質なもんを持ってきてくれるのはよ? ……オレの店も潤うってもんだ」
リュウキが提示したアイテム。基本的にリュウキが扱うアイテムはランクが上質だ。そして、良い物、それも非売品であれば、売り値を釣り上げるものだが……、リュウキはそう言う類の事は一切しない。足元みたりもしない。
こっちが、吹っ掛けても……、それは、駄目だ、簡単に見抜かれる。
「ま、リュウキだしなぁ」
「オレが何だって?」
「いや、何でもないぞ」
「そうか」
全ての取引を終えたリュウキは、エギルの店を後にした。
これはまぁ、本題からズレてるから。
ここからが、思い出話の始まりである。
~シリカ Memories~
それは、帰り道での事。これから、50層のフィールドを視ていこうと、思っていた時。
「ん? ……あれは」
転移門前広場へと続く道。見覚えのある後ろ姿を見た。髪の毛をツインテールに結んでいる彼女を。リュウキは足早に彼女を追いかけた。
「……シリカ? どうしたんだ」
「っ……!」
その後ろ姿は間違いなくシリカだった。振り返って顔を確認すると、間違いなかった。
「シリカのホームは確か……35層のミーチェだったと記憶してるが……」
リュウキが首を傾げているその時だ。
「リュウキっ、リュウキさんっ!! お、お願いしますっ! たす、助けてくださいっ! ぴ、ピナが……っ」
シリカはリュウキに抱きついた。その目には涙が流れていた。
「っ、どうしたんだ? ピナに何かあったのか?」
リュウキは、シリカを抱きとめながら聞いていた。ピナと言うのはシリカのパートナーである《フェザーリドラ》シリカが、テイムする事が出来たレア・モンスターであり、《竜使いシリカ》と呼ばれている所以だ。
だが、そのピナはシリカの傍にはいなかった。
いつも彼女の頭の上や肩の上に止まっているのに。
「ピナが……居なくなっちゃったんです……っ」
シリカの言葉を聞いて、ピナがこの場にいない理由がはっきりとした。そして、その後シリカは涙を流し続けた。いなくなった事が、不安で仕方がないから。
そして、泣き続けるシリカを連れてリュウキは、転移門広場前の噴水まで連れて行く。
そこは腰掛けるのに丁度いい。雰囲気も落ち着くのにはピッタリだろう。
「……飲むといい。オレの好きなハーブティーだ」
「はい。……す、すみません。ありがとうございます……」
シリカはおずおずと、そのカップを受け取った。そして、ゆっくりと口に含む。とても良い香りが口の中に広がり……、そして 落ち着ける。そんな感じがした。
「何が合ったんだ? ……ピナがいなくなった、と聞いたが」
「……ごめんなさい。わ、私が悪いんです」
シリカは、涙を流した。雫となって下へと流れ落ちる。
「リュウキさんに貰った指輪の力を……、私の力だって過信して……、それで、この層のそとの森まで行って……」
リュウキは、シリカに譲渡した指輪、エメラルド・リングの事を思い出していた。
あの指輪は、敏捷度と防御効果を上昇させる。それも25%の向上だ。
つまり、現数値が《100》であれば《+25》の数値になる。レベルが上がれば上がるほどにその数値は増していくのがこの装備の強力な所だ。だが、その効果は50層からは変わってくる。《%》と言う単位が《値》となるのだ。
だから、49層までの力、感覚で来てしまえば……落とし穴となってしまうのだ。
「そこで、モンスターに襲われてしまって……、倒せない相手じゃなかったんですが、HPも減っていて回復アイテムも少なくなってしまってたので、大事を取って逃げる事にしたんです。……ただ、その逃げる際に、ピナとはぐれてしまって……、直ぐに戻って探そうと思ったんですけど……」
「なる程、HPの残が少ないから、一度立て直すために街に戻ってきていたのか」
