ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第88話 キリト vs クラディール 真に相応しい者は
~74層・転移門前~
今日はアスナとレイナとの約束の日のAM8:45。キリトは、待ち合わせ時刻よりも1時間程早くにこの場所に来て、アスナ達を待っていた。こう言ったシチュエーションは初めてな為、念には念を入れて早めにこの場所に来た様だ。
「ふぁぁぁ………」
転移門前の石段部分に、腰をかけキリトは大欠伸をしている。……見て判る様に、キリトは物凄~~く眠そうだ。
「……昨日、無理しすぎたんじゃないのか?」
隣にいた リュウキはやれやれ……と、呆れ気味にキリトを見ていた。
彼もキリト程早くは無かったが、30分前、つまりAM8:30には到着していて、キリトと合流したのだ。キリトはその言葉を聞き、リュウキの方を見た。
「……解散時間はお前も一緒だっただろ? 何でそんなに平気なんだ?」
昨晩は、結構遅くにまで、共に狩りを続けていたのだ。早くにホームに帰っても絶対に眠れないと思っていたから。キリトは、眠そうにしながらも、リュウキにそう聞いた。
狩りをし終わった後に帰っても、やっぱり、今日の事があるから……寝付けられ無かったようだ。このSAOには、プレイヤーをサポートする便利な機能があるのだが……、残念な事にボタンワンクリックで、即安眠!なんて機能は流石に無い。でも、どういうわけかその逆は存在する。
それが≪強制起床アラーム≫。
それは指定した時間になるとプレイヤーを任意の音楽で無理矢理目覚めさせてくれる。恐らくはキリトはそれで 時間に遅れないように無理矢理に起きたのだろう。だからこそ、眠そうにしているのだろうと推察出来る。
「ん――………」
キリトを見てリュウキはある事を思い出していた。そして、軽く含み笑いをすると。
「それは、精神力の違い……だな? キリト。オレとお前の」
「うぐっっ!!!!」
リュウキの一言は、キリトにとって会心の一撃となり、眠気が一気に飛んじゃったみたいだ。実を言うと、リュウキは以前にリズから聞いていたことでもあるのだ。リズの愚痴話があって、内容の1つが、キリトと50層の雪原に言った時に、そう言われて腹がたった!との事だ。だから、リズには世話になったから、ちょっとした、仇をとった……と言うつもりだった。
と言うよりは、ギャフンと言わして!と頼まれた事もあるだろう。
「……リズだなリュウキ。お前、絶対リズに吹き込まれたろ?」
キリトははっきりと解っていた。最近はリュウキとリズは結構交流があるのも知っている。
絶対に自分の話題が無いはずが無いって思えるから。
「……それは、想像に任せる」
「ぬぬ~~……」
自分が蒔いた種とはいえ……むず痒いキリトだった。……相変わらず本当に2人は仲がよさそうだ。
そして、時刻9:10。
待ち合わせの時間を軽くオーバーしていた。
「来ないな……」
だが、転移門から2人が現れる気配は一向に無かった。
「ん、珍しいな……」
リュウキはそう呟いていた。レイナとアスナは、彼女達は本当に真面目だ。だから、遅れる時はこれまでは連絡が絶対にあったんだけれど、今回はメッセージは無いみたいだ。
2人を待っている間に見かけるのは、勤勉な攻略組であろうメンバー達。次々ゲートから現れては迷宮区に向かって歩いていっていた。
そして、更にその後 AM9:25。
それまでも何度か光っていた転移門内部が再び青く光る。それは、テレポートの光。まあ、2人とも恐らくは他の攻略組のメンバーだろうと思っていたんだが。
その瞬間。
「いやあああああ!!!! あ、危ないーー!!!」
「きゃあああああああ!!! よ、避けてーーーっ!!!」
「うわあああああ!!!」
「ッッ!!」
通常ならば転移者はゲート内の地面に出現するはずの所が、地上から1mは有ろうと言う空中に人影が実体化したのだ。
それで、そのまま2人に大激突したのだ。
人影の数は2つ。そして、いるのはキリトとリュウキの2人。……丁度良い人数だったようだ。その2人は、狙い定めたように、キリトとリュウキにぶつかった。
「な……な………!?」
キリトは、避ける受け止める間もない。思い切りぶつかり、石畳の地面にもちれながら倒れこんだ。
それはリュウキも例外では無く支える事も堪える事も出来ずに、飛ばされ、倒れてしまった。そのまま石畳でしたたか後頭部を打つ2人。リュウキとキリトは少し離れてしまっていた。
圏内である為、HPが減る事は無いが…… これが圏外であればHPバーが何ドットか削れただろう。
「……ッ。何なんだ? 一体……。ん……?」
リュウキも身体を起こす。どうやら、何かがぶつかってきたのは理解できた。でも……ぶつかってきた時に、堪える事は出来なかったが、咄嗟に抱きとめる事は出来た。ぶつかるのを阻止し、受身を取る事はできなかったが……解った事があった。この抱きとめた感じと、そして考えてみれば先ほどの声。
