ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories
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SAO編
Chapter-8 74層攻略
Story8-6 74層Boss戦
シャオンside
不意に下層側の入り口からガチャガチャと日本の鎧が擦れるような音がして、それが徐々にこちらに近づいてきているのがわかった。
それも1人、2人ではなく、複数だ。
俺たちは顔を見合わせ、入り口を注視した。
しばらく経つと、プレイヤーの一団が入ってきた。
現れた6人ほどのプレイヤーの中に久し振りに見た顔を見つけた。
こちらが声をかける前に向こうのバンダナをつけた野武士ツラの男が声をかけてきた。
「おう!キリトにシャオンじゃないか?」
「久しぶりだな、クライン。元気してたか?」
「なんだ、まだ生きてたのか?」
「相変わらず愛想のねえ野郎だな」
愛想がないのは当然キリトのことだ。
と話をしていると、先程、クラインたちが入ってきた入り口から新たな一団の訪れを告げる足音と、金属鎧の擦れる音が響いてきたのだ。
この規則正しい足音は……
アスナが緊張した面持ちで囁いた。
「みんな、気つけて!軍よ」
アスナが軍の人間に聞こえないように注意を促した。
例のごとく、二列縦隊で部屋に入ってきた集団は、とても疲れきっていた。
安全エリアの俺たちとは反対側の端に、彼らは停止し、
先頭にいた男が「休め」と言うと、残りのメンバーは盛大な音と共に倒れるように座り込んだ。
指示を出した男は、仲間に目もくれずにこちらに近づいてきた。
きっと彼がこのパーティーのリーダーだろう。
他のものと装備が微妙に違う。
金属鎧も高級なものだし、胸のあたりに他のものにはないアインクラッド全景を意匠化した紋章が描かれている。
彼は俺たちの前で止まると、ヘルメットを外した。
身長は高めで、ごく短い髪型に角張った顔立ち、太い眉の下には小さく鋭い眼が光っている。
口元は固く結ばれており、こちらをジロリと睥睨すると、男は先頭に立っていたキリトに向かって口を開いた。
「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ。君らはもうこの先も攻略しているのか?」
「ボス部屋の手前まではマッピングしてある」
「うむ。ではそのマップデータを提供して貰いたい」
その男の口調は当然だと言わんばかりの物言いだった。
まあ、軍に渡したところでどうにかなるもんじゃないけど。
すると、後ろにいたクラインが、
「な、て、提供しろだと!?
手前ェ、マッピングする苦労が解ってて言ってんのか!?」
クラインの声を聞いたコーバッツが、眉をぴくりと動かすと、
「我々は君ら一般プレイヤーの解放の為に戦っている!
諸君が協力するのは当然の義務である!」
と声を張り上げて告げた。
ここ1年、軍が積極的に攻略に乗り出したことはないだろー……この脳細胞カチコチそうなやつ……頭悪いのか?
と呆れて彼を見ているとクラインとアスナが意義を唱えようとした。
「ちょっと、あなたねぇ……」
「て、てめぇらなぁ……」
それをキリトが手を上げ制すと、
「どうせ街に戻ったら公開しようと思っていたデータだ、構わないさ」
「おいおい、そりゃあ人が良すぎるぜキリト」
「マップデータで商売する気はないよ」
そういってキリトはマッピングデータをトレードした。
「ボスにちょっかい出すつもりならやめておいたほうがいいぜ。生半可な人数でどうこうなる相手じゃないぜ」
キリトは一応忠告したが、
「それは私が判断することだ」
「見たところ、あんたの部下はみんな限界そうだ。
そんなので勝てるのか」
俺の言葉に引っかかったのか、コーバッツが声を荒げて言った。
「私の部下に軟弱者はいない!
おい!貴様らいつまで休んでやがる、さっさと立たんか!」
「あんたたちじゃせいぜいHPを1割削るので精一杯。
あんたみたいなのが指示したって所詮その程度なんだよ」
「な、なんだと?!貴様、軍の私を愚弄するか!」
ついにコーバッツが怒った。
「はっきり言ってやろうか。お前らのような雑魚じゃ何人束になっても勝ち目はない」
「き、貴様、もう一度言ってみろ!軍に逆らうだけでらなく、愚弄するとは!」
コーバッツの怒りはもはや頂点だった。
俺の怒りはその比ではなかったが。
「じゃあお前は! 部下が死んだときに責任を取れるのか!!? 死んだやつの生きてた証を! お前は残していけるのか!?
軍のプライド、変な期待、そんなもんどうだっていいんだよ!!
部下に変な期待かけて! 無理させて! それで死んだとき! 表面だけの悲しみしか出せないようなお前には責任なんてひとつもとれやしない!!
そんなやつが威張り散らして小隊のリーダーなんかやってんじゃねぇよ!!
