Tales Of The Abyss 〜Another story〜
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#25 作戦名 骸狩り
~タルタロス・船室~
戦艦タルタロスにある一室、牢獄に、全員は収容された。見張りが牢獄の外にいる訳ではないが、恐らく、このエリアの外では見張りがいる事だろう。
その中で、アルは 悲痛な表情を浮かべていた。
「………」
そして、目は虚ろだった。さっきまで間違いなく生きていた人がいたんだ。自分が治療を続けていれば、助けられたかもしれなかった命。だけど、彼はもう冷たくなっていた。その亡骸を見て、涙が目に溜まっていた。
それを見ていたジェイドは、アルの傍へと歩み寄った。そして、彼の肩に触れながら話す。
「仕方ありませんよ。アル。……どうしようもないことはあります」
ジェイドはそう言っていた。彼の姿を見て、見ていられなかった様だった。アルはジェイドの言葉を訊いて、ゆっくりと頷いた。
「そうだとしても。……どうしようも無い状況でも、……なかなか割り切れないものですね。 ……人の死、と言うのは……」
どうしても、彼は割り切れなかったんだ。 頭ではわかっていても、どうしても。アルが助けようとした彼の願いだった事を考えた上でもだった。
ジェイドは、アルの言葉を訊いた上で、ある事を告げた。
「……アル。 貴方が私の部下を看取ってくれた事。……礼を言います。彼は、最後の最後まで任務を全うしたんですね。ありがとうございました。アル」
ジェイドはそう言って頭を下げた。アルは、自身の部下の最後を看取ってくれたといっていいからだ。そして、最後の彼の勇姿も、訊く事が出来たから。
「……いや、大した事は……」
アルは、そう言っていたが、それでも、そう言ってもらえただけでも、少し心が軽くなっていた。そして、今しなければならない事を思いついたのだ。今の自分にできる事を、思いついた。
「そうだ……。いつまでも塞ぎ込んでられないよね。ティアさんとルークを手当てしないと」
アルは、そう言うと、牢屋で寝かされている2人の方へ行き、治癒術を行った。確かにあの時、彼を助ける事が出来なかった。でも、今怪我をしている2人は助ける。アルはその気持ちだった。
そんなアルを見たジェイドは。
「……もう、あなたが何をしても驚かないと決めていたのですが、撤回します。また驚きました。第七音素まで 使いこなしますか……」
ジェイドは、どこか関心を通り越してあきれている様な感じもしていたが、一先ずそれは置いといて、アルは続けた。
「まあ、確かに得体の知れない力だけど、治癒の力って、便利だから。……傷つける力じゃなくて、皆を治したりできるから」
アルは、一先ずティアの治癒を先に終わらせると続けてルークの元へと向かった。
「それにさ。オレが使える力。……誰かを、何かを、傷つける譜術だけじゃなくて、誰かを救える力も持ってるって事。……それが嬉しくてね。 得体の知れないのが玉に瑕だけど、この際は何でも良いや。って思ってるんだ」
そう言いながら、アルは苦笑いをしていた。確かに、戦う為には、誰かを守る為には 相手を攻撃したり、防衛したりしないといけないだろう。力がなければ誰も守れないのも、事実だから。
あのアクゼリュスでの戦いで、アルは痛い程実感した。
目の前で危険にさらされる大切な人。あの時、力が無ければ、助けられなかっただろうから。
ジェイドは、そんなアルの言葉を訊いて、穏やかな表情で笑っていた。
「やれやれ……、貴方のようなタイプの人には初めて会いましたよ。 心底お人好しで、その上戦える力があって……」
そう、しみじみ答えていた。アルは、段々余裕が生まれてきたんだろう。ジェイドの方を見て、少し笑いながら言う。
「……気のせいかな? 何だか、かるーく馬鹿にされているような気がするんだけど?」
「はっはっはー! それはきっと気のせいですよ」
ジェイドは笑っていた。いや、笑って誤魔化していたのがはっきりと判った。それにつられて、アルは苦笑いをする。
「はぁ……、俺もまあ貴方みたいなタイプの人に初めて会いましたよ……。 まあ、数週間分の記憶しかないんだけどね」
最後には、アルとジェイドの2人、互いに苦笑しあっていたのだった。
