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うわん

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第四章

「この墓場の手入れをわしと共にしてもらいたいのじゃ」
「ああ、そういうことなんだね」
「だから人を連れ込むのか」
「わしは廃寺に住む妖怪じゃ」
 うわんは自ら言った。
「そしてじゃ」
「人を連れ込んでお寺の掃除をさせる」
「そうした妖怪なのか」
「寺が廃れて墓場が荒れて何がよい」
 こうもだ、うわんは二人に言った。
「人の魂が眠っている場所ぞ」
「うん、お墓はね」
「そうした場所であることは確かだ」
「だからなんだ」
「僕達にも」
「頼めるか、嫌ならよい」
 うわんも強制はしなかった。
「すぐに帰るのじゃ、無理強いはせぬ」
「いや、これもね」
「何かの縁だ」
 二人は墓場の荒れ様にこれは、と思ってだ。うわんに答えた。
「こんなお墓じゃいる人達も気の毒だよ」
「死んで寝ている人達もな」
 魂がとだ、二人も言うのだった。
「それならね」
「これは掃除しないとな」
「そう言ってくれるか、では早速はじめるとしよう」
「そうだね、とはいってもね」
「この荒れ様と広さだと夜までには終わらない」
 喜椎人も庄汰も言う、今日中にはとだ。
「それじゃあね」
「明日も来るか」
「それで休日も来て」
「そして手入れさせてもらう」
「そうか、では頼むぞ」 
 右腕は二人に笑顔で応えた、そして早速だった。
 二人と妖怪は一緒に墓掃除をはじめた、雑草を抜き墓石の苔を拭い取りだった。卒塔婆も新しいものを出した。卒塔婆とそこに書く筆や墨、硯はうわんが出した。
 何日かかけて掃除しつつだ、うわんはその中で言った。
「この寺も住職がいなくなって久しい」
「それでなんだ」
「ここまで荒れたんだな」
「先代の住職が死んで跡継ぎがいなくてのう」 
 それで、というのだ。
「人がおらん様になった」
「お寺もなんだ」
「跡継ぎが必要か」
「これは他の宗教の同じじゃ、神社も教会もな」
「そうなんだ」
「跡継ぎは必要なのか」 
 二人はうわんに言われてこのことを知った、寺や神社もその跡を継ぐ人がどうしても必要だということをだ。
「さもないとこうなる」
「荒れるのか」
「そうじゃ、店もそうじゃろ」
「うん、子供さんがいなくてね」
「閉店もあるな」 
 店の話になるとだ、二人もわかった。
「世の中何かとね」
「跡継ぎの問題があるな」
「子供がいない、子供が跡を継いでくれない」
「色々な理由があるな」
「そうじゃ、跡継ぎがおらぬのは寺でもある」
 何かと、というのだ。
「だからじゃ」
「それでこうした廃寺も出来るんだ」
「そうなんだな」
「そしてこの通り寺もそこにある墓も荒れる」
 うわんは二人に苦々しい顔でこの現実を話した。 
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