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俺と乞食とその他諸々の日常

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五話:乞食と日常

 
前書き
そう言えばまだこのタイトルだしてなかったなと思ってのタイトルです。 

 

 あー……虫とかカエルの声が癒しを与えてくれるなぁ。
 川のせせらぎはまるで優雅な音楽のように俺に眠気を誘ってくる。
 夜空に光り輝く星達に照らされ木々が輝き幻想的なコントラストを生み出して飽きが来ない。
 ああ……本当に―――どうしてこうなった?

 俺は僅かな手荷物と共に溜息を吐きながらジークの住処であるテントの中に入る。
 中に入ると何故かガチガチに緊張した状態で正座しているジークがいたが無視して話しかける。

「ジーク、俺の家がない」
「ホ、ホームレスやね」

 意外とさっぱりとしているテントの中で腰を下ろしてジト目で睨みつける。
 先ほど言った通り俺は家が無くなった。別に家賃を滞納して追い出されたというわけでもない。
 物理的に家が無くなったのだ。どうしてこうなったのかと俺は少し前の出来事を思い出す。



『ジーク、逃げろ! そっちにゴキ―――』
殲撃(ガイスト)!』



 実に簡潔であるがそれが WAGAYA NO OWARI だった。
 一匹の黒くてカサカサと動く物体の命と引き換えに我が家は遥か彼方に旅立った。
 これが黒い奴の自爆テロだったのなら間違いなく成功だろう。
 エレミアの神髄により半壊した家だったが幸いにもベランダ方向に撃たれた為にご近所に被害は無く貴重品も無事だった。
 だが、風穴が空いた状態で住めるわけもないのでいつも通りヴィクターに後処理を頼んで俺は緊急避難先としてジークのテントに来たわけだ。

「なあ、確かに飛んでくる『黒いあいつ』には命の危険すら感じるが、何もガイストする必要はなかったんじゃないか?」
「本当にごめん……無我夢中やったんよ」
「はぁ……まあ、終わった物は仕方ないか」

 必要経費はヴィクターが出してくれるから気にしなくていいし。
 まあ、大家さんの唖然とした表情は中々に堪えたけど。
 何も俺がやったわけじゃないんだけどな……。
 まあ、今はそれよりも差し迫った問題があるんだけどな。

「なあ、ジーク。俺の家がない」
「う、うん……それはようわかっとるよ」
「ジーク、俺の家がない」
「ん、うん?」

 ジークが中々気づかないので言い辛いがハッキリと言うしか道がない。
 なので、俺は真剣な目でジークを見つめて告げる。

「俺は今日どこで寝ればいいんだ?」
「あ……」

 ようやく気づいたのか、気の抜けた声を出すジーク。
 家がない以上は俺の寝る場所が無い。ホテルにでも泊まろうかと思ったが色々とやっていたせいで時間が遅くなりそれも出来ない。
 現状俺が寝ることが出来る場所はジークのテントしかないわけだ。

「そういうわけでだ、ジーク」
「ひゃ、ひゃい」

 何を想像したのか思いっきり舌を噛みながら返事をするジーク。
 顔まで赤らめているその姿は正直言って可愛らしいが、俺は容赦しない。


「俺がテントで寝るから、お前は外で寝ろ」
「普通逆やないの!?」
「どこの誰のせいでこんな状況になっていると思っているんだ?」
「うぅ……」

 流石にそこまで言うと自分が悪いのは分かっているので寝袋を引きずりながら外に出て行くジーク。
 俺はその様子を見送りながら適当に毛布を引っ張り出して被る。
 明日はいつもより早く起きないと学校に間に合わないからもう寝ないとな。
 俺は外に居るジークのことを気にもかけずに目を閉じる。

「……やっぱ、ちょっと寒いなぁ」
「………………」

 ……特に何も聞こえなかったから早く寝よう。

「また、やってもーた……。あの頃から何にも変わってへんのかなぁ……」
「………………」

 ジークの独り言が聞こえてきていつもならすぐに眠れるのだが今日は眠れない。

「何やっても迷惑かけて……やっぱり、嫌われとるんかな」
「…………っ」

 そうだ、今日はテントの中が暑くて寝苦しいから寝れないんだ。
 そうだと分かれば善は急げだ。快適な眠りの為に行動を起こすとしよう。

「……ジーク」
「リ、リヒター!? どないしたん?」
「いや、やっぱり俺が外で寝る。暑いからな」

 俺はジークの返事も聞かずに黙って外に寝転がる。ああ、星が綺麗だな。
 偶にはこうやって外で寝るのもいいもんだな。
 そのままの状態でジッとしているがジークが中々動き出さない。

「寒くないん?」
「これぐらいがちょうどいい」
「体震えとるよ?」
「……………インナーマッスルを鍛えているだけだ」
「寒いんよね」

 再度尋ねて来て、俺の言葉を無視するジーク。普段ならもっとキレのいいギャグが出てくるんだがどうも眠くて頭が回っていないらしい。
 決して図星だったからではない。
 そのうちジークが近づいて来て俺の隣に寝転がる。

