ソードアート・オンライン〜Another story〜
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ALO編
第138話 あの空の向こうへ
和人は、《彼女》の前で立ち尽くしていた。
そして、呆然としている。 和人の頭の中では、ただただ……『……なぜ?なぜなんだ?』と言う言葉だけが流れ続けていた。
和人は明日奈に会う為、そして 玲奈にも会う為に毎日の様にこの病院には訪れている。彼女は、自分に会うと笑顔で迎えてくれる。そして、『来てくれてありがとう』……と感謝の言葉もくれる。
――……その玲奈の瞳の奥では、まだまだ悲しみが癒えていない。
最愛の人に会えない。
親愛の人に会えない。
……その悲しみはもしかしたら、和人よりもずっと深いのかもしれない。一度に2人に会えなくなってしまったのだから。
――……それでも、諦めない。
彼女はずっと、そう言っていたんだ。
この場所に案内してくれたのは、明日奈の場所に定期検診で訪れていた看護師からだった。いつもいる筈の玲奈の事を和人は聞いたのだ。その看護師の表情を見て……、その時点で和人には嫌な予感がしていた。
和人は、彼女を……玲奈を明日奈の傍にいさせてくれと頼んだ。
幸い、明日奈の病室は個室だが、十分な広さだった為、それは了承してもらえた。……いつも一緒だったんだ、離れさすのは……あんまりだと思ったから。
「……お兄ちゃん」
直葉は、心配そうに和人を見つめた。
これが異常事態だと言う事は、理解しているつもりだ。……あの自分にとっても悪夢である機械に囚われてしまったのだから。姉妹諸共が。
「………何でだ? ……もうちょっとで、会えたんだぞ? アイツに。お前だって笑顔に戻れる筈だったんだ。……なんで、アスナもレイナも……オレを置いていくんだ……? レイナ……玲奈っ」
和人はぐっと、拳を握り力を入れた。
過剰に加わっている拳は、ブルブルと痙攣しているかの様に震えていた。
そんな中だった、冷静さを欠けてしまう、とも思ったが。……今回の事で思う事はあった。激情が溢れる中で、頭の一部には冷静な自分がいた様だ。あの機械、ナーヴギアが再び誰かを束縛する事などありえないと言う事だった。茅場晶彦は、世間では何千人もの人を死に追いやった大罪人だ。
……だが、最後のあの男は言った。
全員がログアウトし、解放されると。
そして、全てが崩壊するとも言っていた筈だ。アインクラッドも、プレイヤー達を縛っている見えない鎖……ナーヴギアの束縛も。
(有り得ない……。オレも何度も……アスナを、リュウキを探す為に手がかりが、あるかもと、あの機械を何度も被った。そして今も……。違うソフトを入れているとは言え、アレが突然誤作動を起こすなんて、思えない)
そして、頭の回転は通常よりも早く回る。
――……もしも、アスナの様にあの世界に、あの会社が、あの男が運営しているあの世界に囚われてるとすれば?
玲奈はずっと、明日奈の傍にいた。
あの男にとって、不都合な事があったのではないか?それで……アスナの様に口を封じる……、眠らされたのではないか?
ここに 運ばれてきた経緯は『個人情報の観点から……』と決まり文句の様に話してくれなかった。
両親の2人も今は話が出来る様な状態じゃないという事もあり、聞けなかった。だから、……これも全てあの男の計算の内、だとしたら?
