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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・前半-未来会議編-
  第二章 時の始まり《2》

 
前書き
~明・灯による前章説明・第一回目~

【明さん】  :『とうとう来たわ、私のコーナーよお!
 第一回目だから少し説明しとくわねえ。これからは何時の間にか前書きがこんな感じになって、よく解らないルール無視で文章ダラダラ書いて、前章を振り返ろうと言うコーナーよお。
 前書きなのに異常に長いから覚悟しなさいよ。
 これ迷惑、別にいらない等の報告は作者の方によろしく。私に報告されてもどうしようもないもの。
 ええっと、このコーナーの説明の続きよね。
 なら次は台詞前の部分について説明しようかしら。台詞前、つまり私の場合は“明さん”の部分のことよ。
 これは間接会話|《チャット》内の名前ね。制限として五文字以内よ。バケットモンスターを参考にしたらしいわ。略すとバケモン……化けもんよ! 何これ、最近の少年少女はこんな怖いものやってんの。信じられないわあ。
 一応言っておくけど、間接会話は作中では出さない予定みたいだからレアって言えばレアなのよねえ。
 こんな感じでこのコーナーの説明は終わりよ。他に説明すること? 無いわ! 知らないわ! やらないわ! だってこのコーナーは私のものだから!
 て言っても役目はちゃんと果たすわ。前章の出来事を簡単にまとめから、ありがたく拝みながら見なさあい』

-前章のあらすじ-
 寝坊したセーランを美兎が寝取る。
 朝からパッションな二人はお手て繋いで、いざ皆の元へ。
 しかし、そこには今や元カノとなった美琴が!
 傷付いた美琴、いや琴姫を私が慰め、二人は恋に落ちそのままトゥルーエンド直行! ……にはならなかったわ!
 タイミングを見計らったように、咲先生が今おかれている日来の状況を説明。
 そしてまたタイミングを見計らったように馬鹿長ことセーランが、行こうぜ皆! みたいなこと言って一章終了よ。
 さすがに物語開始直後からトゥルーエンドには行かないみたいね。でも行ってやるわ!

【明さん】  :『…………。
 私はね、美琴を愛してるの。私の姫だから琴姫。なのに私の姫様はいっつも私に向ける筈の愛を皆に振り撒くの! 焦らしプレイなんてゾクゾクするじゃない。私も琴姫を寝取った方がいいのかしら?
 なんにしても、かくして神葬世界×ゴスペル・デイは始まったのでした。タン、ターン』
【馬鹿長】  :『好き勝手やってるのな』
【明さん】  :『?』
【馬鹿長】  :『(こいつで本当に大丈夫か?)』 

