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ココロコネクト~六つ目の頂点~

作者:心葉
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ヒトランダム
  入れ替わりのはじまり

翌朝、俺は昨日起きた八重樫と永瀬の入れ替わりなどなかったことにして通学した。
が、世の中そんなにきれいには終わらせてくれなかった。

学校の最寄り駅で降りた俺は前方に稲葉の姿を見つける。そして駆け寄る。

「よう、稲葉」

「ああ、武藤か」

声をかけたはいいが特に話す内容はなく、変化なく二人して無言で歩く。
まあ強いて言うなら、途中にカップルで登校している二人組を見かけて、わずかに距離を開けたくらいのことはあったが。
本当ならば昨日のことについて話し合いたかったのだが、周りには大勢の山星高生、どこから話が漏れるか分かったものではないので口をつぐむ。

学校前の長い坂に差し掛かった時、ふと視界が暗転した。
次の瞬間、何か違和感を感じた。いつもと同じ光景なはずなのに少しずれているような。
そして気が付く。さっきまでに比べて視界が低いことに。
もしかしてと思い先ほどまで稲葉がいた右に視線を向けるがそこには誰もいない。慌てて左を見ると、そこにいたのは稲葉ではなく俺だった。
叫びそうになるが、理性をもってして抑え込む。ここで急に大声を挙げたら周りに注目され怪しまれること間違いなし、その結果入れ替わりに気付かれる可能性も出てくる。そう察したからであるのだが……

「はあぁぁぁぁ!?!?!?!?」

どうやら稲葉は自制できなかったらしい。というか、今は俺の身体なのだからこの先怪しまれるのは俺ということになる。まったく面倒なことを。
だが、予想していたより集まった視線は少なかったので、俺は自分の手をつかんで学校前の坂道を全力ダッシュする。そしてそのまま教室に行かずに部室に直行する。早めに来ていたので少々の時間はあるが、昨日の様子からして授業開始までに元に戻る可能性は低い。
他の二件の時は大勢に晒されることはなかったが、授業を受ければ必然的に大勢の前に晒されることになり結果として入れ替わりがばれるといった事態になりかねない。だからといって授業をさぼってしまえばそれはそれで目立つこととなる。どちらが最善かは分からない。
よってこのまま部室でこの後どうするかを稲葉と相談することにした。

「で、どうする?このまま授業サボるか入れ替わったまま授業を受けるか」

「アタシとしては授業に出ることは反対だ。こんな訳が分からん状態で人前に出られそうにない。おとなしく伊織や唯たちの時みたいに元に戻るのを待った方がいいだろう」

稲葉の判断は極めて冷静で理性的で妥当だった。

「そうだな。ならせめてクラスが同じ永瀬か八重樫くらいには連絡しておくか」

そう言いポケットを探り稲葉の携帯を取り出したその時、再び視界が暗転した。
視界が戻った時には目の前には稲葉がいた。元に戻ったかどうかを確かめるために声を出してみる。
よし、元通りだ。
だがしかし、気になるのはまだ入れ替わってから十五分程度しか経っていないということだ。他の件より入れ替わっている時間はずっと短い。
まあ、早く終わるに越したことはないのだが。

「元に戻ったみたいだな。なら、伊織たちへの連絡も要らんな。いや、でも放課後に部室集合の連絡くらいは回しておくか。アタシたちも経験した以上、昨日の件も認めるしかないしな」

稲葉は俺が入れ替わっていた時に取り出したまま手に持っていた携帯を素早く操作し、メールを回した。
どうやらこの事件は簡単に収束されそうもなかった。


放課後、いつものように部室棟の階段を上るがその足どりは重かった。部室の扉を開けると永瀬と八重樫以外の三人の姿。稲葉は残りの二人に今日自身も入れ替わりを経験したことを話していた。
一応これで全員が一通り入れ替わりを経験したことになるのだ。そして、三度も入れ替わりがあって俺たち六人以外と入れ替わらなかったということはこの入れ替わりの対象となっているのはこの文研部の部員である可能性が非常に高いということだ。では、原因は何だ?外部か?内部か?食べた物か?触れた物か?
そんなことをつらつらと考えていると大きな音を立てて扉が開いた。

「太一は、太一はいるか!!」

そう言って飛び込んできたのは永瀬だった。まさしく鬼の形相といったようだった。

「いや、まだだが。どうかしたのか伊織」

「太一が!太一が!藤島さんが!」

いつものひょうひょうとした永瀬はどこへ行ったのやら、内容がいまいちつかめないことを繰り返している。
そこへバットタイミングなのかグッドタイミングなのか八重樫がやってきた。
八重樫が入ってきたのを見た瞬間永瀬は八重樫に飛びかかった。

「太一……!貴様に……貴様に聞きたいことがあるっっっ!」

「な、ど、どうした永瀬」

「昨日、私と入れ替わってた時、藤島さんとなにがあったぁぁ!!」

「あ、いや、大したことじゃ……」

「大したことかどうかは私が決めるっっっ!!」

八重樫は永瀬の鬼気迫る迫力に気圧されたか、昨日入れ替わった直後に何があったかを白状した。
曰く、自分の状況を確認するために胸を揉んで、その光景を見ていた藤島に迫られたといったところか。
ていうか、永瀬怖えぇ……

「うわーん!胸揉まれた―!お嫁にいけないよー!」

永瀬が泣きながら叫ぶ。

「し、仕方なかったんだ!自分の状況を確かめるにはああするしか!」

「……別に他の方法でも確認できただろ」

周りの非難するような目に対して不可抗力であると主張する八重樫にとどめをさす。
すると、うっ……とうなりながら八重樫は黙った。やはり女子の胸を揉んでみたかっただけか。むっつりめ。

「太一のバカー!ひどいよー……ってそれよりも、ふ、ふ、藤島さんがー!」

何があったか知らないががくがくと震えながら藤島におびえる永瀬。
藤島麻衣子、彼女はいったい何をしたんだ……

「じゃあ、まあ全員そろったことだし、話を始めていいか」

そろそろ永瀬の反応にも飽きてきたので、本題を切り出す。
本題は当然入れ替わりの件だ。

「さて、今日召集をかけた理由はもう分かっていると思うが、昨日の入れ替わりの件についてだ。実は今日、俺と稲葉も入れ替わった。幸い、昨日の入れ替わりを見ていたし、駅前で見かけて一緒に登校している最中だったから、特に目立った混乱はなかった」

俺が話している間に稲葉は後ろで黒板に今までに起きた入れ替わりについてまとめていた。
稲葉は相変わらず優秀な奴だ。本来ならきっと俺がこうやって話さなくても一人でうまくやってくれそうなのだが、稲葉がまとめるとたまに横道に逸れそうになるのでこうやって俺が話して稲葉が書記みたいな仕事をしている。

「で、こうやって稲葉がまとめてくれたのを見ると、俺たちの中で起きている入れ替わりの共通点は男女間での入れ替わり、一時間以内、ってことくらいか。他に何か思いつくなら言ってくれ」

みんなうーんと唸りながら考え込むが、誰も意見は出さなかった。

「じゃあ何か原因は――」

原因に心当たりがないか尋ねようとしたその時、外から扉が開いた。
普通、こんな僻地まで訪ねて来る者俺たち部員以外にはいない。誰かと思い扉の方に目をやるとそこには文研部の顧問、後藤龍善が立っていた。
 
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