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ココロコネクト~六つ目の頂点~

作者:心葉
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ヒトランダム
  現実か、妄想か

 
前書き
初めまして、心葉です。
これよりココロコネクトの二次創作をお届けいたします。
ココロコネクト自体は少し古い作品ですが、興味のある方は読んでいただけたらなと思います。
では、どうぞ。 

 
私立山星高校、部活動に強制参加させられる以外は基本的に自由な校風のその学校は悪くない進学実績も相まってそこそこ人気の学校となっている。
また、部活動に強制参加ということは必然的に様々な部活が必要となるが、中にはそんな様々な部活にすら入らないアウトローな人たちもいる。
文化研究部――通称文研部はそんな者たちの集まりである。

文化祭も終わりそろそろ秋の空気が濃くなってきたある平日の放課後、誰もがあまり進んでやりたくないが義務なので仕方がない掃除と日直の仕事を終わらせた後、俺はいつものように部室に向かう。

教室がある東館から北館を経由して部室棟へ入り、四階へと向かう。当然のことながら、四階へ出向く手段は階段のみなので日ごろから体を鍛えていない俺には少々しんどい。

部室棟最上階の四階の一番奥の部屋、そこの扉には文化研究部の張り紙がある。
中からは騒がしい声。いつものことだ。
少し古いその部屋の扉を開くとそこにはすでに五人の人影。どうやら俺が一番最後らしい。

俺が扉を開いたことで真っ先に反応したのは部長の永瀬だった。

「あ、祐樹」

そういう永瀬はいつものような明るい表情ではなくなぜか少し困惑した顔をしていた。
というか、困惑していたのは永瀬だけではない、稲葉も八重樫も似たような表情を浮かべていた。
そして、青木と桐山は何かを言い合っている。
いつものコントの最中かと思ったがそれでは三人が困惑している理由がわからない。

「どうした、何かあったのか」

「このアホどもが、昨日の晩に魂が入れ替わっただのなんだの訳が分からんことばかり言ってんだよ」

稲葉は罵倒に近い説明をする。

「ちょっと稲葉!青木なんかと一緒にしないでよ!」

今まで青木と言い合っていた桐山が稲葉の説明に噛みつく。
うん、全くもっていつも通りだ。魂が入れ替わったという内容以外は。

「魂が入れ替わった?なんだ、漫画の話か?」

「いやだから、現実なんだってば。唯と俺の魂が入れ替わってたんだよ、祐樹も信じてくれよ!」

「だから、あれは夢だったって言ってるでしょ!夢だったの!以上!終わり!」

その後も桐山と青木はあーだこーだ言い合う。
それを聞いてだいたい何があったのかは分かった。しかし、納得したかと言われれば別だ。夜中に魂が入れ替わって、朝になったら相手だ動かしたものがそっくりそのまま動いているなんて言う奇妙な出来事、そうそう信じられるわけはない。

結局、無限ループのように言い合っている二人を見てついに稲葉がキレた。

「あーもう!わけがわからん!お前らいったん頭冷やせ!」

稲葉に叱られて、言い合っていた二人は落ち着く。
そして、衰弱したような表情になる。
どうやら当人たちも何がどうなったのかよく分かっていないみたいだ。
一気に空気が重くなる。無言のまま時計の針の音だけが響く。

「あ!教室にノート忘れた!」

重い空気をぶった切ったのは永瀬だった。ついでに流れもぶった切ったが。

「話の流れをぶった切るんじゃねえ!」

「どんまい、どんまい。で、取りに行ってもいいかな?」

「……勝手にしろ」

稲葉が許可を出すやいなや永瀬は部室を飛び出していった。
相変わらず稲葉でさえも永瀬には手を焼くみたいだな。
永瀬が出て行って先ほどの話の続きをするような空気でなくなったため、一旦くつろぎタイムが入る。

それにしても、魂が入れ替わるってどういうことなんだ。
どうせ青木のことだし、未だに桐山の家には上がっていないだろう。しかし、さっきの会話から察するに桐山の部屋の構造をきちんと把握していた。夢にしては偶然が過ぎるだろう。とても現実的ではない。だからといって魂が入れ替わるのも現実的ではない。
いったいどうなってるんだろうか。

