リュカ伝の外伝
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男の甲斐性③
(山奥の村)
ポピーSIDE
サラボナでの騒動も終息し、フローラさん・アンディーさん夫妻のしつこい……ゲフンゲフン、深い感謝の言葉を軽く流し、私達は今お祖父ちゃん家に来ている。
当初の予定通り、温泉に入りみんなで楽しく夕食をし、お祖父ちゃんは先にベッドに入り私達もゲストルームで寝る準備を整え終えました。
なのでチャンスだと思い、昼間の一件をお父さんに確認しようと思います。
何を確認かって?
決まってるでしょう……
「お父さん。デボラさんの赤ちゃんのパパをご存じですね?」
ってな事ですよ。
「何だい藪からスティックに?」
“スティック”? ……ああ、“棒”か!
「それは本当なのリュカ!?」
「おいおい奥さん……如何いう経緯でそうなるのかな?」
お父さんはオーバーアクションで戯けて見せ、真実を言う素振りを見せない。
「やっぱりお父さんが父親なんですね!?」
「お坊ちゃん……君も存外しつこいなぁ。それは違うって完全否定したろぅ」
ティミーの悪いところだ。直進的な思考回路しか持ち合わせてない。
「違うわよティミー。お父さんはウソを……この手の事柄でウソを言わないわ。本当の事を言わないだけで……ね!」
私はティミーを諭す様に見詰め、そしてお父さんに視線を直すとウィンクで同意を求める。
「何かを隠してるとは私も感じてたけど、まさかデボラの相手を知ってるなんて……本当に本当なのリュカ?」
「……………」
お父さんは困った様な表情で私達を見詰める。もしかして私はお父さんを困らせてるの?
「別に僕も真実を知ってる訳でも、本当の事を知らされた訳でもないから、これから話す事は推測に過ぎない。それでも聞きたいかい? もしかしたら無責任な思い込みかもしれないよ」
なるほど……お父さんはこれまでに得た情報(状況)を分析して、今回の件の事実を推測してデボラさんの援護に回ったのだ。
だからその事の裏取りをした訳では無く、万が一にもその似非情報が一人歩きする事を警戒してるのだわ。
「お父さんが本当にデボラさんとの関係を否定するのならば、その推測を僕達にも教えて下さいよ! これでは何時まで経ってもお父さんへの疑いを拭う事が出来ません」
ホント直情的な馬鹿ねぇ……アンタだけよ、その疑いを未だに抱えてるのは!
「ビアンカぁ~……息子に信じてもらえないよぉ~。え~ん、え~ん(嘘泣)」
「自業自得ね、諦めなさい。それよりも私は真実を知りたいわ」
お父さんはワザとらしい嘘泣きでお母さんに泣き付くが、人様の家の揉め事を知りたい主婦代表は軽く流し結論を急がせる。
「ふぅ~……まぁいいか。でも言っておくよ、これは僕が思ってるだけの事であって、本当に事実に即してるかは確認とってないんだ。だから勝手に盛り上がって、噂を広げちゃ絶対にダメだよ。僕そんな奴は、たとえ妻でも大嫌いだからね」
ポピーSIDE END
(山奥の村)
リュカSIDE
困りました。
“たとえ妻でも大嫌い”と脅し文句を織り交ぜて聞く事を諦めさせようと思ったんだけど……何処の世界でも他家の揉め事は知りたいらしく、我妻の尋常ならざる瞳の輝きが眩しい。
ビアンカに期待されると断れないんだよなぁ……
喜ばせたくなっちゃうんだよなぁ……
チラリとこの話題を再燃させた娘に視線を向ける。
如何やら反省はしてる様で、申し訳なさそうな表情で軽く頭を下げる。
息子は未だに俺の不埒を疑ってる様で、無実ならば真実を話せと言わんばかりの顔をしてはる。
だから違ーっつてんのに……
嫁が疑ってないのが、せめてもの救いかな?
