リュカ伝の外伝
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男の甲斐性④
前書き
取り敢えず「男の甲斐性」シリーズは終了
(山奥の村)
ティミーSIDE
昨晩のお父さんの衝撃話から一晩明けた朝……
僕にはディープな内容過ぎて、寝不足状態です。
それでも少しは眠れたみたいで、ぼやけた思考状態で目を覚まします。
お爺ちゃん家のゲストルームを見渡すと、お父さんとお母さんが居ませんでした。
しかしポピーだけは僕の隣のベッドに腰掛け、僕が起きるのを待ってたみたいです。
何の用があるのか分かりませんが、無表情で怖いです。
「おはようポピー……お父さんとお母さんは?」
「二人は朝一から温泉に行ったわ……解るでしょ、意味」
ホント下品な夫婦だ。公共の施設なのに……
「それで……ポピーは何で僕が起きるのを待ってたの?」
「決まってるでしょ、私もお兄ちゃんと温泉入りたいからよ。お父さんとお母さんみたいにお兄ちゃんとね♥」
気持ち悪い事言うな!
「ふざけるな馬鹿。僕は昨晩の話を聞いて気分が悪いんだよ……これ以上気分を悪くしないでくれ」
「ティミーは潔癖症ねぇ……だからお父さんは話したくなかったのね、この事」
何を言いたいのか解らないが、呆れた口調で溜息を吐かれて。
「何だよ! 潔癖症じゃなくたって、あんな話を聞かされりゃ不愉快な気分になるよ!」
「不愉快って何よ!? デボラさんもフローラさんもアンディーさんも、あの状態で幸せを手に入れたのよ! それともティミーは、好きな人が直ぐ側で他の人と愛し合ってるのを見せ付けられながら我慢するのが幸せだって言うの!?」
「そ、そんな事は言ってないけど……」
「“言ってないけど”何よ?」
ポピーは僕を説得する為に起きるのを待ってたみたいだ。迷惑な事に……
「良い……一人の人間が複数の相手と性的関係になることに不快感を持っても、それはティミーの勝手よ。でもね世の中には色々な状況ってモノがあるの。だからアンタはアンタの生き方をすれば良いけど、他人の生き方に不満を露わにしちゃダメなのよ、分かる?」
「わ、分かってるよ……」
「そう……なら私がこれから話す事をキチッと理解して、今回の件は強引にでも納得しなさい」
な、何を話すつもりだ?
「これからデボラさんに赤ちゃんが生まれ、その子は真実を知らずに育つでしょう……少なくとも、ルドマンさんが生きている間は」
「そうだろうね……可哀想な事だけど」
「可哀想? 本当に可哀想な事かしら?」
「だってそうだろ! お父さんの事を……直ぐ側に居る父親の事を知らずに育つんだぞ! 僕等は両親の居ない辛さを知ってるだろ」
「知ってるわよ……でも、その分だけ周囲の人が愛してくれる事も知ってるわ。違う?」
「……違くない」
それはそうだけど…
「もし今、この事実を世間に明かしたとして、アンタみたいな思考回路の人間が如何な目であの一家を見ると思う? そんな軽蔑視された環境で生きて行く事が、本当にこれから生まれてくる赤ちゃんの為だと言えるの?」
「だけど側に父親が居るんだから、知らせないのは酷い事だと思わないのか?」
「重要なのは父親が父親をすることじゃないでしょ……誰かが父親をすれば、その子に父親の愛を伝える事が出来るの。私達がそうだったでしょ……オジロンやサンチョが私達を愛してくれた。ピエールやメイド達だってそうよ!」
「言いたい事は解るけど……」
「言いたい事が解るなら、それを不満に思うのはやめなさい。アンタが不満に思う……いや、その不満を露わにすると、それを見た人が勝手な憶測をするの。それを知った他人が無責任な噂を巻き起こし、何れはデボラさん達に不幸が襲いかかるのよ!」
「そうかもしれないけど……」
「“そうかも”じゃなくて“そうなの”よ! 自分の家庭の事なら不満を露わにしても、その結末が己に降りかかってくるから私も注意しないけど、他所様の家庭を不幸にする様な言動は止めなさい。アンタのその態度、ホント最低だからね」
「そこまで言う事ないだろ! ちょっと僕には理解出来ないと思っただけだろ……」
「思っても言動に表すなって言ってんの! 昨晩お父さんの話を聞いてる時から不機嫌な表情をして、今朝もその表情をなくそうとしない。あの一家の出来事はアンタに関係ないでしょ! お父さんがお母さん以外の女との間に子供を作っちゃった時だけにしなさいよ、その表情は!」
「じゃぁ常にその表情をしてなくちゃならないじゃんか」
「ガキみたいな言い訳すんな馬鹿!」
最近口が悪くなってきたなぁ……
「解ったよ……気を付けます!」
「まぁこれ以上言ってもムダだろうから、今回はこの辺で勘弁するけど……」
肩を竦めてそう言うと、僕の手を取りベッドから引きずり出すポピー。
「じゃぁ気分転換に温泉に入りましょうよ。お父さんとお母さんもまだ入浴中だし、一家揃ってリフレッシュしましょ!」
と言い、寝間着状態の僕を強引に温泉に連れて行こうとする。
「い、いいよ僕は! お父さんとお母さんの邪魔をしちゃ悪いから……」
「心にも無い事言わないの」
直ぐバレた……本当はお母さんの裸を見るのが恥ずかしいからだ。
「恥ずかしがらなくても大丈夫よ。お母さんからすれば、お父さん以外の粗チンに興味ないだろうし、私もアンタのベイビーに微塵も興味持ってないから(笑)」
ベ、ベイビーってなんだよ!? 馬鹿にするなよな!
