とある緋弾のソードアート・ライブ
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第一六話「平均化」
1,
男達の多くはと様々な国にて軍事機構に所属していた。アメリカ・ロシア・中国……日本のSATのような特殊部隊の隊員だったものもいる。
国籍・人種・年齢も様々な男たちだが、彼らが元軍人や元警察官であることの他に、もう2つだけ共通点がある。
一つは、彼らがそれらの職業についた理由が元からそうだったのか、その職業についてそうなったのかは知らないが、人殺しを愉悦の一種として楽しんでいること。
もう一つは、彼らがその末に所属部隊の中で問題を起こし、退役させられた身であることだ。
「できるだけ一方的に人を殺したい」という者たちで形成されたプライベーティアの中でも、実際に一般人に手をかけたり、愉悦に身を任せ軍規を超えた異質な存在。
現在、学園都市ロワイヤルホテルを襲っていたのはそんな連中であった。
⚫︎
「Fuku!What is it!?(くそっ!どうなっていやがる!?)」
男は装甲車の裏に隠れながら叫んでいた。男は元アメリカ海軍の特殊部隊であるNavy SEALsに所属していた軍人であった。最終的な階級は二等兵止まり。
将来を約束されていた彼だったが、作戦中に元々あった殺人欲が爆発。一般人を一人殺害してからは歯止めが効かなくなり、合計3人を殺した末に、問題になることを恐れた上官から、無理やり退役させられたのだ。
「戦場」という絶好な欲望の吐きどころと相手を一方的に攻撃することができる武器を取り上げられ、人殺しをして捕まるのを恐れた小心者の男は、欲望を吐けずに日々を過ごしていた。
だからこのプライベーティアのことを同じような境遇の退役軍人の知り合いから聞いた時は、まさに楽園を見つけたとも思った。
最新式の装備を渡され、相手を一方的に嬲り殺しにできる。その上高額な給料までで、罪にすら問われない。正に自らの天職と男が思うのは必然であった。
早速ネットから応募し、「プライベーティア」という組織に参加することとなった男は、良き仲間、志を共にする同志と出会い、絶好な気分であった。
そして男は学園都市に至った。プライベーティアに下されたのは「学園都市にて暴れ、能力者や警備員を引きつけ釘付けにする」とのことだった。「作戦中にいかなる犠牲を出しても問題ない」との許しも得た。
作戦の詳細も伝えられ、装備も、学園都市ほどではないといえアメリカやロシアの最新式のものが渡された。一部の者たちには鉱石のようなおかしな物体が渡されていたが、別部隊の者だと聞いたので詳しい説明はされなかったし、知ろうとも思わなかった。
学園都市最強のレベル5とやらは雇われた武偵やら魔術師やらなんやらが相手にするということだし、今回も一方的に愉悦を楽しめるはずだったのだ。
だったはずなのに。
なのに。
「Why……?……Why this guy is!?(なぜ……?……なぜこいつがここに!?)」
「決まってンだろ」
装甲車の裏、銃撃が飛び交い銃声により他人の声など聞こえないはずの中、それは声をかけてきた。
「クソッタレな野郎どもの掃除に、ワザワザ出向いたンだよ。単純だろ?」
直後
力の暴力が男を襲った。
2,
アリア・レキ・ワトソン・ジャンヌはホテルの階段を駆け下り、急ぎ激戦が行われている駐車場に向かっていた。
現在、アリアたちは2チームに分かれ行動している。
アリアたちは地下駐車場にて襲われている武藤たちの救援が目的だ。恐らくは学園都市の何らかの組織が強襲したに違いない。もしくは自分たちへの依頼が「罠」であるかの可能性もあるが、急行しなければならないのには変わりない。
キンジ・白雪・理子・中空知・平賀・あかりはホテルの従業員や宿泊者の避難誘導を行っている。武偵手帳の徽章を見せ、ホテルの従業員に避難の要請をしたところ、どうやらホテル近くに、空間震用に建てられた地下シェルターがあるらしく、そこに行けば地下通路から学区外の警備員の詰所まで避難できるとのことだった。そのためには正面入り口の連中をどうにかしなければならないが、そこはキンジたちのことだ。どうにかしてくれるだろう。
階段を下り終え、ようやく地下の駐車場に辿り着く。密室であり隔離させる可能性のあるエレベーターを使うわけにはいかなかったので、随分時間がかかってしまった。
……大丈夫かしら……!
