ワールドワイドファンタジア-幻想的世界旅行-
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第二章 戦火の亡霊船
3話 西へ…(東名高速、新東名高速編)
前書き
お待たせいたしました。
「はい、これ水ね。」
「まだまだ先は長いよなぁ…」
一度、車の外に出て体をほぐした僕はその暑さから逃げるように車へと戻った。そして今一度これからの道のりを確認することにしたのだ。そんな僕に香織は水をくれる。
さて、地図によると僕らはちょうど首都高速道路と東名高速道路の境目、世田谷区にいるらしい。
今考えている予定では、僕らはこのまま高速道路を進み、鹿児島県へと向かうことになっている。詳しく言うとするならば枕崎港。そこから船でも借りて海外へと旅立つところまでが既に決まっていることである。
「別に急ぐ必要は無いからゆっくりでいいんだよ?」
「そうは言ってもな…」
急がなくて良いことは僕だってわかっている。むしろ急ぐことで余力を残せず使うことのほうが問題であるのだ。
しかし、どこか浮かれた気持ちがあるのか、どうも気が急ってしまっている。なかなか気持ちが落ち着かない。
「別に急いでもいいんだけどね。」
「適当でいいんだな…」
実際なにかしら行動が縛られているわけでもないので、急いでも急がなくてもいいわけなのだが。
「そろそろ行くか。」
特に激しい運動をしたわけでもないので身体的な疲れは皆無であり、そして気が昂っているために精神的な疲れもそこまで感じていない。体を少しほぐすのと、道を確認するための休憩だったので、もう留まる必要も無い。
そんなわけで車のエンジンをつけ、力が奪われていく感覚を得たところでアクセルを踏んだ。
ゴオオオォォォ
と、風を切る車の音のみが車内に響く中、ふと外をみた香織が口を開いた。
「あ!あれ!富士山だよ富士山!」
まさか初めて見たのではないかと疑うほどにテンションが上がっていることがわかる香織。運転中の僕の腕を揺すって来るために、僕はなおさら運転に集中することになって彼女の言葉に反応できない。
そして突然その声と腕への攻撃が止んだ。
「ん?いきなり黙ってどうしたんだ?」
あまりにも不自然だったために少しばかり車の速度を落として香織の方を見ると、彼女は車のそとに視線を向けて固まっていた。もちろんその先には富士山があるのだろう。
完全に車の動きを止め、香織の視線の向く先を辿って行くと、大きな姿を構える山が目に入った。その麓からゆっくり視線を山頂まで移動させる…すると確かに香織が驚くだけの光景がそこにはあった。
夏の清々しい青空の中、富士の山頂をくねくねとした何かが飛んでいた。
その姿は蛇のようで、遠目からでもわかる緑の体、顔は白いひげに包まれており、大きな口の見える頭からは黒い角が二本、先が枝のように別れて生えている。それは様々な物語で有名な伝説上の生物、龍であった。
「ね、ねぇ。楓くん。富士山に登らない?」
意識を取り戻した香織が僕に提案してきた。確かに彼女の性格から考えて、そう言うだろうことは予想できないことでは無かった。かくいう僕もその考えに賛成しそうになったのだが…。
「それはダメだな。」
「なんでよ!」
僕はその意見を切り捨てた。もちろん理由あってのことである。
「もし行ったとして戦いになったらどうする?というか間違いなく戦いになるだろ?そうしたら僕らはあいつに勝てるのか?」
「ん…大丈夫でしょ…ううん。無理だと思う。」
一度は無理やりにでも意見を押し通そうとした彼女であったが、そこはしっかり冷静なところを働かせてくれた。いくら僕らが強くなったとはいえ、実際に戦ったことがあるのはその辺にいる見たことも考えたこともないモンスターだけなのだ。
何もわからないからこそ、伝説に登場してくるほどの敵であれば強いと考えても間違いは無い。
なにより山に登れるだけの装備も無いのである。自分たちの能力が上がったからといって、なれない登山で消耗した末にそこを龍に狙われ死んでしまったら目も当てられない。僕らは慎重になるべきなのだ。