「………」
「っ……」
直葉も、和人にかける言葉が見つからず……ただただ、和人を見ている事しか出来なかった。
それは、病室から、病院から出た帰り道でもそうだった。和人の想い人を見て、そして近しい歳の少女が囚われてしまったと言う現状を見て……。心は揺れ、平常心ではとても要られなかった。
そして、気づいたら自室のベッドの上。
見上げる天井のポスター。それは、あの世界でのスクリーンショット。スカイブルーを背景に自由自在に飛び回るあの世界での自分の姿。
「……玲奈さん。御免なさい。あたし……あたし、とっても嫌なヤツだ。貴女が大変なのに、あたしは……お兄ちゃんの事ばかりで……っ」
静かに嘆いていた。直葉を責める者など、誰もいないだろう。だが、彼女自身が自責の念に囚われてしまった。
彼女の事より、この想いが伝わらないと言う事を考えてしまっていたから。
不意に、セットしておいたアラームが鳴り響いた。それは、午後3時に鳴る様にセットしており、ALOの定期サーバー・メンテナンス終了の合図でもある。
現実世界では、涙は流したくなかった。
これ以上自分の事が嫌になってしまうのは……嫌だったから。だから、直葉は即座にあの世界へと飛んだのだった。
~アルン 宿屋~
シルフ族の少女として、目を覚ましたリーファ。ゆっくりと身体を起こした。町中では、メンテナンス終了を告げるBGMが盛大に響き渡っている。陽気な音楽だが……自分の耳にはまるで入ってこなかった。目尻に溜まっていく物を感じる。
……この世界では、感情は一切隠せない。涙にはいろんな種類がある。歓喜の涙や悔しさからくる涙……そして、この涙も。全てが一切我慢出来ない。
そして、その数十秒後に1人、遅れて更に1人。涼やかな効果音とともに、傍らに新たな人影が出現した。どうやら、彼等も戻ってきた様だ。……この世界に。
「――……リーファ?」
「どうしたんだ……?」
ドラゴとキリトだ。2人は、驚いていた。目を瞑り、この世界へと入ってきたその時、目の前には涙を流している彼女がいたのだから。……キリトも、感情が不安定に、情緒不安定になっていたのだが、悩むなら、行動をと現実世界で思い直していたから、自分をしっかり保てていた。
「い、いや……あのね、あたし……あたし……とっても嫌なヤツ……なんだっ……大変な事があったのに、自分の事ばっかり……、失恋した事ばかり、あたし、考えてっ……」
2人は、子供っぽさもあるのに時折自分よりも遥かに大人びた雰囲気を醸し出す事も多い。だからこそ、2人に打ち明けたかった。全てを話し、楽になりたかったのかもしれない。
だけど……、酷い事したのに、その上……楽になろうとするなんて、と奥歯を噛み締めて、こらえた。
「そ、その……ごめんね。あったばかりなのに、こんな事、言っちゃって……。現実の話はルール違反、だよね。……それも現実の問題なんて……」
笑みを形を保ちつつ、早口でそう言うリーファ。
だが、それでも感情を読み取るこの世界では、その感情の涙は止まる事は無かった。そんなリーファに、キリトはゆっくりと右手を頭の上に乗せ……優しく撫でた。
「――……向こうでも、こっちでも、泣いていい時は泣いていいさ。ゲームだからって、感情を出しちゃいけない決まりなんてないよ」
キリトは、そう答えた。この世界で、ずっと過ごしてきたからこそ、言える言葉だった。
「……そう、だな。……ただ、傍にいる事位は出来る。……気休めにしかならないと思うが。其れくらいしかできないから」
ドラゴも、そう答える。感情の高ぶり、自分を見失いそうなった時、傍に居てくれたから、安心出来たし、立ち直る事だって出来た。……だが、それは信頼している者だと言う事が前提だ。だから、自分がリーファの力になれるかは、判らなかった。
リーファは、2人の言葉を聴いて、笑顔を今度は作り笑顔じゃない、自然な……普段の笑顔を戻すことが出来た。そして、ながれていた涙も……いつの間にか止まっていた。
「……もう、大丈夫。ありがとう、2人とも……。キリト君、ドラゴ君。本当に、優しいね……」
「いや、その反対のことは随分と言われた気がするがな。」
「……優しい、か。オレが」
キリトは照笑を浮かべ、ドラゴは、やや困惑をしていた。
そして、そんな時だ。
キリトの胸ポケットから、しゃらんっ!と音を立てながら飛んできた者がいた。小さな妖精……、ユイだ。
「……はいっ、パパもドラゴさんも、とっても優しいです」
