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オシツオサレツ

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3部分:第三章


第三章

「間違いなくね」
「あれってロフティングの小説じゃないんですか?」
 そのドリトル先生の作者である。
「完全に創作の」
「このアフリカはですね」
 先生は定文の問いには直接は答えずにまずはこう言うのであった。
「あまりにも広いです」
「それはわかっていますけれど」
「ですからわかっていないことも多いのです」
 やはり答えずに己の言葉を続ける。
「そう、あまりにも」
「それでオシツオサレツがいるってことになるんですか?」
「アフリカに熊はいません」
 とにかく答えずに自分の言葉を話す。
「ですが」
「ですが?」
「見たという人もいます」
「っていうかアフリカに熊はいなかったんですか」
 そのこと自体定文の知らないことだった。今聞いてはじめて知ったことである。
「あれって何処にでもいるんじゃないんですか?」
「ですがアフリカにはいないのです」
 先生は定文の知らないことを完全に自分が知っているから相手も知っているという考えの下で語る。実に面倒な思考パターンである。
「しかし見たという話が結構ありまして」
「そうだったんですか」
「そしてライオンも」
 話は今度はライオンに飛ぶ。
「水のライオンと岩のライオンがいます」
「何ですか、それ」
 定文にとってはこれまた初耳であった。
「水の中を泳ぎ回ったり岩の上に住んでるライオンですか?」
「その通りです」
「ああ、あれですね」
 ここで声をあげたのはこの場ではこれまで沈黙を守っていた昌信だった。
「あのサーベルタイガーに似ていて河馬を殺すのと岩の上で咆哮しているという」
「はい、それです」
 先生は納得した顔で頷きながら昌信のその言葉に頷くのだった。
「そのライオンです。二種類いる」
「アフリカにはまだまだ多くの謎があるんですね」
 二人でそう勝手に結論付ける。定文が今こうしてここにいることを決めたのと同じ流れだった。やはりかなり強引な流れであった。
「だからオシツオサレツも」
「ですが稲垣君」
「はい」
「オシツオサレツはいますよ」
 先生は自信に満ちた声で彼に述べた。
「それは間違いありませんから」
「そうなんですか」
「私は情報を手に入れました」
 顔を上げ毅然とした声で述べる。
「ですから。間違いありません」
「何処でですか?」
「インターネットです」
 自信に満ちた声で定文の問いに答えた。
「検索したら出て来ました」
「そうだったんですか」
 情報の出所を聞いて思いきり駄目だと思う定文だった。顔には出しているが言葉には出していないので先生と昌信にはわかっていないだけだ。
「英語で書いていまして。そこはですね」
「何処ですか?」
「ついてきて下さい」
 二人に対して言ってきた。
「既に車は手配してもらっていますので」
「早いですね」
「疾風怒濤」
 これまた実に大袈裟な言葉であった。
「それが私の行動哲学ですから。既にここに来るまでに全て手配しておきました」
「それで何処に行くんですか?」
「カメルーンとの境です」
 とりあえずサッカーに詳しくないとあまりわかりそうにもない国名が出て来た。定文も昌信もサッカー部ではないがそれでもサッカーには興味があったのでどの国かはわかった。
「そことの国境の森林地帯にいますので」
「そこにですか」
「車だとたっぷり一日はありますね」
 これまた随分な距離であった、
「では。行きますか」
「いきなり一日ですか」
「アフリカでは短い時間ですよ」
 一日と聞いて憮然とする定文への言葉だった。
「ですから。さあ」
「わかりました。それじゃあ」
「行きましょう」
 こうして三人は先生が既に手配していた車に乗ってそのカメルーンとの境に向かうことになった。中古の日本車は悪路にもそこそこいけて快適だったが一日どころか二日かかった。境に辿り着いた時定文はへとへとになって車から出て来たのであった。
「ここですよね」
「はい、ここです」
 へとへとの定文に対して先生は全く平気な顔であった。昌信は暑い中でも車の中ですやすやと寝ている。どうやら何処でも寝られる体質らしい。
「この森です」
「凄い森ですね」
 森というよりはジャングルだった。三歩先さえ鬱蒼として見えない。その中に何がいるか全くわからない。とりあえず入りたくはない場所だった。
「ここって」
「ここにいますよ」
「そのオシツオサレツがですか」
「ああ、着いたんですね」
 昌信の声が聞こえてきた。
「意外と早かったですね」
「一日遅れでかい!?」
 呑気な顔で目をこすりながら車から出て来た昌信に対しての言葉だった。
「それで早いって」
「だからここはアフリカじゃない」
「アフリカだから何でもいいってわけじゃないだろう?」
「だからさ。日本の常識は通用しないんだよ」
 彼は極めて落ち着いた声で定文に返すのだった。
「だからオシツオサレツだっているんじゃない」
「あんな動物何処にもいないよ」
 この期に及んでもという感じでムキになって言う定文だった。
「そんな前後に頭がついているなんて」
「信じる信じないは勝手です」
 先生はここで彼に対して言うのだった。
「ですが。真実は一つです」
「いないっていう真実がですよね」
「それじゃあさ」
 ここでまた昌信が彼に言ってきた。
「あれは何なの?」
「あれ!?」
「そう、あれ」
 昌信は自分の真正面を指差して言う。
「あれ。っていうかこれだね」
「これ・・・・・・」
 ここで自分の周りを見る定文だった。すると。
 
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