「は……はい。すみませんっ。わ、私の過信が招いてしまった事、なんですけど……、厚かましいお願いだって、わかってます。で、でも、お願いします……っ、頼れるのは」
目をぎゅっと閉じて、シリカはリュウキに頼んだ。すると、返答の前に、頭に感触があった。どうやら、頭を撫でられている、様だ。
「シリカ。本当にキミが指輪に過信してるだけだったら、倒せる筈もないんだ。此処はそんなに甘い所じゃない。本当に頑張って、頑張って、50層まで来たんだろう?」
「っ……」
リュウキの言葉にシリカはびくっと身体を震わせた。キリトとリュウキに出会い、そしてレベルの差を知った。絶対的な壁、住む世界が違うと言う事を思い知ってしまった。
それでも、キリトはリュウキはそれを否定してくれた。
ただの数値だと、現実世界で合えば必ず友達になれると。そんな壁なんか無いんだと。
とても、嬉しかった。暖かい力が沸いてきた。
シリカは、それから頑張った。
少しでも、皆の……2人の力になれる様にと。だからこそ、ここまで来ることが出来たんだ。そこには決して過信なんかあるはずも無い。幾ら、シリカがそう言っても、リュウキにはそうとしか思えなかったんだ。
「厚かましいなんて思わない。一緒に探そう」
「っ……、リュウキさん。ありがとうございます」
その後、リュウキとシリカはパーティを組んだ。そして、アルケード西の森へと向かう前に確認する事があった。
「シリカ。マナー違反、だと思うが確認しておくぞ。今のレベルはどれくらいなんだ?」
「あ、はい。レベルは、65まで上がってます」
「よし。大丈夫だな。迷宮区も突破出来るクラスだ」
「ぅぅ……で、でも私……ピナを……」
「無謀と勇敢は違うんだ。シリカがとった判断は正しい。……それにピナは大丈夫。必ず見つかるよ」
「あっ……、はいっ」
シリカは、笑顔に戻りつつあった。心に迷いや後悔があれば、それはミスに繋がりかねない。もう、大丈夫だ。
2人はその後、アルケードから西の森へと向かった。
~第50層・アルケード西の森~
あの第35層の迷いの森を彷彿させる程広大な広さ。だが、その森の名を所以。1分ごとにエリアの繋がりがランダムに変化する事は無いし、転移結晶を使っても、森の中にランダムに飛ばされる事はない。
「ここは、推奨レベル60はあれば大丈夫だ。問題ない……が」
「はいっ……、やたら広くって……っ!」
シリカは、走ってリュウキに追いつこうとした時。足を、落ちている石に取られてしまい。
「わ、わわっ!?」
倒れてしまいそうになる寸前に、リュウキがシリカの身体を受け止めた。
「っと。大丈夫か? 足元には注意しろよ」
「っ///」
肩を抱いてくれているリュウキは暖かかった。それを感じた瞬間、顔が〝かぁぁぁ〟っと紅潮していって。
「す、すみませんっ!」
慌ててシリカは離れた。確かに嬉しかったが、これ以上は迷惑をかけたくないと言う気持ちも強かったのだ。
「あ、まだ足場が悪い、注意しないと……」
「はいっ ごめんなさ、わあっ!?」
シリカは、慌てて慌てて動いてしまった為、バランスを崩してしまっていた。そして、地面に倒れ込む。今回は、掴む事はできなかった。
「……大丈夫か、シリカ」
「あ、あぅ……だ、大丈夫です」
シリカには恥ずかしさも勿論あったが、それ以上に申し訳なさもあったんだ。
「ごめんなさい……。リュウキさん。迷惑ばかりかけてしまって……」
「シリカ」
「っ……」
リュウキは、しゃがみこみ、シリカの目を見た。
「気が散漫になってるな」
「っ……、ご、ごめんなさい」
「ああ、怒ってる訳じゃないんだ。……ピナが心配なんだろう? オレにだって、気持ちは判るさ」
それを聞いて、再びシリカの目に涙が浮かんだ。そして、あの時の光景が鮮明に浮かぶ。それは、ピナが自分の身代わりになって……そして……。
