| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

憎悪との対峙
  37 何処から見るのか

 
前書き
あけましておめでとうございます。
今年は更新のペースを上げたい、そう思ってます!

今回は前回、追ってきたジャミンカーを全て倒した直後から始まります。
そしてスペシャル?なゲストもいらっしゃってますので...ぜひ最後までお楽しみください。 

 
ハートレスはバックミラーを確認しながら、ガヤルドを走らせていた。
追手が来る緊張感とメリーを速く安全な場所へ連れて行かねばならぬ焦りで、いつもの冷静な態度は微塵も感じられない。
今までも顔色1つ変えずに冷静を装っていたことは何度もあった。
しかし今はそんな余裕すらも無かった。
ハンドルを握る手がプルプルと震え、アクセルを踏み込む足がまるで自分のものでないような感覚を覚えていた。

「...頑張って...もう少しだから」

メリーにいつもなら絶対に言わないような言葉をかけた。
焦りながらも不思議と体が覚えた運転技術が自然と事故1つ起こさずに目的地へとガヤルドを走らせる。
極力、信号が無い道を選び、デンサンシティのビル街を駆け抜ける。
ちょうど新宿の高層ビル街と秋葉原の中央通り、更に渋谷の玉川通りを思わせる要素を含んだ魔都。
昔から発展を続けていはいたが、この10年の間の技術革新が更にその進化を加速させた反面、それによるネット犯罪の増加率がニホンでは不動の1位に輝いた。
ネットには人間の性とも言うべき悪を増幅する力がある。
誰かが軽い気持ちで誰かを罵るコメントを送信し、それを面白がって誰かが広める、そしてそれを見た多くの人々が罵ることは罵られるだけの理由がある、皆の共通認識だと思い込み、その増幅された悪意はネットを飛び出し、現実の世界で猛威を奮う。
技術が発展すれば、それに伴って人間を堕落させる。
ハートレスは人間の根底にあるのは悪だと考える、一種の性悪説の立場の人間だった。
それは自分もそうだから、そして今まで見てきた人間の多くがそうだったから。
この街の多くの人間が性善説と性悪説という単語を知らずとも、頭の中では理解していることだった。
しかしハートレスの立場の根拠はそれだけではなかった。

「っ...」

そんな思考を振り切るように、ハンドルを切って曲がり、コトブキ町へと入る。
そしてセーフハウスの門をくぐり、車庫へと飛び込んだ。
ガヤルドを飛び降り、壁のスイッチを押す。
すると車庫の床はゆっくりとリフトダウンし、地下ガレージへと降りてくる。

「アイリス!!測定装置は!?」
「準備出来てるわ!!」

そこには無事を祈り、手を合わせていたアイリスがいた。
ハートレスはすぐさま助手席のドアを自分でも信じられないくらい乱暴に開き、シートベルトを外し、メリーを抱えてアイリスの方へと走った。

「無事でよかった...」
「...時間通りに来なかった時は肝を冷やしたわよ。多少のズレはあってもほぼ計画通り、正直なところ驚いたわ」

メリーの腕と頭に測定器を取り付けながら、アイリスと目線を合わせた。
作戦は理に適っていたが、成功する確率は限りなく低かったが、それを成功させることが出来た。
奇跡とでも呼ぶにふさわしいことが起こった。
だが運が良かっただけではなく、彩斗の知能、身体能力が実現させた部分が大きい。
そしてここまでうまく行っている以上、それで喜んでいられない。
計画はまだ終わっていないのだ。

「測定を始めるわよ」
「...」

アイリスはPCのEnterキーを押した。
今回の作戦はイレギュラーだらけだった。
EMPを含めた彩斗が持ちだした武器もさることながら、この実験器具も本来の用途ではなく、プログラムを書き換えて無理やり転用している。
何かプログラムの面で不具合があったり、機器がその用途に耐えられなければ、使っている彩斗やメリーも危険だ。
ハートレスの焦りは頂点に近づいていき、爪を噛んだ。

