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ワンピース~ただ側で~

作者:をもち
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番外19話『スカイピア』



 長い、長い雲の層を突き抜けたメリー号がたどり着いたのは真っ白な世界。
 白。
 白。
 白。


 どこまで見渡しても白が広がる世界だった。
 今までハントが見てきた光景からは一切の想像もつかないような世界が広がっており、ここが雲の上だと彼が気付くのには数秒の時間を要した。

「……」

 長い雲の層を突き抜けている間はまるで海中にいるかのように呼吸が出来なかったため息を切らしてぐったりとしている自身の周囲を見渡しつつ、隣のナミの背中をさすりながらハントが「空……ホントに来れた」と小さく呟いた。
 やがて、息が整いだしたみんなもこの白の世界に目を丸くさせる。

「雲の上……なんで乗ってんの!?」

 呟いたナミの言葉に「そりゃ乗るだろ、雲だもんよ」とルフィがさもそれが当たり前であるかのように言うのだが、当然そんな当たり前が存在するはずもない。

「いや乗れねぇよ!」

 ゾロ、サンジ、チョッパーの3人が同時にそれを否定した。

「――つまり、ここが空の海ってわけね。でも見て、まだログポースは上を指してる」
「どうやらここは中層みたいね」

 ナミとロビンが的確に状況を分析する中「第一のコース! キャプテンウソップ泳ぎまーす!」とウソップが船のから空の白い海へと飛び込んだ。まだまだ得体のしれない海に飛び込むそれは勇気というか好奇心旺盛というか、なんとも言いづらいものがあるがそれはともかく。

 どんな状況にあっても騒がしいというメリー号らしいといえばらしい雰囲気を醸す彼らにあって、普段とはまた少し違う様相を見せてる男がいた。

 ――んん?

 ハントだ。
 いつもならばウソップと一緒に興奮しながら海に潜りそうな彼だが、今はそれよりもこの空の海で興奮とは違う感想を抱いていた。

 ――なんか……空気が違う?

 魚人空手陸式という空気という存在に向き合っている技を習得しているハントだからこそ、空気に対しては人よりも敏感にその違和感を覚えているのかもしれない。

 砂漠にいる時のようにカラリとした空気ではなく、魚人島にいたときのように湿った空気を感じるでもない。青海にいる時に比べてまた少し違いを覚えさせるこの空気感に、ハントは怪訝な表情を浮かべて、何度か深呼吸を。

 ――なんかこう……薄い感じ、だなぁ。

 青海にいる時とは比べられないほどに薄く、そして澄んだ空気。どこか繊細さを覚えさせるものがある。

 ――空の海特有って奴か? ならたくさん吸っとかないと!

 高度の問題だとう事実をわかっていないハントが一人で何度も何度も、しかもおそらくは集中しているのだろう真面目な顔で深い呼吸を繰り返している間にも、空の海に潜ったウソップは空の海を突き抜けて落下を始めたり、それをどうにか救出したら空の海に生息しているであろう魚類がウソップを餌だと勘違いしてついてきたりと、ウソップにとってはなかなかにハードな体験を連続することに。

 この空の上の世界のこと一つ一つを体験し見知っていく彼ら。
 未知という興奮を堪能する彼らだったが、空島を探そうと双眼鏡を覗いていたチョッパーが「……え」と体を震わせ始めた。

「わぁっ!」

 余程の衝撃的な映像がチョッパーの目に映ったのか、驚きの声と共に双眼鏡を取り落してもんどりを打つ。「どうした?」と尋ねる一同にチョッパーは「牛が四角く雲を走ってこっちに来るから……大変だー!」という誰が聞いても理解できないであろう訳の分からない説明とともに声をあげる。
 皆が首を傾げて周囲へと首を巡らせるが果して、その答えはすぐに彼らの目にも写ることとなった。

「人だ! 誰か来る! 雲の上を走ってるぞ!」

 彼らの目に映ったものは、たしかにチョッパーの言う通りの恰好といえばその通りに。

 牛で――正確には牛のお面を被っていて――
 四角く――正確には四角い盾のようなものを装備しており――
 雲を走って来ていた。
 ……やはり理解するには少し難解なチョッパーの言葉だったが、それはともかく。

