日向の兎
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1部
30話
前書き
本来は昨日書き上げる予定だったんですが、昨日はTFSPをダウンロードして遊んでいる内に……申し訳ありません
ふむ……サスケの首からは試験官同様に例のイレギュラー、いや伝説の三忍である大蛇丸のチャクラが漏れ出ている。
身体的な問題としては体中に高密度のチャクラが流れ、軽度な傷などを修復してはいるものの、そのチャクラは限界を超えて絞り出されている類だな。
それは恐らくは首の呪印の影響だろうが、相当体に負担をかけているらしく体温、脈拍、呼吸数が上がっている。
が、サスケの方は水と食事を補給させておけば取り敢えず死ぬことはないだろう。
ナルトの方は九尾の封印が僅かに緩んだところに雑な封印を施され、結果として体内のチャクラが九尾とナルトのものがごちゃ混ぜになっているようだ。それ故に目覚めるのが遅れているといったところだろうか?
何にせよ、二人とも試験終了後に然るべき処置を取れば大した事にはならんだろうな。
ただ、サスケの場合は自ら呪印を使う道を選ぶだろうな。どうにも彼はイタチに追い付く為なら手段を選ばん性格で、体の底力を強引に引き摺り出す呪印は自ら望むだろう。
実際、適切な訓練を受ければ呪印はそう悪いものではないだろうが……呪印の適切な訓練など呪印を施した大蛇丸しか知らんだろうな。もっとも、大蛇丸もそれを見越しているんだろうが……写輪眼が目的か。
……まぁいい、サスケの人生だ。木の葉で順当に成長するも良し、大蛇丸の元で一か八かの賭けにでて急激な成長を望むも良しだ。
サスケとてそのリスクを理解できない愚か者ではあるまい。
「ヒジリさん、二人は……?」
「ん?ああ、心配するな。二人とも今のところ命に問題はない」
「今のところ?」
「ナルトに関しては大した事はないのだが……サスケは今後も少々様子見が必要だ」
「そう……ですか……」
サクラは不安そうに俯きながら、緊張の糸が切れたのかそのまま眠りについてしまった。
取り敢えず周囲に敵はいないものの、このまま放置しておく訳にもいかんだろう。少なくとも三人の内の誰かが目覚めるまではここにいるべきだろうし、私としてはそうしたい。
「リー、近くの川で水を汲んで来てくれないか?」
「分かりました」
リーはサクラの傍に置いてあった桶を抱えて、川の方へ歩き出して行ったが……
「リー、何を笑っている?」
「ヒジリさんがサクラさん達を見捨てずに、こうして助けている事が嬉しいんですよ」
「忍としてはこの手の甘さは捨てるべきだがな」
「いえいえ、僕はその甘さこそあなたの強さの源だと思いますよ?」
「ふん、知った口を聞くじゃないか。さっさと水を汲んでこい」
「はいはい」
リーが去った後、私は先ほどの彼の言葉を反芻する。
その甘さが私の源か……忍であるのならばあらゆる甘さを殺し、目的遂行に為に動くべきなのだろう。
しかし、私は果たしてその甘さを捨てられるのだろうか?仮にヒナタ達を殺さなければならなくなった時にそれができるか?
そんなもの、考えるまでもなく無理だ。
では、私は一体何の為に戦うか?言うまでもなく、私は私にとって大事な物の為に戦う。
……だが、それが力の源かと言われれば疑問符がつく。それに関して、以前から疑問があったのだ。
私は同年代の者より思考が変わっているという自覚はあるのだが、忍具や術の発想が何処から出てくるのかが不明なのだ。
閃きと言ってしまえばそこまでかもしれないのだが、蓬莱の枝を作った時の振動を活用するという発想、弁財天のような音で探知する方法など、今まで無かった発想が文字通り降って湧いたように浮かんだのだ。
その上、両方とも生み出すまでにミスはただの一度もなかった。
つまり、私は今まで一切のノウハウのない技術を、ただの一度もミスを犯さずに実用化させたという事だ。
流石にこれはおかしいと言わざるを得ないだろう。
才能やそういった類ではなく、元からそれらのノウハウを持ち、その結果すら既に知っていた?
……私は一体何を考えているのだ?いや、違うな。
私は一体、なんだ?
私がそこまで考えた時、不意に背後のサスケが起き上がった。
同時に私の頭を目掛けて手裏剣が放たれた。我ながら情けない話だが、自問自答の結果、随分と動揺していたらしい。
回避に失敗し、たかだか手裏剣如きに右腕をやられるハメになるとは……
「……で、サスケ。どういうつもりだ?」
ゆらりと幽鬼のようにこちらを見て、手裏剣を構えるサスケに問いかけると。 酷く歪んだ笑みを浮かべながらサスケは答えた。
「今ならあんたを倒せる気がするんだ。
……あんたから言い出した事だよな?殺す気で攻撃していいってのは?」
今のサスケが普通じゃないのは一目みれば分かるが、原因は首筋から奇妙な刺青のように広がっている呪印か。どうやら能力向上だけではなく、極端な攻撃性の増大というオマケ付きのようだな。
結果、今のサスケは意識が辛うじて覚醒した状態でそんな事になっているのだから、半ば寝ぼけながら襲ってきているという具合か。
「その通りだが……寝起きの君にやられる程に安く見られていたとは心外だな。少しばかり躾が必要か?」
サスケは再び笑みを浮かべると、普段の倍以上の速度で印を結びはじめた。
印から察するにどうやら火遁のようだな。普段ならば何の問題もなく受け流すなりができるのだが……右腕が今現在動かせん。
サスケの奴め、見事に私の肩関節部分を狙ったようで、手裏剣は関節部にまでは到達していないものの、下手に動かせば関節部分まで到達しかねん。
「火遁 鳳仙花の術」
サスケは口から散弾銃のように小さな火の玉を私に飛ばしてきた。加えて言うならば、火の中には手裏剣も仕込んでいる。
それらを左袖から取り出した蓬莱の枝で弾きながら、私は距離を取るために後ろに下がる。が、サスケのスピードも中々のようで距離が思ったように開かない。
「やるではないか?」
「それはどうも」
その直後、サスケは先ほどまで散らせていた火球を集中させた。その火球の背後にぴったりと張り付くようにサスケは行動し始める。
私が火球を弾くなりした直後の隙を突くことを狙っているな。
これが万全の状態の私であれば片腕で火球を払い、もう片方でサスケを牽制したのだが、今は片腕が使えないので不可能だ。
ならば、少しばかりのダメージは覚悟せねばならんな。
私は左腕で火球を払い、サスケに狙いやすいように体の防御を無くす。すると、案の定彼は防御できない私の懐に潜り込み、一気に勝負を付ける為に苦無を私の首に向ける。
「とった」
私の面がカラリと音を立てて地面に落ちる。
「ひや、ほっへない(いや、とってない)」
寸前で顎を下げてサスケの苦無を歯で食い縛る事で難を逃れた私は、彼の腹めがけて膝蹴りを打ち込む。
私の打撃の威力と危険性を知っている彼は蹴りが当たる前に苦無を離して、過剰と言えるほど大きく後ろに跳び退いた。
……やはりと言うべきか、サスケはあの呪印で疲労を忘れているだけの状態らしく、あの動きの割りに息が上がっているな。恐らくかなり血中の酸素はギリギリでやりくりしている状態だろう。
ならば、あの術ですぐに終わるな。
方針の固まった私は咥えた苦無をサスケに投げ返すと同時に左裾から水を封じた巻物から水を口寄せし、チャクラを最速で練り上げて術を発動する。
「水遁 天之狭霧神」
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