戦国異伝

「大丈夫でしょうか」
「おそらくはな」
　こう答えたのは酒井だった。
「奥平ならばな」
「大丈夫ですか」
「武田相手でも守ってくれる、しかしじゃ」
　それでもとも言うのだった。
「猶予はない」
「少しでも遅れれば」
「落城してしまうわ」
　この危険があるというのだ。
「だから猶予はない」
「一刻も早くあちらに行って」
「そうしてじゃ」
　そのうえで、というのだ。
「城を救うぞ」
「武田に勝ち」
「そのうえで」
「そうしようぞ」
　酒井は榊原と井伊に言うのだった。
「必ずな」
「それでなのですが」
　本多忠勝もいる、これで四天王全員である。
「我等が向かっている先ですが」
「それじゃな」
「武田の動きを見て向かっておりますが」
　それが、というのだ。
「このままですと」
「設楽ヶ原じゃな」
　酒井のその目がここでさらに鋭くなった。
「あの場に向かっておるな」
「はい、そうなっています」
「設楽ヶ原か」
　戦がその場と聞いてだ、こう言った酒井だった。
「あの場は広い、あの場ならな」
「大きな戦もですか」
「出来るというのですな」
「うむ、出来る」
　あの場ならというのだ。
「そこで戦か」
「そして丸太に縄、ですな」
「織田家の軍勢が持っている」
「どうなるかのう」
　この度の戦は、というのだ。
「一体」
「わかりませぬな、どうにも」
「そこが」
「しかし戦ならな」
　それならばとも言う酒井だった。
「一旦なればな」
「その時はですな」
「我等としては」
「勝つだけじゃ」
　それだけであるとだ、酒井はあえて言い切った。
「そういうことじゃな」
「それでは」
「まずは武田と対峙し」
「そうして、ですな」
「いよいよ」
「三方ヶ原の雪辱もな」　
　それも、というのだ。
「晴らそうぞ」
「ですな、では」
「これより」
「そうしましょうぞ」
　四天王の残り三人も応える、徳川家一万の軍勢も織田軍と共に浜松からその場に向かっていた。そして彼等のその動きは。
　幸村がだ、十勇士を従えた上でだ、そのうえで信玄に報をしていた。信玄はその報を聞いてそのうえで言うのだった。
「ふむ、来ておるか」
「はい、こちらに」
「設楽ヶ原に来るか」
「ではそこで」
「あの場なら大軍が入られる」
　武田六万の大軍もというのだ。