「...まだ!?」
「落ち着いて!!...出たわ!」
「!?」

思わず声を荒らげるハートレスを落ち着かせながら、PCの画面を確認する。
アイリスも驚いていた。
ハートレスがここまで冷静さを失っている姿がこの2日間で全く想像出来なかった。
それに釣られ、アイリスも自然と声が大きくなる。

「ダークチップ侵食率...0.4%!!0.39%...危険域を大きく下回っているわ!!...安心して...」
「あぁ...良かった...」

ハートレスはその場に崩れ落ちた。
アイリスはその光景が異様にも微笑ましくも見えた。
ハートレスがメリーの手を握って、心から喜んでいる。

「...良かった...」

一言で例えるなら迷子になった自分の子どもと無事に再会出来た親子のようだった。
アイリスには入り込む隙間が無いと瞬時に理解出来てしまう程に強固な壁だった。
しかしここで無理に入り込むことなく、引き下がった。

「バイタルサインも安定、血圧は最高118、最低67、体温36.3℃、脳波から予想される心理状態も不安や恐怖のレベルは若干高いけど、ダークチップによる攻撃性は無いわ」
「...ありがとう...命に別条はないのね?」
「ええ。でも酷い疲労と栄養失調の傾向があるわ。上のベッドに移して、栄養剤の点滴をしましょう」
「...分かった。手を貸して」
「ええ」

ハートレスとアイリスはメリーを担架に乗せる。
だがアイリスは自然とハートレスの顔とメリーの顔を交互に見ていた。

「何?」
「...いや...あなたもそんな顔するんだと思って。本当に...」

「母親みたいって言いたいのね?」

「!?...」

アイリスが言葉を詰まらせたところで、ハートレスは何となく察した。
ハートレスはため息をつく。

「残念なことにそんなこと言われる程、立派な人間じゃないわ。それに...この場で言うことでもないでしょう?まだ作戦は終わってない。ちょっと安心して脱力した私が言えたものじゃないけどね」
「...そうね。ごめんなさい」

アイリスは申し訳なさそうにエレベーターに担架を乗せ、再びPCの画面を見た。
研究施設並の演算装置に個人向けマシンとしては最強レベルのMac Proを最大構成にカスタムしたもの25台を並列コンピューティングし、HP ENVY PHOENIXやiMacなどのハイスペックマシンがいくつも用意され、大型のL字型の机にモニターアームで大量のモニターが広げられている。

「...確かに...まだ終わってない」

アイリスはそのうちの2つをじっと見つめていた。
片方には「No Signal」と「Week」が交互に表示されるレーダーのようなものが、もう片方には衛星からのリアルタイム映像が映されていた。

「後は1人でいいわ」

ハートレスはメリーの乗った担架とともにエレベーターで地上へと向かう。
しかしここに残されても、アイリスに出来ることは何も無かった。
ゆっくりといつもハートレスが作業する際に座っているであろう椅子に座る。

「もうすぐ...大丈夫よね?」

レーダーに反応が微弱ながら検知されるということは妨害電波の圏外に近いということだ。
だがまだ作戦は終わっていないのだ、完全に逃げ切るまでは。
先程からずっと上空からの映像で見ていたが、全く先が予想出来なかった。
アイリスは両手を重ね、祈りを捧げるようにモニターを見つめた。