「おい、止まれ! 何の用だ!」
「……排除する」

 サンジの声に対して、帰ってきた言葉は冷たく重みのあるたったの一言。だが、これで双方の意向が決まった。

「やる気らしい」
「上等だ」
「なんだなんだ?」
「空島に来て喧嘩って……なんか嫌だなぁ」

 順番にサンジ、ゾロ、ルフィ、ハントがそれぞれの言葉を落として戦闘の構えを。
 一味の中でも圧倒的な強さを持っている4人だ。何も心配することはないと他の面子が思ったのも束の間、すぐさま顔を青くさせることとなった。

「ヴ!?」
「グハッ!」
「ブヘッ!」

 サンジ、ゾロ、ルフィの3人がなんと信じられないことに、蹴りによって文字通り一蹴されてしまったからだ。それぞれいとも簡単に甲板に叩き付けられてしまい

「ちょっと! どうしたの!? 3人とも!」とナミのどこか必死な声が響き渡る。

 ――そんなに鋭い動き……ってわけでもなさそうだけど。

 冷静にそれを見ていたハントがいとも簡単にやられてしまった3人に疑問を覚えつつも、短く息を吐いて牛のお面をかぶっている男へと接近する。

 3人と同じように一蹴してしまおうと顔面めがけて放たれた牛のお面の男の蹴りを、ハントは顔を僅かに後退させてやり過ごす。続けて左手に装備していた四角い盾でハントを弾き飛ばそうとしてきたその動きに対して、ハントは前蹴りを放って逆に四角い盾ごと牛の男をメリー号の外へと弾き返した。

 ハントの蹴りによって崩された態勢を、空中で何度も回転して立て直した牛の男が右手に備えていたバズーカ砲を構えた。
 一々の動きに無駄がない。
 相当に戦闘慣れしている証拠だろう。

 ――反応はいい……けど!

 だが、ハントと対等以上に戦うにはまだ甘い。
 既にその動きを察していたハントが若葉瓦正拳を放とうとして「そこまでだぁ!」というまた新たな人物の登場によりその動きを寸前で止めた。
 大きな鳥に乗り、さっそうと現れた甲冑に身を包んだ男が鉄槍で牛の男を一突き。牛の男も四角い盾でそれを防いだものの衝撃までは殺しきれずに空の海へと叩き付けられてしまった。

「……今度は何だ?」

 つぶやいたハントの声が聞こえたのか、甲冑の男がそれに答えるように口を開く。

「う~む、吾輩……空の騎士」
「ピエ~」

 鳥の鳴き声が、どこかBGMのようにメリー号で響いた。




「勇者たちに幸運あれ!」

 鳥にしてウマウマの実の能力を持っている鳥、ピエールにまたがって颯爽と去っていく空の騎士、ガン・フォールの背中を一同で見送る。
 吹けば一度だけ助けてくれるという笛を彼からもらった以外には何も得ることのなかったガン・フォールとの出会いだが、元々誰かに助けをもらえるとも思っていない冒険だ。

「なぁ、あそこ見てくれ!」
「何かしら、滝のようにも見えるけど」
「変な雲だろ?」

 と、チョッパーとロビンの会話によりとりあえずの行き先が決まった。
 舵をとり、そちらへと向かう船だったがすぐさままた別の問題が登場した。

「……の前にでっかい雲……どうする?」

 滝のような雲に向かってすぐ、メリー号の進路を遮るかのように空の海に陸地のように大きな雲が、まるで小さな島のように散在していた。

「空の海に浮いてるんだから同じ空の海じゃねぇだろ」
「……じゃ、どんな雲だ?」
「ただの雲ならそのまま進むんだけど」
「触ったらわかるだろ……んんっ!」

 悩む彼らに、真っ先にルフィが体を動かした。
 ゴムの腕を伸ばして、一直線にその雲へと――

「――わっ、弾いたっ!」
「……うおおおおお!」

 雲に触れることが嬉しかったのか、それとも柔らかそうな弾力があったことからか、とにかくチョッパーの目がそれで光った。

「見ろ! 乗れた! 沈まねぇぞ! ふかふかする綿みてぇだ!」

 いつの間にかその不思議な雲へと飛び乗っていたルフィが笑いながら飛び跳ねる。

「すげーーーー!」

 チョッパーが目をさらに強く輝かせる横でナミとロビンが「どういう現象?」「不思議」と、やはり驚きの会話を繰り広げる中、こういうものに触れて黙っていられるわけがない男がルフィの他にも二人。