ついでだ。もう一つ言っといてやる。
リーダーが仲間を引っ張ること自体は何もおかしくない。
でもな、お前みたいに勝手な期待かけて、部下に無理させて、自分の思い通りにしようなんて馬鹿げてる。
お前みたいな奴に、本当のリーダーは務まらない」
その言葉にコーバッツどころか、全員がたじろいだ。
が、コーバッツはすぐに部下を立たせてBoss部屋へと向かった。
「ったく、聞き分けの悪いリーダーだ……
あ、悪い。いつになく大声出しちゃったな」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
第3者side
〜10分後〜
「やっぱり、心配」
フローラが堪えきれずに言った。周りもそれに頷いた。
結局そのままボス部屋にむかって出発した。
途中リザードマンに引っかかってしまい10分ほどロスしたが、それでも軍が出発してから20分後。
中程まで進んだ時、不安を的中させる音が回路内を反響しながらシャオンたちの耳に届いた。
咄嗟に立ち止まり、耳を済ませる。
「あぁぁぁぁぁ……」
と微かに聞こえたそれは、間違いなく人の悲鳴だった。
キリトたちは顔を見合わせると、一斉に駆け出した。
敏捷パラメータが上位のシャオン、キリト、アスナ、フローラがクラインたちの前を行く形になったが、この際かまっていられない。
やがて、彼方にあの大扉が現れた。
扉は左右に開き、内部の闇で燃え盛る青い炎の揺らめきが見て取れる。
そしてその奥で蠢く巨大な影と、それと闘う小さな黒い影がひとつ。
断続的に響く金属音と、悲鳴に
「あのバカ野郎……」
とシャオンが呟いた。
シャオンたちは更にスピードを上げ、ほとんど地に足を付けず飛ぶように走る。
扉の手前でシャオンたちが急激な減速をかけ、ブーツの鋲から火花を散らすと、入口ギリギリで停止した。
中は、地獄絵図だった。
床一面を、格子状に青白い炎が吹き出し、その中央でキリトたちに背を向けて屹立する、青い巨体の悪魔ザ・グリームアイズ。
悪魔を見ると、HPはほとんど減ってなかった。
「ここ、結晶無効化エリアか!」
とシャオンが眉間に皺を寄せる。
転移できてないところを見てそう推測したらしい。
その時、漸くクラインたちが追い付き、4人を見る。
「おい、どうなってるんだ!!」
フローラが手早く事態を伝えると、クラインの顔が歪む。
「大丈夫なのかよ……」
今の状況では迂闊に手が出せない。
コーバッツは戦える軍のメンバーと共に戦っていた。
しかし、悪魔は仁王立ちになると、地響きを伴う雄叫びと共に、口から眩い噴気を撒き散らした。
全員がすでに限界にも関わらず戦っていた。
すると、コーバッツの太い声が響いた。
「軍に撤退の二文字はない!全員突撃!」
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」
シャオンの声が響きわたる。
その数秒後、剣で打ち上げられ、シャオンたちのそばに飛んできたプレイヤーがいた。
コーバッツだった。
自分の身に起きたことが理解できていなかった。
そして、呟いた。
あり得ない、と。
その後、その体は神経を逆撫でするような効果音と共に無数の断片となって飛散した。
「くそぉぉぉぉぉぉ!!」
その音に触発されたようにシャオンはグリームアイズに向かっていく。
それを見たフローラ。
「だめ……だめよ……シャオン君……」
一筋涙を流すと、
「だめーーーーっ!!」
フローラの絶叫と共に3人は突風の如く駆け出した。
空中で抜いた各々の獲物と共にグリームアイズに突っ込んで行く。
「どうとでもなりやがれ!!」
とクラインたちが声を上げつつ追随してきた。
フローラたちの一撃は、不意を突く形で悪魔の背に命中した。
だが、HPはろくに減っていないようで、グリームアイズは怒りの叫びと共にフローラたちの方に向き直る。そして、猛烈なスピードでフローラに目掛けて斬馬刀を振り下ろした。
フローラは咄嗟にステップで避けるも、完全には避けきれず余波を受けて地面に倒れこんだ。
「フローラ!」
今度はシャオンの絶叫が響き渡る。
シャオンはグリームアイズに向かう足を切り替え、フローラの方向に向かった。
「考えなしに突っ込むな!!下がれ!」
叫ぶと、我に返ったフローラが後ろに下がった。
シャオンは追撃に備え、剣を構える。
普通のプレイヤーなら一撃で死ぬであろう圧倒的な剣の威力を剣でいなしながら、的確に攻撃を与えていく。
視界の端で、クラインの仲間たちが軍の生き残ったメンバーを部屋の外へ出そうとしているのを確認し、グリームアイズがそちらに行かないように、攻撃して注意を引いた。
キリトたちも攻撃を加えている。
が……
「ぐはっ!!」
「ぐっ!!」
とうとうグリームアイズの一撃がキリトとシャオンの体を捉えた。
HPバーがグイッと減少する。
元々、キリトやシャオンの装備とスキル構成は壁仕様ではないのだ。
このままではとても支えきれないだろう。
最早、残された選択筋はひとつだけ。
――もうこうなったら、ダメージディーラーのすべてを持って……
――やるしかないか、あれ。スピードアタッカーの真価、見せてやる
Story8-6 END
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