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山を越えて

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4部分:第四章


第四章

「この機の今の高度より高いよな」
「どう見てもな」
「大丈夫じゃないだろ」
 オーウェルはこうマックローンに告げた。
「それじゃあよ」
「越えるだけじゃないからな」
 これがマックローンの今度の言葉だった。
「それはな」
「越えるだけじゃか」
「ああ、越えるだけじゃないだろ」
 こう言うのである。
「だからな。今はな」
「それでも行くんだな」
「そうする」
 その決意は変わらないというのだ。
「何があってもだ」
「そうだな。辿り着ければボーナスと休暇だ」
 ガンナーはあえて前向きに考えた。考えることにしたのだ。
「それで引き返したらだ」
「それはなしだな。流石に軍法会議はないだろうがな」
 マックローンも彼に応える。
「任務を受けることは受けたんだからな」
「なあ」
 そしてここでオーウェルが二人に言ってきた。
「パラシュートはあるか?」
「ああ、一応御前の分もあるからな」
「それは安心してくれ」
「じゃあ今から降りる」
 彼は真顔で話した。
「それで歩いてドイツまで行く。この下にも連合軍がいるだろ」
「馬鹿言え、アルプスだぞ」
「そんなところに降りても死ぬぞ」
 二人は彼の今の言葉に即座に言い返した。
「どれだけ寒いと思ってるんだ?」
「しかもクレバスもあるし食い物も碌にないだろ」
「しかし俺がいなくなったらそれだけ重さが減るだろ」
「今更人間一人位どうってこともないんだよ」
「そうだよ」
 その通りだというのである。
「だからな。ここにいろ」
「一緒にドイツまで行くぞ」
「ドイツまでか」
「ビールにソーセージだ」
「いいな」
 今度話に出してきたのだはそれだった。ドイツといえばその二つであった。
「それを好きなだけ飲んで食うぞ」
「久し振りに三人一緒にな」
「悪いな」
 二人の言葉を聞いてオーウェルも遂に頷いた。
「それじゃあな」
「ああ、行くぞ」
「何があってもな」
 こうしてであった。彼等はこのままアルプスを越えることを決意した。まずは目の前の山だった。
 その山は右に曲がって横を通り過ぎた。それによって越えたのだ。
「まずはこうしてだ」
「上手くいったな」
「とりあえずはな」
 操縦するマックローンは前を見据えたままガンナーに応えた。
「これで一つだな」
「また前に出て来たぞ」
 オーウェルが言ってきた。見ればまた前に山があった。
 それを見てだ。マックローンは今度は左に切った。それでその山もかわした。
 また出て来た。今度は右であった。
 しかしそのすぐ前にであった、またしても山があった。それも今度のはかなり横広かった。
 その山を見てである。オーウェルは不安になった顔でマックローンに問うた。
「いけるか?」
「今度の山はか」
「ああ、いけるか」
 このことを彼に問うたのである。
「今度は」
「心配するな」
 これが彼の返答だった。
「絶対にやれる」
「絶対なんだな」
「ああ、何があってもな」
 ここではジョークはなかった。まるでガンマン同士の決闘の様に真剣になっている。
 
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