「うお! 俺も行く!」
「俺も俺も!」

 ウソップとハントだ。
 真っ先に綿のような雲へと飛び乗ったウソップの後ろで、ハントがチョッパーへと手を伸ばして言う。

「ほら、チョッパー! お前も触りたいんだろ!?」
「お、おお!」

 チョッパーの手……というか蹄を握って、ハントとチョッパーもまたその綿のような雲へと飛び込む。

「は~、いい気持ちだ……なんかあたたけぇしこのまま寝ちまいたい、干したての布団より気持ちいい」

 ルフィがすさまじくリラックスした声で呟き、ただし男が4人も揃えばそういうリラックスモードは長くは続かない。隣で「あひゃひゃひゃひゃ」とウソップやチョッパー、ハントが笑い転げながらも飛び跳ねて、ルフィの遊び心を刺激する。

「おい、お前らだけでずりぃぞ!」

 とまぁ、ルフィもまた当然のように飛び跳ねながらまた遊びだす。
 空の海というあまりにも未知の世界で興奮していることもあるのだろうか、異様なほどに高いテンションで笑い転げる彼ら4人だったがフとハントが漏らした声でその動きを止めた。

「……なぁ、これ……食ったらうまいのかな」
「……」
「……」
「……」

 ピタリと笑い声を止まらせて、真剣な顔で自分たちが立つ雲を見つめる。
 ごくりとつばを飲み込んで、それからお互いの顔をけん制するかのようににらみ合ったかと思えば我先にと各自の大口を広げて足元の雲へとかぶりついた。

「……ん~、はひひへはい」
「おはひふ」

 4人が騒いで飛び跳ねてもびくともしない雲だけあって、弾力性に富んでいてなかなかに噛み切ることが出来ないらしい。まずはチョッパーとウソップがそれを口に入れることから脱落した。

 残るは二人。
 ルフィとハント。

「……」
「……」

 どうにか雲を噛み切って口に入れることに成功したらしい二人が何度も咀嚼を重ねながら、だがどこか不思議そうな顔でお互いの顔を見つめあう。

「どんな味だ?」
「甘いか?」

 ウソップとチョッパーの問い。せめてそれの味を聴覚で味わおうというのだろうが、残念ながらルフィとハントの反応は芳しくなかった。

「んふー、あひひへぇ」
「んん、ほうはは」

 ほとんど何を言っているかわからないが、基本的に反応が素直な二人がなんの反応もしないということはおそらくは美味しくもまずくもないのだろう。もしかすれば無味なのかもしれない。
 いつまでもなんともいえない表情でモゴモゴと口を動かしていた二人だったが、もう諦めようとそれを呑みこもうとした時、ルフィとハントの二人に変化が起きた。

「!?」

 何かに弾かれたように表情を強張らせて、お互いの顔を見合わせる。それから慌てて空の海へと向かう。

「なんだ?」
「なんだなんだ?」 

 緊迫感すら感じられるその動きに、それをそばで見ていたウソップとチョッパーがやはりどこかのんびりと顔を見合わせる。
 そうやって二人の背中を見つめることほんの一秒。
 ルフィとハントは淀みなく、綿のような雲の上から空の海へと向かって顔を出し、そして――

「――オロロロロロロ!」

 口からそれを噴き出した。

「なにやってんのよ、あんたたちはっ!」

 メリー号の上からナミの声が彼らの背中へと降り注ぐ。

「まずっ!」
「まっじ~~~っ!!」

 吐き出し終えたハントとルフィが同時に青い顔で言う。

「いきなり空の海をばっちくさせるなんて……これが海賊か」
「チョッパー、単純にあいつらがバカなだけだからな」 
「そうなのか」

 食べなかったのではなくただ食べられなかったウソップとチョッパーが冷静に、そしてどこか他人事のようにそれらの背中を見つめるのだった。
 寄り道をしながらも彼らは空の海を進み、そしてついにたどり着く。

「天国の門……だと?」

 海に浮かぶ陸地のような雲を抜けた先、そこに見えたのは言葉通りの文字が書かれた大きな門。
 門の装飾は明るく、ド派手。
 やってくる人間たちを歓迎しているようにすら見えるが、門にでかでかと書かれている文字は残念ながら死を連想させて人間によっては大いに不安を誘う。
 2面性をまるで強調するかのように悠然と居を構えるそれの後ろの景色には巨大な滝のようなものが流れていて、それがさらにそれに仰々しさを生み出している。