階段の扉の周りに膝をつきスタンバイ。他の皆と顔を合わせ、アリアの合図で突入することになる。
扉越し、かなり大きな銃声も聞こえてくる。相当酷い状況になっているのだろう。
全員が持ち場についたのを確認する。
「行くわよ……3、2、1、GO!」
扉を開ける。突入する。
⚫︎
状況はアリアが思っていた通りでもあり、しかし違うものだった。
確かにそこは、銃声が鳴り、銃弾が飛び交う戦場であった。武藤や志乃たちは、彼が乗ってきた装甲車に身を隠し、敵の攻撃を凌いでいた。扉を開けた瞬間、銃弾が飛んでくるほどなのだから、更に駐車場の奥にいる武藤たちはかなり苦しい闘いを強いられていた。
しかし、押されているのは襲撃した男たちの方だった。
男たちはこちらに銃撃を加えてくる。人数も救援に来たこちらより遥かに多く、武器も、見ただけだがアメリカやロシアの軍事機関で使われている最新式だ。明らかに戦力的にはこちらが何歩か遅れている。
だがその多くの兵力は、武藤たちの元に届いていない、否、向いてすらいないのだ。
何故、とアリアが思った時にはその答えが明確にされた。
男たちの後方、何かが近づいてきているのが分かる。どうやら男たちの多くは、そちらに戦力を割かれ、こちらに対応するのがやっとの状況だった。後方を押され、まだ彼らが戦場を保持できているのは、こちらの人数の不利からだろう。
……ならば私たちが参戦すれば、戦場を一気に瓦解することができる!
それを確認したアリアは他の3人の顔を見る。3人とも、アリアの意思は汲み取ったらしく、真剣な表情で返事を返してくれた。
ならば行こう。
相手の射撃の一瞬の隙、それを狙ってアリアたちは一気に戦場を駆け抜け武藤たちの元へと向かった。
⚫︎
キンジは正面入り口方面へと振り向いていた。
異常に気づいたのは3階ホールにて宿泊客の点呼を従業員と行っていた時だ。それまで宿泊客がパニックを起こさないように気を使って避難の準備を進めていて、とりあえずの避難準備が済んで気が緩んだ。と言っても、対人スキルが低すぎるキンジは従業員が宿泊客に対してする手慣れた対応を手伝っていただけだったが、それでも20以上ある階を右往左往して疲れがあったのは事実だ。
だからだろうか。一瞬気を抜いた時、ようやくそれに気づいたのである。
それとは
……銃声?
かすかだが間違いない。どこかから乱発される銃声が聞こえくる。
おそらくは正面玄関だろう。強襲により封鎖されたのは出入り口、駐車場、裏口の三箇所だ。一番激しい動きがあるのは駐車場だろうが、もちろん駐車場でいくら派手な銃撃戦が繰り広げられていようと、キンジの耳に届くわけが無い。裏口もここからでは遠い。だから音の音源は正面玄関しかないだろう。が、
……なんでだ?
この疑問を抱いた理由は簡単だ。現在、出入り口には防壁が降りていると従業員が言っていた。早い段階で異変に気付いた従業員が、機転を利かせて作動させた物で、銃弾ではビクともしないとのことである。
これが襲撃当初のことなら、敵がシャッターをどうにかしようとして銃を乱射するのは分かる。しかし、もう襲撃からかなり時間が立っているのだ。相手がいくら狂っていたり、馬鹿でも、今更シャッターを壊そうとしたところで、弾の無駄になることくらいは分かっているはずだ。
……こっちから開くのに待ちくたびれて、なりふり構わずなったのか?
