美しき異形達
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第五十四話 山師の館その一
美しき異形達
第五十四話 山師の館
薊達は伯爵のリムジンに案内されてだ、六甲の山を進んでいた。薊は自分の横に来たサイドカーに乗る菖蒲に問われた。
「いいかしら」
「何がだ?」
「ええ、これからのことだけれど」
「戦いの後か」
「薊さんはどうするの?」
「どうするのって決まってるだろ」
あっさりとした口調でだ、薊は菖蒲に答えた。
「それは」
「そうなの」
「このまま単位取ってな」
そして、というのだ。
「高校卒業して大学も出て」
「就職もして」
「いい人見付けてな」
そして、というのだ。
「結婚して子供産んで育ててだよ」
「お母さんになるのね」
「そのつもりだよ」
「普通に生きていくのね」
「ああ、菖蒲ちゃんもだよな」
「ええ、私もね」
菖蒲はヘルメットの中からだ、微笑んで答えた。
「大学を卒業して就職して結婚して」
「お母さんになるんだな」
「ええ、私もそうなりたいわ」
「わかったぜ、ただな」
「そうなりたい為にはね」
「これから最後の戦いだからな」
「それを終わらせないとね」
菖蒲はヘルメットの中で笑いつつ薊に言った。
「絶対に」
「ああ、そうしないとな」
二人でこうしたことを話しつつ先に進む、六甲の山道はここでも曲がりくねりそして道の横には山、そして何もない崖があった。
その崖、フェンスの向こうの方を見ながらだ。菊は向日葵に言った。
「バイク乗るのは好きだけれど」
「今は、よね」
「普段と違う感じよ」
「私もよ」
向日葵もその崖の方を見つつ菊に答えた。
「やっぱり戦いに向かうから」
「最後のね」
「バイクに乗ったままで戦ったこともあるけれど」
「ええ、皆ね」
「それでもね」
今回は、というのだ。
「来ることを念頭に置いてるから」
「普段と違う気持ちね」
「出て来てもね」
「バイクに乗ったままでね」
「戦うだけね」
「本当にね」
それだけだとだ、二人は覚悟を決めた口調で話していた。そうした話をしている二人のすぐ後ろで桜は青空を見てから菫に言った。
青空は何処までも澄んでいる、もう秋の空になろうとしていた。その高い空を見つつだ、菫に言ったのである。
「奇麗な空ですけれど」
「帰りはもっと奇麗よ」
「戦いが終わった後だからですね」
「気分的にね」
見るその気分でだ。
「そうなるわ」
「そうですね、ではその青空を見ることを楽しみにしています」
「そうよね、あと桜ちゃんは」
「はい、何でしょうか」
「茶道もしていたわね」
「はい」
桜はその問いに素直に答えた。
「それが何か」
「秋はお茶よね」
「いえ、茶道は何時でも楽しめます」
「どの季節でもなのね」
「そうです、秋だけでなく」
四季もまた楽しむものだというのだ、茶道は。
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