「縁起でもねぇ……死にに行くみてぇじゃねぇか」
「いーや、案外俺達ぁもう死んでんじゃねぇか?」
「そうか、その方がこんなおかしな世界にも納得がいくな」

 ウソップが漏らした相変わらずの言葉を、ゾロとサンジがからかうように呟いては、それを真に受けてチョッパ―が「死んだのか俺たち!?」と驚愕の表情を浮かべる。その横ではルフィが「天国かー、楽しみだ! これから行けるんだ! やっと!」と気持ち悪いぐらいに嬉しそうな表情を浮かべており、さらにその横ではハントももう待ちきれないと言った様子で周囲を見回しては「おお!」と自身でも気づいていないような声を漏らして興奮している。

 と。

「見ろ! あそこ誰か出てきたぞ!」
「観光かい? それとも戦争かい?」

 ウソップの指さした方向から出てきた老齢の女性がルフィたちを写真で撮影しながら、海賊旗にひるむ様子を微塵も見せずに問いを投げかけてきた。

「戦争って……あぁ、海賊だからか」

 物騒な言葉にハントが目を白黒させつつも、だが結局は一人で納得してすぐに頷いた。老齢の女性の言葉に誰も答えようとしないのでハントが口を開いて答えようとするも、どうやらお婆さんにとって答えはどうでもよかったらしい。

「どってでもかまわない……上層に行くんなら入国料10億エクストルおいていきなさい。それが法律」
「10億エクストルってベリーだといくらなんだ?」
「あ、あの……お金……もしなかったら?」
「通っていいよ」
「いいのかよっ!」
「――それに……通らなくてもいいよ。あたしは門番でも衛兵でもない。お前たちの意志を聞くだけ」

 お婆さんの意図を掴み兼ねる言葉だが、海賊たる彼らがそんな細かいことを気にするわけもない。ただ通っていいよと言われたのだからここを通らない道理がない。

「じゃあ行くぞ。俺たちは空島に! 金はねぇけど通るぞ、ばあさん」
「そうかい……8人でいいんだね」

 最後の確認の言葉にルフィが「うん」と頷き、そしてそれと同時。メリー号に勝るとも劣らない巨大なエビが雲の海の中から出現した。

「え!?」
「何だ! 何か出てきた!」
「ギャーーギャーーー!」

 船上で騒ぐ彼らもなんのその、メリー号をその硬い背中に乗せて天国の門の先にそびえる滝を登っていく。

「うおおおおーー」
「やっほーーーー!」
「空島♪ 空島♪」

 船上で期待に胸ふくらませる彼らはまだ知らない――


「何か書いてあるぞ! 出口だ!」
「出口じゃねぇよ! 入り口だ!」
「神の国……スカイピア!?」


 天国の門、監視者アマゾンより。
 全能なる神及び神官各位。
 神の国『スカイピア』への不法入国者7名。
 天の裁きにかけられたし。


「!!」
「島だ!」
「空島だぁーーー!」


 ――彼らを待ち受けるモノは単なる未知の冒険だけというわけではないことを。 
 



 突き抜ける青い空。
 間近に存在する空に浮かぶ雲。
 それらがまるで冗談のようにメリー号の眼前に存在していた。
 海に生きてきた彼らがここまで近くに雲の存在を感じ取ることは本当に初めての経験だろう。
 信じられない光景が広がるこの世界で、だが確かに彼らの目の前には空島なるものが存在していた。

 雲がそのまま液体になったかのように流れる白い川、それらを人が整備したのであろうことを窺わせる人工物。地上にある建物とは一線を画す素材で構成されているであろう建築物。雲の上にある世界とは思えないほどに人の生活が見える島がそこに存在していた。明らかに地上では異なる世界をもつこの空の世界にあって地上と同じように緑色の自然が目に優しく飛び込んでくることがまだとこか現実感を彼らに与えている。

