オシツオサレツ
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4部分:第四章
第四章
そこにいた。山羊に似た生き物がところであった。
「えっ!?」
定文はその生き物を見て思わず声をあげてしまった。
「頭が前にあって」
まずその頭を見る。確かにある。
「そして後ろにも。同じものが」
「あるね」
その彼に昌信が答えた。
「あるよね。しっかりと」
「嘘だろ!?」
足はしっかり四本ある。間違いない。
だがそれと一緒に頭が前後に一つずつあるのだ。やはり二つある。常識で考えて有り得ない、そのオシツオサレツがいるのであった。
「本当にいるなんてよ」
「牧野君」
しかしここで先生が彼に声をかけるのだった。
「人間の目はですね」
「人間の目は」
「嘘はつきませんよ」
こう彼に言うのである。
「心は嘘をついても目は嘘はつかないのですよ」
「じゃあこれはやっぱり」
「そう、オシツオサレツです」
はっきりと彼に告げるのであった。
「紛れもなく。オシツオサレツです」
「嘘だ・・・・・・」
目は嘘はつかないと言われてもこう言わざるを得なかった。
「こんなのってよ。本当にいるなんて」
「僕の言った通りじゃない」
ここで昌信がまた彼に言う。
「いたでしょ?実際に」
「何でこんなもんいるんだ?」
定文は次には首を傾げさせた。
「こんな訳のわからないものが。どうしてなんだ?」
「わからないのですか」
「全く」
また先生に答えた。
「こんなのが本当にいるなんて。何でなんだ」
「世の中には色々とわからないことがあります」
先生らしい理路整然とした言葉ではある。
「ですからこのオシツオサレツもまた」
「いるんですか」
「そういうことですよ。問題は最初から有り得ないと決め付けないことです」
「最初から決め付けない」
「その通りですよ。現にオシツオサレツは今ここにいますね」
「はい」
もう認めるしかなかった。実際に今彼の目の前に動いて草をその前後の頭でむしゃむしゃと食べている。それは疑いようがなかった。
「それはもう」
「頭が二つになったのは最初は突然変異だったそうです」
「あれですよね」
昌信が先生に対して応える。
「頭が二つある蛇と同じですよね」
「その通りです」
「それなら僕も知ってます」
定文も頭が二つある蛇のことはテレビ等で知っていた。あの蛇も信じられないものがあるがそれでも本当にいるのは事実である。
「見ましたから。テレビでですけれど」
「それと同じです。そしてです」
「ええ」
先生の話はさらに続く。
「アフリカは何しろ肉食獣も多いので」
「それに備える為に定着したんですか」
「その通りです。ですからこうなったのです」
博士はオシツオサレツを見ながらまた述べる。
「頭が二つの生き物に」
「そうだったんですか。それで」
「ちゃんとトイレもできますし身体の構造も普通ですよ」
先生はそれはちゃんと保障するのだった。見れば後ろの頭の下のところに肛門等もある。見ればこのオシツオサレツはオスであった。
「後ろの頭が尻尾のかわりに出ているだけで」
「そういうことですか」
「そうです。何はともあれオシツオサレツは本当にいます」
「そうですね」
とにかくこれだけは間違いがなかった。最早否定しようがない。定文は今はしっかりとした顔で頷くばかりであった。
「わかりました」
「わかって頂き何よりです」
先生はまずはそのことに満足した顔になる。
「それではですね。次は」
「次は?」
「私に付き合って下さい。宝石を見つけに行きますよ」
「宝石をですか」
「七色に輝く幻のレインボーダイアモンド」
また随分と派手なものである。
「それが見つかったそうですから。早速調べに」
「ダイアはいらないんですか」
「調べるだけです」
どうやらダイアの価値には全く興味がないらしい。完全に研究者として動いている博士であった。
「ですから。早速」
「はあ」
「じゃあさ、定文君」
昌信が明るく彼に声をかけてきた。
「行こう。今度はそのレインボーダイアモンドを観にね」
「わかったよ。それにしても」
急かされながらもまたオシツオサレツを見る。その不思議な生き物は自分がどれだけ不思議な存在と思われているかということは全く意に介さずのどかに草を食べ続けている。彼はそれを見て言うのであった。
「本当にいるんだな」
最後にこう言って昌信に手を引かれて車の中に入る。先生が運転するその車はせっかちに出発する。オシツオサレツはその車も意に介することなくただ自分の時間を過ごしているのであった。
オシツオサレツ 完
2008・11・23
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