シンデレラボーイ
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第一章
シンデレラボーイ
シンデレラの話をだ、若いオペラ歌手ホセ=キュリーはパブで今契約している歌劇場のスタッフ達に話していた。
「子供の頃親に教えてもらって」
「いいと思った」
「そうだっていんだね」
「そうだよ」
その通りだとだ、彼は答えた。
「あれはいい話だね」
「確かにね、子供の頃に読んでね」
「ママにベッドで聞かせてもらって」
「それでいいと思ったよ、僕も」
「あのハッピーンドにはね」
「実に感動したよ」
「アニメも素晴らしい出来だった」
スタッフ達もこうキュリーに答えた。
「継母や姉達に虐げられていた可哀想な娘がね」
「魔法使いの力でカボチャの馬車に乗ってお城の舞踏会に参上する」
「そして王子様と一緒に踊って見初められ」
「残していったガラスの靴が手掛かりとなる」
「王子様と結ばれ継母も姉達も許す」
「最高のハッピーエンドだね」
「全くだよ」
キュリーは安いラム酒を飲みつつ答えた。
「僕の大好きな話の一つだよ」
「ロッシーニのオペラにもあるね、チェネレントラ」
「こっちは魔法使いは出なくて継母じゃなくて継父だけれど」
「こっちも最高のハッピーエンドでね」
「いいものだね」
「君も王子役でこの前歌ったね」
スタッフの一人がキュリーに言う、その茶色の後ろに少し撫で付けた奇麗な髪と細面に優しげで気品のある顔立ち、奇麗なブラウンの目も見てだ。キュリーはスタイルもよく背は普通位だが痩せていい顔立ちをしている。
「いい歌だったよ」
「有り難う」
キュリーはそのスタッフの言葉に笑顔で応えた。
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「そうだね、ただ」
「ただ?」
「いや、僕もね」
「君も?」
「メジャーになりたいよ」
今以上にというのだ。
「是非そうなりたいよ」
「そうだね、スカラ座やウィーンでも歌いたいよ」
「そしてメトロポリタン歌劇場でも」
「歌いたいよ」
「この歌劇場だけじゃなくて」
「世界一を飛び回ってね」
それこそというのだ。
「歌いたいよ、日本にも行きたいね」
「そうなんだね、やっぱり」
「この歌劇場だけじゃなく」
「他の劇場にも行きたい」
「そうなんだね」
「その通りだよ」
キュリーはあらためてスタッフ達に話した。
「是非ね、ただね」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「僕にはそこまでの実力はあるよ」
世界を飛び回って歌う、まさに超一流の歌手達と同じ位のそれが備わっているというのだ。彼には自負があった。
だが、だ。それでもだというのだ。
「けれどね」
「ああ、機会がない」
「そう言うんだね」
「チャンスがない」
「そういうことだね」
「そうだよ、僕にはチャンスがないんだ」
キュリーはこのことをだ、自分で言って嘆くのだった。
「世界に飛び回る」
「つまり魔法使いが来ない」
「そして王子様もまだ出会っていない」
「そういうことなんだね」
「そうだよ、世の中残念なことにね」
実際に残念そうにだ、彼は言った。
「幾ら実力があってもね」
「チャンスがないとね」
「神がそれを用意しておいてくれないと」
「どうしようもない」
「羽ばたけないね」
「そうだよ、世の中はそうなんだよ」
チャンスも重要だというのだ。
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