 幻想的、というよりも空想的な世界。
 そこに彼らはついに着いたのだ。

「うほー! この島地面がフカフカだ!」
「空島だーーーー!」

 ルフィ、ウソップ、チョッパーが真っ先に声をあげながら空島へと足を下ろしていく。

「しかしたまげたなこの風景にゃ……まるで夢だ」
「全くだ……それにあいつらのハシャギようときたら……ハハしょうがねぇな……ひゃっほーーーい!」
「おめぇもだよ」

 冷静な言葉とは裏腹にサンジまでもが興奮のまま空島の海へと飛び込んでいくサマにゾロが呆れたように言葉を落とす。
 ついに空島に到着したことでテンションが振りきれてしまった彼らが目を輝かせながら興奮しているサマは海賊というよりも無邪気な子供の姿でしかないが、それはある意味では仕方のないことだろう。

 モックタウンではただの夢でしかないと笑いものにされ、猿山連合軍もその存在に関してはあると断定できなかったこの夢の島。雲の上に町が存在しうるという地上にあっては誰もが想像の出来ない世界が今まさに現実として彼らの目の前に広がっているのだ。
 それであくまでも冷静な態度でいられるゾロのほうが珍しいだろう。

「……そういやハントの姿がねぇな」

 錨をおろしながら、ルフィやウソップ同様にこういった未知のものに対しては目を輝かせることうけあいのハントの姿が見当たらないことに、ゾロが不思議そうな表情で呟いた。ゾロが疑問に思って首を傾げた丁度のその時、彼の背後から声が。

「いって! いやだから痛いって! 悪かった! 悪かったって!」

 ノックアップストリームに乗るために連れてきたサウスバードにつつかれながらハントが甲板に姿を現した。

「……完全に逃がすの忘れてた……それもこれもティーチのせいだ、間違いない」

 恨み言を漏らしながらもそのまま空島の世界へと羽ばたいていくサウスバードの尾を見つめながら「……大丈夫かなぁ、あいつ」と少しだけ心配そうに言葉を落とす。錨を落とすという作業を続行しながらもその言葉が聞こえていたゾロが「人も住んでるみてぇだ……生きていけるだろ」と半分聞き流しながらハントへとフォローを入れる。

「……そう、だな」

 やはり負い目を感じているのか、少しだけ小さい声になったハントの横から今度はナミがロビンと会話しながらも空島の海へと足を下ろす。

「正直こんな空の世界、想像もつかなかったけど……ハハ、体感しちゃったら疑いようがないわ!」

 ルフィたちにも劣らないほどに輝やいた笑顔を、まだ甲板にいるロビンに向けてそのまま視線をハントへと移す。

「ほら、ハントも!」
「お、おう!」

 やはりサウスバードの件があったとはいえハントもまた空島に対して並々ならぬ興味を抱いていただけのことはある。一瞬前まであったハントの気配が嘘のように「じゃああと宜しく!」とゾロに声をかけて、その返事も待たずに、そして実に嬉しそうにそのまま甲板から飛び降りる。

「これが空島か!」
「本当に着いちゃったわね!」

 楽しそうに顔を見合わせる二人だったが、ハントは急にハッとした表情になり、ナミから顔をそらした。

「……ハント?」

 ナミは首を傾げるものの、ハントの耳が若干に赤くなっていることに気付き、それから考えること数秒。自分が水着姿だということを思い出して、また先ほどまでとは別の類の笑顔をもってハントへと顔を寄せる。

「どうしたの、ハント?」
「い、いや……別に」
「ふ~ん? ……いいけど、ほら行くわよ!」

 ハントの腕を抱えるようにしてナミが駆け出す。そうなると当然ハントもナミに引っ張られるわけで。「っ!? ちょっ、腕! ……当たってる当たってる!」

「へー、当たってるって……何が?」
「何がって……そのアレだよ! アレ!」
「ん~?」
「絶対わかってるよね!? 明らかにあててきてるよね!」
「嫌なの?」
「めっちゃ嬉しいっす!」
「素直でよろしい」

 空島の海でキャッキャウフフを繰り広げている二人。それを甲板にいるゾロが呆れた表情で見ているのだった。

「あいつら……恥ずかしくねぇのか?」
「フフ……航海士さんも漁師さんもそういう年頃なのかしらね」

 唯一落ち着いている二人の声がメリー号の甲板に小さく染みわたっていた。

 
 

 
後書き
とりあえず本日の更新はこれまでです!

こっから2週間に1話の更新を目安にがんばっていきます! 
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