分からない。だからキンジは
「ちょっと、遠山先輩!?どこに行くんですか!?」
「少し4階に行って出入り口を見れる窓に行ってくる!何が起こっているのか確認するだけだからすぐ戻るから!」
「ちょっ、待って!わ、私も行くから!」
「あー!ゆきちゃん抜け駆けしてずるいー!」
後ろから白雪を引き連れながら、非常用階段を一階分登っていく。すぐに4階へと辿り着き、扉を開け放つ。
4階。確かアリアから緊急時のためにホテルの階ごとの間取りを確認していたから知っていたが
「4階のレストランからは正面出入り口を確認できるはず……」
エレベーターホールを駆け抜け、客もウェイトレスもいない無人のレストランへと入る。L字型のレストランの、西側の窓が目的の場所だ。
正面入り口から見て左上の窓から、状況を目視する。
果たして
「……!!」
正面玄関。窓から見えるそこには、先ほどまでホテルを封鎖して囲んでいたテロリストたちが倒れ伏していた。
どいつも無事と言える体ではない。あるものは腕が明らかに曲がるはずのない方向に曲がっており、あるものは足がおかしな形に変形しており、あるものは首が曲がり血の気がなく、あるものは腕が潰れており、あるものは鼻が折れ、あるものは、あるものは
「……ッ!?」
白雪が息を飲むのが聞こえた。悲鳴を上げなかっただけでも武偵としては上出来だろう。キンジだってこんな酷い光景を間に当たりにしたのは初めてなのだ。いくら武偵とはいえ、まだ自分達は学生。一般人よりは血生臭い光景に慣れてるとはいえ、生理的な嫌悪は取り除けない。
その時、キンジは正面玄関周りに、一箇所だけ白いところがあることに気づく。
髪色だ。真っ白な、アルビノの髪。それが正面玄関に横転した装甲車を片手で元に戻して、乗り込んでいく。
「あれは……!」
3,
ぶつかり合った拳は、その威力を凌ぎ合い、余波で放ったもの同士を宙に弾き飛ばした。
ジーサードは宙を舞いながら体制を整え、砂利の上に着地する。不安定な足場での闘いだが、そのようなことはこの勝負の勝敗に左右は及ぼさない。
目線を削板、というレベル5の第七位に向ける。そこには両足で着地して自分と同じようなヤンキー座りになっている削板が、こちらを見据え返していた。
距離を一気に詰めるべく、強く踏み込みを入れ今一度激突する。
削板もこちらに突っ込み、二度目の激突が繰り出された。
二度目の拳のぶつかり合い。1度目は削板が弾き飛ばされ、先ほどは互角だったが
…………ぐっ!
今回はジーサードが負けた。
数歩下がる削板に対し、大きく跳躍し距離を取ることになるジーサード。はたから見ればジーサードが距離を取ったようにも見えるが、今の跳躍は衝撃に身を任せてあえて後ろに流すためものだ。要は、当たり負けしたのだ。
3度のぶつかり合いでお互い1勝1敗1引き分け。これで拳による対決はタイ。最初の激突と等しく、お互いに余計な勝ち負けは無くなった。
……本当におもしれぇな!
あの時、学園都市へと逃した相手を横取りされた時。
自分達でも手こずった相手を、ジーサードリーグからの攻撃で疲弊していたとはいえ、1人でトドメを刺したというレベル5の第七位。
それを聞いた時から、1度目を合わせてみたいと、あわよくば闘いたいと思っていたが
……ここまで都合よくいきすぎると、怖いくらいだな!