そんな憤慨もあったんだけど、ポピーの強引さに押されて気が付けば裸のお母さんを前にして大人しく温泉に浸かっていました。
ティミーSIDE END
(サラボナ)
アンディーSIDE
「しかしリュカさんは凄いね。僕達は何も言ってないのに、お義姉さんの態度だけで真実を察知してくれたよ」
「そうねアナタ。何時もの事ですけどリュカさんには感謝ですね……ねぇ姉さん?」
「……………」
僕とフローラはデボラ義姉さんを自宅(離れの自宅)に呼び、昨日のゴタゴタを語り出す。
デボラ義姉さんは他人に知られたくない心の内を、最も知られたくないリュカさんに知られてしまい、昨晩からすっごく不機嫌状態だ。
僕も最初は驚き戸惑いました……いきなりデボラ義姉さんに恋心を告白され、これまでも苛めが全て愛情の裏返しだったと知らされて、困り果ててしまいフローラに相談してしまった程です。
「でも私、お父様がリュカさんの事を怪しんで呼び出した時から分かってました。彼なら事態を直ぐに察知して、私達を助けてくれるだろうって」
僕の妻は未だに彼の事を語る時、恋する乙女の表情をする。相手が相手なだけに、とても不安になります。
「まったく……パパが余計な事を言うから。って言うか、あの馬鹿の日頃の行いが悪い所為で、こっちにまで被害がきたじゃない! いい迷惑よ……」
「で、ですがリュカさんが来てくれなかったら、今なお騒動は続いてたんじゃないですか?」
「それでも内々で解決すれば良いだけの事でしょ!」
はぁ~……やれやれだな。
思わずフローラに視線を向けたが、妻も僕と同じ様に“やれやれ”といった表情をしている。
「姉さん……それでもリュカさんに助けられたのは事実ですよ。我が家は何度もリュカさんに助けられてるんですから。リュカさんが居なければ、サラボナはブオーンに滅ぼされてたでしょうし、私もアンディーと結婚出来なかったんですから」
「そん時は私がお婿に貰ってやってたわよ!」
「それは無理ですお義姉さん。今ならばお義姉さんの気持ちも知る事が出来たし、如何なってたか分かりませんが、以前でしたら泣いて許しを得てましたよ」
「ムカつくわねアンタ……大体リュカがあの時に私を選ばなかったから、こんな状況になったんじゃない! 選りに選ってあんな田舎娘を選ぶなんて……アイツ何一つ助けてないわよ!」
「そんな事ありませんよ、あの時リュカさんが姉さんを選んでいたら、私は姉さんを嫌いになってました。本当に感謝に絶えません」
この姉妹がする独特の姉妹喧嘩だ。
結婚当時はこの喧嘩をされると如何して良いのか判らず唯々狼狽えてたけど、今では慣れた所為か微笑ましく眺める事が出来る。
「姉さん。リュカさんに手紙だけでも認めた方が良いですよ。直接は言えないでしょうし、言う訳にも参りませんから」
「必要ないわよ、あんな馬鹿に礼なんて!」
「いえ姉さん。手紙を認めるだけで、お礼を言えとは言ってません……ですが姉さんの言う通り、今回はとてもお世話になったのだし、お礼の手紙を認めた方が良いかもしれませんね」
ニッコリと微笑むフローラを、悔しそうに目を見開いて見詰めるデボラ義姉さん。
この勝負、我妻にあり!
アンディーSIDE END
(グランバニア城)
ビアンカSIDE
デボラの妊娠騒動から数週間……
ルドマンさんからの手紙と共にフローラさん・アンディーさん夫妻からの手紙がリュカの下に届いた。
その中にはなんと……デボラからの手紙まで入っていた。
「あの娘がリュカに礼状を出すなんて驚きね」
私達夫婦の私室に持ってきたデボラからの手紙を見せられ、正直な感想を述べる。
「さて……まだ中身を読んでないから、礼状だとは言い切れないよ(笑)」
そう言うと唯一未開封だったデボラの手紙を開封するリュカ。
「……で、何て書いてあるの?」
開封後A4サイズの便せんに目を移し、苦笑いをする夫に催促をする。
その言葉に苦笑いを強くし、私にも書面を見せ付けるリュカ。
そしてそこには……
『Thank you』
とだけ書かれてる。
「そ、それだけ……?」
A4サイズの便せんに、小さく“Thank you”だけよ!
礼だと言うのは解るけど、それで良いと思ってるのあの娘は!?
「デボラらしいなぁ(笑)」
「らしいけど……そんな手紙じゃ出す必要性がないじゃない!?」
呆れた口調で私が言うと、
「フローラに出せと言われたんだろうね。そして出すか如何かを迷ったんだろう……迷った挙げ句出す事にして、その内容にも迷い果てたんだろうね。きっと彼女は、便せんを何十枚とムダにしたんだと思うよ」
そうかもしれない……
そうかもしれないけど、前後の挨拶文くらいは書いても良いと思わない?
そんな思いでリュカを見詰めてると……ぐしゃぐしゃっとデボラの手紙を丸め、手近な屑籠に投げ捨てるリュカ。
「ちょ……捨てちゃうの!? デボラが悩んで書き上げた手紙なのよ?」
「だとは思うけど、彼女も捨ててほしがってると思うよ。僕にこんな屈辱的な手紙を持ち続けられるなんて……絶対に嫌だと思ってるよ」
そう言って最高の笑顔を私に向けてウィンクするリュカ。
何で女心に聡いんだこの男は?
私の苦労は続きそうだわ……
ビアンカSIDE END
後書き
色んな意味で成長を続けるティミーとポピー。
温かい目で見守りましょう。
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