グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
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第12話:ロマンスの神様を当てにするな
(グランバニア城・謁見の間)
ピピンSIDE
叱られてた者達の表情が一気に和らいだ。
極刑も覚悟していただろうから、降格と1年間の奉仕活動は恩情以外の何物でも無い。
ただ、直属上司にまで飛び火したのは痛い。なんせ私もその一人だから……
その一方で未だに暗い表情なのがリュリュだ。
先程、陛下の怒りを見誤り軽口を叩いてしまった彼女……
珍しく厳しい口調で娘を叱る陛下に、先程までの男共より落ち込んでいる。
「リュリュ……今回お前は被害者になる。この男共が安易な方法でお前との関係を発展させようとしたから、この様な事態になったのだ」
リュリュを一人前に進ませ、疲れた口調で語りかける。
安堵の表情をしてた男共も、自身の所為でリュリュが叱られてる事に顔を歪める。
「お前がもう少し気を付ければ、こんなにも大事にはならなかったし、グランバニア王家の名にも傷は付かなかっただろう……いや、名が傷付くぐらいはどうでも良いんだ。国民が我々に安心して政を任せてくれるのなら……」
確かに……
陛下は名より実を取る方だから、実害が無ければ問題視しない。
しかし“グランバニア王家も所詮は王族。乱痴気騒ぎで馬鹿な事をしてる王侯貴族だ”等と国民に思われては目も当てられない。
「酒が旨いと感じる事は悪くない。奢って貰えるから、言葉に甘えて飲むのも悪くない。だが何事にも限度がある! 格安で提供される酒だとしても、無料ではないのだから奢ってる方には負担が発生する。相手も楽しみつつ、その範囲で自分も楽しむのが正しい友人関係だ。『リュリュは可愛いから、幾らでも奢っちゃうよ!』と言われても、気が引けろ馬鹿者! 『そんなの悪いから割り勘で良いよ』と言え愚か者! 全額奢られるとしても、自身で支払える金額までで止めろ」
普段女性に暴言は吐かない陛下。
だが今回は遠慮しない。たとえ娘でも、言わねばならない事はビシッと言う父親なのだ。
やはり陛下は男の中の男だ。“漢”と書いて“オトコ”と読みたい。
「遠慮して、それでもしつこく奢ろうとしてくる者には警戒しろ。誰も皆、自分が得しない事はやらない……ムダに終わるかもしれないが、万が一の可能性に何かを賭けてる者も居る。その何かが何なのか、見極める努力……探る努力を怠るな」
「……はい」
俯き胸の前で手をモジモジさせながらリュリュが返事をする。
きっとこの場に居る男性全員(陛下を除く)が、目の前の女性の可愛さに庇いたい気持ちでいっぱいだろう。
実際ティミー殿下が何かを言おうとして、隣に居るウルフ殿に足を踏んで止められた。
「お前はこの連中(奢ってくれた男共)の誰かと結婚する気はあったのか? 仲良くしてくれるから一発ヤらせてやるつもりだったのか?」
「え!? い、いや別に……だって私はお父さんが……」
陛下の質問に驚きながら何時もの馬鹿な台詞を答えかけるリュリュ。
それを手で制し話し続ける陛下。
「つまり“結婚はしない”し“セッ○スさせてやる気も絶対にない”……金だけ出させてポイ捨てする気でいたワケだな」
「あうぅ……そんなワケじゃ……」
いかん。大金を失っても仲良くしたいこの連中の気持ちが解る!
陛下の娘だし意識しない様に気を付けてたけど、目の前で可愛い仕草をされると男として落ちそうになる。
いや、今この状況じゃなかったら落ちてた。
「陛下……その娘に何を言ってもムダですよ。陛下の娘の中でも飛び抜けた変態女なんですから。『大好きなパパに処女をあげるの♥』と素っ飛んだ事を言い続けるイカれロマンチストだから」
誰もが庇おうとしてる中、ウルフ殿だけが突き放す様に吐き捨てる。
「お前ねぇウルフ……本人とその父親を前にして、よく言えるね」
「でも言い返せないでしょ? 全部事実なんだから、言い返す事なんて出来ないしょ?」
確かに言い返せないだろう。
「はぁ……確かに」
ウルフ殿の言葉に、あの陛下が頭を押さえ俯いた。
それを見たリュリュは、父親を悩ませる事実に涙を流して後悔する。小声で“ごめんなさい……ごめんなさい……”と呟きながら。
