101番目の百物語 畏集いし百鬼夜行
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第五話
◆2010‐05‐10T23:45:00 “Nagi’s Room”
亜沙先輩の家でお茶を御馳走になった日の夜、俺は自室でいくつか道具の整理をしたり水を入れたペットボトルで銃を止める練習をしてから、ベッドに腰掛けながら青い方の携帯でいくつかメールを打っていた。
それは亜沙先輩に対しての一緒に帰れてうれしい、お茶美味しかったですという内容だったり、アレクに対しての自慢と俺が帰った後射撃部で何かあったかという内容だったり、同じく射撃部の先輩に対しての恋愛相談だったり、幼馴染の駄菓子屋の孫との日課になってきている他愛もない話だったり。とても日常的な何でもない話をしているうちに、もうそろそろ日付も変わろうかという時間になっていた。
携帯をベッドにおいて顔をあげると、ふと本棚が目に入る。そこに立てられている本は、全て出版社ごとに分けて作者の五十音順。雑誌は題名の五十音順で、非常に分かりやすい。これの他にも、部屋にはきれいに整理された物がたくさんある。部屋そのものもとてもきれいだ。
一緒に住んでいる従姉弟が毎日のように・・・ではなく、毎日掃除してくれているおかげで、男子高校生にしては珍しいくらい綺麗になっている俺の部屋だ。さすがにここまでされると俺もちゃんとしようと思うし実際自分でかなり頑張ってこれくらいまできれいに整えてた時期もあったんだけど、「お姉ちゃんの楽しみを取らないで!」と半分泣きつかれたので、それ以来散らかし過ぎないように、かつ多少散らかすくらいにとどめるようになった。なんだその状況、とか言わないでくれ。俺もそう思ってるんだから。
ただ……せめて、前後二列で並べている本棚の一番下の段。雑誌の裏に隠すように並べている本に手を出すのはやめてほしい。年頃の男子としてはかなり辛いです。後、歳下系が多いと拗ねるのとか、勝手にお姉さん系のを追加するのとかも。かなり恥ずかしいです拗ねた時の顔は可愛かったけど。
まあでも、家事スキルはかなり高いし、ちゃんと俺の使いやすさも考えられているから気配りも出来る。従姉弟としてのひいき目なしに美人だし、かなりモテるんだろうなぁ……
う~ん……俺から見たら姉みたいな立場の人がモテモテ、ということにう~んとなるのは、弟として仕方のない事なのだろうか?嫉妬?
「……そういや、あの子俺のことを『お兄さん』って呼んだっけ」
校門前でラインという少女にそう呼ばれたのを思い出した。俺に妹はいないがそれっぽい感じの子はいるから呼ばれ慣れてない訳じゃないんだけど……なんだか、不思議な感じが残ってる。
そのことがなくても不思議な体験だったし、その分が影響してるのかもしれないけど。あれも一応不思議体験ということになるのだろうか?だとしたら、あんまり怖くはなかったなぁ。会話の内容自体は怖かったんだけど、あの子自身はそうじゃない。むしろ会えてうれしかったくらい。顔は見えなかったけど、たぶん可愛い子だっただろうし。
「殺されなかったら、ねぇ……」
現実でそんな言葉を聞く機会があるとは、思ってもいなかった。
毎日楽しく過ごしてきた、そしてそれがこれからも続くんだろうなぁ、と考えてきた俺からすれば、殺される云々なんて全く別の、それこそ外国とか、テレビなんかの創作物の中での話なんだ。
「白昼夢だったってわけでもないみたいだし……」
さっき自分の携帯を置いた反対側には、黒い携帯が置いてある。最後の希望として幻覚だったらいいなぁと思ったのだが、ちゃんと触れている。まず間違いなく、あれは現実だ。
って、白昼夢だった、てのもなんか字面的にいやだなぁ。昼に自分が殺される夢を見た身としては。
『Dフォン』。ラインちゃん曰く、俺と縁のある相手を探してくれる、そして俺を守ってくれる端末であるらしい黒い携帯電話。それが事実だとすれば、どうしてそんなものを俺が持つ事になったのだろうか?
