ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第89話 決着・格の違い
決闘とは、大小問わず 例外なく独特な空気、緊迫した空気を生み出す。ピリッ と、まるで火花が大気中で小さく弾けている様な空間が形成されるのだ。
そして、街中でデュエルと言う事もあり、あっという間にギャラリーも集まってきた。少し考えれば当然の成り行きだった。なぜなら、このデュエルをする場所は街中でも 転移門前の広場。これから冒険に行くためには必ず通る場所だ。
そして、デュエルをするのは数少ないソロプレイヤーの1人であるキリトと血盟騎士団のメンバー。観客からすれば魅力的なカードなのだから。
『ソロのキリトとKoBメンバーがデュエルだとよ!』
観客のその一言が始まりだった。鼠算の如く街中に、広がっていき瞬く間にこの場に各種のプレイヤーが集まっていたのだ。……場が一斉に沸く。普通のデュエルは友人同士の腕試しで行うのが一般なのだ。
このような険悪なムードにまでなり、且つ決闘までこじれる事を知らない観客達は更に沸いた。指笛を吹き、歓声も一段と高くなっていった。
そんな緊迫感の中。
「………」
リュウキはキリトをじっと視ていた。
眠たそうにしていたが、キリトのコンディションは問題なさそうだ。この世界では精神力、集中力はパラメータと同じ程に重要な要素。
リュウキは、確信した。キリトなら間違いなく問題ないだろうと。そして クラディール。確かにレベルと言う面においては それなりには高い者だ。が、相手の実力を見破る事が出来ない者は2流。相手の強さを知るのも強さの内だから。そして、最早テンプレとも言える言葉を投げるばかりの所を見ると……、どうしても 結末が判ってしまうと言うものだった。
そんな時だ。
「リュウキ君が戦わなくて良かった……かな?」
レイナは、キリトの方をじっと見ていたリュウキにそう聞いた。
「ん……? 何でだ?」
リュウキはキリトのほうを見たまま、レイナに聞き返した。
「だって、さ。……ほら、リュウキ君、注目集めるの苦手って、ずっと言ってたから……」
この大勢の観客を見てレイナはそう言った。
以前、リュウキ自身も注目を集めるのは好みじゃないといっていたのを覚えていたようだ。そんなレイナの言葉にリュウキは首を振る。
「……ここまでくれば、周りなんて一切視えないさ。今のキリトの様にな?」
リュウキはレイナにそう言うと、キリトの方を指さした。……レイナも、それは十分に伝わっていた。キリトの恐ろしいほどまでに、集中している事が、離れているのにも関わらず感じたのだ。
「………それに、例えオレがこの中で戦ったとしても問題ない。……レイナの為なら何でも、な」
最後にリュウキはそう答えた。レイナにとって、リュウキのその答えは何よりも嬉しい。
「あっ……/// う、うんっ」
レイナは少し赤らめ、笑顔を見せていた。そして、その後レイナはアスナの方を向いて。
「……きっと、キリト君も同じだよ?お姉ちゃんの為に、剣を握ってるんだって」
「ッ……///」
アスナも緊張感が伝わっていたから、言葉は少なかったのだが……、キリトの言葉も聞いている。そしてリュウキやレイナもそう言っているんだ。だから……、キリトの方を視ながら更に顔を赤くさせていた。
自分の為に……戦ってくれているんだと、心に想って。
キリトとクラディールの間にはぴんと張り詰めた空気が流れて、そして時間だけが過ぎていった。
カウントが0になったと同時に《DUEL!!》の文字が弾け、ほぼ同時に2人は地面を蹴って距離をつめた。
クラディールの初動スキルは両手用大剣の上段ダッシュスキル≪アバランシュ≫だった。
それは生半可なガードでは推し負けてしまう。受けることが成功したとしても、衝撃が大きすぎて優先的に反撃に入れず避けても突進力で距離ができる為、使用者に立ち直る余裕を与える優秀な高レベルの剣技だ。
だが……、それはあくまで《モンスター相手》であれば……だ。
キリトはそれを重々承知だった。それどころか、そのスキルを選んでくることすらも読んでいたようだ。基本セオリーで勝てるほど 対プレイヤー戦『DUEL』はあまいものじゃない。極限までの読み合いを制する者がデュエルを制する。
キリトは同じく上段の片手剣突進スキル≪ソニックリープ≫を選択していた。
技同士が交錯する軌道。本来ならば、技同士の衝突は、より重いスキル、武器が優先され、軽い方は当然弾かれダメージを負ってしまう。それも、敗北を喫するに十分だダメージだろう。
故に、クラディールもキリトが繰り出してきたソードスキルを見て、迷う事なく キャンセルする事なく両手剣スキルを振り抜く。