「もう犯しちゃえよ! この女はアンタが犯さない限り、誰とも交わろうとしないんだから、血縁だろうが親娘だろうが気にせず犯しちゃえよ! それさえ気にしなければ絶世の美女だろ……男として躊躇う必要性が見当たらない。都合の良い性の捌け口として、その馬鹿女の穴を利用しちゃえって。妻や愛人達には、心からの愛としてセ○クスして、その肉便器は捌け口としてだけ使用しろよ。問題起こされて迷惑なんだよ……自分がリュケイロム陛下の娘だと自覚がない馬鹿女は!」
殺意が湧いてくるウルフ殿の言葉……
だが昨晩に私が陛下に提案した事と同じなのだ。
ただ言葉が乱暴で遠慮がないだけ。
そして私は気付く。これは間違いなくワザと言っているのだと。
陛下とウルフ殿は事前に打ち合わせをしていたのだろう。
だからウルフ殿は誰とも目を合わせないし、庇おうとしたティミー殿下を止めたのだ。
最も割りの悪い役目を任されたのだ。
「そんな背徳的な事は……」
「綺麗事を言うな! 歴史を紐解けば近親相姦で血統を繋げてきた事は往々にしてあるんだ。親だろうが娘だろうが男と女である事に違いはない。○ックスは簡単に出来るし、実際に行ってる親娘だって居るだろう。世界中探せばそんな歪んだ愛で満たされてる連中は間違いなく居るぞ。意外にどの女よりも具合が良いかもしれないだろ……喰わず嫌いしてないで試してみろよ。それでこの女が問題を起こさないでくれるのなら、こっちとしては願ったり叶ったりだ」
この場に居る陛下と私以外の男に激しく睨まれるウルフ殿。
しかし彼は気にする事なく睨んでくる連中を鼻で笑う。
不安なのはティミー殿下が斬り殺してしまわないかだ。
「僕が嫌なんだよ……自分の成分で出来た女とセック○するのが、何とも嫌なんだよ! 確かに綺麗事を言ってたけど、自分の我が儘でヤリたくないんだよ」
「知ってるよ、そんな事! でも今に至っては仕方ないだろ。あの女の性欲を満たしてやらないと、フェロモンに引き寄せられた馬鹿な男共が、碌な事をしない」
「もう止めて下さい。ごめんなさい……もう諦めます……私諦めますから! お父さんの事が大好きだけど、もう諦めますから!!」
遂にはリュリュが泣きながら謝った。
近親相姦願望を諦めると宣言して。
これで陛下とウルフ殿の計画は完了だろう。
なんせ本人の口から言わせたのだから。
『父親との性行為を諦める』と言わせたのだから。
「大好きな男が直ぐ近くに存在するのに、簡単に諦められる訳ねーだろが! 人を好きになるって感情は、そんな簡単な事じゃないんだよ。俺等の前で『諦める』って言った手前、今後は興味無い体を装うだろうけど、その感情は募る一方なんだよ。募り募った感情はどうなると思う? 時が経てば立つほど爆発した時の惨状は悲惨だぞ。どんな性犯罪を犯してる事か……王家の娘が性犯罪を犯すんだ、どれほど国民に迷惑をかけるか」
終わると思った口論だったが、予想を裏切り続けられる。
ウルフ殿はリュリュに諦めさせるのを目的としてなかったのだろうか?
もしかしてリュリュの願いを叶える事を目指しているのだろうか?
「だから一番良いのは、陛下が血縁を気にせずリュリュさんを犯す事で、そうすれば未来の性犯罪も未然に防げるし、現在の性犯罪未遂を犯そうとしてる男共も諦めが付くと言うのです。可愛い娘の為に父親の方が譲歩する……正しい親娘関係なのではないですか?」
「全然正しくねーよ馬鹿」
「でもリュリュさんは、お父さんとヤリたいんでしょ?」
「……はい……出来れば……」
涙を拭いながら一縷の望みを見出し上目遣いで答えるリュリュ。
“諦める”とは言っても、簡単に諦められないのはウルフ殿が言った通りの様だ。
陛下もその事に怒ったりはしない。ただ溜息を吐くばかり。
そして暫くの沈黙が続く……
陛下も怒りで言葉を失ってるのではない、何を言って良いのかを迷われているのだ。
そんな父親を見詰めリュリュも言葉を発する事が出来ない。
大好きな父親を困らせてる自責の念が強すぎて。
「陛下……娘を犯す覚悟は出来ましたか?」
沈黙を破ったのはウルフ殿。
彼でなければ殺されそうな台詞をサラリと吐く。
「……それはやっぱりヤダ。でも……リュリュを悲しませるのもヤダ。しかし娘とヤるのもヤダし、娘の望みを無碍にするのもイヤだ!」
「我が儘を言いやがって……これだから王族ってのは!」
時が経てば彼も王家の一員なのだが、陛下が言われて一番嫌いな事を言う。
「だから賭をすることにする」
殺しそうな勢いでウルフ殿を睨み、それでも平常心を保った声で陛下が決定した。
「賭とは?」
ウルフ殿も陛下の殺意に怯むことなく問い返す。
「リュリュ……お前は闘技大会に出場しろ。勿論予選会からだぞ」
「え……は、はい」
闘技大会って……先日2年後に開催を決定した大会のことか?