……仕様がない、話すか。
「結論から言おう。アンディーが父親だ」
そう、俺の予測が正しければ、デボラの子供の父親はアンディーだ。
何処から話して良いのか俺もいまいち分からんから、最初から話そう。
先ずデボラは幼い頃からアンディーに惚れてた。
しかし彼女はあの性格だ……素直に乙女チックな振る舞いが出来たとは思えない。
従って、デボラはアンディーに会う度に苛めてたんだと思う。
ここで1つの問題が発生する。
それはアンディーの性格だ……もう少し気の強い性格であれば、多少屈辱でも女の子のやる事として軽く流せるんだけど、奴には無理だろう。
さて……ここで更なる問題が発生。
そうです。無条件なまでの慈悲深さを撒き散らすフローラだ。
姉が苛めて泣いている幼馴染みに対し、優しく包み込む様に慰め続けてきた。
自分を苛める女が居る一方、自分に優しくする女が居れば、そりゃ惚れちゃうよ……優しくする女にその気が微塵も無くったって、男は惚れちゃうんだよ。
デボラも辛かったんだろう……苛めたくは無いのに苛めてしまう。その結果、惚れた男が自分の妹に惚れちゃったんだから。
デボラが世間で言われてる様に我が儘な女であれば、自分の妹を殺してでも惚れた男をモノにしようとするんだろうけど、彼女は本当は良い娘なんだ。
アンディーに惚れてても、妹の幸せを心から願ってるんだ……そして勿論、アンディーの幸せも。
……んで、出した結論が身を引くって事なんだよね。
アンディーはフローラが好きだから、絶対に妹を不幸にはしないと言い切れるし、大好きなフローラと結婚できればアンディーは幸せなんだろうからね。
これで目出度く話は纏まるはずだった……
奴等の父親が馬鹿じゃ無ければ、これで目出度し目出度しだったんだ。
でもあのハゲがね……余計な事をね……
『ワシの出す試練に合格出来た者には娘のフローラと財産をやろうぞ!』
って、脳味噌まで禿げ上がったハゲが言い出して、サラボナ大パニックぅ!
フローラ困っちゃ~う。でも、もっと困っちゃ~うのはデボラ。
折角大好きな二人の為に、自分が犠牲になる道を選んだというのに、ハゲ親父がブチ壊した。
悩んだだろうな……考えたんだろうなぁ……
そして出した結論が“試練に合格した奴と自分が結婚する”事だ。
例の試練に合格した俺だから言えるんだけど、突飛だったもん!
デボラさん……俺へのプロポーズが突飛すぎだったもん!
それまで一度も会った事無いのに、突然現れて『私と結婚しなさい』だもん。
ないね……いくら俺がちょーイケメンでも、それはないよ。
しかも上から目線でグイグイだったね。
“お前、本当に俺に惚れたのか?”って思ったもん。
まぁあの時は妹思いの良い姉ちゃんだとしか思わなかったけど、今考えりゃアンディーへの思いが大きかったんだろう。
だから今回も自分が犠牲になる事で、二人の幸せを実現させようとしたんだろう。
しかし、ここに来てデボラに誤算が発生。
それは俺が女連れであの場に赴いた事だ。
吃驚仰天だっただろうなぁ……
そんな訳で作戦は変更されたんだ。
何処まで素だか判らんが、我が儘いっぱいなとこを見せ俺に結婚を迫った。
“自分と結婚したら苦労するぞ”と見せ付け、でも“自分をフッたら許さないぞ”とも見せ付け……
もしデボラをフッてフローラを選んだら……
我が儘で怖い義姉が常に側に居る事になる。
しかもフッたと恨んでる義姉が……
男としてはあの一家とは無関係な女と結婚せざるを得ない。
そう考える様にデボラは誘導したんだ。
最悪自分と結婚すると言われても、フローラとアンディーの幸せだけは守られる。
結果としては最も良い結果になったが、デボラの計画はこんな感じだったんだろう。
さて……では何故、大団円で終結した問題が、現在捻れてるのかと言えば……
それは男女の事柄ですからねぇ……色々あるんですよ。
だってデボラのアンディーに対する思いは失われた訳ではないんですからね。
幸せいっぱいのフローラとアンディーの間に待望の子供が生まれました。
それを見た乙女デボラは……そりゃ羨ましかったんでしょう。
諦めるつもりで……我慢するつもりでいたのに、直ぐ側には愛した男とその子供が居る。
きっとあの二人の前で泣き出したんではないだろうか?
赤ちゃんを抱っこさせてもらって泣き出したんじゃないだろうか?
そして知ったんだと思う……あの二人もデボラの気持ちに。
だから皆で幸せになる道を選んだんだ。
あの三人と生まれた子供とこれから生まれる子供と……
他所の家庭とは違う形だが、最も幸せになれる道を選んだんだと俺は考える。
だって幸せの形に決まりはないからね。
リュカSIDE END
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