そして、数10分後、まず ティアが目を覚ました。
「ん…… あれ……? ここは……」
ゆっくりと頭を起こし、瞼を開いたティア。そんな彼女に気づいたアルが説明をした。
「おはよう。タルタロスの中にある牢獄らしいよ」
「……えっ!?」
アルの話を訊いて、ティアは慌てて身体を完全に起こした。そして、周囲を見渡しながら。
「私、どれだけ気絶したのかしら!?」
「ん。……ほんの数10分かな? ねぇジェイド?」
「はい。 それくらいですね。」
「そう……。すみません。私の不手際で……」
ティアは、自分の不甲斐無さを謝罪してたけれど、あの襲撃は不意打ちに近かった事もあり、更に多人数、手練だった事、様々な事情が重なってしまったから、仕方が無かっただろう。
その事に関しては、軍の大佐であり、この中では間違いなく一番の大ベテランであるジェイドもそう言っていた程だった。
「あの六神将、って言う人達は、明らかに周りの兵士達とは格が違う雰囲気と、言うか オーラというか…… 初めて会ったんだけど、本当に大変な相手だってことは一目で分かったから仕方が無いと思うよ?」
「そうですね。少なくとも六神将のメンバー、3人確認できましたし、あの程度で済んで良かったと考えてもいいと思います」
ジェイドもそう言い、ティアはゆっくりと頷いていた。
「……でも これからは気をつけるわ。今回の様な事が無い様に」
ティアの言葉を訊いて、2人は笑いながら頷いていた。そして、アルは。
「そういえばさ……。雰囲気で勝手に言っちゃったけど、六神将って何なの? どう言う人達?」
それを訊いたティアは、ちょっとガクッと膝から崩れ落ちそうになっていた。そして、ジェイドはそんなティアを、そしてアルを見て笑っている。ついつい忘れがちになってしまうのが、アルの記憶障害についてだ。
「そう言えば、貴方は記憶喪失だったわね。 ……全然そんな気配させないから忘れかけていたわ」
ティアは、そう言いつつ苦笑いしていた。そこは、本当に尊敬すべき事だろう。
「あ、ははは……」
アル自身も、ルークに手を当てながら苦笑いしていた。自分の事なのに、どこか他人事の様に思えてきたからだ。その記憶障害についてが。
そして、ルークを治療しているその間、一通りの説明をしてくれた。ジェイドの言う通り、かなり腕の立つメンバーであり、本当に危険な相手だった。
だからこそ、あの程度で本当に良かった、とジェイドは言っていたのだろう。何千もの兵隊を其々が統べる6人の将。それが、六神将だから。
そんな話を訊きながら、アルはティアが目を覚めてからずっとルークの治癒に当たってるけど、目を中々覚まさなかった事に少し焦りを見せていた。ルークの傷は自体は癒えているはずなんだけど、目を覚まさないのだ。
「貴方も第七音素を使用できるのね。 ……あの戦闘と時いい、やっぱり凄いわ」
ルークを治療しているのに気付いたティアは改めてそう感じていた様だ。六神将の1人、ラルゴに一撃を与えたの事を考慮してもそうだった。
「あ……、あのさ…… さっきもジェイドに言われたんだけど…… その、あまり、面向かってそう言うこと言わないで欲しいかな……? ちょ、ちょっともう、照れちゃうから……」
アルは、少し恥ずかしそうにしながら、そう言っていた。
「ふふふ……」
ティアは笑っていた。凄い事なのにとても謙虚な人だと、ティアはアルに好感を持てていた。強大な力を持つ人は、その力を誇示したがる傾向にある。軍人であり、様々な任務につき、色んな人を見てきたティアだからこそ、それは判る事だった。
だけど、アルは全く違ったんだ。
「(……不思議な人、ね。そして とても優しい)」
ティアは、暫くアルの方を見ていたのだった。
~ルークの夢~
(――……ーク……。 ルーク……)
何処かから、声が聞えてきた。消え入りそうな声なのに、何故かはっきりと訊こえてくる。
(……あぁ、いつもの夢か。 オレ……、どうしたんだっけ……? そう、だ 何か凄く怖い思いをしたんだったんだ。 ……もう、目覚めたくない……)
ルークは、今夢を見ている事、それを理解していても、目を覚ます事を拒否し続けていた。だけど、その間にも、再び声が響いてくる。
(我が声に答えよ! ルーク!)
