戦国異伝
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第百九十三話 高天神からその八
「ですから」
「頭を下げるか」
「左様です、そしてなのですが」
家康は信長にあらためて言った。
「この度は」
「うむ、武田が来たな」
「はい」
「助太刀に参ったと言いたいが」
その実は、という信長だった。
「ここで武田と雄雌を決したい」
「その様にお考えですか」
「武田は今は長篠城を囲んでおるな」
信長は自分からこのことを問うた。
「そうじゃな」
「はい、その大軍で」
「そうじゃな、その武田の軍勢とじゃ」
「戦いまするか」
「そう考えておる」
こう家康に言うのだった。
「助太刀に来て悪いがな」
「いえ、武田は我等の敵でもあります」
それでだとだ、家康は信長に言葉を返すのだった。
「ですから」
「それで、じゃな」
「我等の方が助太刀させてもらいます」
織田と武田、両家の戦にというのだ。
「及ばずながら」
「そう言うか」
「はい、そうさせて頂いて宜しいでしょうか」
「そう言うのなら頼む」
これが信長の返事だった。
「ここはな」
「はい、それでは」
家康もまた応えた、こう話をしてだった。
織田と武田の戦に徳川が織田の助太刀に入る形になった。そうした話もしてそのうえでなのだった
織田家の大軍は徳川の助太刀も得てそのうえで長篠城に向かう、だがその織田の軍勢を見てだ。榊原は首を捻って井伊に問うた。
「何故丸太と縄を持っておる」
「そのことですな」
「御主も気になっておったな」
「はい、どうにも」
実際にだ、井伊も榊原にそうだと答えた。
「これは」
「妙じゃな」
「丸太と縄ですか」
「一体何なのじゃ」
「織田家の方々も首を傾げておられる様ですが」
井伊の顔もいぶかしむものだ。
「これは一体」
「訳がわからぬのう」
「全くです、しかし」
「しかしか」
「右大臣殿は意味のないことはされませぬ」
それも絶対に、というのだ。
「ですから」
「あの丸太と縄もじゃな」
「必然があるかと」
「しかしあれだけの大軍に丸太と縄を持たせると」
「相当ですな」
「うむ、全く以てな」
一つや二つではない、二十万の兵全てだ。それだけの大軍が全て丸太を持てば確かに相当な数になる。
それでだ、榊原も言うのだ。
「どう使うのかのう」
「気になるところですな」
「全くじゃ、しかし」
それでもと言う榊原だった。
「右大臣殿ならな」
「面白いことになりますな」
「今度は一体何をお考えかな」
「見せてもらいましょう」
こう言う井伊だった。
「是非」
「そういうことじゃな」
「それで長篠城ですが」
井伊は今度はこの城の話をした。
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