ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第90話 4人のパーティ
クラディールが転移し、姿を消したその後も、勝利したと言うのに後味の悪い空気だけが残っていた。観客も全てが終わった事から、三々五々 散っていく。最後に残されたのは4人だけだった。
キリトは何かを言わねばと葛藤していたが、何も利の効いた台詞など思いつかない。
「……お疲れ様、だ。3人とも、肩の力を抜け……」
見かねたリュウキがそう言っていた。
確かに、リュウキ自身も中々浮かばなかったのは事実だったが、見ていられなかったのだろう。アスナもそうだが、特に……レイナの事を、だろう。
「……うん。ありがとう リュウキ君。……おねえちゃん」
レイナもアスナを支えた。
気丈にはしていても、辛く苦しいのは凄く伝わるから。アスナとレイナは姉妹なんだから。
アスナはやがて力がふっと、抜けたのか、バランスを崩しそうになった。それをレイナが、そして側にいたキリトが支える。
「……ごめんなさい、嫌な事に巻き込んじゃって」
「私もそうだよ……ごめんなさい」
2人は謝罪をしていた。キリトに、そしてリュウキにも。
「いや、オレは良いけど、そっちの方は大丈夫なのか?」
キリトがそう心配する。だけど、アスナは弱々しくも、首を振り笑顔を浮かばせて見せた。
「……ええ。今のギルドの空気はゲームの攻略だけを最優先に考えてメンバーに規律を押し付けた私にも責任があると思うし……」
「お姉ちゃんだけのせいじゃないよ。私だって……、寧ろ≪補佐≫何て位……飾りみたいなものだもん。……私は、なにもしてないんだもん。……やくにたってない」
2人の表情は重く……、そして暗い。今にも泣いてしまいそうな表情だった。
「そんな事無い」
2人の前に立ったのはリュウキだった。
表情は真剣身を帯びていたが……最後には笑顔を見せながら言う。
「……人を纏める。それがいかに困難で難しいのか。それは誰でも解る事だ。オレでも……解る。それが人数が多ければ更に比例していくだろう。2人がしっかりしているからこそ、今のKoBがあり、そしてそのおかげでここまでこれたと言っても、誰も否定しない」
そして、2人の目を交互に見た。それだけで、≪2人は何も悪くない≫そう言っている、……2人にはそう見えた。
その言葉にキリトも同意した。
「オレもリュウキと同じ意見だよ。仕方ないって言うか……、逆にあんたたちがいなかったら、攻略ももっとずっとずっと遅れてたよ。攻略だってアスナがしっかりとしていたからこそだ。レイナは……、ま、正直 ちょ~っと、きつかったアスナを十分に抑えてくれてたし、メンバーの皆だって同じだ、レイナの事は、最大級に信頼してるだぜ。……それに何より、オレ以上にソロ上等!だったリュウキを懐柔したんだ。……役に立ってない? ……最大の功労者の間違いじゃないのか?」
キリトはにやけ顔を作りながらそう言っていた。その事に関しては、攻略組でもかなり話題となっているのだ。
正直、妬み、嫉妬の類もあったが、それと同じくらいあったのがキリトの言うように、リュウキと言うプレイヤーを最前線の攻略に没頭させた事。それがどれだけのものを齎したのかと言う事だった。
「…………」
リュウキはその事を否定なんて出来ない。何故なら、レイナのおかげで様々な事を知れたんだから。
人を愛すると言う意味を知れたんだから。
その代償が今現在の状況なら……、いや、代償なんて思いたくない。
「あは……」
それを聞いたレイナは、暗い表情から漸く笑顔を見せてくれた。
「……な?」
キリトはレイナに笑いかける。レイナは頷いた。そして、次にアスナの方を見た。
「だからさ? あんたもたまには、オレみたいないい加減なのとパーティ組んで息抜きするくらいしたって、誰にも文句言われる筋合いじゃない……って思うんだ」
アスナにそう言うキリト。
……レイナは笑顔を取り戻していたがアスナは まだ暗かったんだ。だけど、キリトのそんな言葉を聞いて何度か瞬きを繰り返してから……、苦笑いをしながら頬を緩めた。
「……まあ、ありがとう、と言っておくわ。じゃあ お言葉に甘えて、今日私達は楽をさせてもらうわね? 前衛をよろしくっ! お2人さん?」
アスナもレイナ同様に漸く……笑顔を取り戻せていた。
「だねっ! わぁ~~迷宮区でそんな楽できるのって初めてかもっ!」
レイナは、それを聞いて大喜びだった。……逆に随分と対照的な表情となってしまったのはキリトだ。
「って、いやいや! ちょっと! 前衛は普通交代だろう!?」
キリトはいきなりの決定に抗議していたが。これまた、随分と対照的な表情をしているのはリュウキ。
「まぁ……オレは別にどっちでも良いけどな? キリト、きついならオレがしてやるぞ?」
リュウキはあっけらかんとそう返す。それを聞いたキリトの第一声は勿論♪
「やっぱり嫌味クセーー!!!」
~第74層 迷宮区~
その場所は最前線であり、現在アインクラッドにおいて、最も危険地帯とも言える場所。そこには迷宮区を、今正に、攻略しようとする猛者が4名いた。流石に、ゲームも終盤付近、約3/4。
そこに配置されているモンスターの強さは、凶悪なものだ。安全マージンを取っていたとしても、決して安全では無いであろうモンスターの性能。アルゴリズムのイレギュラー性。……一瞬の油断で全ては終わってしまう、そんな修羅場。
だが……。
そんな場面でも、ものともしない猛者達がいた。4人の戦士、或いは勇者だろうか。
現れているのはリザードマンロード。