「ピナがみつからなかったら……、どうしようって。あの時から何も変わらない。……何一つ成長してない……」
そして、ピナは死んでしまったんだ。リュウキとキリトのおかげで生き返る事は出来たけれど、自分のせいだと言う事は変わらないんだ。
そんな悩んでいるシリカに声を掛ける。
「ピナは大丈夫だ。絶対に無事だし、見つかる。……保証するよ」
「っ……あ、あはは」
シリカは、思わず笑ってしまっていた。悲しい筈、なのに、リュウキの言葉と顔を見たら……。
「ん? どうした?」
「あ……、ご、ごめんなさい。リュウキさんは、やっぱりとても、とても優しいなって思ったら……」
「っ……」
リュウキは思わず顔を背けた。面と向かって言われると、リュウキもやっぱり恥ずかしいのだろう。
「ふふっ……リュウキさん。ありがとうございますっ あ、あのっ……」
シリカは手を差し出した。
そう、《あの時》の様に。リュウキは顔を背けていたが、それを見ると、ゆっくりと差し出された手を握った。
「改めて、言います。ピナを探すの……手伝ってくださってありがとうございます。リュウキさんっ」
「……ああ。シリカも良かったよ。あの時のシリカだ」
「あぅ……、やっぱり、わ、私成長してませんか?」
「……そう言う事じゃない。笑顔は、変わらないって事だよ。……安心出来る」
「っっ!!」
シリカはその言葉を聞いて、火炎ブレスを身に受けたかの様に、顔面に直撃したかの様に、真っ赤に染まった。温度も一気に上がっていく。オーバーヒートしてしまいそうになる程に。
「さぁ、ここからだ。ピナを探しに行こう」
「あ、はいっ!!」
ぼひゅっ、と頭の上に湯気が沸き起こっていたが……、それを必死に払ってリュウキの傍へと走った。今度は倒れない。足元注意、ヨシ。
そして、思い切ってリュウキの手を握った。
あの時の様に、一緒に。……その温もりを感じていた。
その後、何度かモンスターと遭遇したが、問題はまるで無かった。リュウキがいたから、と言うのもあるが、シリカの技術も間違いなく向上しているのだ。
「スイッチだ!」
「は、はいっ!」
シリカの 短剣《イーボン・ダガー》が、獣タイプのモンスターに一撃を加え、吹き飛ばした。そして、一撃は相手のHPを全て吹き飛ばし、青い硝子片に変えた。
「ナイス」
「あ、ありがとうございますっ! リュウキさんのおかげです」
モンスターを倒したことで得られる経験値、コルが表示されているウインドウを消しながら、リュウキは賛辞の言葉を送った。シリカは笑顔でそういった。でも、リュウキは首をふる。
「シリカの力だよ。覚えているか? あの47層のフラワーガーデン。思い出の地での戦いを。あの時のモンスターよりも数段強いんだぞ。さっきのモンスターは」
「え、そうなんです……か……」
シリカの顔が再びどんどん赤くなっていく。
それは、あの層の醜悪な花に襲われて……、そのモンスターに捕まえられて、スカートが……。
「あ、あううっ////」
「?」
シリカが悶えてしまっている意味が、当然だがリュウキは判ってない様だ。
「りゅ、リュウキさんっ!! お、思い出させないでください~……///」
「ん? 何の事だ?」
「い、いえっ……や、やっぱり何でもないですっ///」
シリカは、リュウキが覚えていないのなら、良いと直ぐに首を振り、そして捜索に戻っていった。
「ピナ―――っ!! 聞こえたら返事をして――っ!!」
シリカはピナを探し続けた。この辺りのMobは粗方、倒したから、シリカの声で、増悪値が上がる事は無いだろう。そして、新たに湧出したとしても、この層でのイレギュラー性は皆無だから大丈夫だ。
シリカは叫び続けた。……ピナを探す為に。
でも、だんだんと不安が再び襲ってきたのだ。声を上げても、上げても、反応がまるでないから。