隠すまでもなく、俺はごく普通の高校生だ。何か珍しいものがあるとすれば、射撃部に所属していることくらいだ。大会の記録なんかもあるにはあるけど、それだって命が関わるような案件に関連してくるほどのものではない。そもそも、それなりに体力はあるし走ることも出来るけど、射撃以外のスポーツが何か出来たためしはない。勉強もいたって普通。強いて言えば数学と国語が出来る方だけど、文系か理系かもはっきりしないような中途半端なもんだ。
他の要素を見ても、まあ何もない。なんて事のない普通の人間だ。なのに。
「こんな、良く分からんもんをもらってもなぁ……」
手にとってそれを眺める。男女問わずに好かれそうなこのデザインは、市販されたら多くの人がこれに機種変更するだろう。だが、周りにこれを使っている人はいない。
その他もろもろ色々と言われたけど、まあ理解は出来なかった。とにかく、こうして持ったからって何かが起こるわけではないようだ。
「……何もしなかったら、何も分からないままだよな」
腹をくくって電源を入れてみると、『Dフォン』というロゴがカッコよく表示された。そのまま一通りいじってみると、とりあえず携帯についているような機能は一通り使えるらしい。とはいえ、電話やメールは普通には出来ないみたいだけど。どこを調べてみても、これの電話番号やメアドは分からない。さらに俺自身の携帯にかけたりメールを送ったりしようとしてみたが、どれも出来ずにいる。
「これでどう俺の身を守れと……ん?」
と、これの対処に悩んでいたら待ち受け画面の一番下にアイコンがあった。そこには『サイト接続』と書いてあったので、とりあえずそこに合わせる。
そうしたら『8番目のセカイ』に繋ぎます、と説明が出る。いや、何だ8番目のセカイって。
「何か元ネタがあるのか……?いや、輪廻は7だし、8まであるものなんて……」
……いかん、なんか集中して考えてしまった。細かいことを気にしたところで何も変わらんだろ。今この携帯について知ることが出来そうなものは、これしかないんだから。
そう考えてそのアイコンを選択すると、真っ黒な画面に時計が回転する、ネット接続の画面になる。
この代金ってどうするべきなんだろう……いや、押し付けられただけだし、俺に請求はこない……よな?
そう半ば祈るような気持ちでいながらしばらく待つと、『8番目のセカイ』というタイトルが表示されて。
その瞬間。
パンパカパーン!
「うわぁ!?」
突然鳴り響いたファンファーレの音に、思わずDフォンを落として壁まで後ずさってしまった。
床に落ちたDフォンはブーブーと振動して動いている。今の俺の声で姉さん起こしてないといいんだけど……起こしちゃってたら、明日謝ろう。もうすぐ今日だけど。
なんだか驚き過ぎてずれたことを考えながら、ベッドから乗り出して手を伸ばすと……
『おめでとうございます!』
「うわっ!?」
でっかい声がDフォンから流れて、再びベッドの上を壁際まで移動する。突然音が鳴るだけでも驚くのに、なんか楽しげな声が聞こえてきたら、ビビっても仕方ないと思う。少しハスキーな女の人の声だったのも、その要因の一つだ。
が、そんな俺の心情なんて無視して言葉は続けられる。
『貴方は見事、『百鬼夜行の主人公』に決定しました!いやあー、これは大変おめでたいことですよ!素晴らしい!』
ノリ、軽いなぁ……ってか、百鬼夜行って……それ、主人公がいるとしたらぬらりひょんじゃないの?俺人間だよ?
というか、この声どこかで聞いたことがあるような……ダメだ、思い出せない。結構特徴的なのに。
でも、こんなにも胡散臭く話す知り合いなんていないし……やっぱり、気のせいなのか?というか、
「素晴らしい、とか言われても……」
何が素晴らしいんだよ、それ。まさか、俺がぬらりひょんになるのか?あんな頭の長いおじいさん、嫌だぞ?
とりあえず、拾って画面や内容を見ないと何も分からない。それに、とめることも出来ない。で、拾ってみると画面には『8番目のセカイへようこそ』と描かれていて、
『祝! 百鬼夜行の主人公! 神無月凪!』
と、クリスマスツリーやらお正月やらお天気マークやら誕生日やら……とにかく様々なもので俺の名前が装飾されていた。ひたすら胡散臭い。お祝いって、やり過ぎると何にもありがたくないんだな。初めて知った。
ってか、え?俺の名前!?何でサイトに繋いだだけなのに俺の名前バレてるの!?