「……レイナ?」
「う、う~~ん……」
そのぶつかってきた人も結構な衝撃だったようで、ちょっと朦朧としていたけれど、その声を再び聞いたら、確信できた。一体誰がぶつかってきたのかを。
そして、もう片方の人物の正体も。
「はぁ……どうしたんだ? レイナ……」
リュウキは、レイナの背中を摩りながらそう言う。
「あ、リュウキ……君。大丈夫、ありがと……」
どうやら、朦朧としていたレイナだったが、徐々に落ち着きを取り戻していた様だ。一方キリトはと言うと……。
「い、いやーーーーっ!!!」
その聞き覚えの有る大声が響き渡る。その次の瞬間キリトの身体が再びすっ飛んだ。あの誰かがぶつかって、飛ばされた時よりももっと強い衝撃。
《バチーーンッ!!》
そして、乾いた音だけを響かせ、木霊させていた。
キリトは、何が何やら判ってなかったが……、座り込んでいる彼女を見て、そして自分の手を見て……悟った。自分が彼女に一体何をしたのかを。
「や、やぁ……おはようアスナ」
……だからこそ、キリトは少し怯えた様子だった。
「一体何したんだ? キリト……」
リュウキはレイナと共に2人の方へと向かった。
「……お姉ちゃん? 大丈夫?」
レイナはアスナの方を見た。……アスナは両腕で胸を抱えていた。顔を真っ赤にさせて。
「あ~……な~るほど」
レイナはもう解ったようだ。一体何があったのか……。まず間違いなく、故意ではなく、思いがけない事だと言う事。
「も~駄目だよ? キリト君っ、女の子には優しくしてあげなきゃ~だよ?」
「ッ!!!」
レイナに悟られて、アスナは一段と顔を真っ赤にさせた。
「いやっ! オ、オレはその……っ!」
レイナの言葉を聞いてキリトは更に動揺をしてた。
「……だから、一体何をしたんだ?」
リュウキだけは判らない。レイナは判ってるようだが……。
「べ、別に何もしてねえって!」
「もうっ言わせないで!!!」
アスナとキリトは殆ど同時に声をそろえていた。
(……それにしても随分と仲が良いように見える、見えてきたな。)
リュウキは判らないままだったが、もうどうでも良いかと思える。仲が良さそうな2人を見れるだけでも十分だったのだ。
「ッッ!! そうだ! そんな事より、おねえちゃん!!」
暫く笑っていたレイナだったが、直ぐに慌ててアスナに駆け寄っていた。
「あっ! 忘れてた!! 急がないと!!」
アスナもそう言ったその時。……もう、遅かったようだ、何故なら、転移門が再び光り輝いたから。そして、中央から新たな人影を出現させた。どうやら、今度の転移者はきちんと両の脚できちんと地面に地をつけている様だ。そこに現れたのはギルド、ギルド血盟騎士団のユニフォームを着た男。
リュウキは会った事は無いから、レイナとアスナに用があるのか?と思ったが現れた瞬間、レイナはリュウキの後ろへ隠れるように移動した。キリトの表情は強張る。
どうやら、キリトは会った事があるようだ。
ゲートから出た男はキリトを見て、そしてリュウキを見て眉間と鼻筋に刻み込まれた皺をいっそう深くした。その表情からは妙に老けて見える。ギリギリと音がしそうなほど歯を噛み締めた後、憤懣やるかたないといった様子で口を開いていた。
「アスナ様、レイナ様。勝手なことをされては困ります!」
ヒステリックな調子を帯びた甲高い声を響かせていた。その男の名はクラディール。
自称アスナ達の護衛騎士。
「さあ! アスナ様、レイナ様 ギルド本部まで戻りましょう!」
「嫌よ! 今日は活動日じゃないわよ!……大体、アンタなんで朝から家の前に張り込んでいるのよ!」
「そうだよ! 非常識もいい所じゃない!それに勝手な事ってなに! 私達は、今日ただパーティを組もうとしただけじゃない!!」
アスナとレイナは口をそろえてそう言っていた。どうやら、突然家の前に現れて驚いた2人は慌てて逃げてきた。だからこそ、さっきの様な場面になったのだろう。
「こんな事もあろうかと私は1ヶ月程前から、ずっとセルムブルクで早朝より監視の任務についておりました。そして、レイナ様、貴女のご結婚……そちらも知っておりましたが、その行動。ギルドの活性を著しく損なう行動だと思わなかったのですか!?」
得意気なクラディールの返事に唖然とせずにいられない。そして切れ気味な様子の2人。
「何であなたにそんな事まで言われなきゃならないの!! 私は私の意志でこの人と一緒にいくって決めたんだから!!」
レイナは、クラディールの物言いに真っ向からそう言い返した。
「……団長はレイの事は認めてるし、個人を尊重してる! それに……その家にまでってのは、団長の指示じゃないでしょう!!」
アスナも同じだった。表情は喜怒哀楽の内の怒の感情、それが全面に出ていた。