「...」

モニターの先では高速道路でスターダストとなった彩斗がゆっくりと倒れたジャミンカーの変身者の方へ向かっていた。
一見平気そうな顔をしている上、その歩き方からは思わず警戒心を抱かせる威圧感が放たれている。
だが走らずに歩くというのは余裕を表しているのではなく、走れない程にダメージを受けているのではないかとアイリスは不安になってしまう。
本来なら今にも倒れるのではないかと目を背けたくなる。
しかし背けられなかった。
いつもの彩斗とは違った凛々しさと力強さ、そしてある種の美しさすら感じさせる姿は目を奪うには十分過ぎるものだった。
正体を知っていなければ、法や規範に囚われずに悪と戦う電波人間に見える。
しかしあの屈強なスーツとバイザーを纏っているのが彩斗だと知っていれば、それだけでは片付けることが出来ない。
数々の苦痛や悲劇を乗り越え、心に癒えない深い傷を抱えながらも立ち上がった。
たとえ、いつこの巨大な力に溺れて自分を失うか分からない不安があっても。
それを思えば、あの姿が凛々しく、そして儚く見えない者はそう多くはないだろう。
それは涙が出てもおかしくないのに、アイリスは涙が出ない機械じかけの自分の体を呪ってしまう程だった。

「...?」

アイリスは不意に聞こえた警告音の方を向いた。
衛星のコンソール画面をリモート表示するモニターが、「ALERT」と警告を知らせていた。

「何?サイトくんの近くに....何かが急接近してる...」
妨害電波の中であるためにレーダーによる反応ではなく、上空から見下ろす衛星が何かの動きを捉えたのだ。
ただ映像の中で動くものがあるという程度で解析は困難だが、それはタダモノではないことは明らかだった。

「見えない...」

日は落ち、視界が悪いのは当然だが、それを抜きにしても周囲に動きは見られない。
だがディーラーの衛星が誤作動を起こしているとも考えられない。
こうも簡単に誤作動を起こす衛星を使っているようではディーラーは現代でWAXAに追われるような犯罪組織として存在しているわけがない。

「まさか...!?」

当たって欲しくない予感が沸き起こり、アイリスは衛星の映像を赤外線に切り替える。
その予感は的中していた。
複数の何か、大きさと形はバイクのくらいのものから車のようなものまで、速度は200~250km/h程度の物体がスターダストの方に向かっている。

「サイトくん...逃げて...!」

アイリスはキーボードの横に置かれたVoyager Legendのマイクに向かって叫んだ。
しかし妨害電波の中ではそのメッセージは届いていない。
アイリスはPCを操作し、衛星や機器の機能で他に何かメッセージを伝える方法がないかを探す。
だがそんなアイリスの思いが届いたのか、偶然か映像のスターダストは足を止めた。













「...警察の人間...Valkyrieと直接的な関係が無い...」

スターダストはジャミンカーに変身していたリーダー格のSWAT隊員の持ち物を拾い上げ、警察手帳と無線機を取り出した。
現代の警察手帳にはストレージ、すなわち記憶装置としての機能も搭載されている。
他にメモリーカードや端末は所持していない為、手がかりと言えるのはこれだけだった。
Valkyrieの人間ならダークチップや予備のユナイトカードなど最低限の装備、そして証拠となるものを所持しているはずだ。
つまりSWATの裏切り者はValkyrieの人間ではなく、何らかの取引を行ったか、もしくは警察とは犬猿の仲であるWAXAへの対抗心を利用されていただけ、その可能性が大きかった。

「...何だ?」

スターダストはふとに足を止めた。
何かが近づいている気配を感じた。
すぐさま先程と同じ暗闇での戦闘のための赤外線バイザーへと切り替える。

「...!?まだ追手が...」

何かが弾丸のような猛スピードでこちらの方へ向かってきていた。
スターダストはすぐさま踵を返し、スター・イリュージョンの方へ走る。
正直、スターダストはわけが分からなかった。
学校内のValkyrieはほぼ倒したはずだ。
自分が逃げた後、すぐにWAXAに学校は制圧されているはず、つまり自分の倒した追手はギリギリでそれを逃れた者たちだ、それ以上いるわけがない。
だとすれば、この追手の正体として考えられるのは1つだけだった。
スターダストはイリュージョンに飛び乗り、エンジンを始動させた。
だがその間にスターダストは見えない何かに完全に包囲され、上空からはヘリの音が聞こえてくる。
そしてとうとうその見えない何かが一斉にそのベールを脱いだ。