闘いたかった相手が、相手から闘いを勝手に挑んできた。
学園都市の騒動、プライベーティアの暴走。その出処に、なんらかの形で自分達の依頼が繋がっている。連絡により、キンジたちバスカービルのメンバーも襲撃を受けているとのことだ。
そして、自分達が動こうとした絶妙のタイミングで、軍覇による強襲で動きを止められてしまった。
あまりにもこの騒ぎは出来過ぎている。
もしかしたらこの依頼自体が仕組まれているかもしれない。この裏で誰かが、己の目的のため、自分達を操って己の都合のいいように動かそうとしているのかもしれない。
だが、それがどうしたというのだろうか。
もしこの騒動に黒幕が居たとしても、それならばそいつに、自分達がそうそう簡単に思い通りにならないことを、物理的に教えるだけである。
何より、そんなことを考えている暇などない。今は目の前の相手と、死力を尽くして闘うのみである。
レベル5の第七位。「ナンバーセブン」と呼ばれる原石。
遠山金叉の遺伝子により生み出された人工天才。アメリカという国自体に影響を及ぼすジーサードリーグのリーダー。
そんな柵や立ち位置は無くし、今はただのバトルジャンキーとして。
……ぶつかり合おうぜ!
4度目の激突が、起こった。
4,
「じゃあ……始めましょうか」
フラクシナスの艦橋にある会議室。そこにてラタトスク、必要悪の教会、そしてもう一つの、合計3組織による会合が行われ始めていた。もちろん士道も同席している。
「フラクシナス司令官の五河琴里よ。今回はよろしくね」
「必要悪の教会所属、元天草式十字清教女教皇、神裂火織です。今回は必要悪の教会の代理の代表としてこの会合に臨ませてもらいます」
「椿・キーナだよ。この会合にこの両組織に参加して貰って本当に嬉しく思う。ありがとうね」
現在、艦橋にはこの3名以外にもステイル、インデックス、土御門、アニェーゼ、建宮などの必要悪の教会の主要メンバー、神無月や令音を始めとしたフラクシナスのサポートメンバー、椿以外の今回の騒動について詳しく知る組織のメンバー、そして上条やキリトたちがいる状態である。
会議室内に置かれた、よく刑事ドラマで警視庁の上層部のお偉いさんが囲って会議をしていそうな机にはドアよりの席には士道たちどの組織にも関わりはあるものの、属してはいないメンバーが奥側の両サイドには必要悪の教会とフラクシナスのメンバーがお互いのサブメンバーを背後に立たせながら座り、そして必要悪の教会の隣に椿が座り、その後ろには昨日上条をお姫様抱っこしていた忍者っぽい少女と、クリムゾンとか言う赤髪のローブの少年が佇んでいた。
「まぁ、簡単な挨拶はここまでにして……本題に入りましょう」
口に含んでいたチェッパチャッパスを無造作に置かれていた皿に置いた琴里は、椿を見据える。
「聞きたいことは簡単よ。貴方たちは何?どうして私たちのここまで知っているのかは分かったとはいえ、何故そのような本があるのか。それと」
「さ、流石に一気に聞かれると、お姉さん困っちゃうなー」
苦笑いしながら、宙に何かを浮かび上がらせる椿。一瞬、琴里たちが身構えるものの、浮かび出されたのはなんらかの表示枠だった。まるで漫画やアニメで空中に出されるようなものである。
「大丈夫だよー身構えなくても。そんな物騒なものじゃないから」
椿がヘラヘラと笑いながら返すが
……まだこの人たちが何者か、俺たちは何も知らない状況だもんな。
昨日はあの本のショックが大きすぎて気になることは無かったが、考えてみれば疑問に思う節を盛りだくさんだ。
「……設定完了と。じゃあそれらの説明については必要悪の教会にはしたけど聞いていないメンバーも多いし、改めて説明しようか」
と、椿はその表示枠を自分向けから反転して、こちらに向けてきた。
そこに写っていたのは、眼鏡をかけた聡明そうな青年。少しボサボサの髪をした青年は、こちらに一礼すると