まるで、目を覚ませ。と言ってきているかの様に、声が頭の中に響く。ユーリは、無我夢中で耳を塞ぎ続けた。
(嫌だ……、このまま……、このままで……っ)
そして、ルークの意識が再び途絶えたのだった。
~戦艦タルタロス~
「ルーク!!」
ティアが心配そうにルークの顔を覗き込んでいた。そして、ルークが目を覚ましたのだ。
「はぁ、良かったよ。ルーク、魘されてたし、治癒かけても、中々効果がなさそうだったから」
アルも、ルークが目を覚ましてくれた事に、心底ホッとしていた様だ。このまま、目を覚まさなかったら、と思わなかったと言えば嘘になってしまうから。
「ココ……は?」
「タルタロスの船室ですよ。……と言うより牢屋、ですね。我々は神託の盾騎士団の大詠師派に捕まったんですよ」
現在の状況を訊いて、ルークは暫く考え込んでいた。
そして、一通りジェイドが説明したところで本題へと入った。
「さて、ルークも目覚めたとこですし、そろそろこんなところは脱出してイオン様を助けに行きますか」
そう、ジェイドは告げた。
正直を言えば、脱出する事ができるのなら、最初に教えて欲しかった、とアルは思っていた。そして、どうやって? とも同時に。開ける方法が中々思い浮かばない。ぱっと考えた所、派手に暴れて、等は思いついたが、この戦艦の牢獄だ。頑丈の作りだろう。そして、何より、一発で包囲されそうだから。
「この牢屋どうやって開けるんですか? ここの牢屋を突破するのは難しそうだし。それにイオン様の居場所も……」
ティアもアルと同じ考えだった様だ。
「このタルタロスは私の戦艦ですよ? ご心配なく」
「と言うか……もうちょっと早くに言って欲しかったけどね」
アルは、苦笑いをしつつ、さっき思っていた事を口に出していた。
「はっはっはー! まだ全員目覚めていなかったですからねぇ」
ジェイドは、そう言って笑っていた。
「先ほど彼らの会話を漏れ聞きましたがイオン様はタルタロスへ連れ戻されるようです」
「そっか……、いちいち歩いていくよりはこっちの方が遥かに効率がいいから……」
「ええ、そう言うことでしょう。ですからその時にイオン様を救出しましょう」
ジェイドがそう言った途端、 考え込んでいたルークが急に叫んでいた。
「ま……、まてよ!!」
「どうしたの? ルーク?」
「そんなことしたらまた戦いになるぞ!?」
ルークが考えていた事はそれだった。 ルークの脳裏に鮮明に浮かぶのは あの時の事だ。人を刺した時の事。
「………? それが?」
ティアは、ルークに普通に返していた。
「また人を殺しちまうかもしれないっつってんだよ!!」
ルークは、先ほどの戦いで奪ってしまった命の事、それがどうしても、浮かんでしまうのだ。何度拒んでも、否定しても 頭の中で、自動再生を繰り返しているかの様に。
「……それも仕方ないわ。殺らなきゃ殺られるんだもの。」
ティアは再び、普通に返していた。ルークの意見に全く耳を貸さなかった。
「な……!? 何言ってんだよ!? お前、人の命をなんだと思って……」
ルークが、最後まで言い切る前に、ティアとアルが近付いていた。そして、アルが口を開く。
「ルークの気持ちは俺は痛いほど判る、つもりだよ。ジェイドが刺した相手だって元は俺の譜術からなんだから。……それが例え間接的にだとしても」
アルがそう言うと、ルークも少し黙った。あの時、アルが、マルクト軍の兵士を必死に助けようとした姿を見ているから、と言う理由もあるだろう。
「前に、オレが言った事……覚えているかな? 俺は、戦争が起こるなんて嫌なんだ。 街を……救えなくなる。でも それは人殺しを助長しているわけじゃない。 話し合いで決着がつくのならそれが一番だよ。 ……だけど、それぞれの信念を持って戦っている以上、それも無理なんだよな。 ……だから、今を精一杯戦う、って オレは決めたんだ、オレは、戦える力を持ってるのに 使わないなんて意味ないから」
アルの言葉を黙って訊いていたルークだけど、やはり、納得は出来なかった様だった。
「お……お前は……、直接殺してないから、そんな事が言えるんだ! オレ、オレは……っ」
ルークは、あの時自分自身の手で、自分自身の剣で、相手を殺してしまった事を言っていた。手に残る感触はいつまでたっても拭えない。それは、無理も無い事だろう。
アル自身も、実際にそうなってしまえば、誰かの命を奪ってしまったら、自分がどうなるか判らない、そう思っているから。
そして、2人の事を、見かねたティアが一歩前へ出た。