2人の前でそう言う。ドラゴは、きょとんとしていた。ユイは、その表情を見て、直ぐにドラゴの傍へと飛ぶと。
「私が、保証しますっ……、おにいさんは、とっても、とっても優しいんです」
そっと、頬に手を当てながらそう言っていた。
「あは、ユイちゃんの言うとおりだよ。キリト君も、ドラゴ君も……。慣れてない言葉、なのかな?」
リーファは、少しだけ悪戯っぽくそう聞いた。
「……きっついな? ははは」
キリトは、苦笑いをする。先ほど、その逆の言葉を言われたことは多い……と答えたからだ。
「そうか……」
ドラゴは、柔らかい笑みを浮かべていた。あの空白の時の自分を知っているユイが言っている言葉であり、そして今ももうひとり……リーファもそう言ってくれているのだ。だから、素直に受け止めることができていた。
「それで……、リーファ。今日は大丈夫なのか? 一度落ちても良いぞ。ここまで連れてきてくれたんだ。……後はなんとかなると思うし」
「ううん、ここまで来たんだもん。最後まで付き合うよ」
リーファは勢いを付けて、ぴょんとベッドから立ち上がる。
「……ああ、そうだった」
ドラゴが思い出した様に声をかけた。
「悪い。少し私事があった事を伝えるんだった。」
そう2人に言う。正直、この流れで共に行かない……というのは空気を読まなさすぎ、と本能的に判っていたけれど、仕方ないだろう。
「リーファの事見てて忘れてた」
「うぐっ……、ご、御免なさい」
「ああ、責めてる訳じゃないんだ。……少し遅れる事を伝えるのにはインするのが一番早いからな」
現実世界で、連絡が付かない以上はこの方法しか無かった。そんなドラゴの話を聴いて……ユイは過剰に反応した。音を立てながら、ドラゴの肩に飛び乗った。
「……りゅっ……ドラゴさん。ドラゴさんは……」
目を大きく開き、ドラゴの目をしっかりと見つめていた。キリトも、ユイと同じ気持ちだったんだろう。ドラゴの言葉を聞いて、彼の方を見ていた。
「……何処にも行かない。約束だ」
ドラゴは、人差し指をユイへと向けた。ユイは、目をしっかりと見据えて……そして、目に僅かながら溜まった涙をすっと拭うと。
「……はいっ。後で絶対、絶対に戻ってきてくださいね? ……約束っ、ですからねっ」
「ああ。約束だ」
ドラゴは、再びユイに宣言した。そこにキリトもやって来て。
「オレも結んどこう。たくさん結んどいたら、破りにくい……だろ?」
そう言って指を向けた。リーファもだ。詳しい事情は判らない。けれど、ユイが強く……強く想っている事、それは判ったから。
「なら、あたしも! これじゃ、ぜ~ったい破れないよね? ドラゴ君?」
リーファは、にやっと笑ってそういった。ドラゴは、ため息を吐くと。
「破るつもりは毛頭ないって。……リーファ。キリトを暫く頼むぞ? ユイも」
「うんっ!」
「りょーかいですっ!」
「たはは……」
そう言うと、ドラゴの姿は、ゆっくりと消え去った。ユイは、その姿を最後まで見送った後……、そっとキリトの肩へと乗った。
「ユイちゃん。ドラゴ君なら大丈夫だよ。約束を破るような人には見えないしね?」
「はいっ!おにいさんは絶対に破らないですっ!」
「うんうん。……って、へ? おにいさん??」
リーファはユイがドラゴの事をおにいさん、と呼ぶことは知らなかった。突然の呼び名が変わった事に戸惑いを隠せない。
――キリトへのパパといい、ドラゴへのおにいちゃんといい……。そう言う趣味が?
と、リーファは思ってしまったのだった。
~竜崎家~
ドラゴ……事、隼人はゆっくりと身体を起こした。そして、現在の時刻をベッドに備え付けられている液晶モニターで確認する。あの世界へと入った時間がほぼ午後3時。今の時刻が3時5分だ。
「……後、5分、いや10分後に入ろう。……アレの確認はキリト達にはさせられない」
それは、地図上に示された光点の事。世界樹の上にあるであろう物。そして、アルンと言う世界の中心の町に再び示された光点。あの場所……竜の谷と古森の中間地点で見つけたコンソールの事。
「……この世界には、デカい秘密がある。……間違いなく」
ぎゅっと拳を握り締めた。待ち時間であらゆる考察をする。
――……光点もそうだが、あの時の声は一体なんだったのだろうか?
考えられるのは、キリト達同様、空白の2年で自分が出会ったであろう人物だと言う事。
そして、なぜプレゼントと称して、この世界の闇を見せたのだろうか?或いは、プレゼントとは言っていたが……、それは記憶の事だと思っていたが、それ以外にも思惑があったのではないか?