それも一体ではなく、複数。この層のモンスター達の能力はかなり高い。データ量もあるのだろうか、だからこそ、現れるのは1体ずつが多かった。……しかし、稀に複数表れることもある。その中にリーダー格がいる。統制されているその連携は、同じ数を一体一体相手にするより遥かに危険だ。
だが、それすらも、ものともしない。
「リュウキ君っ! スイッチ!!」
レイナの声が響き渡る。リュウキはすかさず、弾いて、隙だらけのリザードマンロードの懐に彼の武器、極長剣を薙ぐ。その彼の追撃、それはレイナの声を聞いてから反応したにしては明らかに早すぎる。まるで……2人は一心同体の様だ。
(……そう言えば最近レイと一緒に戦ってなかったから解らなかったけど……凄い)
アスナは妹を見ながらそう感じるのだった。妹のレベルが上がったからなのか?はたまた、ただ単純にゲームの腕が上がったからなのか?……アスナは一瞬だけ思ったが、違うと直ぐに考えを改めた。
自分を支えてくれる人が側にいる。
信頼してくれている人が、……愛してくれている人が側にいるから強くいられる。とても、くさくて そんな恥かしい事 口になんて、決して出していえないけれど。
2人を見ていたら本気でそう感じたからだ。
リュウキの背後を襲うリザードマンロード、それを即座に反応したのはキリトだ。リュウキが屈むと、丁度リュウキの頭部があった場所にキリトの剣先が伸び、リザードマンロードの頭部を穿った。
「ナイスだ……」
キリトは即座に反応したリュウキに小さく呟く。
「……そっちこそ」
リュウキも寸分違わず撃ち抜くように貫いたキリトにそう褒めていた。
「アスナ!」
「ええ!」
確かに倒したが、まだまだ、敵は多い。アスナの背後に迫っていたリザードマンロードも問題なく、アスナの細剣で撃退。
「行くよ! スイッチ!」
「うんっ!!」
アスナが相手の盾を弾くと、同じ装備のレイナの高速の突きが頭部にヒット。その一撃でHPの全てを奪い……、敵を四散させた。
「……手練がこうも揃うと戦闘がかなり安定するな……、回復の問題とか 考える必要性が無い」
キリトは 最後の一体をレイナが片付けたのを見るとそう呟く。
「……だな。たまには複数のパーティと言うのも悪くない」
キリトの言葉にリュウキも頷いた。普段では、多くても2名の小さなパーティであり、そのタッグは何度か組んだ事はある。だが、4人の人数でのパーティ、BOSS攻略以外では《あの日》以来だった。
「ふぅ……」
アスナも剣を鞘にしまう。
「お疲れ様、レイ」
「うんっ! みんなもだよ?」
比較的側にいたアスナとレイナはハイタッチをし、リュウキとキリトのほうを向いた。それに答えるようにリュウキは手を挙げ……、キリトも同様にしていた。
そして、その後も戦闘は続く。
流石に2体以上の複数でエンカウントする事は 最初くらいだったがそれでも舐めてはかかれない相手だ。……だが、油断などは、3流のする事であり、この4人にとっては愚問であろう。瞬く間に未踏覇マップを解放していったのだった。
「それにしてもさー」
道中、レイナは歩きながら振り返り、皆の顔を見る。皆は顔に《?》を作りながらレイナを見ていた。
「このメンバーで一緒に戦うのって、とっても久しぶりじゃない? 顔は沢山合わせているけど、私達でパーティ組むのも2回目じゃないかな? あの時はレイドだったから……、今回は、初!攻略パーティだね?」
レイナは思い出しながらそう言う。
「……確かにな、あの第1層以来だろうな」
リュウキも頷いた。第1層……、あのBOSS戦に向かった時の迷宮区以来の事、つまりは約2年は経っているのだろうか?
だが……。
「結構経ってるって思うけど……、つい最近の事、って思うな」
キリトはそう呟いていた。
「……そうだね。もうそんなに経ってるんだ。でも……」
アスナは苦笑いをしながらリュウキを見る
「……あの時のリュウキ君の≪声≫凄かったよね? 思い出すだけで耳が痛くなってくる」
レイナは思い出しながらそう言っていた。確かに、あの時の話はやや禁句ともなっているモノに分類している。戦闘で犠牲者が出たのだから。
だけど……塞ぎ込んでもいられないのだ。
彼の意思は、攻略組の全員に受け継がれている筈だから。
「……ああ、それは同感だ」
キリトも腕を組み頷いていた。
「それについては悪かったが……、確か俺はあの時、『耳を塞げ』といわなかったか?」
リュウキはそう聞き返した。確かに間違いなくそう言っている。
だけど……、そんな事、言われても。
「まっさか あんな怪獣みたいな大声出すなんて誰も思わないよ~」
レイナはクスクス……と笑っていた。そして、リュウキの方を見て悪戯っぽく笑うと、
「でも格好良かった。『お前の相手は~~』って感じだったかな?……皆を助ける為に、リュウキ君がしてくれたんだよね?あの時……」
「ッ……」
その言葉でリュウキの表情は、やや赤くなっていた。
そう、あの時は当時のリーダーだったデュアベルの死もあり、その彼の遺言もあっての行動だった。確かに彼の意思を組んで、皆を助けるためにした事だったが、そう正面から言われると頬が紅潮する。
「はは」
「だね」
キリトとアスナはそんな2人を見ていて笑った。
あの戦闘の後……、別れてしまうことになった。
あの戦闘の後……、ビーターと言う単語が生まれた。
だから、あの時はもう二度とこんな風になるとは思ってなかったんだ。それはリュウキは当然として、キリトも。だからこそ、こうして再びパーティが組めるのも、何処か嬉しい事、だったんだ。それは、リュウキとキリトだけじゃない。アスナも、レイナも、この場にいる皆が同じ気持ちだった。
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