 
 外交区域学勢領の正門の前に、二人の学勢と二人の教員が立っている。残りの学勢は正門から真っ直ぐ見える、建物の敷地内で会議場の準備に取り掛かっていた。
 各自のやることを行っている学勢達を見て、正門にいる女子学勢の背に寄り掛かっていた男子学勢は空の方を向いた。
「いやあ、皆よく頑張るなあ」
「あ、あの……何時まで寄り掛かっているつもりですの?」
「ネフィアは半獣人族だから、温かいんだよなあ」
 はあ、と納得していない様子でネフィアは答えた。その様子を見ていた咲と榊は、二人揃って頬を上げる。
 四人は正門付近で立っており、誰かを待っているのかその場を動かなかった。
「そう言えばネフィアは真ノ自由独逸|《エヒトフライハイト・ドイツ》の出身だったね。確か戦闘貴族の御令嬢だったっけ?」
「はい、そうですわ」
「ルルフさんのお母さんとは数回しか会ってませんが、とても綺麗な人ですよね」
「性格はあれですが、まあ、綺麗なのは確かですわね。髪の手入れとか、色々と教えてもらいましたし」
 ネフィアは自分の髪をいじりながら話した。
 風が吹き、ネフィアの髪を宙に遊ばせる。
 風が弱まり髪はその重さで下がっていき、その丁度下にあったセーランの顔に髪が覆い被さった。
「うお!? 髪が俺を覆ってきやがった」
 落ちてきた髪を勝手にいじり、セーランはネフィアの背で髪と戯れる。
 驚いたようにネフィアは後ろを向くが、自身の死角であるため姿を目に捕らえることが出来無い。
「お願いですから髪を乱さないで下さいな」
「オッケーオッケー、ベリーオッケー」
「本当に解ってますの?」
 そう言うもののセーランは、ネフィアの髪を巻いたりして遊んでいる。
 くすぐったい感覚を得ながら、心のなかでため息を付く。
 我が覇王は呑気で困りますわね。まあ、長気は得気と言いますが、これはちょっと……。
 解っていないとネフィアは諦めた。諦めのため息を今度は口で吐き、会議場の準備をしている皆を見た。
「そこの椅子はもうちょっと右で……あっ、行き過ぎですよ。はい、そこでお願いしますね」
「トオキン、これをあっちに持っていってくれるかい?」
「了解した」
「リュウ之介、これあそこまで持っていって結んでおいて」
「随分と運動会な雰囲気だなー」
 宙に浮く竜ことリュウは、紐に通した各国の国旗を建物に結ぶ。
 不思議そうに榊はこちらを見て、会議場の方を指差した。
「あれ、どう見ても運動会だよね。確か今日、辰ノ大花と話し合いするんだよね? 仲良く運動会するんじゃないよね?」
「その筈なのですが……」
「仲良く運動会出来るようになればいいのにね」
 確かにそうなればいい、とネフィアは思う。
 この話し合いは、本来ならば社交院が行う筈だった。
 しかし、今自分の後ろにいる長はこれを、学勢の意思を無視した行為だと意義を唱えた。そのことで社交院と数日に渡って話し合い、今の状況になっているわけだ。
 そう言えば、我が覇王は今日想い人に告るとか言ってましたけど。誰なのでしょう?
 後ろでまだ髪をいじる、見えないセーランを見るように後ろを見る。
 何を想い、何を考え行動したのか、その全ては覇王会面々でさえも分からない。
 ただ、何があろうと、
「信じてますわよ」
 答えるように、セーランはネフィアの頭を数回叩く。
 二人の教員は、今は数歩離れた所でこれから行われる会議について話し合っていた。
 ″俺も″ですか、我が覇王。信じてくださいませ、その期待に応えて見せますから。
 会議場の準備が終わったのだろう。数名の学勢がこちらに手を振ったり、視線で終わったことを知らせている。
 こちらも顔を上下させ、伝わったことを知らせた。
「幣君、あと十数分ぐらいで着くそうなので準備しといてくださいね。皆さんも覇王会以外は建物のなかに入っていてくださいね――!」
 咲が声を張り、三年一組の学勢達に伝える。
 伝わったのだろう。覇王会を除く学勢達は建物の中に入り、会議場には覇王会面々が残る。
 髭をいじりながら、覇王会会長であるセーランに榊は一言。
「いよいよ、て感じだね。気合い入れなよセーラン君」
「んじゃ、これから頑張りますかっと」
 セーランはそう言い、ネフィアの背から離れた。
 やっと離れたと思いネフィアは、ポケットから手鏡を取り出し髪を整える。
 今だ変わらぬ景色を楽しむかのように笑い、長であるセーランはこれからのことを思った。
 世界を渡る日々のことを。



 青く広がる空の下、西二番貿易区域に一つの戦闘艦が停泊している。
 青い竜の紋章がある戦闘艦だ。その戦闘艦の近くには数人の学勢がいる。
 少し離れた所で彼らを、日来の住民は興味本意で見ていた。
「これで日来宛の伝文|《メール》の作成は完了、そして送信っと。全く、日来は辰ノ大花と違ってのんびりとしてますねえ」
 ゴーグルを掛けた辰ノ大花の者が一人。映画面|《モニター》で伝文を送った後、周りを見渡して言った。
 特にうるさくもなく、静かでもなく。日来は何時もと変わらぬ時間が流れている。
 変わらぬ日常のなかに、彼ら部外者が来たのだ。
「奏鳴様、体調の程は?」
「大丈夫だ、実之芽。竜神の力は今は静まっている。心配を掛けてすまないな」
「いいえ、無理はなさらぬよう」
「そうですよ。もし奏鳴ちゃんが倒れたら実之芽君が、いや! 行かないで、そーめーい!! なんて叫んでもう僕達もパニックパニック」
「黙りなさい、棚部」
 これから始まる話し合いのことを忘れているのか、棚部一人がよく騒いでいた。
 そんな棚部の後ろから二人の教員が歩いて来た。更に後ろに、二人の学勢も一緒に来る。
 一人は老婆、もう一人は。いや、もう一機と言うべきだろう。全長三メートル程の白の騎神が歩いている。
「おやおや、元気なもんだ。若いってのはいいねえ」
「お前達、これから日来と会議をするのだ。あまり騒ぐな」
「そうで御座るよ。自分を見習ってほしいもので御座る」
「介蔵は相手にされないだけだと思うな」
 二人の後に続く明子の言葉に、介蔵は地に手を着き崩れ落ちた。
「じ、自分、友がいないわけでは御座らぬよ。今日はた、たまたま話す相手がいいないだけで御座って……か、悲しいで御座る――!」
 周りの辰ノ大花の者達は、馬鹿を見るように介蔵を眺めていた。
 若い者達を見て、くす、と笑う蓮は奏鳴に近付き、左手を奏鳴の右肩に優しく載せた。
「大丈夫、奏鳴ちゃんは必ず救ってみせるよ。だから今は、これからのことに集中しなさい」
「……はい」
 奏鳴はこちらに顔を向けず、ただ言葉だけが返ってくただけだった。暗い感情に染まる奏鳴を、周りの皆は黙って見ていた。

