101番目の百物語 畏集いし百鬼夜行
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第六話
◆2010‐05‐11T08:15:00 “Yatugiri”
ティアとの長電話で締めくくった日の翌朝、俺は学校までの道のりを歩いて向かっていた。自転車を使わないのは、そうしたほうが亜沙先輩だったりティアだったり、誰かと一緒に帰る時にそっちの方が何かと楽だからだ。大抵皆徒歩通学してるし。二人乗りとかに憧れない訳ではないんだけど、どうせなら長い時間になった方がいい。
それに、そこまで辛い道のりではないのだ。どうせなら歩いた方が運動になる……ってのはちょっと考えが老いてるかな?
と、そんなことを考えながら歩いていると、前方にふわっと広がった髪が見えた。そして、それにいい感じに隠されている素敵な太ももも。いつもながら、体は病的なイメージからはかけ離れているんだよな、ティアは。何で病的なイメージを抱くのか、ちょっと謎だ。とはいえ、このまま後ろから見続けるというのもアウトだろう。それに、あの長電話のお礼も言いたいし。
「よっ、ティア」
「あ、おはようございます、カミナ君」
鞄を前で持って、上半身を捻るようにして振り返るティア。その表情は、自然な笑みを浮かべている。
どこか儚げなその笑顔は、不思議と快晴な空に映えた。
「おはよう。昨日は電話、サンキュな」
「ああ、いえいえ。私もカミナ君と話せて楽しかったし」
俺が小走りになってティアの隣へ向かうと、ティアは俺が追いつくまで待ってくれた。タレ目がちな目を細めて見上げてくれると、ついついニヤケそうになる。いかん、我慢我慢。
「よう、カミナ。朝からティアた……園田を一人占めとは、いい身分だな」
と、そんな俺の後ろからそう言ってくるやつがいた。
ティアを挟むような位置にやってきて俺を軽く睨みつけてくるのは、残念イケメンことアレクだ。本人の目の前だからなのか、ギリギリで呼び方を変えたみたいだけど、ほぼ失敗である。だって後一文字だし。ついでに言うと、後半のセリフもかなり残念度を補強している。
「あ、ビブオーリオ君。おはようございます」
「おはよう、園田。今日もおきれいです」
「アハハ、えっと……ありがとう?」
「やめてやれよ、アレク。ティアがちょっとこまりぎみだ」
いやまあ、さっきのセリフを言う時の仕草とかすごく自然で絵になってたけどな?それでも、普段の印象のせいか残念に思えてしまうのは、こいつが本当に残念だからだろう。
「それにしてもだな、アレク。本人の前では呼び方を変えるってんならそれでもいいが、どうせやるなら徹底しろよ」
「さて、なんのことだ?オレは普段からこの呼び方だが」
「さっき後一文字だったじゃねえか」
「……そこは友人として、見て見ぬふりをするところだろう」
一層睨む目つきが強くなった。とりあえず面倒なので、こちらを見ているティアの方を見ることにした。すると、ティアはケホケホと少し咳き込んでから口を開く。
「えっと、もしかしてカミナ君もビブオーリオ君の様に呼んでいたりするの?」
「あー、いや。呼び方はどこでもティアだけど……そうだな、たまにはそう呼んでみるのも面白いのかな?」
「あぅ、ちょっと恥ずかしいかなぁ……でも、ちょっと面白そうかも。どうせやるなら、何の前触れもなく、唐突に、でお願いしますね」
「ん、了解」
「って、ちょっと待てカミナ!なんだその仲よさげな会話は!羨ましいじゃないか!」
最後に漏れた一言から察するに、どうやら羨ましいらしい。なので、手ぶりで話してみるよう促す。ってか、コイツは女子と話とかできるのか?