「これだけ、探しても……見つからないなんて……」
シリカの頭の中に過ぎる。
――もう、ピナが……みつからなかったら。
そう、悪い方へと考えさせられてしまう。だから、目に涙が溜まっていった。そんなシリカを見てリュウキは。
「……途中で入れ違ったかもしれないな。この森はこの層で一番広い。探す場所はまだ沢山ある。大丈夫だ」
「あっ……」
シリカの頭を軽く撫でていた。落ち着ける様に。そして、笑いかける。
「オレは嘘はこれまで言ったことはないつもりだ。……信じられない、か?」
「い、いえ! そんな事ありませんっ! リュウキさんはとっても優しいですからっ」
シリカは、落ち着きを取り戻し、そして笑顔になることが出来た。
そんな時だ。
「きゅる……っ」
この森の何処かから、覚えのある鳴き声が響いてきたのだ。
「リュウキさんっ! 今……!」
「ああ、間違いない。聞こえた……」
リュウキは、辺りを視渡した。集中して、辺りを視る。その鳴き声が響いてきた元は、……始まりは何処からだったかを。リュウキは視渡した。
「……こっちだ!」
「あ、はいっ」
リュウキの先導を受けて、シリカも走り出した。森の木々の間を抜けていく。
そして、暫く走り続けると、森の中で一際光輝く場所を見つけた。
「っ……」
「ここは……」
そこは、森の中に湧く泉。太陽の光はその泉に反射して更に辺りを光で包む。
こんな場所が合った事はリュウキも知らなかったのだ。何より驚くことがこの場所にはあった。
「きゅるっ!」
「きゅるる……」
「きゅる~」
その場所に、沢山の《フェザーリドラ》がいたのだ。
(……フェザーリドラは、希少種だ。遭遇率はかなり低い。それがこれだけの数いるなんて、な)
リュウキ自身も、今回ばかりは、驚きを隠せなかった。そんな沢山のフェザーリドラの中の一匹がこちらへと飛んできた。羽を大きく広げて……、シリカに甘える様に鳴く。
「ピナっ!?」
シリカは、直ぐに判った。それが、ずっと一緒にいた、《ピナ》だと言う事が。
「ピナ、ピナ……っ。心配、したんだよ。無事で良かったよ……。本当にっ……」
「きゅるるぅぅ……」
ピナもシリカに会いたかった、と言わんばかりに擦り寄った。鳴きながら、何度も何度も。
それが合図だった。
最初こそ、この場に現れた人間を見て 明らかに警戒する素振りを見せていたのだが。
「……警戒が緩んだな」
ピナが、シリカに懐いているのを見て、危険はない、と判断したのかもしれない。高度なプログラムだ、と思ったが……、合えて、口にはしなかった。それは無粋だと思ったからだ。
「私、こんなにたくさんのフェザーリドラ、初めて見たよ!みんな、ピナのお友達?」
「きゅるっ!」
「………極稀だが 同種のモンスターが固まっている場所あったな。……基本的に野生動物と言う訳じゃない、モンスターはそう言う習性は無いんだが。希にな。……フェザーリドラは存在自体が希少。その上、この現象だから……、もう二度と見られないかもしれないな」
リュウキは辺りを視渡した。
「人が踏み入った形跡はまるでない。……これだけ、フェザーリドラが落ち着いていられる場所だしな。……オレ達は運が良い」
そう言って、シリカに笑いかけた。シリカはそれを見て。
「はいっ……、ありがとうございますっ!リュウキさんっ。ほら、ピナもリュウキさんにお礼しよう。」
「きゅるっ!」
ピナは、頭をリュウキの方へと向けて鳴いた。本当に人の言葉が判って礼を言っている様だった。リュウキはその仕草を見て、思い出した。テイム出来るモンスターの行動種類は10種類程度のもの。
だが、シリカのピナはそれを遥かに上回っている。
思いの高さが、システムを、モンスターを成長させているのだろう。主の思いに応える為に。