 沈黙を破るように、タメナシが蓮の元へ近寄る。
「学長、そろそろ行かねば遅れてしまいます」
「そうかい、そうかい。それじゃあ行こうかね」
 学長の言葉に、学勢達は歩き始めた。
 日来と話し合い、今後の未来を伝えるために。
 今、自分達は日来住民の注目の的だ。
 自分達は日来住民からどのように思われ、どのように見られているのだろうか。
 そんな下らないことを考えながら、外交区域学勢領にある会議場を目指した。



 今は午前十時を少し過ぎた頃だ。
 外交区域学勢領の会議場に、数人の学勢が横に一列に並んで話し合っている。
 他の学勢は皆、建物のなかへ行ってしまったため、会議の時間が来るまで暇な様子だった。
 覇王会伝達者である岩清水・飛豊は改めて、この状況になったことに驚きを感じた。
「まさかこんなことになるなんてな」
「確かにネ。セーラン考えること、時々分からないからナー」
「そう言えば長さん、今日告るとか言ってたけど誰になんだろう。アッちゃん知ってる?」
「価値ある話だが知らんな。レヴァーシンクに聞いたらどうだ」
「ならゼッちゃん知ってる?」
「知らないよ。知ってたらすぐ伝界|《ネット》で流してるよ」
「容赦無いなお前……」
 覇王会の面々は、それぞれ言いたいことを言い合う。
 時間が刻々と過ぎていくが、自分達の使命はなかなか過ぎていかない。
 本番前の緊張感はどうにも好きになれない。早く会議を終え、伸び伸びとしたい。
 重たいよなあ、この責任。
 飛豊は穏やかに雲が流れる空を見ながら思った。
 もう辰ノ大花の面々は日来に着き、こちらに向かっている筈だ。
 咲先生から十数分後に辰ノ大花は来ると連絡を受け、それから幾らかは時間が流れている。
 緊張すると時間は長く感じるものだな、と日豊は思う。
 緊張を解くように深呼吸をし、肺に空気を送った。
「どした飛豊、緊張してるカ?」
「まあな、空子は緊張しないのか」
「緊張に慣れてるからナ。掌に人って漢字を三回書いて飲むと緊張しないっテ、恋和言てたヨ」
「ビタミン剤を腹痛薬と思って飲むと、腹痛が治るっていうあれと同じか」
「……う、うん。きっとそれと同じネー」
「最初の間はなんだよ!」
 日豊は恥ずかしがって顔を赤めた。
 周りは見下すような眼差しを、赤面の日豊に向ける。
「出た、飛豊の貧乏知恵」
「お金が無いなんて本当かわいそう。そこまでしないと生きられないなんて、現実はなんて残酷なの!」
「本当にそうだな。価値ある知恵と、そうじゃない知恵が区別出来無くなるとは……本当に残酷だ」
「いらん同情はやめろ! ほ、本当にかわいそうな奴だと思うだろ」
「「違うの?」」
「皆、揃って言うなよ!」
 騒いでいるなかで、レヴァーシンクは自身が開いている映画面|《モニター》の右上に映る伝文|《メール》のアイコンを押し、本文を見た。
 数秒後、読み終えたのか開いていた映画面を閉じて、騒いでいる仲間達の方を見る。
「騒いでいるとこ申し訳無いけど、いよいよ来るよ。僕達、日来の今後の未来を伝える者達が」
 その言葉を聞き、仲間達は騒ぐのを止めた。
 真剣な眼差しをして、映画面を消すレヴァーシンクを見る。
「まあ、セーラン君は正門の方で待ってるからここは覇王会戦術師として僕が言うよ。
 この話し合いと言う会議に日来の運命が掛かってる、なんてことは君達は嫌な程聞かされたね。だからもう言わない。僕達が上手くやれば日来には少しはマシな未来が待ってる。もしこれが上手くいかなかったら日来は世界から消えるだろうね」
 仲間はこちらを見ている。
 覇王会戦術師はその名の通り、戦術を練る役職だ。戦いの流れを左右する重要な役割だが、表立って戦術を皆に知らせるのは戦術師以外の役職となってしまう。
 甘い蜜を狙う蜂の如く、戦術師から戦術を取ってしまったら何も残らない。
 だから今回のように戦術師がリードする場面は、レヴァーシンクにとっては泣ける程に嬉しかった。
 何時もは舞台脇の役者だった。けど今は違う。いいね、まるで僕が仕切っているみたいだ。
 浮わついた気持ちに気付きながらも、言葉を続けた。
「まあ、どっちにしろ日来には世界を敵に回すしか残る術はないんだけどね。だから僕は上手くいこうが、いかなかろうが大差無いと考えている。だけどやるからには最良の結果を残す。
 いいかい建物内にいる皆達も、これから何が起ころうともう逃げられないよ。逃げたいなら会議が終わるまでに転校届けを他学勢院に出すこと。これは日来にいる学勢と、住民には会議が終わるまでに移住届けを出すように伝えてある。
 覚悟しなよ、ここから全てが始まるんだ」
 会議場にいる覇王会面々も、建物内で映画面越しで見学している仲間達も、遠く離れて映画面を見ている者もその言葉に重みを感じた。
 この伝えで神州瑞穂の親戚の所や、他国に移住した者達は少なくない。だが、それでも日来にいる者達は覚悟を決めたのだ。
 それでも日来に残ると。



