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101番目の百物語 畏集いし百鬼夜行

作者:biwanosin
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第十一話

◆2010‐05‐12T09:30:00  “Yatugiri City”

 と、テンと一緒に学校に遅刻した日の放課後。俺はテンと一緒に俺の出身校である中学校へ向かっていた。なんでも、『ロアの調査』らしい。説明は現地に向かいながらするとか。

「さ、それじゃあ説明を始めるわよ。Dフォンは持ってるわね?」

 ポケットからDフォンを取り出して見せると、テンは頷いた。

「Dフォンは、『8番目のセカイ』に接続するための端末よ」
「あーっと……どっかで聞いたような、聞いてないような……」
「新しい『ロア』が現れたり新しい『ハーフロア』が生まれたりすると、Dフォンが渡されるの。相手は三枝さんだったりヤシロだったり、あともう一人いるみたいだけど……まあ、後者二人も『ロア』なの」
「やっぱり、か」

 だとすると、『世界』という神様がいて、その写し身のような存在として『神社』、ヤシロちゃん。で、そこまで導く『道』のラインちゃん、ということなのか?

「まあ彼女たちのことは置いといて、ほとんどのロアやハーフロアはこの端末を持っているの。Dフォン同士なら電話もメールも無料、っていうのも便利なところね」
「それは確かに便利だ」

 というか、そんな感じで作れちゃうのか。都市伝説ネットワーク。そんなことを考えながらテンと連絡先を交換しておく。

「ちなみに、昔は出せば必ず飛ぶ矢文とかだったらしいわ。まったくもって便利じゃないわね」
「確かに。ってか、そんな昔からこのシステムあるんだ……」

 しかし、急に矢が飛んできたら怖いな。Dフォンになってて良かった。

「で、そんなDフォンだけど。これには『コード読み取り』の機能がある」
「コード……ああ、夢で見た猫にカメラを向けたら、なんか読みとったやつのことか?」
「え……それ、どこで?」
「校門前。ラインちゃんにこれを渡されたときに、そこの猫さんに向けて、って」

 道を歩きながらそう言うと、テンは腕を組んで少し考えだした。

「……なんかまずかったりするのか?」
「そうじゃないんだけど、わざわざあたしに干渉させた理由がよく分からないのよね……」

 そのままじっくりと考えていたが、「まあ分からないしいや」とあっさり思考を放棄した。ちょっと不安になるけど、ここまであっさりと放棄できるなら気にしなくてもいいのかな?

「じゃあコードについて説明するわね」
「あ、はい。お願いします」
「コードっていうのは、つまり『因果』のことなの。因果を簡単に説明すると、まあざっくり『縁』ってことになるわね」

 つまり、バーコードみたいな情報の塊ではなくて、何かと何かをつなぐ線ということか。

「で、『縁』があったらそれをつないでくれるのか?」
「そういうこと。つまり、あんたの百鬼の一人かもしれない『縁』を読み取れば、Dフォンが勝手に引き寄せてくれる」
「そこからが主人公の出番、ってことになるのか?」
「そういうこと。普通なら『縁』があっても結ばれないところを、Dフォンは繋いでくれるのよ」

 なるほど。つまり、受け身でいなくてもこっちから行動に移ることもできるわけだ。よくある主人公のように巻き込まれなくてもいいのは、心臓にいいな。
 今後は積極的に『百鬼』になりそうなコードを探して行こう。出来ることなら、女の子がいい。

「はい、説明は以上!それじゃあさっさとあんたと縁のあるコードをお探すわよ」
「俺の、でいいのか?まるで俺がコードを探すのを手伝ってくれるみたいな言い方だけど」
「こういうのは『主人公』の方が向いてるのよ。ひたすらコードを探していけば、いずれ『ペスト』にも辿りつけるでしょうし」

 数撃って当てる戦法なわけだ。しかも、当てた中でも目的のものを出していかないといけない。時間をかけての作戦になりそうだ。となると、どれくらいの確率で当たるのかは知っておきたい。

「じゃあ、テンのコードってどれくらい見つかるんだ?」
「そうね。1日普通に過ごしていれば、2、3個は見つかるんじゃないかしら?縁の太さを除けば、だけど」
「あ、意外と見つけやすいもんなんだな」
「あたしが特別なのよ」

 うん?

「ほら、あたしの物語は『正夢造り』じゃない?」
「ああ……そう言えば、正確にはそうなんだよな」
「だから、『夢で見たな、これ』って強く記憶に残ってるものは全部コードになるの。元ネタがあれだから、自分が死ぬ夢で出てきたものの方が強い縁になるけど」
「……だったら、一般的な例としてはどれくらいでしょうか?」
「そうね。物によっては『これだけが縁!』っていうのもあるし、1週間探しまわって一つ見つかればいい方じゃないかしら?」
「うへぇ」

 本当に、長期戦でいくしかない奴だ、これ。偶然でもない限り終わらない可能性すらあるじゃん。

「……なあ、そこまでしてでも見つけないとダメなのか?その、『ペスト』の魔女ってのは」
「ダメね。というか、どうにかしないと本当にどうしようもなくなる」
「というと?有名になりすぎて他のロアの噂が目立たなくなるとか?」