「それで優勝したら、優勝賞品として国王に願い事を1つ言えるから、お前の望みを言うが良い。国王に叶えられる願いなら、叶えてやるから……他の者の人生を踏みにじらなければ、お前とシてやるから。結婚はビアンカの人生に差し支えるからダメだが、ヤるだけなら大丈夫だから。ただし、もし優勝できなかったら、お父さんの事は諦めて誰かと結婚することを真剣に考えろ。結婚が幸せの終着点ではないけれど、男性と恋愛をする努力をしろ」
陛下は右手で額を押さえながら、指の隙間からリュリュを見詰め渋々折衷案を提示する。
提案を聞いたリュリュは「はい。私頑張ります!」と涙を流しながら元気よく答え嬉しがる。
常軌を逸した提案、常軌を逸した状況なのだが、誰もが微笑ましくリュリュを見詰め恍惚に溺れてる。
取り敢えずの落着を得た事で、陛下は皆を謁見の間から退出させる。
その際に私とティミー殿下とオジロン閣下……そしてウルフ殿に残る様言い付ける。
今回の件の事後処理を指示するのかもしれない。
他の者が全員出て行った所で、衛兵に「暫くこの部屋には誰も近づけるなよ!」と言い付け、我らには陛下の側に近寄らせた。
大広間の次に広い謁見の間で、玉座の側に少人数が集まれば盗み聞きは誰にも出来ない。
相当重要なことを話されるのだろう。
「ウルフ……先ずはご苦労だったね。悪役をありがとう」
「ホントっすよ……滅茶苦茶ティミーさんが殺意を浴びせてくるんですもん。もう泣きそうでしたよ!」
「え……あれって演技だったの!?」
「当たり前でしょ……いくら仕事が増えるからって、リュカさんに娘とヤれなんて言いませんよ。言えって言われたから言ったんです……言い方だって俺の希望では緩くしたかったのに、このオッサンが……」
そ、そうか……
ウルフ殿が誰とも目を合わせなかったのは、後に控えてる気の滅入る仕事を思ってだったのか!
では、この状況は計画の内って事か!?
「陛下、闘技大会に出場させるのが目的だった……そう理解して宜しいですね?」
「ああ良いよ。だからリュリュが特訓の為に手合わせを申し込んできても、僕を敵に回したくないと言って断れよ。目を潤ませて懇願しても、股間の脳で考えず決断しろよ」
「でも父さん……リュリュだってそこそこ強いですよ。もしかしたら優勝してしまうかもしれないじゃないですか? どうするんですかその時は?」
それもそうだな……陛下のことだから何か考えがあるのだろうか?
「確かにリュリュは強い。でもそれは、ウルフと似た様なベクトルでだ。つまり魔法を使っての戦い方に限定される。今大会は魔法の使用が禁止されてる。会場では“静寂の玉”を使用するしね」
そう言ってウルフ殿に視線を向ける。ウルフ殿は奇妙な首飾りを取り出し見せてくれる。
「事前に通達してるルールだから、集まる猛者も魔法戦闘をしない者達が殆どだろう。つまり現状のリュリュは大きくビハインドを持ってるって事だ」
「そして今回の件を広め、リュカさんがリュリュさんの勝利を望んでないと知れ渡れば、リュリュさんが強くなることに協力する奴は少なくなる。彼女の友達には、今朝説得しておいたしね」
「つまりは出来レースと言うことか?」
「そんなことはないぞオジロン。この不利な状況から努力してリュリュが優勝したのなら、僕はその努力に報いる為に娘を愛するよ。妻や愛人等と遜色ない愛を与えるよ」
陛下は爽やかな笑顔でオジロン閣下の問いかけに答える。
「まぁ……後はロマンスの神様に頼むしかないんじゃないかな? そんな奴が実在すればね(笑)」
「神頼みをしてる様じゃリュリュさんに勝ち目はないよ。カタクール候の用意してる連中は、かなりの手練れ揃いですからね。先日見学してきましたから」
そうだろうな。
シクーラ大臣も選りすぐりの者を出場させるだろうから、簡単に優勝できる訳がない。
流石としか言いようがない。
昨晩の私の意見も考慮し、一晩でこれ程の作戦を練るのだから……
ウルフ殿の貢献も大きい。
陛下が絶大な信頼を寄せるだけはある。
「でも……本当に優勝されちゃったら……ヤダなぁ」
「今更何言ってんだ! 一見フェアな交換条件を提示して、騙くらかすのが作戦だろが! そんなに心配なのなら、ティミーさんも出場させて全力で阻止させろよ」
「え、僕が出場しても良いんですか? じゃぁ何をお願いしようかなぁ……やっぱりリュリュとのアレかなぁ♥」
「バ~カ! 相手が嫌がったら願いは叶えられないって言ってんだろ」
「ティミーさん、リュリュさんには嫌がられること必然ですよ。理解してますか?」
「酷い二人とも! リュカ家の血族として、欲望塗れの夢を見たって良いだろ」
「馬鹿者。リュカ家の血族なら、欲望塗れの夢は自力で叶える物なんだよ、なぁウルフ」
「俺はこんな夢を見た憶えはない。どこで道を間違えたんだ?」
流石だ……
リュカ家の一員になる者は、どんな状況でも軽口を叩けなければならないのだ。
私では無理だろう……オジロン家の一員として生きるのが精一杯だ(笑)
ピピンSIDE END
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