 外交区域学勢領の正門に繋がる約二十メートルの大道に数人の者達が、学勢領に向かって歩いて来ている。
 距離にしてまだ百メートル以上はあるだろうか、その姿を半獣人族のネフィアが視界に捕らえた。
「来ましたわね。咲先生、レヴァーシンクに報告をお願いいたします」
「はい、分かりました」
「数は学勢五人、教員二人……て学長自らのお出座しかよ。これはいい報告じゃなさそうだなあ」
「ええ!? ど、どうしましょう!」
「慌て過ぎだって。別に今更驚くことじゃないだろ?」
 そうですよね、と咲は落ち着いた。
 ここへ来る者達も、すでにこちらを視界に捕らえ
ているだろう。
 彼方の真ん中にいるのは、辰ノ大花の宇天学勢院覇王会会長。それを中心に、彼らは横に広がっている。
「幣君、そろそろ出番ですよ」
 しかし返事が聞こえない。
 確かめるよくにもう一度呼んだ。
「幣君、幣君! 聞こえてるんですか?」
 そう言い咲は彼がいたネフィアの横を見る。
 何処にも彼の姿は無かった。
 いるのはネフィアと榊だけ。肝心の覇王会会長であるセーランが、見る限り何処にもいなかった。
 ええ! ど、どこに消えたんですか!?
 慌てる咲の様子に気付き、ネフィアと榊よ辺りを見渡す。
 とその時。大道の向こう側で、こちらへ向かっていた来訪者達が騒ぎ出した。
「貴方、いきなり何の用!?」
「ストップストープ、挨拶に来ただけですよう。今回はわざわざ遠い所から、お越し下さりどうも有難う御座いますう」
 セーランはわざとらしいお辞儀をする。急な出来事に、宇天覇王会隊長以外の来訪者達は彼の行動に唖然とした。
 それもそうだ。これから運命を左右する相手に、普通はこんなに積極的になれる筈がないのだから。
 正門にいる者達も口を閉じるのも忘れて、驚きを隠せていない。
 驚きを抑え、なんとか宇天覇王会会長はセーランに一言。
「あ、い、いや。まずはその喋り方をどうにかしてほしい」
「あ、そう? なら普通に喋らせてもらうわ。この話し方、気持ち悪いしな。早速自己紹介と言うことで、俺は幣・セーランね。ヨロシク!」
 体をくねらせ、舌を出し、セーランは左手でピースをする。その異様なテンションに、来訪者達は付いていけなかった。
 リードするように、この場合は引きずるようにか。辰ノ大花側の平常心が整うのも待たずセーランは話を進める。
「いやあ、責任感じるようなことさせてごめんな。そっちも色々と忙しいのにさ」
「私達の長に話し掛けてるとこ申し訳無いけど、会議場に案内してもらえるかしら」
「……? 了解了解、んじゃ付いて来て。あっ、婆ちゃん一人で歩ける? 手、貸そっか?」
「貴方! こちらのお方は――」
「静かにしなさい実之芽ちゃん。気遣い有難う、でも大丈夫よ」
 実之芽の言葉を蓮は遮った。
 実之芽と呼ばれた少女は嫌々セーランに一礼し、前へ出てしまった身体を後ろへ下げる。
 危うく手を出しそうになってしまった。幾ら自分が追い詰められていようと、彼方には関係無い。気を付けなければ。
 ここ最近あまり休んでないせいか、すぐ気が立つわね。だけど、奏鳴のためだものね。
 奏鳴の関係で睡眠時間を加護で補っている状態が、もう一ヶ月近く続いている。
 しかし幾ら加護だと言えど、疲労がすっきりと消えるわけではない。
 ふう、と息を吐き、心を沈ませる。
 その時、こちらに強い向かい風が吹いた。
 急な風に実之芽は自分の髪を押さえながら、視界に入ったセーランと言う学勢の右袖を見て驚いた。
 右腕がない!?
 疲労の蓄積で、周囲の確認が散漫していた。見れば分かる筈のことが今、分かった。
「あなた、右腕が――」
 と、反射で言ってしまった。直後、この問いを愚問だと感じた。
 今は腕を失っても義碗がある。しかし、義碗を付けないということは、何かしらの意志の現れなのだ。
「ごめんなさい……気を悪くしたかしら?」
「気にすんな。こっちは別に右腕のことなんて気にしてねえから。義碗を付けないのは値段が高いからだよ。色々と不便だけども、てそんなことはどうでもいい。それよりも歩こうぜ」
 嘘だ。
 実之芽には解ってしまった。
 眉が微かに動き、動揺したのを。この目で確かにしてしまったため。
 底が見えぬ程の深い覚悟を、彼の無き右腕が表している。
 悪いことをしてしまい申し訳無い気持ちになるが、落ち込んでいてもしょうがない。
 彼方は気にするなと言ったのだ。ならば気にはしないことにする。
 歩き出した日来学勢院の覇王会会長の後ろを、来訪者達も後に続き歩き始める。
 先頭を行くセーランは歩きながら、後ろを行く辰ノ大花勢を確認した。
 やっぱりあっちの長は訳有りだな。周りの連中も会長に話した時だけ、戦闘体勢にちゃっかり入ってたし。
 そう思いながら前を向き、歩き続けた。
 近付いてくる長と辰ノ大花の者達を見たネフィア。視線は長であるセーランに向けられており、
「絶対何かしましたわね」
「だね。ところでさ、あっちの覇王会隊長何か疲れてない? 歩幅が一歩ごとに微妙に違うんだよね」
「変なことしてなければいいですけど……」
 正門を塞ぐように立っていたネフィアは左、教員二人は右に別れ、会議場に続く道を開けた。
 セーランは彼らよりも先に会議場に向かい、通り過ぎる際に手を軽く挙げ、お礼の意を示した。
 後から来訪者達が入って行き、全て入ったことを確認し、その後ろに三人は続いて入って行った。