「ルーク! 今私たちが何もしなければ戦争が始まる そうしたら数え切れないくらいの人が死ぬ。それぐらいは分かるでしょう? そしてアルはそれが嫌だから、持てる力を使おうと前を向いている、そして此処は戦場 戦場に正義も悪も無い 生か死かそれだけよ」
更に、もう一歩近付き、続けた。
「普通に暮らしていても魔物や盗賊に襲われることもある。だから力の無い人々は傭兵を雇ったり身を寄せ合って辻馬車で移動する。戦う力を持っているなら子どもだって戦う事がある。……そうしないと生きられないから」
ティアにそう言われても、ルークはまだ納得できない。
「し 仕方ねえだろ!? 俺はずっと屋敷の中にいてガキの頃の記憶もねえんだ! だからそんなこと知らない! 俺は好きでここに来たわけじゃない!!」
その言葉を訊いて、ティアは一瞬悲しそうな顔をしていた。この場所にルークが来てしまった理由は、ティア自身にあるから。
そんなティアを見てアルが言った。
「ティアさん……。 仕方ないよ、……多分だけどさ、ルークみたいに こういう感覚になるのが普通じゃないんじゃないかなって思うんだ」
ルークに何か更に言おうとしたティアを止める様に、続ける。
「え?」
「人を手にかける。 戦争、 戦い、 戦いの世界に身をおいている軍人なら兎も角さ、……普通の人なら、 そんなの恐れるし、したくない。 でも、頭では理解できるのに、それを簡単に割り切れている俺がおかしいんだよ。だからあまりルークを責めないで。……オレがその分も戦うから」
「「………」」
アルの言葉を訊いて、ティアは勿論、ルークも何も言えなかった。
そして、今まで口を挟まずに訊いていたジェイドが口を開いた。
「ふむ、確かに それがいいですね、ティアと私、そして アルの3人でも十分行けるでしょう」
攻撃・回復を含めた前衛・後衛の両方をできるアル。接近戦も勿論だが、譜術による後方からの攻撃もできるジェイド、後衛から、あの絶大な効果がある譜歌を使えるティア。
3人であれば、ルークを助けながら 此処を切り抜ける事ができると、ジェイドは冷静に分析出来たのだ。
そして、それを訊いたティアも頷いた。
「そう……ね。でもアルだけに負担をかけるわけにはいかないわ。こんなことになった責任は私にあるし、ルークを、必ず家まで送り届ける。って決めているから。 そのかわり、足だけは引っ張らないで 戦う気が無いのなら貴方は足手まといになるから」
ティアの言葉を訊いて、ルークは思わず立ち上がる。
「なっ! お、オレは戦わないとはいってない! ただ、人を 傷つけたくないだけだ……」
そう言うと、ティアは首を振った。戦う事と、人を傷つける事は、今の状況では同じ事だから。
「……今は同じことよ 大人しく後ろに隠れていて」
「無理したら、ダメだよ」
とりあえず足手まといと言う発言は逆撫でするだけだと思うけど、間違いなくその方が安全だから、アルも頷いていた。
「な……、なるべく戦わないようにしようって言ってるだけだ! オレだって死にたくねぇし……」
ルークがそう言うと、ティアは顔を背けた。彼女にも、思う所はあるのだ。
「私だって 好きで戦ってるわけじゃない……」
ティアは、悲しそうな表情をさせながら、そう呟いていた。
「………」
その姿にルークは、それ以上は、ティアに何も言えずにいた。
「……で? 結局戦うんですね? ルーク。 戦うのであれば、貴方も戦力に数えますよ?」
「ルーク………」
「おう! お、俺も! 戦う!」
ルークはどうやら、覚悟を決めた様だ。先ほどとは目の色が変わっていた。
「結構。現在このタルタロスには140名ほどの兵が乗船していますが、助けは期待できないと考えてください。 今の我々に出来る事は1つ。 ……イオン様を奪還しタルタロスから逃げる!」
ジェイドが、これからの事を皆に伝えると、牢屋の入り口付近まで歩いていった。
「でもどうやって……?」
ルークはジェイドに聞いていた。
「非常事態は想定済みですよ」
そう言うと、ジェイドは、床の一部を蹴り上げ中から伝声管を取り出した。
「……こう言う時の為の伝声管です」
恐らくこの戦艦の至る所に伸びているのだろう。 ジェイドは伝声管に向かって叫ぶ。
「死霊使いの名によって命じる! 作戦名《骸狩り》始動せよ!!」
ジェイドの言葉と連動したかの様に、タルタロスが大きく揺れた。ここからが、作戦の始まりだったのだ。
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