ワールドワイドファンタジア-幻想的世界旅行-
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二章 戦火の亡霊船
4話 西へ…(名神高速:京都編)
前書き
人生の大勝負の今日1月17日。やる気は十分です。
頑張ります。
さて、昼を食べてから三時間半。車の時計が四時を指している中、僕らはもうすぐ京都に差し掛かろうとしている。
「今日はどこまで行くの?」
「そうだな…陽が落ちたら止まることにしようか。」
さすがにまだ夏なだけあって、それなりに日の入りが遅いために視界は保たれている。しかし、他に車がいないとは言っても、視界が悪い中を車のような速度で移動してはなれない僕らではモンスターを見逃すことになるかもしれない。
それ以前に、出発するときに感じていた余裕すら消えているほどなのだ。しっかり力をつけて旅だったつもりが、やはり環境が変わると感じる疲れも大きくなるのだろう。現にいま車を運転しているのは香織であった。
「ん?」
僕が弱い睡魔と戦っていると、しっかり前を見据えて運転している香織が小さく声を放った。
それに疑問を上げるのもだるく、何も言わずに横に向けていた顔をゆっくり前に向けると、僕を襲っていた睡魔はあっという間にいなくなってしまう。
「あれ…ここ京都だっけ…」
「そうだよ。だからあれは…」
僕の視界の中には真っ赤で巨大な鳥が飛んでいた。
京都、赤い鳥、そしてその赤い鳥が煌めく小さな火の粉をまき散らしながら飛んでいるとすれば、たどり着く答えは一つだろう。
「朱雀とか…?」
龍に続き幻想の生物、それも神として崇められる者との出会いである。
しかし先程と違うところが一つだけあった。それは相手方もこちらのことを発見しているということだ。
「なあ、香織…」
「うん。」
「向かってきてるよな。」
「うん。」
そう、真っ赤な火の粉を振りまいて、朱雀は僕らの乗る車めがけて突っ込んできたのだ。
攻撃を受けるわけにはいかない。香織はハンドルをおもいっきり切って朱雀の突進を回避、そして僕は進行方向を無理やり変えられた車が壁にぶつかるところを空気で衝撃を受け止める。
車の動きが止まった事を確認し、すぐに車外へと出た。この車を壊されるわけにはいかないのだ。僕と香織、二人が動かせる車を見つけるのにはかなりの時間を要したからである。車に性格でも生まれたかのように運転できない、合わない車があったのだ。
いま車を壊されれば再び無駄な時間を過ごすことになるだろう。よって僕らは車から離れた。
車に乗ったまま逃げるというのはありえない。明らかに相手の方が早かったのだ。僕らに戦う以外の道は残されていない。
「とにかく早いな…」
空を縦横無尽に飛び回る朱雀の速さはかなりのもので、舞い散る火の粉が夏の暑さと相まって僕らの体力を削る。
朱雀が高く舞い上がったかと思うと、今度は真上から僕らを潰しにかかってきた。その細い鳥足には炎が纏い、その威力は倍増されている。
「く…っそ!」
僕の真上に降ってきた朱雀を受け止められるはずもなく、思いっきり横に転がることで回避する。しかしその衝撃を高速道路が受け止めきれなかった。僕らが通り過ぎた道が大きな音を立てて崩れていく。
「香織!」
近くにいた香織が巻き込まれていないかと叫んで安全を確認するが、その必要は無かったようだ。崩れ去る瓦礫を横目に、香織が剣を持って朱雀に迫る。
しかし相手の反応は早く、すぐに空へ戻るために翼を動かそうとする。このままいくと確実に香織の攻撃は朱雀へと届かない。そこを僕がサポートした。
周囲の空気を操り、朱雀の翼下部へと移動させると、そこで固定。朱雀が翼を動かせなくなったところに香織の斬撃が襲いかかった。
普通のロングソード形態を取っている黒い剣は、朱雀の右翼の根本を深々と切りつける。その翼が力を失ったかのように垂れ下がったのを見ると、おそらく腱を傷つける事ができたのだろう。あの様子ではもう飛び上がることはできないと思われる。
しかしそこは四神に名を連ねる者。その程度では行動の選択肢を狭めたくらいで、大したダメージにはなっていないようだった。
「危ない!」
翼を切りつけた勢いで更なる連撃を加えようとした香織に、すぐさま立ち直った朱雀の粉塵が襲いかかった。
翼を大きく広げるだけで周囲に広がる煌めく炎。これが夜で、僕らに影響を及ぼさない遠くで見ているだけならば感想は違ってきただろう。
その炎が香織に届く前に空気でそれを全て振り払う。その隙に朱雀の胸元を香織が斬り付ける。
このように、最近ではもっぱら香織が前衛、僕が後衛を努め、万能な能力で香織をサポートする戦い方を取っているのだが、今回も上手くその戦法にハマってくれた。
朱雀の大きな体が後ろへ倒れていく。空を駆けていた香織も上手く着地し、こちらに向かって笑顔を向けてくる。その顔には少しばかり黒い煤がついていた。
「意外と弱かったな。」
そう呟くのも仕方ない程にあっけなく朱雀は倒れ去ったと思う。戦闘時間にしても五分もかかっていなかった。
香織は倒れた朱雀の前で結晶になるのを待っているのだが、なかなか結晶にならないどころか朱雀の体からは光すら出ていない。
「いや、おかしいな…」
朱雀は倒れて動かない。普通であれば倒したモンスターはすぐに光となって消えていくのだが…朱雀にその様子が見られないのである。
さすがに香織も不審に思ってか、動かない朱雀の体から視線を離すこと無く距離を取った。そしてその瞬間…
轟
真っ赤な朱雀の体から爆炎の柱が立ち上る。そして「キュイィーー」と、甲高い声が響いてきたと思うと、炎の柱は波動となって襲いかかってきた。
「嘘だろ!」
火の粉ですら凄まじい熱気を放っていたのに、あの波動がそれより弱いと思えるはずはなかった。
僕はこちらへ向かってくる香織のそばまで駆け、操作した空気を二重に重ねた膜を作ると、その間に空気が入らないように空間を作る。その空間は真空となり、僕らを熱波から守った。
「っぶね…」
「助かったよありがと!」
なんとか脅威を防いだところで、まだ油断できるところではない。
朱雀の傷は全て消え、何事もなかったかのように立ち上がってこちらを睨んでいる。その胸の赤色が少しばかりくすんでいる以外の変化は見られなかった。
「くっ…」
舞い散る火の粉の温度が上がり、あたりは更なる熱気に包まれる。すると突然、こちらを見る朱雀が右の方に視線を移動させたと思うと、大きな翼をひろげて飛び立った。そしてそのまま甲高い声を上げながら飛び去っていく。
「どこへ…いくんだ?」
「楓くん!行こう!」
朱雀の姿をぼんやりと追っていると、一足先に現実に戻った香織が車へと向かった。それを追って僕もすぐに車に乗り込む。それと同時に香織はアクセルを踏みこの場から離れた。
僕らの進む高速道路の左手で赤い光が瞬き、誰かの叫び声を聞きながら、僕らは朱雀から逃げおおせたのだった。
後書き
ありがとうございました!
投稿遅くなるとか言いましたがそんなに変わってない気もする。
これから来る勝負の連続を乗り越えたら…もっと頑張れる。
ページ上へ戻る