シンデレラボーイ
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第二章
「実力とチャンス、その二つがないとね」
「駄目だね、実際に」
「人間は自分だけじゃ何も出来ないよ」
「神様のご助力があってこそ」
「それでこそだね」
「その通りだよ、こうなったら」
ここでキュリーが言うことはというと。
「神に祈るしかないね」
「チャンスだけはね」
「何時どうして来るかっていうとね」
「本当に神のみぞご存知だよ」
「全く以てね」
こう言うのだった、とかくだ。
キュリーは世界に羽ばたくチャンスを待っていた、そうしつつその歌劇場で歌い続けていた。その中でだった。
彼がいるその歌劇場が賑やかになっていた、何故なら。
「もうすぐだな」
「ああ、もうすぐだよ」
「あの人が来るぞ」
「モンセラート=ローリーが」
スタッフ達も話していた。
「この国出身の世界的ソプラノ歌手がな」
「祖国を大事にしてくれてよくこの国でも歌ってくれるにしても」
「それでもな」
「この歌劇場にまで来てくれるってな」
「嬉しいことだ」
「早く用意をしないとな」
「ああ、だからな」86
くれぐれもという口調であった。
「失礼のない様にな」
「それは当然だろ」
「共演者もしっかりと選んで」
「気のいい方らしいけれどな」
やはりそれでもというのだ。
「失礼があったら国中から叩かれるぞ」
「うちの国民こういうことに五月蝿いからな」
「歌と酒、食事には五月蝿い国民性だ」
「怒らない筈がない」
「だからな」
「絶対に粗相のない様に」
「最高の演出、おもてなしをしよう」
こう口々に言ってそのローリーが来る時を待っていた、そしてそのローリーが歌う作品についても当然チェックされた。
「アドリアーナ=ルクブルールな」
「正真正銘のプリマドンナオペラだな」
「ソプラノが一番重要な役だ」
「メゾもだけれどな」
「そのメゾも凄いのが来るしな」
「フィレンツィオ=エルドーラな」
「ローリーとも共演が多くて数多くの名舞台を残している」
そうした歌手だというのだ。
「実力は伯仲」
「かなり凄い舞台になるかもな」
「しかしな」
ここでだ、一つ問題があった。
この作品の男性歌手のことだった。
「フランコ=カルローナはキャンセルか」
「あの人も来る予定だったのにな」
「ソプラノとメゾ=ソプラノの作品にしても」
「テノールも必要な作品なのに」
「あの人が出ないとなると」
「代役いいのいるか?」
このことがここで問題になった、テノールの。
このことは何度も話し合われた、だが。
そのテノールは決まらない、そのまま遂にだった。
ローリーが来てもだった、まだだった。
話が収まらなかった、それでだった。
その話を聞いたローリーがこう言った。ローリーはその見事な恰幅の身体を少し揺らしてだ。そのはっきりとした顔立ちの中にある大きな目を輝かせて言った。
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