待機している時間はあっという間に過ぎ去る。隼人は、答えは判りきっていた。そう、ここでは……。
「判らない、か。……あの世界じゃないと」
隼人は、ちらりと現在時刻を確認する。
「後3分か」
今キリト達は、世界樹の傍にへと言っている所、だろうか?いきなりグランド・クエストへと挑んでいるんじゃないだろうか?キリト達の事も考える。
「……まぁ、いきなり挑んだりはしない、って思うが。判らないな。……アイツが目指しているもの、アイツが求めてるものが判らないから」
キリトは、自分のことを知っている。……が、自分はまだはっきりとは判らない。心に響いてくる、見えてくるあの映像。それらを繋ぎ合わせて、1つの物語にする。
あの世界で自分は生きていた。キリトや、ユイ、それだけではない。彼等の後ろには、素顔は見えないが、色んな人影が見えるから。
「……」
あの世界での記憶を、早く……戻したい。頭にズキリと来る頭痛。それが試練だと言うのなら、喜んで受け入れたい。
「……そんなに簡単なものじゃないか。ただ、待たせている人がいるなら」
思い浮かべるのは、あの声。
優しい声。
愛おしい声。
頭の中ではずっと、自分を見守ってくれている。あの光景の中では、自分のことを心配してくれている。……涙を流している。
「これ以上待たせたくない。……待たせたくない」
隼人はぎゅっと拳を握り締めた。キリトが言う合って欲しい人。その人が、あの人ならば……直ぐにでも会いたい。でも、もし……キリトやユイの様に曖昧なことしか思い出せなかったら?と思うと非常に怖い。目の前にして……、判らず、そして泣かせてしまう、悲しませてしまうのが怖かった。
この隼人の想いは功を成すことになる。
キリトが言っていた合って欲しい人の今の現状。今は……会えなくなってしまっているのだから。
~アルンの町~
そして、更に暫くしてあの町へ戻っていった。宿屋には当然だが、キリトやリーファ、ユイの姿はない。この町にいるのは間違いなかった。
「……さて、光点はこの辺り、だったな。」
ドラゴはマップを呼び出し、場所を再確認した。もう、光の方は無くなっているが、位置は目に焼き付けている。
ドラゴは、宿屋を飛び出し美しい荘重な積層都市の空に飛び立った。夜景も素晴らしかったが、太陽の光に照らされた石造りの建築物も十分魅力的だった。こんな状態じゃなければ、観光として町を回るのもよかったかもしれない。……あの人と一緒に。
ドラゴは、頭を左右に振ると、背中の翅を鋭角に折り……速度を上げた。低空飛行をしている為、プレイヤーに注意を払いながら目的地へと急ぐ。
そこは、町中ではあるが、緑のある場所。住宅地の中にある大きめの公園……という印象だろう。回りには特に大きなNPCショップ等はなく、恐らくプレイヤーハウスが立ち並んでいる。立札に、その家の値札が掲げられている所から見ても間違いないだろう。
流石に、世界の中心であるアルン。この世界での高級ハウスというのははっきりとは判らないが、サクヤの発言を思い返す。彼女達に渡した金額で、一等地にちょっとした城が建つらしい。だが、その金額よりは劣るが、それなりの桁数、0が並んでいる。
「ふむ……。あまり他のプレイヤーがいないのは僥倖、だったな」
ドラゴは、翅をしまいライディングする。目的地へと到着した所で、再び指を振り 場所を確認した。
周囲は木々に囲まれている。丁度公園の真ん中だった。
「……これ、か」
光点が指し示した物。直ぐにそれが何か理解した。それは、この場所……荘重な積層都市の中にある自然の中にはそぐわないものだ。小振りな黒い箱。あのコンソールとは一回りも二回りも大きさが違うが……、纏う雰囲気は似たようなものだった。視てみても、ただのオブジェクトではないのは一目瞭然だった。
「ん……」
ドラゴはそれを手に取る。すると、まるで何かが作動したかのように、黒い箱は僅かな光を放ちながら、開かれた。
「っ……」
光は徐々に大きくなり……そしてドラゴの身体を包み込んだ。視界は真っ白になり、周囲に存在した色と言う全てが塗り潰された。
白い世界。
『また、会えたな? リュウキ君』
その世界の中で、あの声が聞こえてきた。あの時と同じ声。
「……お前か。生憎、まだ思い出せていない。お前が教えてくれる……と言うのか?」
ドラゴは、見えない相手にそう言った。……求めた答えが返ってるとは期待はしてなかったが。
