魔法少女まどか☆マギカ こころのたまごと魂の宝石
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第3話
放課後、あたしはキリカに会っていた。
「え、私があの子と仲良くなる手伝いをしてくれる?」
「もちろん、キリカが良ければだけど。」
「うれしいけど、どうして?」
「あたし、前の学校で小学五年生の頃から生徒会やってたの。そこでよく生徒の悩みを解決していたりしたんだ。」
「凄い生徒会だね。」
「うん。聖夜学園の自慢の一つ。」
「素晴らしいじゃないか。キリカ、手伝ってもらおう!」
「でもレン。やっぱり、自分の力でやらないと。」
「そう言っていつも無理じゃないか。」
「う・・・」
レンに指摘されてキリカは言葉に詰まる。
「確かに、自分の力で成し遂げようとする意思は大事だ。でも、時には誰かに頼る事も重要だ。壁を打ち破って誰かと関わる事にはそう言う事も含まれているんだ。」
「レン・・・分かった。あむ、お願いしていいかな?」
「もちろん!」
「それじゃあ、聖夜中生徒会見滝原支部、出動ー!!」
「「「「おー!!」」」」
こうして、あたし達はランの掛け声で出発した。
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少し遠出して見滝原に来た私達はたまたま立ち寄った公園でベンチに座る一人の女の子を見つけた。見た所、何か辛いことがあった様子だ。魔法少女ならば魔女化一歩手前といった所だな。丁度いい、私達の願い事を叶える生贄になって貰う。
私達は少女の目の前まで移動した。すると、彼女はいきなり自分を取り囲んで来た私達を怪訝そうに見た。
「何か、御用かしら?」
「ああ。少し、絶望して貰うぞ。」
そう言って私は自分の“魂”を彼女の胸に押し付け、“穢れ”を送り込んだ。
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学校を出たあたし達は、そのキリカさんに親切にしてくれた人がよく来る公園にやってきた。そして、何故か茂みの中を隠れながら移動してる。
「な、何でこんな隠密行動を・・・」
「静かにして!見つかる!!」
そうやってキリカに怒られながら移動すること数分。私達は茂みの隙間からベンチに座る一人の女の子を発見した。
「居た、あの子。」
「へえ、あの子が・・・」
それは、茶色いセーラー服を着て、銀色の髪をサイドテールにした女の子だった。って言うか、胸デカッ!何食べたらあんな風になんの?
そう思いながら、つい自分の胸と比べてしまった。別に小さいという訳でも無ければ、特別大きいと言う訳でも無い平均的なサイズ。でも大丈夫!これからきっと育つから!!
「どうしたの、あむ?」
「な、何でも無いよ。」
「そう?でもそれより、あの人の様子がおかしい。」
「おかしい?どう言う事?」
「何時ものあの子なら、もっと気品に溢れている。なのに、それを全く感じない。むしろ、何だか虚ろで・・・」
確かに、その子はベンチの背もたれにもたれかかりながら虚ろな目をしていた。あれって、まさか・・・!
「あむちゃん!」
「近くに✖️たまの気配がするよ!!」
あたしの予想通り、ラン達が✖️たまの気配を感じ取った。そして・・・
『ムリ〜』
背後から小学生の時からもう聞きなれた声が聞こえる。振り返ると、そこには白いバッテンが描かれた黒いたまご『✖️たま』が浮かんでいた。でも、それだけじゃなかった。✖️たまの中央にギザギザのヒビが入って上下に割れる。そこから頭に赤い✖️のついた目付きの悪い三頭身の黒いキャラが現れた。
「✖️キャラ!?もう孵化しちゃったの!?」
「あむ、あれが何か知ってるの?」
「あれは✖️キャラ。こころのたまごの持ち主が悩みをかかえたり、夢を諦めちゃうと、こころのたまごに✖️がついちゃうの。そして、そこから生まれるのが✖️キャラ。」
こころのたまごは人の『願い』や『夢』の塊。『なりたい自分』を強く願えば、しゅごキャラが生まれるしゅごたまになるけど。逆に強い『悩み』や『諦め』で✖️キャラが生まれる✖️たまになってしまう。
「あむ!あの子の様子が!!」
キリカの言う通り、ベンチにもたれかかっていたあの子が急に悪夢にうなされているような状態になった。
「やっぱり、この✖️キャラはあの人の・・・」
「あむ!あの人はどうなるの!?」
「いい事は起きないのは確かだよ。」
「そんな!!」
「だから浄化する。行くよ、ラン!」
「よおし!」
ハンプティロックは今後必要な子の為に聖夜小に返した。でも、もうあたしはハンプティロック無しでも大丈夫。
