黒魔術師松本沙耶香 客船篇
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25部分:第二十五章
第二十五章
「それが終われば今回の仕事は終わりね」
「はい、その通りです」
「さて、それじゃあ」
煙草をまた口に入れた。
「貴方はこれからどうするのかしら」
「どうするもありません」
声が微笑んでいた。
「それについては」
「どうもしないというのかしら」
「はい、特に」
こう沙耶香に対して述べるのであった。
「私もまたここで楽しんでいますので」
「そうなの。確かにここはね」
「素晴らしい船ですね」
「船は好きよ」
これは本音である。沙耶香は船旅というものが好きだ。そして船の中自体を好むのだ。オペラハウスにホテル、夜の街に宮殿、それと娼館。彼女の愛する場所は絢爛と退廃の世界なのだ。
「特にこの船はね」
「クイーン=エリザベス二世も超えていますね」
「そうね。あの船もいいけれど」
口元に笑みが浮かんでいた。
「この船はさらにいいわね」
「贅を尽くしましたので」
「日本もこういう船を造られるようになったということね」
「左様です」
「いいと思うわ。私は贅沢が好きだし」
絢爛を愛するが故である。
「それでね」
「御気に召されたようで何よりです」
声もまた微笑んで満足しているものだった。
「お仕事ですからどうかと思ったのですが」
「生憎だけれど仕事は楽しむ主義なの」
こう答える沙耶香だった。
「そちらもね」
「左様ですか」
「人生は楽しむものよね」
そしてこんなことも言うのだった。
「だからよ」
「だからですか」
「そうよ。だからよ」
沙耶香の言葉は続く。
「だから仕事もね。楽しむ主義なのよ」
「そういうことなのですね」
「ええ。それで」
「それで?」
「今日のうちに終わるわよ」
その仕事の話であった。
「もうね」
「早いですね。もうですか」
「仕事は楽しんで早く終わらせる主義なのよ」
仕事についてプラスアルファであった。
「それでなのよ」
「ポリシーには五月蝿いのですね」
「ポリシーというよりは」
「それよりは?」
「美学よ」
それだというのだった。沙耶香が言えば不思議と絵になる言葉であった。
「言うならばね」
「美学ですか」
「ええ、美学よ」
また話すのだった。
「そういうことだから」
「わかりました。それではです」
「ええ」
「お仕事が終わりましたら」
もう話はそこに至っていた。その話をするのだった。
「青は御自由に」
「ここでの遊びを楽しんでいいということね」
「お酒を楽しまれるのも美女を楽しまれるのも」
「もうどちらも楽しんでいるわ」
「ほう」
それを聞いてであった。背中の声が興味深そうに述べてきた。
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