「何をしているんだ」
「こ、こうやったらあったかいかなおもーて」
「恥ずかしいなら無理してするなよ」

 声が震えているので顔を見なくても真っ赤になっているのが分かる。
 おかげでこっちも少し恥ずかしいだろ。

「はぁ……どうせ一緒に寝るんならテントの中でいいだろ」
「やっぱ、寒かったんやん」
「今度からおでんを作るのをやめるぞ」
「やめて、それだけは堪忍してーや」

 二人でテントの中に入り背中を向けて横になる。
 少々暑いがまあ、ジークに風邪を引かすわけにもいかないしな。
 さっきは俺が追い出した? そんな昔の事は覚えていないな。

「ああ、それとこれは独り言だ」
「どうしたん、突然?」
「俺は嫌いな人間と一緒に居られるほど優しい人間じゃないんだ」
「っ! リヒター……」

 後ろで驚いて俺の方を振り向く気配がするがこれ以上動きたくないので無視する。
 しばらく、俺の背中をジッと見つめる視線が続いていたがやがてそれもなくなる。

「おおきに……。それからおやすみ、リヒター」
「……おやすみ、ジーク」

 その言葉を最後に俺は幸せな夢の世界へと旅立っていった。





「………おはよう、ジーク」
「おはようや、リヒター」
「なあ……何で俺はお前に組み伏せられているんだ?」
「起こそうとしたら手刀してきたからや」

 どうやら、また昔のくせが再発したらしい。
 組み伏せられたままの状態で時間を確認すると6時30分だった。
 普段は絶対に起きないであろう時間だが今日は事情が事情なので仕方なく起きる。

「それにしても、やけに鋭い手刀やったけど、リヒターもなんかしとるん?」
「対目覚まし専用格闘技なら納めているぞ」
「絶対それ流派やないやろ」

 当然だ。これは夢と(うつつ)の間で戦う挑戦者のみに身に着けることが許された奥義なのだからな。
 などとカッコよく言ってみるがようは寝坊助が度重なる寝坊の末に身に着けた無駄な技である。
 因みに効果はより寝坊する確率が上がるだけという悲惨な物だ。
 だからこそ、封印したのだがこうして偶に発動してしまうのが厄介な所だ。

「それにしても……なんか、こうやって起こすのって新婚さんみたいでええな」
「お前の中での新婚夫婦は毎朝どちらかを組み伏せているのか」
「ふ、夫婦……えへへ……夫婦……」
「まさか、自分からふっておいてトリップするとは思わなかったぞ」

 顔に手を当ててだらしなくほおを緩めるジークに若干引きながらも取りあえず脱出して飯を作る。
 今日ぐらいジークにやらせようかとも思ったが本人が今のところ役に立たないので放置する。
 持ってきておいた材料で簡単におにぎりを作り、未だにトリップしているジークの前に差し出すとハッとしてすぐにお礼を言って食べ始める。
 随分と現金な気もするがいつものことだから気にしない。

「それじゃあ、俺は学校に行くからな」
「ん、いってらっしゃい」

 食べ終えてすぐに学校に向かい始める俺。今日は余り時間がないからな。
 と、忘れるところだった。渡す物があったんだ。

「ほら」
「なんなんこれ? 開けてもええ?」
「ああ、ちょっとしたプレゼントだ」
「これ……リボン?」

 俺が渡したのは青色のリボンだ。ジークの目の色に合わせてみた。
 この前好きな物を買ってやると言って結局買ってなかったからな。
 自分から言った以上は約束を破るのも嫌だから買ってきた。

「お前いつも同じ色のやつをしているだろ。偶には他の色もしたらどうだと思ってな」
「こ、これ、ホントに貰ってええの?」

 どこかしら信じられなさそうな顔で聞いてくる。
 何というか俺はそんなに善行をすると怪しいのだろうか。
 ミカヤにしろ、ジークにしろ、失礼だろ。

「嫌なら返してもらっても構わないぞ」
「嫌やない! 本当にうれしいよ! おおきにな、リヒター」

 先程よりもだらけた顔でほおを緩ませるジークだったが、喜んでくれているのだと思うと先程よりは引かずに済んだ。
 まあ……一切引かないというのはないんだけどな。
 とにかく、これ以上のんびりしていたら本当に遅刻するので俺は歩き出す。
 
「そう言えば、そろそろインターミドルの参加受付が始まるんだったな。……今年は飯を作る程度の応援はしてやるか」

 そんなことを呟きながら俺は進んで行くのだった。
 因みにだが、荷物を取りに夕方にもう一度ここに来たらジークがまだトリップしていたのは余談だ。

 
 

 
後書き
偶にはギャグ少な目で甘くしてもいいよね。
 
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