『初めまして。「葉の涙」にて円卓会議書記長を務めさせていただいている、賀川五木と申します』
⚫︎
琴里「リーブティア?」
また増えた新たなキーワードに、琴里は怪訝な顔をする。それを見て苦笑しながら、椿は琴里に言葉を投げかける。
「そこについてはおいおい説明するとして……まずは、『世界』について知っておいて貰わなきゃ、話しが進まない」
「世界……それはいわゆる、異世界というやつについてか?」
しかし椿の言葉に返してきたのは琴里ではなく、オティヌスである。
異世界。確かに通常なら聞きなれない言葉だろう。しかし
「異世界については私も知っているぞ。これでも一時は魔神だったからな」
「私たちもそれについては同等ね。元々精霊は隣界と呼ばれる異界の存在。異界についてはある程度の知識はあるわ」
自分達が平和的に対処しようとしている精霊は、本来なら異界の存在である。この世界とは法則や理が違う、まったく別の世界があることは知っている。
それを聞き、椿はウンウンとうなづきながら
「確かに、異なる世界については君たちは知識を知り得ている」
と、一息入れ、椿はこう尋ねてきた。
「なら……世界はどれだけの数があるか知っているかい?」
場が静まる。このような事態に会ったことなど殆ど無いキリトたちは、とっくに話しについて行けてないだろう。
当たり前である。琴里ですら話しについて行くのがやってとであるのだから。
「その物言い……まるで世界がいくつもあると言っているようね」
『正解です』
ここで、宙に浮かんだ表示枠から、回答がでてきた。
『正確には無数……世界の数は今尚増えて行っていると考えてよろしいかと』
「ちょ、ちょっと待てよ」
ここで会話を止めてきたのはクラインだ。彼は自信に突き刺さる目線に、少し怖気ながらも
「じゃあなんだ?俺たちの世界は無数の中の一つで、その他にも様々な世界があるってことか?」『その通りです』
「た、例えば俺がモテモテな世界とか、俺が金持ちな世界とかもか?」
場の空気が一瞬に白けた。クラインもそれは自覚していたみたいで慌てて弁明に入る。
「いやだって気になるだろ!例えばキリの字がハーレム形成しないで、俺が作ってる世界ってのもあるわけで」
「おい」
キリトがたしなめるもののまったく怯まず、クラインは続けた。
「ほら、よくあるじゃん!そういうの!」
「ん、ちょっと待て……」
ここで何かに気付いたのか、頭に手を当てたのは上条だ。琴里は半ば呆れながら
「どうしたのよ?」
「いやさ……その理論でいくと……上条さんが幸せに管理人のお姉さんとイチャラブしている世界もあるってことじゃね!」
ある意味予想通りで関心した。士道もかなり恋愛関係には鈍感だと思っていたが、こいつほどでは無いだろう。インデックスやオティヌス、神裂やアニェーゼたちが殺気を交えて睨んでいるのに気付いていないのだろうか。
「うぉー!こっちはこっちでいいけど、そんな世界があるとか考えていると何か分からんが心の支えになってくるぞー!」
「だろだろ!?」
「どこが支えになるんだ?」
令音が冷静に突っ込んでくるが、興奮している馬鹿2人には通じないようだ。土御門もやれやれ、と首を振りながら
「カミやん、おみゃーどの口が言っとるだぜい。どの口が。そんな今以上にカミやんがリアリアしている世界なんてこっちから願い下げ……」
「いやーあるんだろーなー。多分土御門がメイドの国に行って、クーデターを起こして、軍師になって薄幸メイドを女帝にしている世界線も」
「ビバ!異世界!」
馬鹿が一人増えた。いい加減面倒くさくなってなったのか、うんざりしたステイルが実際どうなのかと聞けば賀川は顎に手を置いて、こう言った。
『それは……無いですね』
何かが崩れ落ちる音がした。見れば、自身の左側、キリトの隣にいる一番ドア側に近い席の男や正面の金髪グラサンの男が机に突っ伏していた。斜左前のツンツン髪も同様である。