だからこそ、ピナはあの時シリカの事を身を呈して守ったんだろう。今なら、そう思えるんだ。
「……さぁ、行こう」
「はいっ! ……あ」
シリカは戻る前にある事を、ある願いをリュウキに伝えた。
「あ、あの……、リュウキさん。お願いがあるんですけど」
「ん?」
「その……、街に戻っても、此処のこと、秘密にしててもらえませんか? ……人が沢山近付いたら移動してしまうだろうし……、こんな素敵な場所で静かに暮らしているのだから……、そっとしておいてあげたいんです」
シリカはそう言うと頭を下げた。
情報屋のアルゴの名前は自分もよく聞いている。そして、その情報の中でも多くリュウキの情報をあてにしていると言う事も知っている。だから、黙っていてほしいと思ったんだ。
その言葉にリュウキは頷いた。
「大丈夫だ。この場所を誰かに言うつもりは無いよ。……荒らしたくないって思う気持ちは判る。……な?」
「きゅるぅぅ……♪」
リュウキは、そう言うとピナの顎下を軽く撫でた。気持ちよさそうにピナは目をつむっていた。
「ふふっ、ピナ気持ちよさそう……。リュウキさん、ありがとうございますっ。それじゃあ……」
シリカは、振り返った。そこにはまだ沢山のフェザーリドラがいる。……ピナを見送っているかの様に。フェザーリドラ達に手を振った。
『勝手に入ってきてごめんなさい』と、付け加えながら。
そして、帰りの道中の事。
「あ、あの。リュウキさんには沢山迷惑をかけちゃって、こんな事を言うのもなんなんですけど……、こんな素敵な所に、リュウキさんと来る事ができて本当に良かったですっ。ありがとうございましたっ!」
「……迷惑なんて思わない。オレも同じ気持ちだよ。一緒にこれて良かった」
笑顔を見せてくれるリュウキ。本当に自然な笑顔を見せてくれている。リュウキの心境も、変わったのだろうか、と思える程に。
だから、シリカはその事もつい、言ってしまっていた。
「リュウキさん……、笑顔がとても素敵……です。あの時よりもずっと、ずっと……」
「え……?」
思わぬ言葉にリュウキは戸惑ってしまった。
「あっ……/// (わ、私な、何をっ……!?)」
思わずシリカは、あたふたとしてしまった。つい、思ってしまった事を口にしてしまったからだ。今日だけで、否この数時間だけで一体何回顔を赤くさせてしまっただろうか。脳がその紅潮させる感覚を覚えてしまったかの様だった。
慌てていたそんな時だ。
リュウキは、シリカの方を見ていた。その顔は本当に笑顔だ。
「そう、か……。笑顔になれているのか。……ありがとう。シリカ」
「っっ///」
「オレも変われたんだろうな。……きっと」
最後のリュウキの言葉は頭に入ってなかったが、シリカはぶんぶんと頭を左右に振った。
「そ、そんなっ! 私の方がお世話になったんですからっ!! わ、私こそ、ありがとうですよっ!」
「きゅるるっ!」
顔を赤くさせ、頭をさげるシリカと一緒にピナも頭を下げていた。
そして、その後……シリカは再び思うのだった。
こんな素敵な人の隣でいられたら、どれだけ幸せだろうか。こんな素敵な人と、小さい頃からずっと一緒だったら、どれだけ幸せだろうか。いろんな物語で出てくる幼馴染。……もし、小さな頃から一緒だったら、きっと自分は素直にこうやって話せないだろう。
素直になれない女の子の様になってしまっているだろう。
でも、それでも幸せだって判る。
――……リュウキさんは、やっぱり素敵な、優しい人ですっ。
シリカは改めてそう思っていた。今日の出来事は、ずっとずっと忘れる事はない。心にしっかりと刻みつけた。
例え、この世界が終わって、解放されたその時も、忘れない様に……。
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