「ん、そうだな……言われてみると、何を話せばいいのか……」
「ケホケホ……そうですね。ビブオーリオ君の事は、女子の間でもたまに話題に上がりますよ?『銃を構えてる時はカッコイイ』、って」
「……そうか」
あ、コイツ喜んでる。何かうれしいことがあると歩き方が変わるのだ、コイツは。一緒にいても表情からは感情が読み取りづらいので、こういう行動から読み取るしかないのはちょっと面倒なところだったりする。ちなみに、こうして表情だけで見ると無感情に見えるところなんかも一部の女子には人気なんだという話をティアから聞いたことがある。
あと、『は』ってついたことにアレクは気づいているんだろうか?いないんだろうなぁ……
「ああ、そうだ。昨日都市伝説の話をしていたとカミナから聞いて、ちょっと調べてみた」
「あ、そうなんですか」
ティアが俺の方を見てきたので、とりあえず両手を少し上げて見せる。即ち、このまま好きにさせてやってほしい、と。
「ああ。ちなみに、今よく話題に出るのは『日影の夢違い』と呼ばれているものらしい」
夢違い。つまり『夢と違う』、ということだろうか。だとすれば、昨日ティアと話したあの都市伝説とにたものだろう。
「全国的に有名な名前としては、『夢と違うことをするなよ』とかになるのだろうな。これが原型となって、日影市風にアレンジされたものたしい。とはいえ、基本的には有名なものと同じように一度夢の通りに殺されるのを回避したらその犯人に一言言われる、というものらしいが」
「どう、違ってきてるの?」
お、ティアが続きを促してる。そのおかげでアレクの喜び具合が一段階上がった。今日は俺が見た事のないレベルでご機嫌なアレクが見られるかもしれない。
「ええと、だな……一度回避してあのセリフを言われても、また別の夢を見て似たような目に会うだとか、何らかのきっかけがない限り延々と続くだとか、極々たまにいい夢が再現されることがあるからそれには従った方がいいだとか、だな。すまないが、元ネタについてそこまで詳しいわけじゃないからこれで全部ではないかもしれないぞ」
そう言いながらもここまで調べられている行動力は、ちょっと尊敬する。こりゃ電文で聞いただけじゃなくて元ネタについてもある程度調べてるぞ。
しかし、肝心のティアの方はというと、見たこともないくらいに真剣な顔をしている。
「ティア?」
「あ、ううん。大丈夫。……そう、隣町のオリジナルアレンジ……」
顎に手を当て、小さな声で「う~ん……」とか唸りながら考えている。
「ねえ、ビブオーリオ君。その噂って、どうやって聞いたの?」
「隣町にも、同年代の知り合いはいるからな。とりあえずそういう話を聞いていそうな知り合いにメールで『今はやってる都市伝説などはあるか?』と聞いてみた。そうしたら、この話しについての返信があったというわけだ。他の話がなかった辺り、かなり有名なんだろうな」
いや、一体何人に聞いたんだよ、コイツは。ここまで自信満々に言うってことは、そこそこの人数に聞いてるぞ。
「ということは……日影市では、今『夢違い』という都市伝説が有名になってるんですね」
で、ティアは何か重要なことでも考えているかのように思案顔になっている。
アレクはそんなティアを見て、何かドヤ顔してきた。ちょっとうざかったのだが、まあティアにとっては重要なことだったみたいだから頷いてやることにする。ちょっとうざいけど。
「でも……やっぱり、日影市だと、ですよねぇ」
「ん?どうしたんだ、ティア?」
「あ、えっとね……ケホケホ。都市伝説って、『都市』がつくくらいだから街によって話されてる噂って別のものになったり、似た噂でもちょっと内容が違ったりするの。だから、大分特殊な形になってるなぁ、って」
「確かに、俺も昨日調べてみたけど、『夢と違うことをするなよな』の類って、殺される系ばっかりだったなぁ」
「それに、話していて面白みがあるのはホラーの色が強い方だろうからな」
確かに、アレクの言う通りかもしれない。話してる側にしても、怖い話の方が話していて楽しいだろうし。しかし、亜沙先輩に対して話す時は怖い話はちゃんとタイミングを見てするようにしないといけないかな。
と、そんなことを考えていたらティアはどこか真剣な顔で俺の方を見て。
「もしも、『こんな光景夢で見たなぁ』とか思ったら、その夢と同じことをしないようにしてね?」
と、そんな助言をくれた。
「夢と同じ、ねぇ」
空を見上げながら、そう呟く。そんなことを言われても、今朝夢を見たのかどうかすら分からないんじゃ仕方ない気もする。でも、昨日の授業中に見た夢は、しっかりと覚えてるなぁ。
「そう。夢の話となると、殺される類かいいことがあるかだけど、どっちにしても夢と違うことをした方がいいかな」
「いいことでも、なんだ」
「ただいいことで終わるならいいかもしれないんだけど、そのいい夢の通りにした日にまた新しく夢を見ることもあったりするから」
「第二話、みたいな感じに?」
「あ、確かに良い表現。『猿の夢』なんかは思いっきりそんな感じだし」
興味はあるけど、それについて聞くのはまた今度にしよう。
「まあ、そういうことなら了解。極力避けるようにするよ。よっぽどのっことがないと繰り返されるみたいだし」
「もしかして、ということがあるかもしれないから。夢は関係なくても、変な人はいたりするし」
まあその通りかもしれないけど。もしかすると、昨日あのサイトについて話したからか、どこか実在するかのような前提で話しているように思える。それに、言われてみれば昨日自分が死ぬ夢を見たり、その夢に出てきた黒猫を見たり、となんともそれっぽいことが起こっているのだ。
「あ、でも……カミナ君、相手が女の子だったからってその通りに動いちゃいそうで怖いかなぁ」
「む、そんなことは……」
「あるだろうな、カミナなら」
アレクに断言された。まあ確かに、自分でもそう思うけど。美少女ならなおさら。年上っぽい感じならなお弱いだろうし、年下っぽい子に上目遣いされたらもうどうしようもないだろう。いや、何で殺そうとしてくる相手が上目遣いなんてするんだよ。
「あっと、だな……ほら、もうすぐ学校だし急ごうぜ」
とりあえず、なにを言えばこの状況を避けられるかが思いつかなかったので、先へ進むように促してみる。ティアはくすくすと笑ってるし、アレクはバーカとでもいうかのようにみてくるが、それでもまあこの話は終えてくれた。さ、学校に急ぎましょうか。
後書き
都市伝説の内容には多少、良く知られているのとは違う設定が混ざりますし、それは自分が勝手に作った設定なのですが、ご容赦くださいませ。
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