……ハァ。
もうこれでもかというほど混乱していた頭が、一周して冷静になってきた。その頭で考えてみても、やっぱりこのサイトは不気味だな。
いきなり音は出るし、声で喋りかけてくるし、名前までバレてる。何か情報を引き出すための装置なのか?でも、もしそうだとしてもあのラインちゃんのことが説明できない。急に消えるとか、どうやったのか。
そうじゃなくても、俺はこの端末に何の情報も打ち込んでないから、実名がバレたのは他の事のはず。元々バレていて、その上で本当に俺用にこの端末を渡した、とかのほうがまだ俺自身は納得できるし。
「が、それでも物騒なのは間違いない」
さっきのだって俺の推測でしかないんだから、もうひたすら物騒だ。さっさとサイトから切断して、電源も切って鞄の中に突っ込む。
これをこのまま持ってるのも怖いけど、なくしたらなくしたで怖い。それと、姉さんに見つかって聞かれても困るので、絶対に姉さんが触れないかばんの中に入れておくことにした。
ブー、ブー、ブー、ブー
「あ、電話だ」
鞄のチャックを閉めた俺は自分の青い携帯をとる。ディスプレイには、『園田ティア』の文字が。それを見た瞬間、すっごく安心した。名前を見ただけで安心できるって、俺にとってティアはどこまで大きな存在なんだと一瞬思ったが、どこまでもという回答が自分の中から返ってきた。うん、そうだよな。今みたいなよく分からないけど怖い出来事があると、ティアや亜沙先輩みたいな人に甘えたくなるなぁ。昔はよく、幼馴染か姉さんに甘えた記憶がある。思い出してみるとちょっと恥ずかしい。
「もしもし、俺だけど」
『え?えっと……お、お蕎麦屋さん?』
「はいそうです、出前は何にしましょう……って、何だこのオレオレ詐欺!?」
『ケホケホ、ふふふっ……私の勝ちですね?』
「はい、負けました」
出ると同時にボケて先手を打とうとしたら、思わぬカウンターが返ってきた。手ごわいな、ティアは。
『それに、かけられた側がオレオレ詐欺をするのってどうなんでしょう?』
「言われてみれば確かに……誰に対してかけたのかも分かるしな」
『もしかすると、その形態を持ってる人が違うのかもですけど』
「なるほど、その可能性があったか」
そして、それなら詐欺につなげることもできそうだ。しかも、電話がその持ち主のものだから、より信憑性が増す。その手間に合うだけの結果があるのかは別として。
「って、何でそんなことを考えないかんのか……」
『どうしたの?』
「いや、今他人の携帯を使ってその親戚に対してオレオレ詐欺をしかけたら成功率が上がるんじゃないかとか、でもそれにみあうだけの結果になるのかとか、考えない方がいいようなことを考えてたから」
『ふふっ、確かに考えない方がいいようなことですね。世の中の犯罪って、そう言う思いつきから始まったものもあるだろうし』
何事も始まりは思いつき、ということか。それが浮かぶかどうか、というところで天才と凡人が分けられるのかもしれない。
そして、俺が急にあんなことを言ったのに少し考えて乗ってきてくれる辺り、ティアは本当にいい子だ。すぐに浮かんでくるわけではない、というところも個人的には好感触である。家もお金持ちらしいし、アレクのような残念なイケメンにはもったいない。銃を打ってる時のあいつと並べると、絵になるのかもしれないけど。あの時は本当にイケメンになるからな、アイツ。
……もしかすると、俺も亜沙先輩のファンにはそう思われてるのかもしれない。それも、最後の救いはない状態で。
「それで、ティアはどうしたんだ?何かあったのか?」
つらい現実から目を逸らしたくて、ティアに尋ねる。
『いえ、何かあったとかいうわけではなくて……その、寝る前にちょっとカミナ君とお話したいなぁ、と……迷惑、でした?』
「いえいえ全然。大歓迎ですよ」
ティアにそう言ってもらえると、本気で嬉しい。何というか、他のやつらが言ってる通りティアは守ってあげたくなる子なのだ。だから頼られると嬉しくなる。
俺の場合、女子に頼られると嬉しくなるというのもあるんだけど。
「それに、なんだかよく分からないサイトに入っちゃったみたいでちょっと怖かったから。ティアと話してホッとしたい気分なんだ」
『ケホケホ……ふふっ、私なんかの声でいいのなら、こっちも嬉しいです。それで、どんなサイトを見ちゃったんですか?』
どうやら、話の方向性はそちらで固まったらしい。
「えっと、だな……まず、そのサイトにつないだんだよ」
