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美しき異形達

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第四十三話 街道での死闘その九

「こんな美味いもん食えないってな」
「確かに牛丼ってね」
「吉野家のこれな」
「病みつきになる美味しさよね」
「そうだよ、こんなの食えないってさ」
「不幸なことなのね」
「あたし豚丼の話を聞いて泣いたよ」
 その頃薊は物心つくかつかないかの年齢だった、だからその頃の吉野家のことは知らないがその話を聞いてというのだ。
「まあ仕方ないことだけれどさ」
「その時の事情でね」
「そうだよ、牛丼だからいいんだよ」
 あくまでだ、薊はこのことにこだわりを見せて語った。
「食うのならな」
「牛肉と御飯だから」
「いいのにさ、豚肉なんてな」
「けれど薊ちゃん豚肉」
「大好きだよ、けれど吉野家だとさ」
「牛丼でないとなのね」
「吉野家の牛丼は最高だからだよ」 
 愛さえ見せての言葉だった。
「豚丼じゃ駄目なんだよ」
「そういうことなのね」
「そうだよ、やっぱり牛丼だよ」
 それ以外にはないというのだ。
「丼ものじゃ最高だよ」
「それで今もなのね」
「こうして食ってるんだよ」
 丼に米一粒も残さないまでの勢いで食べつつの言葉だった。
「寮とかでも出て来たらさ」
「いつもおかわりしてるわよね」
「学食でもよく食うしな」
 学生食堂でも、というのだ。
「牛丼はいい食いものだよ」
「何か。薊ちゃんが牛丼好きってことがね」
「わかるだろ」
「うん、よくね」
 裕香は薊に微笑んで答えた。
「私も好きだしよくわかるわ」
「そういえば裕香ちゃんもよく食べるよな、牛丼」
「美味しいからね」
 理由はこれに尽きた。
「私もよく食べるの」
「そうなんだな」
「そうなのよ」
「私もそうですし」
 桜も食べつつ言う、だがその勢いは流石に薊と比べるとかなり落ちる。薊はとにかくかなりの勢いで食べている。
「牛丼好きです。ですが」
「ですが?」
「まだ牛丼に対する偏見があるといいますか」
 ここでだ、桜は微妙な顔になり話すのだった。
「牛丼は女の子が食べるものではないと」
「ああ、何か言われるよな」
 薊は桜のその言葉に何度も強く頷きながら応えた。
「牛丼ってさ」
「はい、女の子が食べるものではないと思われているところがありますね」
「だよな、特に今のあたし達みたいにさ」
 薊は自分の特盛の丼を見つつ桜に返した。
「特盛で卵を入れて、紅生姜も忘れないで」
「そのうえでかき混ぜぜ食べることは」
「女の子の食べ方じゃないってな」
「思われていますね」
「これが滅茶苦茶美味いんだけれどな」
「はい、自由軒のカレーの食べ方と同じで」
 こちらも卵を入れてそしてかき混ぜる、牛丼とカレーの違いこそあれど確かに同じ食べ方であると言えばそうなる。
「物凄く美味しいです」
「それが駄目なんてな」
「そう言われることが」
「ちょっとな」
「残念ですね」
「昔牛丼っておっさんが食うものって思われてたんだったな」
「その様ですね」
 とある超人達が主人公であるプロレス漫画、まさに社会現象となった伝説の漫画で主人公が好物だったことから大きく変わったがだ、かつてはそう思われていたらっしい。 
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