そんな2人の様子を見て、慌てて表示枠越しの青年が訂正した。
『あ、いえいえ。多分お三人方が言っているような世界はあるかもしれないし無いかもしれませんが、今話題に上がっている世界とは違うものなんですよ』
「?違うって、どう違うの?」
多くの者の疑問を代弁する形で、口を開くリズベット。彼女の疑問に引き続き、青年が答えた。
『壷井さんや上条くんが言ったような異世界は、あくまで『選択の違い』によって分岐しただけの世界なんですよ。
例えば、根本的なところがまったく違うように見えても、それはAかBの選択で、AではなくBを、もしくはBではなくAを選んだ。
それだけの違いの場合によって別々の物となった結果が壷井さんや上条くんが言う『異世界』です。対して、僕たちが今話題に挙げているのは、根本的に違う『異世界』なんです』
「……すいません。具体的な違いをお願いします」
士道が間を挟んでくるが、これは仕方ないだろう。
……士道も士道なりに、ちゃんと考えているんでしょうしね。
なにせ今回の一件にはDEM社も関わっている。この街にいる以上、もはや自分たちが知らぬ存ぜぬで貫き通すわけにはいかない。現に、この瞬間にも次々と学園都市の被害は拡大していっている。
……だからこそ、この会合は重要なのよ。
士道の言葉に頭の中で言葉を整理していたのか、思考している風だった青年が、顔を上げた。
『僕らが今挙げている『異世界』とは、そもそも同じ人間が存在していない。ある世界にいる人間は別の世界には存在しない。それが僕たちの言っている『異世界』なんです』
一息。
『そして僕たちが言っている世界の数は日々増えている。それも無限に』
「それらの中には本当に様々な世界があるんだよ。
再び人類をやり直させるために一から歴史をやり直している、私たちの時代から遠い未来の時代の世界。
魔法という技術が科学的に成り立っていて、それにより世界の調和がギリギリ保たれている世界。
魔術が無い代わりに女性のみが動かせるある技術が世界のパワーバランスを担っていて、女尊男卑となってしまっている世界。
願いを叶える万能の器を巡って、古今東西万夫不当の英傑たちが召喚され、魔術師と共に争う世界。
もともと日常の垣間に存在する異常を、とある存在が無自覚に発現して、歪められている世界。
他にもたくさん、それも数え切れ無いほど。世界は数多く存在するんだ」
「一ついいでしょうか」
ふと、という感じで手を挙げたのは神裂だった。彼女は椿を見据えると、話し出す。
「今回の一件。私たちはあなたたちが何らかの方法で話をつけた最大主教から命じられ、抽象的にしか説明がなされず疑問に思っていたことが多かったです。それはその一つなのですが……」
一度区切りを入れ、神裂は椿に向かって言い放った。
「我々の世界と同一人物がいない4つの世界が一つになったのなら……おかしくないでしょうか」
一瞬、何のことかと思い、そして同時に気付いた。
そうだ。
今の話を鵜呑みにするとおかしいところが一つ出てくる。明らかに辻褄が合わない、合ってもならない箇所が一点。
それは
「…………人口ね」
「そうです」
琴里の言葉にうなづき返す神裂。
「私たちがいた世界には、少なくとも60億の人間が地球上にいたとしましょう。他の世界がどれだけの人口かは知りませんが…それらを全て足して、総人口が約60億人というのは、いくらなんでもおかしくはないでしょうか」
⚫︎
場が、静まり返る。
上条は息を呑んだ。
確かによく考えてみればおかしい。現在の地球の人口は60億ということは上条でも知っている。
が、それは4つの世界が、1人も同一人物がいない世界が一つになって生じた結果だ。何故なら、今がその状態だからだ。
もし、一つの世界が60億の人口だとしたら、
……残りの180億の人々はどうなったんだ?