『はい』
「そしたら、いきなりファンファーレが鳴ったんだ」
『ファンファーレ?』
「そう。パンパカパーン!ってやつ」
『えっと、何かに当選して、そのサイトにつないだ、とか?』
「そうじゃない。いや、一応そうなるのか……?まあ、俺の方はそんな記憶もないし、意思もなかったわけだ」
『それなのにファンファーレ……なんだか不気味ですね』
「だろ?ちなみに、その後『おめでとうございます!』って音が鳴った」
『携帯のサイトでそれ、ですか……』
「そうなんだよ。しかも、俺の名前がでかでかと載って、クリスマスやらお正月やらお天気マークやら誕生日やら、とにかく色んなもので飾られてた」
『……それ、中々にカオスですね。ちなみに、その名前はカミナ君の方?』
「神無月凪の方。というか、そっちだったら本気で怖いから……」
その呼び方を知っているということは、俺が誰か友達と話しているところを見られた、ということだ。余計に怖い。
『ふふっ、確かにそうですね。ケホケホ……よしよし』
「うん、怖かった……つい声を上げちゃうくらいには怖かった」
よしよし、という声だけでかなり癒されている。凄いな、ティアの声は。
『エアなでなでをしつつ……』
エアなでなでしてくれているのか、ティアよ。
『それで、そのサイトにはどこから飛んだんですか?』
「いや、サイトからって言うより……開いたら、飛んだ?」
『?』
うん、自分でも何を言ってるのか分からない。電話口の向こうでティアが首を捻っている光景が目に浮かぶ。
『じゃあ、そのサイトはなんていうサイトだったの?』
「ああ……『8番目のセカイ』、ってサイトだった」
『ええっ!?ッ、ケホッ、ケホッ、ケホッ!』
俺が口にした瞬間ティアが驚き、そしてものすごい咳き込んだ。
「ちょ、大丈夫か!?」
『だ、大丈夫。ちょっと驚き過ぎちゃったから……』
「ティアがそこまで驚くのも珍しいよな……どうしたんだ?」
『どうしたもなにも、そのサイトにつないだってことは、カミナ君は……あ、でも、元々は……』
「?」
ティアのテンションが一気に下がった。何があったんだ?
「ティア、どうした?テンションが上がったり下がったり」
『ううん、大丈夫。何でもないから。……『8番目のセカイ』って言うのはね、私みたいなオカルト好きにとっては超がつくくらい有名なサイトなんだけど』
「ティアはオカルト好きだったのか」
『うん。朝もそのお話したでしょ?』
そう言えば、確かにあの時のティアはいつも以上に興奮していた。
「じゃあ、なにかオカルト体験したらティアに相談するよ」
『えっと……ちゃんと寝てる?って聞けばいいのかな?』
「全く信じてないじゃないですか、ティアさん……」
まあ、それが普通の反応だけども。
「それで、何でそのサイトは有名なんだ?」
『それはね……そのサイトには、『実際にあった都市伝説』しか載ってないの』
「……マジで?」
『そう言われてるね』
ちょっと興味がわいてきた。都市伝説なんてものはそのほとんどが創作で、そうでないものも実際にあった話をより怖くしている。必ずどこか、『実際には怒りえない話』なはずだから。
確かに今日、夢で見たのと同じ猫を見たり不思議な少女に出会ったりしたが、それだって偶然だったりただの勘違いだったりするはずで。
『そこに記載されているのは、全て実際にあった都市伝説。つまり、どんなお化けが現れたものであっても、どんな被害があったものでも、全部本当のお話……なんだって』
「うわお……都市伝説ってのは、創作話なんじゃないのか?」
『うん。そして、だからこそそう言う『載ってるのは全て真実』みたいな都市伝説が出来たんじゃないかな?』
「なるほど、そういう流れで……」
真実ではないからこそ、真実しかないという噂が流れる。そうして出来上がったのが、『8番目のセカイ』という都市伝説なんだ。
『それでも、そのサイトが実際にあるっていう人もいて……私たちは、その実在を確かめたくて仕方ないの』
「そういうわけなんだな。でも、それだけ有名なら偽物もあるんじゃないか?」
『当然あると思うよ。だから、カミナ君が見たのも偽物だと思う』
「まあ、そんなのが簡単に見つかるわけないしな」
『一応、ファンファーレとその人宛てのメッセージ、って言うのは本物に繋がった人に流れるメッセージらしいけどね。内容も人それぞれで』
「ふぅん?」
そういや、俺のもそんなのが流れてたな……
『カミナ君は、何か言われた?』