「あたしのこころ、アンロック!!」
あたしはその言葉と共に光に包まれる。すると、ランがたまごに戻ってあたしの胸に吸い込まれた。そのまま、光が弾けてあたしの姿が露わになる。頭にハートの飾りを付けたピンク色のチアリーダー。その名は・・・
「キャラなり!アミュレットハート!!」
ポーズを決めたあたしは✖️キャラの前に躍り出る。
「ムゥリィ〜!!」
✖️キャラは黒い4つの宝石を出してきた。さらに、その先端にビームサーベルみたいに黒い刃を出す。そして、それをあたしに向かって突っ込ませてきた。
「ハートロッド!」
それに対し、あたしは両端にハートの装飾が付いた棒、ハートロッドを出す。
「スパイラルハート・スペシャル!!」
そして、それを振るってピンク色の斬撃を飛ばし、黒い宝石をなぎ払った。
「ムリッ!」
でも、✖️キャラはそれにめげずにまた宝石を飛ばして来る。あたしは後ろに居るキリカに気を付けながらハートロッドで弾く。そんな中、✖️キャラの持ち主の声が聞こえてきた。
“誰も、私を見てくれない。皆が見ていたのは私自身じゃなくて、お父様の娘・・・誰も私を見てくれないのに、私に生きる意味ってあるの・・・”
聞こえて来る声は、✖️キャラの持ち主の悩み。心に✖️を付けてしまった理由。
「生きる意味?バカじゃん。」
「ムリ!?」
でも、そんな弱音をあたしは一刀両断する。
「自分の生きる意味なんて、あたしにも分かんないよ。けど、そんな事より大事なのは自分がどうなりたいって事じゃん!」
そう断言すると、✖️キャラは動きを止めた。
「周りが自分をフィルター越しにしか見てくれない辛さは、あたしだって分かるよ。」
ラン達が生まれる前、あたしはずっと周りからは『クールで強くてかっこいい女の子』として見られてた。そんな見た目の印象『外キャラ』か自分のパパか。多少の違いはあるけどフィルター越しに見られているのは同じで、辛かった。でも、変わりたいって願ったからラン達が生まれたんだ!
「でも、それならなればいいじゃん!他の何者でもないなりたい自分に!!今直ぐには無理でも!少しずつ!!」
私の言葉で、✖️キャラは完全に動きを止めた。今!
「ネガティブハートにロックオン!」
あたしがそう叫びながら✖️キャラを指差すと、✖️キャラはピンク色の大きなハートに拘束される。
「オープンハート!!」
あたしは両手でハートの形を作ると、そこからピンク色の波動を✖️キャラに向けて発射した。波動を受けた✖️キャラは殻に包まれて✖️たまに戻る。そして、✖️が取れて金色のハートマークと白い翼の描かれた白いたまご『こころのたまご』へ戻った。こころのたまごはそのまま飛翔してあの子の胸の中に吸い込まれていった。
「大丈夫ですか?」
キャラなりを解除した後、あたしは✖️キャラの持ち主に話しかけた。
「あれ?私はいつの間にうたた寝を?あなた達は?」
「いや、何かうなされてたみたいだったから。でも、もう大丈夫みたいですね。」
「ええ。何だか、不思議とすっきりした気分よ。あら?あなたは・・・」
その時、持ち主の子はあたしの後ろに隠れているキリカに気付いた。
「あなたは、確か前にコンビニで会った・・・」
「お、覚えててくれたの?」
「ええ。お久しぶりね。」
「は、はい!」
「キリカ。チャンスだぞ。」
レンが耳元でそう言うと、覚悟を決めたのか、キリカは前に出てきた。
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そうだ。私がレンを生み出した理由。それは他人が信じられなくて私自身が作り上げた“壁”を打ち壊したかったからなんだ。この事はもう、親友のえりかと仲直りした時にはもう分かってた。でも、まだ私はこの子との間に壁を作っていた。嫌われるのは、友達になれないのは嫌だから。そんな恐怖と言う名の壁を作っていた。
「あの、お願いします!私と友達になって下さい!!」
だから、勇気を持ってその壁を打ち壊す。そうして、私の気持ちを伝える。
「あら、どうしてかしら?」
「その、私ってずっと人間不信になっていたんです。でも、見ず知らずのあなたが親切にしてくれたおかげで、また他人を信じてみようって思えるようになって、あなたとも友達になりたいって思ったんです。」
「そう・・・でも、私でいいのですか?」
「え?」
「美国久臣と言う男を知っていますか?」
美国久臣?確か、少し前に汚職が疑われて自殺した市議会議員だったような・・・
「私は、その男の娘です。」
その言葉を聞いて、私は✖️キャラから聞こえてきたこの子の嘆きの意味を理解した。