『動くな!!キサマは完全に包囲されている!!!』

「!?...WAXAか...」

スターダストを取り囲んでいたのは、WAXAの追跡ビークルとパトカーだった。
HONDA・グレイスをベースにした新型パトカー『サテライト・ハンター』とHONDA・NM4-02をベースにエンジンやベース車の特徴とも言えるDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)に加え、様々なカスタマイズされた『サテライト・チェイサー』。
WAXAのロゴがマシンには付けられているため、すぐに分かった。

なるほどね...光学迷彩
「オプティカルカモフラージュか...」

スターダストはイリュージョンのテールの部分にプリントされたWAXAのロゴを見た。
イリュージョンにも同じオプティカルカモフラージュ機能が搭載されている。
同じくWAXAが開発したものである以上、WAXAにも同じ機能を搭載した何らかの装備を持っていると予想しておくべきだった。
一時的に搭乗者ごと特殊なエネルギー波で包み、光学迷彩で姿を隠す。
これによりスピード違反者に追跡されていることを気づかせず、逃亡のために乱暴な運転させずに周囲への被害を抑えられる。
逃亡者は気づけば、詰将棋のように逃げられなくなってしまうのだ。
今のスターダストのように。

『エンジンを切って、バイクから離れろ!!持っている武器も全て捨てるんだ!!』

拡声器から響く声はますます大きくなっていく。
陸からも空からも囲まれ、ほとんど逃げ口は無いと言っていい。
だがスターダスト=彩斗に捕まる気など全く無かった。
集中して周囲を見渡し、何とか逃げる手段を必死に考える。
無理やりサテライト・ハンターとサテライト・チェイサーの群の間を強行突破することも出来なくはないだろうが、WAXAの装備の中には対電波人間を想定したものも少なくない。
強行突破は危険だ。
だとすれば、無理にでも逃げ道を作る方法を考えるしか無い。

「...っ!」

『!?銃を下ろせ!!』
『下ろさないと発砲する!!』

スターダストは右腕をバズーカに変形させて、WAXAの方に向けた。
これで威嚇すれば、若干だが時間を稼ぐことが出来る。
WAXAの持っている銃から放たれるショック弾の一斉射撃によりスターダストに与えられるダメージより、スターダスト・バズーカの一撃がWAXAに与えるダメージの方が遥かに大きいのだ。
周囲を観察しながら、こっそりクラッチを握り、シフトペダルを踏み込んでギアを落とす。
だがその時、ようやくスターダストは逃げ道を見つけた。

「シュート!!」

「!?うわぁ!!!」
「!?退避!!!退避!!!」

「待て!落ち着くんだ!!」

スターダストは狙いを一瞬で空に変えると、バズーカから一発放った。
爆発のような音で思わずWAXAの隊員たちは目を閉じ、耳を塞いだ。
WAXAの隊員のように訓練された者たちでも、人間という動物である以上、音や光による威嚇に全く驚かないということは不可能だった。
実際、引き金を引いたスターダスト自身も若干だが驚いていた。
しかしそんな素振りも見せずに、右手を元に戻してアクセルを握った。
前輪のブレーキを握ったまま、クラッチを徐々に繋いで後輪だけを回転させて方向を変える。
そしてクラクションの隣のボタンを押し、更なる爆音が響き渡る。
イリュージョンの前輪に装備されたEMPキャノンを火を吹き、中央分離帯を吹き飛ばして、反対車線へと繋がる道が出来たのだ。

「もうすぐなんだから邪魔するな...」

スターダストは一気にアクセルを開いて、その隙間を通って反対車線へと飛び出した。
そして道路を逆走して目的地を目指す。

「ロックマン逃亡!!」
「客員、各自の判断により装備の使用を許可する!!一般人に被害を加えないことを再優先にロックマンを追跡せよ!!」

まさかの逃亡に驚きながらも、WAXAの隊員たちも自分たちのビークルに乗り込み、追跡を開始した。
もうすぐ高速道路の出口、つまり一般道へと入る。
グリーンタウンの目と鼻の先だった。