 だとすると、それは本当に命に関わるから困る。どうにかするしかない。

「そんなレベルじゃないわよ。相手はペスト……疫病よ?その類が『魔女』なんて言う噂がつくようなレベルになるとすれば、それはどんな時?」
「えっと……」

 大分難しい質問な気がするので、俺の中で勝手に簡単にさせてもらう。つまり、病名が超有名になるにはどんなことが必要になるのか、と。そして、こうした瞬間に答えは分かった。つまり……

「……死人が、たくさん出る?」
「そう、正解。だったら、その『ロア』が本当の意味で実行するべき物語は?」

 そういう形でロアとなったなら、その物語の実行に必要なのは……実行する、物語とは。

「疫病によって、死人を大量に出すこと?」
「ようやく分かったわね。ちなみにこの場合、その被害が……崩壊が街単位で済むかは分からないわ」

 ようやく、理解した。その魔女は、本当に何とかしないといけない。何とかしないわけには、行かない存在だ。

「……分かったなら、いくわよ。まずは、主人公であるあんたのパワーアップをしないと」
「それは、どうやったらできるんだ?」
「簡単よ。より多くの『物語』を乗り越えたり、自分の物語にすればいい。ただそれだけのこと。ティアに聞いたけど、八霧高校には学校の怪談的なものはないのよね?」
「ああ、少なくとも聞いたことはないはずだけど」
「だったら、どこかにそれがあるって聞いたことは?そう言うのがある学校に行けば、『コード』が見つかる可能性も高くなるんだけど」

 ふむ……といっても、俺はそこまで詳しいわけではない。よって、考えられる候補は二つ。俺の通っていた中学校と小学校。で、学校内に入ることができそうなのは。

「中学時代なら、そういう噂もあったな。怪談系の話が好きな年頃だったのかもしれない」
「じゃあ、そこに行きましょう。学校の名前は?」
「八霧中学校」
「……そう」

 いや、同じ街にあるんだから仕方ないと思う。それに、分かりやすくていいじゃん!

「じゃあ、どんな噂があったの?」
「細かく知ってるわけじゃないぞ?俺、そこまで熱心に調べてたわけじゃないから」

 そう前置きしておいてから、俺は考える。あの中学で噂されてた怪談は……

「登る時と降りる時とで段数が違う階段とか」
「たぶん、遭遇しても何も起こらないからなんのパワーアップにもならないわね」

 だがしかし、階段側は噂され続けるから消える心配はない。地味だけどいいな、それ。

「空飛ぶ二宮金次郎像とか」
「それで終わりなら、立派な出落ちね」

 おっしゃる通りだ。これについては、何が怖いのか分からない。
 ついでに薪の数が数える時間によって違うっていうのもあったけど、これはどうでもいいだろう。

「他にはないの?『花子さん』とかいてくれると、超有名な分超強いんだけど」
「なかったなぁ。いやさ、そういう定番系のやつは広まりづらい校風だったんだよ」

 どこかに変な要素、珍しい要素があるのが特徴だ。

「だったら、他に何があるのよ?」
「んー。放課後になると変顔する、音楽室の作曲家の絵とか」
「なんで変顔してるのよ」
「夜中に鳴き出すカエルのホルマリン漬けとか」
「普通に気持ち悪いわね」
「タップダンスやらコサックダンスやら、夜中になるととにかく世界中のいろんなダンスを踊る骨格標本と人体模型の二人組みとか」
「やたらめったら踊ってるわね!」

 無駄にキャラの濃そうな都市伝説だからか、テンが頭を抱えている。まあうん、こうして思い出していて俺もそう思う。無駄に濃いな、あの中学のロア達。

「はぁ……他にはないの?いざとなったら日影市にいってあたしの出身校に行くのも手だけど、知り合いのロアばっかりだからあんまり意味ないのよね」
「まあ、物語を経験しないといけない身としては、だめだろうなぁ」

 第一歩から頓挫してしまうのは避けたい。でも、何かあっただろうか……

「あ……」
「どうしたの?」
「まだ一つ、あった。これも他の学校にはなさそうな感じだけど、でもまだマシかも」
「これまでにあげたやつに比べたら大抵マシな気がするけど、どんなの?」

 もうそろそろ「ろくなのはないだろう」という感じになってきてるけど、テンもそれならまだいいって言ってくれると思う。

「といっても、俺も正確に覚えてるわけじゃないんだけどな……語り始めしか覚えてない」
「それ、語り始めだけまともっていうパターンがあり得るじゃない」
「でも、全体的にましな可能性がある唯一の残りだぞ?」
「そうなのよねぇ……」

 テンは少し悩んでから、それを言うように促してきた。では、

「語り始めは、下校時間後の音楽室に入ると、ひとりでにクラリネットが鳴りだすんだ」

 その瞬間、テンの表情は呆れから驚き、そして期待へと変わった。よし、これならいけるかもしれない。
 
 

 
後書き
こんな感じになりました。
次回、またオリキャラの都市伝説が出てきます。
ちなみにですが、この作品に出てくるロア達は下のパターンに分けることができ、

①もう『チート』って言葉でも足りないくらい強いロア。
 今出てる中ではテンとか、あと『ペストの魔女』もこれにあたります。


②なんだ残念な、戦闘能力という面では弱いロア。ついでになんだか残念だったりもする。
 今現在ではまだ出てきていません。

③一点強化型とでも言うのか、『この能力だけなら強い!』というロア。
 今現在ではまだ出てきていません。

となります。さて、次回登場するのはどのロアでしょうか?
どうぞお楽しみに! 
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