 外交区域学勢領のすぐ右側にある外交区域社交領の建物の中に、幾つかの人影が映画面|《モニター》を見ている。
 机を四角形に並べ、中心にある映画面越しに会議場の様子を監視しているようにも見える。表示されている映画面には、覇王会の面々と来訪者達が映っていた。
 見ながらその場にいる社交員の一人が、静かに口を開いた。
「お前達に全てが掛かっている。ミスはしないでくれよ」
「やはり、いざその時になると不安なものですな」
「もしもの場合は社交院の権限で乗り込むぞ」
「そんなことをしたらバレる可能性が」
「他言無用だ。ならばそうならないようにと、彼を信じよう」
 その者の気迫に、周囲の者は静まり返る。
 彼は一息入れ、閉じた視界を開き映画面を見る。
 映画面には日来覇王会会長が映っていた。
「お前が何を考えているか分からんが、日来の未来はお前達に全て掛かっているんだ。間違っても馬鹿な真似はするなよ」
 映画面に映る覇王会会長の顔を見ながら、彼は座っている椅子にもたれ掛かる。
 椅子の軋む音がこの空間に響いた。
 そして今、会議の始まりを知らせる警報が日来全土に高らかに鳴った。 
 

 
後書き
 今回もキャラクター紹介のようなもの。
 それにしても、キャラが多いとだすの大変だということに今気付く……。あ、でもキャラ数は変更しないですよ。ただし、コイツでるの少なくね? とかあります……絶対。
 何があろうと次回は、面倒臭くなる会議へ突入。 
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