「父は昔は誰からも尊敬される人で、私も誇らしかった。でも、父が疑われて自殺してからは、誰もが父を悪く言って・・・その娘でもある私も白い目で見られるようになった。そして、その時になって気付いたの。誰も、私を私個人ではなく美国久臣の娘としてしか見てくれない。そんな私でもいいのですか?」
そう問いかけてくるけど、私は迷わずに答えた。
「いいに決まってる。私はあなた自身の見ず知らずの人に親切に出来る所に惹かれたんだ。お父さんの事は関係無い。」
「そうですか・・・」
目の前の子は黙ってめをつむる。そして、こう答えた。
「美国織莉子。」
「え?」
「私の名前です。友達になるのなら、知っておく必要があるでしょう?ほら、あなたのお名前も教えて下さい。」
「私、呉キリカ。よろしく、織莉子!」
「よろしく、キリカ。」
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あむ達の様子を遠くから見る複数の影があった。
「驚いた。まさか“魔女もどき”を浄化出来るなんて。」
「これがオリジナル魔法少女の力か。」
「あの力ならきっと、魔女を浄化することだって出来る。だから取り戻す事が出来る!」
「落ち着いて、サキちゃん。まだそうと決まった訳じゃ無いでしょ?」
「そうだな。とりあえず、このまま“エンブリオ探し”をしながらデータを集めるのが一番だと思うよ。」
「そうだったな。だが待っていてくれ。ミチル・・・」
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魔女退治終了後、私達はほむらちゃんにしゅごキャラの説明をする為にマミさんの家に来ていた。
「説明してもらうわよ。オリジナルの魔法少女について。」
「分かっているさ。」
キュウべえはほむらちゃんに今日のお昼に私達にしたのと同じ説明をした。
「それで、その妖精と言うのはこの部屋に居るの?」
「うん。」
今、エイミーは私の顔の横で浮かんでいる。でも、見えないって言ってたキュウべえとさやかちゃんはもちろん、マミさんとほむらちゃんにも見えてないみたい。
「まあ、仕方ないさ。妖精が見えるには条件があるんだ。」
その時、キュウべえが私達も初めて聞く情報を話した。
「一つは妖精の持ち主。しかも、自分が妖精を生み出していれば、他人の妖精を視認することも可能だ。もう一つは霊感の強い人間。妖精は霊的な存在だからね。僕も気配だけは察知出来るんだ。」
あ、気配だけは分かるんだ。
「そして最後に幼稚園以下の幼い子供。これについては何故見えるのか、まだ不明だね。」
「あれ?でもそれってまどかにとって不味いんじゃ・・・」
さやかちゃんの言う通り、私には幼稚園児の弟が居るの。名前は鹿目タツヤ、通称タッくん。
「その点は大丈夫だと思うよ。幼稚園児が妖精が居ると言っても、大人は本気で相手しないと思うし。」
「それもそっか。」
「妖精じゃなくてしゅごキャラよ。」
さっきからずっと妖精って言われてエイミーが何だか不満そうだった。そんな時、ほむらちゃんが私に聞いてきた。
「それで、鹿目まどか。あなたはその妖精の力でどうするつもり?」
「え?とりあえず、まずは修行かな?このままマミさんと一緒に戦うにも、ちゃんと変身出来るようになるのにも必要だと思うから。」
「そう。でも、私はそう言うのはお勧めしないわ。」
「え?」
「ちょっと転校生!どう言う事!!」
「どんなに華麗に見えても、魔法少女の戦いは常に命懸けよ。あなたには本当に、その覚悟があるのかしら?」
ほむらちゃんの言葉に私は何も言えなくなってしまう。
「まどか。彼女の言う通りよ。」
「エイミー!?」
「私はあなたの“なりたい自分”。つまり、将来の可能性よ。そして、それを実現するにはそれ相応の覚悟と努力が必要なの。」
「覚悟と、努力?」
「そう。例えば、苦手を克服した自分だったら、苦手を克服する努力が必要だし、将来何かの仕事に就いた自分なら、その為の努力が必要なの。完全にしゅごキャラに頼り切ってしまうと、それが出来なくなるわ。」
「どうしたの、まどか?」
その時、さやかちゃんが不思議そうに私の方を見ながら聞いてきた。
「その、エイミーもほむらちゃんと同じ意見みたい。」
「ええ!?」
「あら、意外と分かっているみたいね、その妖精。」
そう言うと、ほむらちゃんは席を立った。
「それじゃあまた明日、学校で会いましょう。その間に考えておきなさい。あなたがどうすべきかを。」
そして、ほむらちゃんは帰って行った。
続く
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