だが、この時キリトが狙っていたのは……、《クラディール》では無かった。
クラディールはこの時、勝利を確信していたのだろう、下衆びた笑みを浮かべ喜々と剣を振り下ろしていたが、この時のキリトの反応速度は、最早初速でのそれを遥かに凌駕していた。クラディールは目で追うことは出来なかったようだが、キリトは僅かだが軌道を変え、そのキリトの剣は、クラディールの大剣の刃ではなく横腹に命中。
交差した瞬間、凄まじい火花が発生した。
武器と武器の衝突が齎すもう1つの現象。
それが《武器破壊》である。
キリトは、その高等技術を最も早い時期に目の当たりにしている。その滅多に起こり得ない武器破壊、それもBOSSキャラの大型武器を破壊したそれを見ているのだ。武器の急所とも呼ばれる場所、そしてその耐久値も見極める眼力。
それは、全てあの男から教わった事だった。
アスナとレイナは息を呑む。
それは時間にしてコンマレベルの時間。そんな刹那な時間だったが、確かに2人は聞いた。キリトとクラディールが交錯したその瞬間に。
『勝負あり……』と言う一言を。
それと同時に、すれ違い様になっていたクラディールとキリト。その表情は先ほどより一変していた。キリトは何も変わっていない。だが、クラディールは違った、わなわなと震えている。
その手に持つ剣は根元からポキリと折れており、そのまま硝子片となって砕け散っていたのだ。
「ば……ばかな」
そう一言だけ呟いていた。
「武器破壊……っ!」
「狙っていたのかよ……」
歓声もそれと殆ど同時に沸き起こった。
この武器破壊と言う現象は少なからず知っていたがその確率は異様に低く、実際に狙ってできる様なモノではないのだ。それが、一定のアルゴリズムで動くモンスターなら兎も角、様々な思考を持つプレイヤーとなれば尚更のこと。アスナもレイナもこの光景には驚きを隠せない。
直前に確かに聞いた『勝負あり』の言葉もそうだ。その声はリュウキだと言うのも理解できた。どうやら、彼もあの速度の技を全て正確に視抜いていたのだろう。それもあるが、キリトとクラディールなら差はあるとは思っていたがよもや此処までとは思っていなかったようだ。
……改めて、キリトのセンスの高さを知った時だった。
キリトは軽く剣を振ると、
「武器を変えて仕切りなおすのなら、付き合うが。もういいんじゃないか?」
跪く様に伏しているクラディールにそう言うが、まるで聞く耳を持たなかったが、すぐさまウインドウで新たな武器を持ち直した。
「うおおおおお!!!」
そのままの勢いで、キリトに斬りかかろうしたが。
素早く割って入ったアスナが、そのクラディールの剣を弾き飛ばした。それを呆然と見ていたクラディールは。
「あ、アスナ様……、ち、違うんです!これは、ヤツが何か汚い手を! 武器破壊も……、何か仕掛けがあったに決まってるんです!でもなければ私が薄汚い《ビーター》なんかに……」
慌てて、弁解を いや 負けの言い訳をしようと口を開くが。
「見苦しいぞ」
そう一言いい、後ろで両手を組みながらゆっくりと歩きよるのはリュウキだ。そして、彼の極長剣がクラディールを見据える。
「……仮にも誇り高いと自称する血盟騎士が、負けた後に そんな情けない言葉を口にするな。……お前こそが恥を知れよ」
「………き、きさまぁぁ!!!」
この男はキリトの次はリュウキの様だ。……矛先を何処へ向ければ気が済むのだろう。
放っておけば、DUEL中だと言うのに、キリトではなく リュウキに飛び掛ってきそうな再び飛ばされた武器を拾おうとしたそのとき。
「……クラディール」
アスナが低く……それでもはっきりとした口調で話す。
「血盟騎士団副団長としてより命じます。これより、護衛の任を解任。別命があるまで本部にて待機。……以上」
はっきりと伝えるその姿に先ほどまでの姿はもう無い。有無を言わさぬ迫力もあった。その傍らにはレイナの姿もある。彼女の表情もあまり見る事がない。……凛とした表情、そして厳しい眼光でクラディールを射抜くように見ていた。
「な……なんだ……と………」
クラディールはわなわなと身体を震わせる。はっきりと突き放す言葉を言われ、もう何も言えなくなってしまったのだ。ただ、口元だけは僅かに動いている。
恐らくは百通りの呪詛であろう言葉を口の中でブツブツと呟きながら、キリト達を見据えた。予備の武器を装備しなおし犯罪防止コードに阻まれるのを承知の上で切りかかる事を考えているに違いない。だが、クラディールは辛うじて自制すると、マントの内側から転移結晶を掴み出した。
それを握力で砕かんばかりに握り締めたそれを掲げ、「転移……グランザム」と呟き、その場から姿を消した。
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