「……私はギルド全体のことを言っているのです! それに、私は貴女方、アスナ様とレイナ様の護衛です!それには当然ご自宅の監視も。だからこそ! そこの分不相応な輩が貴女方のご自宅に住まうなどと!!」
クラディールは、憤怒を表しながらそう言うが、レイナとアスナはそれ以上だった。
「「自宅の監視なんて含まれないわよ!!! ばかぁぁっ!!!」」
息の合ったその言葉。心底嫌悪している。当然だ。現実ならば ストーカー行為も同然。現実であれば、捕まって然るべき者なのだ。
と言うよりも、リュウキが帰っていっている姿を何度も見てるから、その時点で何か事件が起きなくて良かったと思える。
「ふぅ……聞き分けの無い事をおっしゃらないでください。本部に戻りますよ」
クラディールはそのまま、キリトとリュウキを無視しながらアスナとレイナの方へと手を伸ばす。だが、その手は掴む事は出来なかった。何故なら……、黙って見過ごす訳の無い二人がいたからだ。
「悪いな、今日はアンタらの副団長達は貸切なんだ。アスナ達の安全はオレが責任を持つよ。別に今日はBOSS戦をしようってわけじゃない。本部にはアンタ1人でいってくれ」
「……同感だ」
リュウキの肩を持ちながら僅かながら震えているのはレイナだ。その震えの原因が目の前の男なら……、リュウキは許せそうに無い。レイナが怒りでとはいえ、震えているのだから。
キリトもそれは同様だったようだ。キリトは、アスナの目を見たからだった。『助けて』と言っている様な目を見た。それを見た以上は放っておける訳がない。
そ の行動……、それを見たクラディールは軋むようにギリ……っと歯軋りをし、その表情はシステムによる誇張を差し引いたとしてもどこか常軌を逸した何かを感じさせるものがあった。そして、まるで火山が噴火するが如く烈火な表情。
「ふざけるな! 貴様らの様な雑魚プレイヤーに お2人の護衛が勤まるかぁ!! 私は栄光ある血盟騎士団だぞ! それに貴様!! 身分を考えろ!このお方と結婚など……恥を知れ!」
「実際後半の部分は何を言っているのか訳が判らないが……、アンタよりはまともに勤まるよ。オレは勿論だが、この男も当然だ」
キリトは正直、余計な一言だと思えたが、止まらなかった。この男はリュウキとレイナの事にまで執着しているのだ。
これまで、どんな困難があってこの2人が一緒になれたのかも知らないで勝手な事を言った事……、それが更に拍車をかけていた。リュウキもキリトが言わなければ言い返していただろう。キリトが先に答えたから、頷くだけだった。
「……そ、そこまでデカイ口を叩くからには、貴様……其れを証明する覚悟があるんだろうな……」
顔面蒼白になったクラディールは震える手でウインドウを呼び出すと、素早く操作した。すると、キリトの目の前にウインドウが現れた。
その内容は
『クラディール から 1vs1デュエルを申し込まれました。受諾しますか?』
と言うメッセージ。
キリトはそれを確認すると、アスナに視線を向けた。
アスナは無言で、それでも固く頷く。
「……いいのか? ギルドで問題にならないか?」
小声で聞いたキリトに同じく小さく、だが、きっぱりとした口調で答える。
「大丈夫。団長には私から報告する」
「私からもお願い……」
側にいるレイナも同様だった。口で言っても判らない男には、身を持って教えるべきだから。
「……本来ならオレが、と言いたい所だが、どうやら最初の指名はキリトのようだ。手並拝見だな。キリト」
それは、リュウキなりのキリトへの激励だった。正直、口で言う以上に、目の前の男の事は、自分が戦りたい、斬り捨てたいとまで思ったが、これは1vs1のデュエルであり、先にカーソルを合わせて、選んだ相手はキリトなのだから。
……もしも、この男と戦れるとすれば、それはキリトの後と言う事だろうが、それはありえなさそうだと確信できる。
「へッ……。見てろって」
キリトはそう返すとクラディールからのデュエルを受託。
ウインドウが『クラディールとの1vs1デュエルを受託しました』と変化し 頭上に60秒のカウントダウンが開始された。
この数字が0になった瞬間、2人の間では街区でも保護が消滅し、勝敗が決するまで剣を打ち合うことになる。
クラディールは、アスナとレイナの首肯をどう解釈したのだろうか。
「ご覧ください! 貴女方には私以外に護衛が勤まるものなどいない事を証明いたしますぞ!」
それは、狂気を押し殺したような表情だ。
その場にはキリトとクラディールのみ。
他の3人は後ろへと下がった。それを確認したキリトは愛剣であるエリュシデータを引き抜く。
クラディールも芝居がかった仕草で腰から大振りの両手剣を引き抜いた。
今 彼女達を賭けた決闘が始まるのだった。
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