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うわん

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第三章

「そしてうわんと返せば何もせぬが」
「返さないとか」
「僕達みたいにか」
「そうじゃ、こうして寺の中に引き摺り込むのじゃ」
 二人にそうした様にというのだ。
「そうするのもまたわしの習性じゃ」
「そして僕達を引き摺り込んで」
「一体何をするつもりなんだ」
「棺桶の中に入れるにしても」
「火葬で棺桶がある筈もないしな」
 喜椎人と庄汰はこのことを自分達で話した、お互い顔を見合わせて。
「殺す様なことはしないと思うけれど」
「そうした感じの妖怪さんでもないし」
「棺桶に入れる?殺す?馬鹿を言うでない」
 うわんの方も二人の会話に顔を顰めさせて返した。
「わしはその様な物騒な妖怪ではない」
「あっ、そうなんだやっぱり」
「それは何よりだな」
「いや、僕達も流石にね」
「殺されたくはないからな」
「そんなことをして何になる」
 うわんは二人に顔を顰めさせたままこうも言った。
「わしは血生臭いことはせぬ」
「じゃあどうしてなのかな」
「人をお寺の中に連れ込むのは」
「まさか本当にいやらしいことするのかな」
「そうした妖怪がいても不思議じゃないな」
 ここでまたこうしたことを話す二人だった。
「女の子を引き摺り込んでとかね」
「あるな、確かに」
「じゃあ僕達でどうにかならないのなら」
「妖怪ポストに連絡しようか」
「そうしたこともせぬ、あとわしは衆道の趣味もない」
 今度はうわんから言って来た。
「猥褻なこともせぬわ」
「じゃあどうしてなんだろう」
「人をお寺の墓場に引き摺り込んで何をするんだ?」
「それがわからないよね」
「僕もだ」
「よく見るのじゃ、この墓場をな」 
 うわんは顔を顰めさせたままだ、二人にまた言った。
「よくな」
「墓場の?」
「この中を」
「そうじゃ、どう思う」
 真面目な感じでだ、二人に言うのだった。
「この中をな」
「そういえば結構」
「荒れているな」
 二人はうわんに言われるまま墓場の中を見回した、それでこのことに気付いた。 
 墓石は古ぼけ苔生しさえしている、卒塔婆もかなり傷んでいる。あちこちに雑草が生えており色々と散らかっている。
 その墓場の中を見回してだ、喜椎人も言った。
「お墓参りする人いないのかな」
「いないから荒れているな」 
 庄汰はこのことを察して喜椎人に答えた。
「それにお寺に人がいれば」
「手入れしているよね」
「そうしているな」
「この寺は廃寺じゃ」 
 うわんがまた二人に言って来た。
「もう住職も誰もおらずな、墓参りをする子孫もおらぬ」
「ああ、やっぱり」
「それでここまで荒れているのか」
「このままだとね」
「より荒れるな」
「だからじゃ、御前さん達と言うか人を連れ込んだのはな」
 それはというのだ。 
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