「くっ!」

スターダストは料金所のバーを強行突破し、グリーンタウンに入った。
そして更に加速する。

「ETCで料金を支払わずに料金所を矯正突破...スピード違反...あっ...信号無視!!」
「ここまで派手に道交法違反するコスプレ野郎なんて、犯罪史に華々しく残るぜ...」

妨害電波域から出かかっているせいか若干ながら無線が通じるようになったが、WAXAの隊員たちも何が理由でスターダストを追っているのか分かっていなかった。
命令されたからだ。
しかしその理由を求めて、自分たちの目で確認できた罪状を一応記録する。
スターダストは10秒間隔に新しい違反をしているのだ。
もはや人質を取られ膠着した現場に現れて、華麗に人質を救ったヒーローなのか逃亡犯なのか分からない。

「っ...」

しかし追われている側のスターダストは自分がヒーローだと思ったことなど一度も無かった。
それは何処から見るのかによって変わってしまう価値基準だからだ。
救い出された人質たちからすればヒーローでも、暴力によってなんの権限も無く敵を制圧している以上は法の外の存在、すなわち警察組織からすればただの悪人に他ならない。
だから今は自分が何なのかは全く考えないようにしていた。
ただ自分の目的を遂行するために動く存在として動く。
その結果としてWAXAに味方している部分もあれば、WAXAの敵として追われるという側面があるというだけの話だった。
スターダストはクラッチを握り、ペダルを踏み上げてシフトアップするとグリーンタウンのメインストリートに入った。
名前の通り、多くの木々や花々が道を彩り、蓮の花が浮かぶ池がいくつもある。
イリュージョンが通り過ぎる度に花びらが舞い、秋の夜空を彩った。

「ん?...騒がしいのぉ...じゃが...なかなかいい風じゃ」

すぐ側の公園からその光景を見ていた老人はエンジン音を鬱陶しく思ったものの、そのマシンが起こした風が創り出した景色にうっとりと心奪われた。
しかしすぐにパトライトとサイレンを鳴らしながら、イリュージョンを追う大量のハンターとチェイサーが通り過ぎてそれを打ち消した。

「今夜は忙しいのぉ...」

スターダストは裁判所の前を通り過ぎ、岬の方へ向かう。
才葉シティが海に面している部分が多く、警官隊からすれば今度こそは逃げ道を断つチャンスだ。
しかし徐々に距離が広がっている。

「くっそ!!一体何キロ出してやがる!?」

ハンターは最高時速260km/h、チェイサーも最高時速280km/hだというのに追いつくどころか離されているのだ。

「300km/h以上出てますよ!!」
「落ち着け!!もうすぐ岬だ。挟み撃ちで今度こそ確保するぞ!!」

スターダストは岬へと入る。
そしてその奥へとイリュージョンを走らせた。

「もうすぐだ...あと100メートル...!」

アクセルを開き、海の方へと一直線に進んでいく。
だがこのままでは海に真っ逆さまだ。
WAXAのパトカーは思わずブレーキを踏んだ。

「オイオイ!!アイツ、海に突っ込む気か!?」

『止まれ!!危ないぞ!!!』

拡声器で警告するも、スターダストは止まらない。
そして遂に道路という陸の境界線を踏み越えた。

「!?...」

思わず目を伏せた隊員も多かった。
当然ながら誰しも死ぬ瞬間というのは見て楽しいものではない。
その場にいた誰もがスターダストの死を予感した。
WAXAに追い詰められ、そのまま逃げ場を無くして海へ落下したのだと。
だがその予想は外れた。

「!?...浮いてる!?道が無いのに走ってるぞ!?」

「飛んでるぞ!!」
「ロックマンが飛んでる!!」

スターダストとイリュージョンは一瞬落下したように見えたが、そのままの無い海を走っていた。
それどころか徐々に浮き上がり、空高く舞い上がり、幽霊のように姿を消した。