「あれ、意外と冷静なんだな。」
「だって楓くんの命もかかってるんだもん。」
学校を解放しての一ヶ月で思ったことだが、香織は非常に冷静である。たまに感情的になることもあるが、しっかりと説明すればすぐに考えて冷静な判断を下すことができる。ただ冷静なだけでないからこそむしろ親しみやすかった。
「でももうちょっと見させてね?」
「それくらいなら全然。」
僕はその言葉とともにエンジンを止め、香織と共に外へと出る。そして意図しない休憩となったのであった。
龍の観察を終え、再び車を進めている。
「そこ右ね。」
「はいはい。」
そんな感じで右手に富士山を見ながら高速を進んでいると、ここで分かれ道へと差し掛かった。
御殿場ジャンクション。ここから東名高速を離れ、新東名高速へと入る。ここまで約三時間。現在の時刻は十一時七分を指している。
「次のサーピスエリアで昼にしようか。」
「うん。えっとー……駿河湾沼津サービスエリアかな?あと二十分くらいでつくと思う。」
「了解。じゃあ近づいてきたら教えて。」
「任せて!」
わざわざサービスエリアで止まるのは何故かといえば、それはなんとなくと言うしか無い。もしかしたら人がいるかもしれないが、それならそのまま車を止めずに去ることにしている。
そうして二十分が過ぎた頃、香織から声がかかった。それと同時に僕の視界にも案内の看板が見える。その看板に従い、僕らの車は駿河湾沼津サービスエリアへと入っていった。
人影はもちろん、先ほど見たような車のバリケードもあらず、ここには人がいないだろうと判断できた。そんな訳で車の外へと出て、警戒しながら建物内へと入る。
その建物内は凄まじい腐臭で満たされていた。夏の暑さが手助けをして、それは更に酷いことになっている。まさかそんな中で昼食を食べるわけにもいかず、すぐに外に出ることになってしまった。
「これも久々だね。」
「ちょっと油断してたよ。」
こんな会話ができるのは、もちろんこれまでに体験したことがあったからである。
基本的に初めて入る建物の中は同じような状態で、そんな中から生存者を探すようなこともしてきたのだ。今は生存者を見つけてもどうしようもできないので探しはしないが。
残念ながら慣れているだけあってすぐに気持ちを切り替えることができるため、外に出て体から取り出した肉を焼いていく。
どうやって焼いているのかと言えば、それは電力が必要なくなったホットプレートである。電気、もしくは熱のエネルギーで動くはずだった機械はすべて、それこそ車のように自分の力…集中力…精神力と呼ばれる何かを消費して扱うことができるようになってしまっている。
果たしてどんな力が働いたのか…それを確認するのもこの旅の目標として頭の片隅に存在していた。
「龍は食べたら美味しいのかね…。」
オークの肉を食べながら香織は小さく呟いた。
「体は蛇…だっけ?よくわからないけどさ…蛇なら食べないって話も聞かないから美味しいんじゃない?」
僕はうろ覚えの知識から推測を建てた。すると香織は何かを考えながら小さく二回ほど頷くと、僕に目を向ける。
「いつか絶対倒しに行こうね!」
やけに真剣な目で訴えてくるものだから、首が縦に動く以外の行動をとることはできなかった。とは言っても、僕も興味があったので問題はない。
「果たしていつになることやら…」
龍に会うまでにそれより強い敵と会うこともあるんじゃないかと考えつつ、僕はどんどん肉を頬張っていく。
後書き
ありがとうございました!
しばらく私は非常に大切な時期に入りますので投稿が非常に遅くなります。少なくとも3月、最悪の場合には来年までかかると思いますがゆっくり待っていただければ…と思います。申し訳ありません。
※この話はフィクションです。
実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
※無免許での運転は法律違反です。絶対に真似しないでください。
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