一人考えに耽っていると、急に八重樫の身体が傾いた。

「太一!?」

隣に座っていた稲葉が腕をつかみ、かろうじて体が倒れるのを防いだ。
が、次の瞬間さらなる事態が襲い掛かる。

「あれ?ノート……って唯に青木、稲葉んも。あれれ?部室?っていうか私の声じゃない?……はっ、もしかして私太一になってる!?」

何事もなかったかのように体勢を立て直した太一は太一らしからぬしゃべり方、そう、それはまるで……

「おい、太一。お前何言ってるんだまるで伊織になったみたいに」

永瀬みたいな。

「私だよ稲葉ん!太一と入れ替わっちゃったみたいなんだよ!あっ、今私が太一になってるってことは太一は私になってるんだ!ってことはもしかしてー!」

そう叫ぶなり、八重樫は部室を飛び出していった。
何だったんだ今のは……まさか青木と桐山が言ってたように入れ替わったのか。そんなまさかな。
八重樫のめずらしいドタバタ劇をみんな唖然と見送っていた。
そして、しばらくするとお互い顔を見合わせ、頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。
今日はいったいどうなってやがる。

しばらくすると、八重樫は永瀬を引き連れて帰ってきた。
そして、先ほどの青木と桐山のように並んで座る。二人の両サイドには青木と桐山、向かいには稲葉、俺はソファーの上だ。

「で、今度は何の冗談だ?」

そう言いながら、稲葉は絶対零度ですら生ぬるく感じるような冷たい目線を送る。

「いやー、中身入れ替わっちゃったみたいだねー、私と太一」

そう言って笑う八重樫はいつもに比べて屈託のない笑顔だった。
ちなみにそれを見た感想とすればとても演技しているようには見えない。

「太一、素材は悪くないんだから、そんな風に笑ってればスッゲーモテそうな気もすんね」

「話をそらすなっっ!!」

稲葉が机を思い切り殴る。音からしてとても、痛そうな気がする。
今日一日で二つ以上の魂入れ替わり事件っぽいものに遭遇しているのだ、さすがの稲葉も平常心ではいられなかったようだ。
なので、渋々ながら俺は場を取りまとめることにする。

「で、お前ら二人とも、その入れ替わりは本当なのか?」

「ああ、本当だ。信じられないかもしれないが、俺が八重樫太一で八重樫太一の中身が永瀬伊織だ」

じっと目を見つめて嘘かどうか確かめようとする。
……嘘をついているようには見えない。それなら本当か?しかし、入れ替わりが本当だと決めつけるのもまだ微妙だ。

「何か証拠はあるか?そうだ、お互い自分しか知らないこととかどうだ」

「なら、いい手があるぞ」

机を殴って手を痛めていた稲葉が黒い笑みとともに参戦してきた。どう考えても嫌な予感しかしない。

「太一、今からする質問に一瞬で答えろよ」

「ああ、分かった」

「じゃあいくぞ」

そう言って稲葉は一呼吸置くと早口で質問をまくし立てた。

「最近太一が青木に借りたアダルトビデオのタイトルは!」

「『巨乳じょしこ……』って何言わせようとしてんだよ!そもそも稲葉に答えは分からないだろ!」

永瀬の姿をした八重樫は立ち上がって顔を赤く染めながら稲葉に抗議している。
その姿を見て稲葉はしてやったりといった感じの表情。
相変わらず稲葉は性格の悪いことだ。

「まあ、でもこれで永瀬の中身は八重樫だな。合ってるよな、青木?」

「おそらく合ってるぜ」

にっこりとグーサイン付きで永瀬の中身が八重樫であることのお墨付きをもらった。

「じゃあ、入れ替わりは決まりだな。で、この後はどうなるんだ青木」

この後の展開が読めない以上、ここは経験者に頼るのが一番だ。

「えーっと、確か三、四十分くらい経ったら元に戻ったはずだ」

腕時計を見るとさっき八重樫と永瀬が入れ替わってからだいたい三十分といったところだ。ならばそろそろ入れ替わりも元に戻るだろう。
戻らなかったらその時は青木たちの入れ替わりとはまた別のものとみる線も出てくるが。

と、そのとき立っていた永瀬……の外見をし八重樫がすとんといすに座り込んだ。
そして、八重樫と永瀬が顔を見合わせる。

「「元に戻った!」」

二人ともとてもうれしそうに手を取り合って喜んでいた。

「ほんとかよ……」

この中で入れ替わりを懐疑的に見ている、稲葉と俺は二人の入れ替わりはただの演技であって信じたところでネタばらしというオチなのではないかという風に思い頭を抱える。
しかし当人たちはあくまで本当に入れ替わりが戻ったかのように喜んでいるので水も差しづらかった。

結局、この後すぐに今日の部活はお開きとなり、入れ替わりの件も外部に漏らさないようにすることで決着した。
 
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