それは、もしや
……あの世界で、辻褄合わせの為に「いなかったことにされた」俺と同じように……!
「安心して……っていうのはおかしいかな」
「あれ」を思い出し、大粒の汗を流していた上条だったが、その不安を知ってか椿がこちらを向きながら物色してきた。
「確かに、元々4つの世界にはそれぞれ60億近い人々が生きていた。けどね。合成されたと言っても、世界の数が減ったわけじゃないの」
「は……?」
『先ほど、世界は今尚無限に増え続けていると言いましたね』
一息。
『けど、一度できた世界は消えることはないのです。世界の数は増えることはあっても、減ることはないのですよ。
それに、世界の合成と言っていますけど、正確には世界を一つにまとめた物を、再分割したようなものですが……』
「ようは、4つの世界にいた合計180億近い人々が、4つの世界に改めて再分割されたってわけ。「魔術」や「精霊」。そういう他の世界には無かった独自の理を全て足したような4つの、世界の合成物にね」
「ようするに……僕たちの世界の特異的なものが合成されたが、世界の数は減らないから、その世界は再び元の数に分けられて、その際、その世界に住んでいた人々も、4つの世界に改めて振り分けた、と?」
「そういうことよ。出来るだけ辻褄が合うように、人の輪が繋がっているものたちを一つの世界に纏めてね。だから貴方たちの親族や友達、親しい人たちは皆この世界にいるわ。忘れたり、いなかったことにはなっていない。
そして世界が持つ矯正力によって、全てが都合よくできるように歪められている。それぞれの世界の大統領や国際的な組織のトップが……」
「……すまん、まったく意味がわからん」
「わ、わたしも……」
「世界が合成とかそこからもうついて行けてねぇよ」
眉を顰めたキリトが諦めた体で言い出したのを皮切りに、直葉やクライン、主に学園都市外からの来訪者たちから理解が追いつかないと不満が出てくる。かく言う上条も何が何だかさっぱりだ。
……こういうことに慣れてはいるけど、知識については俺も門外漢だしな。
「むむ……確かに説明がやたらと難しい言い回しになっちゃったかもな……」
考えすぎて頭痛がしそうな説明だとは、説明している側も自覚していたらしいのが幸いだ。と、ここでアニェーゼが手を上げてきた。
「なんとなく分かりはしましたが……例えば必要悪の教会を主体に言えば、この世界に必要悪の教会は最大主教を始めとする主要メンバーが集められています。その場合、他の世界では必要悪の教会というのは無くなっているのですか?」
『おそらくですが……そもそもイギリス清教という枠組みそのものが無くなっていると思います。
多分、これから先の説明は、この事態を引き起こした組織の核心についていくことになると』
「そう言えば……世界を合成したと言ったな?おそらく私が世界のフィルターを散々弄ったせいだろうことは察しがついているが……それをして何がしたいんだ?そいつらは」
なんか軽く今回の騒動の一因であることを明かしたような気もするが、そこは深く考えない方がいい。考えたら
「くっ!頭が……」
「ど、どうしたカミジョー。大丈夫か?」
心配されたので「あ、ああ。大丈夫だ」と十香に笑って返す。
ともかく自分の頭の上にいるオティヌスが投げかけた疑問については、上条も同じことを思っていたところだった。
そして、この中でその答えを知るであろう2人の人物を見る。
「そうだねぇ……あえて言うなら『実験』……かな?」
「実験?何のだ?」
『彼らが『平均化の魔術』と呼ばれるものです』
オティヌスの問いに答えた賀川は視線を、自分たちに向けながら言った。
賀川『世界からあらゆる『異能』を消し去るための魔術です』
第一六話「平均化」 完
後書き
2015年 5月 4日
ゼノブレイドクロスで最初のステージからレベル30代がウヨウヨしていて死にまくっている常盤赤色。
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