「俺は、確か……『貴方は見事、百鬼夜行の主人公に決定しました』とか言ってたっけ?なんか、すごくめでたいことらしい」
『百鬼夜行、ってことは……ぬらりひょん?』
「俺は歳も取ってないし、頭も長くないんだけどな」
『確かに、カミナ君はちょっと射撃が得意な高校生ですからね。でも、ということは信憑性はあるのかも?』
「そこは信憑性がないほうがよかったよ……」
『ふふっ。でも、本物には専用の端末がないと入れないらしいし、やっぱり偽物じゃないかな?もし本物だったら、私はうれしかったんだけど』
「そうなのか……」
ティアが喜んでくれるなら、別に気味悪くてもいいかなと思う。親友が喜んでくれることは積極的にやりたいし。
それと、ティアの話とあわせて考えるとこのDフォンとやらは専用の端末なんだろうし。
でも……そう考えると、あのラインちゃんの言ってた『殺される』とかいう話がネックだ。話したことでその影響がティアにまで及ぶのだとしたら、それは全力で阻止しないといけないし。
この件については、もう少し分かるまで誰にも話せないな。
『あ、もう一つ。もしカミナ君が本物の『8番目のセカイ』に入ることになるとしたら、美少女に会うんだって』
「美少女、か」
ティアが意外と詳しいことに驚きつつ、しかし美少女というならティアも含めて毎日学校で会うんだけど。いや、そういう意味じゃないのは分かってる。きっと、ラインちゃんのこと……
『白い服を着た、小さな女の子。名前は『ヤシロ』ちゃん。神社の『社』と書いて、ヤシロ』
……あれ?ラインちゃんじゃなくて?
そうなのだとしたら、俺が今日出会ったのも偽物の一つということで……
これなら、明日にでも安心して話のネタに出来るかもしれない。いいことだ。
『あ、でも最近は妹もいるんだって。名前は最近決まったみたいで、『ライン』ちゃん。こっちは語源は知らないなぁ』
「へ、へぇ、妹なんているんだ……」
現実は、甘くなかった。普通にいたよ、ラインちゃん。そして、たぶんこれ本物だよ!
確かに名前最近決まった感じだったね。というか俺の目の前で決めてたね!
『だから、その二人のうちのどっちかと会って専用の端末を受け取ったら……みたいなお話なの。もし受け取ったら教えてね?』
「オウ、任せとけ」
ゴメンよ、ティア。俺は今、ティアに嘘をついてる。だけど、いつか話すから許してくれ。
心の中でティアにそう謝罪すると、なんだか溜め息のようなものが聞こえてきた。
「どした、ティア?」
『あ、ううん。何でもないの。カミナ君の声を聞こうと思って電話したのに、喋ったの私ばっかりだったなぁって』
「俺はかなり助かったぞ」
『ならよかった。そう言えば、亜沙先輩とはどうなの?』
「ここでその話題を持ち出すか」
『うん、持ち出すよ。今日は一緒に帰ってた、って情報も入ってるしね』
「女子の情報網って結構すごいよな……」
『男子が思ってるのとは比べ物にならないくらいじゃないかな?それで、どう?うまくいきそうかな?』
ティアは俺の恋を応援してくれているから、こうして気にしてくれている。楽しんでる部分もあるだろうけど、ちゃんとアドバイスもくれるからありがたい。アレクとは大違いだ。
「強いて言えば先輩の家でお茶を御馳走になったかな。前にもあったけど」
『男子を部屋にあげる、って言うのは一人暮らし相手には中々出来ないことだと思うよ?ちゃんと進んでるんだねぇ。それじゃ、アドバイスを始めようか』
そして、俺はティアと長電話の夜を過ごした。
『それじゃあ、おやすみなさいカミナ君。また明日ね?』
「ああ、お休みティア。また明日な」
結局、あれから夜中の2時まで電話をした。あまり長電話をして夜更かしをさせるのも悪いからそこで切ったんだけど。
そしてそのまま布団に入り込み、寝る準備を整える。姉さんが気にするからちゃんといつも通り食事を風呂は済ませたので、もうあとは寝るだけだったのだ。
と、そこで俺は今日会ったことを回想する。特に、一番強く印象に残っているあのラインという少女のことを。
「って、そういえば……」
そして、連鎖的にDフォンのカメラを向けた猫のことも思い出す。
あの猫が出てくる夢は、夢じいちゃんの授業中にみた。校門の柱の上で寝ている黒猫が出てくる夢。そして……
「今思い出してみれば、あの夢も俺が殺される夢、ってことになるのかな……」
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