「そうか...ここでちょうど現場から10キロ...妨害電波の圏外だ!!」
「ウェーブロードを走ってるってのか!?」

スターダストは最初からこれを狙っていた。
Valkyrieの他に追跡してくる者たちがいるのは予想外だったが、最初から妨害電波の外に出て、ウェーブロードで一気にデンサンシティへと戻ることが目的だった。
普通のマシンならウェーブロードまでついてはこれない。
普通に陸路を使えば、デンサンシティのハートレスのセーフハウスまで追跡されかねないのだ。
ウェーブロードなら監視カメラで追跡されることも、普通の肉眼の人間に目撃されることもない。
一番、合理的で追跡不能にさせる唯一の手だった。

「追跡は断念せざるを得ないようだな...」

WAXA隊員の1人がそうつぶやき、全員が大きなため息をついた。
しかし落胆するWAXAとは違い、スターダストは心躍っていた。
イリュージョンに乗っているスターダストは通常の電波人間よりも遥かに速いスピードでウェーブロードを走っている。
普通に走っているのとは全く違う、周りの街灯やビルの光が流れ星のような光景を作り出し、一瞬で心奪われた。

「すごい...これがウェーブロードの本当の...」

驚く暇もなく、一瞬でデンサンシティの港へと辿り着いていた。
そしてウェーブロードを伝ってコトブキ町のハートレスのセーフハウスの前に戻る。

「メリー...」

車庫に飛び込み、ハートレスと同じように壁のスイッチで地下のガレージへとリフトダウンしながら、イリュージョンから降りる。
ガレージにはやはりハートレスの時と同じようにアイリスが両手を重ねて祈るように帰還を待っていた。

「サイトくん!!」
「アイリス!!メリーは!?」

スターダストは声を荒らげて、アイリスに問う。
その場にいなかったのを見て、ガレージの外にいると察したスターダストはそのままエレベーターに向かった。
アイリスもその横を早歩きでついていく。

「上よ!ハートレスが見てくれてる!!」

エレベーターは2階のリビングを通り越し、4階の彩斗の部屋へと登っていく。
揺れは降りるときと同じく全く感じない。
だがスターダストだけが落ち着かない様子で震えていた。
別に焦ってもエレベーターは速まらないと分かっていたも、気づけばボタンを叩いてしまう。

「メリー!!」

エレベーターを飛びしたスターダストは先程まで自分が眠っていたベッドへ走る。
そこにはベッドで眠っているメリーの手を握るハートレスがいた。

「おい!メリーは!?」
「落ち着きなさい!!無事よ!!」

ハートレスは放っておけば、暴君のように部屋で暴れかねないくらいに取り乱すスターダストの両肩を押し返すように制止させる。

「ワクチンチップが効いたのよ!消耗してるけど、命に別条はないわ!!それより追手は!?」
「全員、倒したさ!!それより本当に大丈夫なのか!?」

「大丈夫...ですよ?」

「!?」

その時に聞こえた弱く儚い声がハートレスに殴りかかりそうな勢いのスターダストと止めた。

「ヒナ...」
「ありがとうございます...おかげで助かりました...」
「良かった...」

メリーは笑顔でスターダストを見上げていた。
若干、疲れ気味で力が抜けているが、いつもの可愛らしさは衰えていなかった。
スターダストはベッドの前で跪く。
その様子を見ていたアイリスとハートレスには緊張の糸がぷっつりと切れ、操り手を無くしたマリオネットのように見えた。
メリーも安心して微笑む。
そしてスターダストの方に手を伸ばした。

「うっ...」

しかし次の瞬間、スターダストは顔を歪めた。
糸が切れたことで今まで堪えていたものが一度に襲いかかってきたのを押し殺すような、小さくて低い声だった。
その直後、スターダストの体は光り出し、その光が一度に崩れて電波変換が解ける。