『……私が教えるのは簡単だ。……だが、それでリュウキ君が思い出せるかどうかとは別の話。……だとは思わないかね?』
その声は、諭すようにそう言っていた。確かに、キリト達にあの世界での自分のことを言われたとしても……、思い出さなければ、それが今現在の自分がした体験だと、脳裏に刻まれたりはしないだろう。
あくまで、自分ではなく……別の誰かが、と言う認識をしてしまう可能性が高い。
『……私は、本当に感謝をしているのだ。私の世界があの者達に盗まれた。その上 私の世界で生き抜いた彼等をも盗み去ろうとした。……全てではなかったが、それを阻止してくれた君に。私は感謝している』
「……どういう事だ?」
ドラゴはその意味が判らなかった。私の世界……?と言う意味も、そして盗まれたと言う意味も。
『……全てを思い出す時は近い。あの空の先に、君の知りたった物がある。……だが、そこには悪夢も待っている。……それでも君は行くかね?』
「………」
目の前に知りたかった者があったとして、当然その前には困難が立ちふさがっている。それは、現実であってもゲームであっても同じ事だ。
「行くに決まっている。……ここまで来たんだ。オレに後退の螺は無い」
『ふふ、愚問……だったな』
楽しそうに笑った後……、周囲の白い世界が淡く光りだした。……恐らく、元の場所へと戻るのだろう。
『君の力を今度は傍観者として、見せてもらおう』
その言葉を最後に、周囲に色が戻っていく。元々居た場所に存在した緑が戻っていく。
「まさか……お前は……」
ドラゴは、感じたままに、その声の主に向かって声をかかる。現実世界では死んだとされている男。
されている、ではない。事実彼は見つかっている。そう、死体として。だから、有り得ないと思った。
だけど……、それでも。そう思っても。
「茅場、晶彦……?」
ドラゴはそう答えていた。そう答えたと同時に、完全に白は消え去り……、アルンへと戻っていた。
『この世界ではもう1人、君以外にもこの世界では見ていたい者がいる。……あの世界で君と共に私を打ち負かした彼を。では、また会おう。……リュウキ君』
肯定はしないが、否定もせず、その声はもう聞こえなくなっていった。
そして、メニューウインドウが突然開かれた。
「……なに?」
困惑している最中、突如開いたメニューウインドウがドラゴを元の状態に戻した。ウインドウには、魔法スキルが示されていた。それは、《スキルを習得した》と言うものだった。
「何故今になって……?」
スキルを解放されたのは、どうしてもスキルが上がらず、一体何のスキルなのか判らなかったもの。
《神威》と《覚醒》
その魔法スキルが完全習得されていたのだ。
「……これも無茶な力だな。いや……そうでもないか、リスクを考えたら。……リスクは極大、が発動出来れば、反則。……大パーティプレイをしてたら、反則だな。絶対」
魔法の詳細を見てそう思わずつぶやいてしまうドラゴ。自身の魔法の力は圧倒的なものが多いが、それに比例して困難もある。判ると思うが、魔法を発動させる為に必要な詠唱が圧倒的に多いのだ。暗記系が得意でなければ、それより、常人では早々に諦めるであろう程の者。元々ドラゴだからこそ、使えたと言っても良い代物だ。
だが、前衛を完全に任せ、後衛として詠唱に集中していれば、難易度は遥かに下がるだろう。詠唱文を見ながら使える訳ではないから、覚えるのが大変なのは変わらないが。
「……キリト達の所へ向かおう。」
ドラゴは、メニューウインドウを閉じた。そして、この町からなら、何処にいても見えるあの巨大な樹木を見定める。
「あの上に……あるんだ」
ドラゴは、翅を再び出し……そしてアルンの町の上空まで飛んだ。
『……リュウキ君。……隼人君、助けて……。……たすけてっ』
いつから……だろうか。
もう、頭の中に流れるあの声は、自分に助けを求めている内容しか、聞き取れなくなっていた。何故だかは判らない。……そして、胸騒ぎもする。
――……もう、あまり時間が残されていない。
そんな嫌な予感も、今になって頭の中にながれていた。
「……必ず助ける。待っていろっ」
その声に向かって、ドラゴもそう言った。そして、翅を鋭角に傾け、この場から素早く飛び去った。
目指す先は世界樹の上。
……あの何処までも高く、空よりも高くそびえ立っているあの空の向こうへ。
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