「あぁ...」

「!?サイトくん!」
「ちょっと...どうしたのよ!?」

光の粒の中から姿を現した彩斗はそのままメリーの横たわるベッドに倒れ込んだ。

「体が重い...クッ...」
「サイトくん、血が...それに身体中アザだらけよ!」
「酷い...それに普通のダメージだけじゃない...」

彩斗の姿は一見、問題なさそうに見えた。
だが服をめくれば目立たないところに幾つものアザと口からの大量の吐血、そして異常なまでの疲労が見て取れた。
戦闘でのダメージ自体は大したことはないのかもしれないが、彩斗を苦しめているのは疲労の方だ。

「大丈夫...喉を潰しただけさ...」

確かに彩斗は先程まで声を裏返して声色を変えていた。
無理に普段の中性的な声からホラー映画の怪物のような低くドスの利いた声にしていたために喉から出血したのは納得だった。
だがこの出血量も疲労も異常だった。
今のような歩くことも出来ない程の疲労を抱えて、つい数分前までいつでも敵が襲ってくれば戦闘できるような状態だったというのだ。
もはやメリーも上半身を起こし、自分の足の上に横たわる彩斗を心配して自分の疲労を忘れてしまっている。

「少し...休ませて...」

彩斗は必死に笑顔を作って3人を安心させようとしているようだが、あからさまに作り笑いな上、苦しそうなのは隠しきれていない。
アイリスとハートレスはすぐさま行動を起こす必要があると悟った。

「...脈は正常みたい...傷も化膿してないしてない。極度の疲労と...」
「ハートレス!サイトくんの頭を持って!私は足を!とりあえずベッドに寝かせましょう...あとそこの測定器を」

ハートレスは彩斗の左手首で脈を取った後、アイリスに従って彩斗をメリーと同じベッドに寝かせた。
そしてすぐさまメリーにも使った測定装置を起動させた。

「もしかして…電波変換のせい?」

アイリスはそう呟いて彩斗の腕のトランサーを外した。
トランサーからは銀色に青いラインの入ったトランスカードが排出されている。
アイリスはカードを引き抜いて、トランサーと一緒にテーブルの上に置くと、救急セットをかわりに持って来て傷口の消毒と治療を始めた。

「大丈夫...ゆっくり休んで...」
「そうですよ...あれだけ戦ったんですから...」
「ありがとう...少し眠っていいか?」
「ええ、いいですよ」

メリーは彩斗の寝られるスペースを開けるように壁際に寄ると、テーブルの上のトランサーとカードを見た。
今のメリーにはカードと、日常生活を支えてきたトランサーが力と同時に呪いをもたらすパンドラの箱のように見えていた。
 
 

 
後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
スペシャルゲスト...気づいた方は少ないかもしれませんが、登場した老人はエグゼ6に登場したテングマンのオペレーターの風天老師でしたw
一応、今回の逃亡・追跡の舞台はスカイタウンからグリーンタウンの高速で、グリーンタウンならやはりこの方でしょうw
残念ながら今後の登場予定はありませんが...
ちらほらエグゼのキャラクターも登場しますので、お楽しみに。

今回は中盤のWAXAの追跡に関して新しい武器が登場しましたが、NM4ですw
昨年のモーターサイクルショーとかでもかなり話題になりましたが、なんだか金◯バイクのような近未来感にあふれた車両となってますので、ご存じの方も多いかもしれません。
多分、これをベースに白バイにすることは多分無いでしょうw
そして終盤、変身を解いた瞬間、バタンキューな彩斗とその理由は実はこれからの物語でそれなりに大きな要素になっています。
あと最近、あまり出てこないキャラクターにもそろそろスポットが当たりますので、次回以降をお楽しみに。
このキャラクター出して欲しい!という要望があれば、大方の物語の構想はできているので主要キャラクターにはならないかもしれませんが、カメオ出演のような感じでは出せるかもしれませんw

感想、意見、質問等はお気軽にどうぞ! 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