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幸せ

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第三章


第三章

「聞こえるだろ。何言い出すんだよ」
「だっていいじゃない。実際にしてるんだし」
「そうじゃなくてだな」
 二人の仲はかなり深い。お互いのことを些細なところまで知っている。例えば義弘は晃子の右足の付け根にほくろがあるのと左脇の下に青い傷跡が残っているのを知っている。これは小さい頃に自転車で怪我をしたからだという。彼は晃子のそういうところまで知っているのだ。
「そんなこと外で言うなよ」
「嫌なの?」
「嫌っていうかまずいだろ、ここは学校だぞ」
 それが一番の問題であった。学校なのだ。いるのは生徒だけじゃない。
「先生にでも聞こえたら」
「先生だって知ってるよ」
「そういう問題じゃないだろ。つまりな」
「まあいいじゃない。今更」
「今更じゃない」
 全然気にしない晃子に対して義弘は気にしていた。彼の方が自然であるがそれが晃子にはわからないところがあるのだ。おっとりしているとかそういうのよりも天然といった感じそのものであった。
「してるとこ見られなきゃいいんでしょ」
「まあな」
 極論すればそうである。この言葉で流石に黙ってしまった。
「それだけじゃない。じゃあ行こうよ」
「わかったよ。じゃあセブンイレブンでいいよな」
「うん、そこが公園に一番近いしね。それで」
「公園でか。コンビニでお菓子選んでたらいい時間にはなるな」
「そうだよ。だから行こう」
「ああ」
 晃子は義弘に近寄った。そして自分の手と彼の手を組み合わせる。それで校門を出る。
 義弘はポケットに手を突っ込んでそれを受けた。少し憮然とした態度であったが心の中では悪い気はしなかった。そしてコンビニでお菓子を二人で買っているうちに夕暮れの赤い空は次第にその光を弱め遂には一番星が見せた。それが見えてくるともう赤い空は消えていき夜の帳が空を覆った。晃子の見たがっていた星達が空に降り注がれた。二人が公園に辿り着いたその時にはもう空は星達で満たされていた。
「本当に丁度いい時間になったね」
「そうだね」
 義弘は空を見上げる晃子にそう応えた。
「何か本当にいい具合に」
「あっ、見て」
 晃子は義弘が言うよりも早く空を指差していた。
「あそこ。北斗七星よ」
「で、あれが北極星で」
「子熊座もあるよ」
 北極星の周りにある六つの星。それもちゃんと見えていた。
「オリオン座もね」
「あ、ああ」
 いきなり北極星からそっちに指先がいったので慌ててそちらに顔を向ける。一際目立つ三つの星がそこに連なっていた。紛れもなくオリオンの星だった。
「あっちにはアンドロメダ座があるぜ」
「本当。これ見たかったのよ」
「アンドロメダ座が?」
「うん」
 晃子は義弘の言葉にこくりと頷いた。空は見上げたままだ。
「他にもあるけれどね」
「ふうん」
「アンドロメダの話、知ってるわよね」
「ああ」
 義弘はそれに答えた。それは子供の頃から何かと本で読んだりテレビで観たりして知っている。ペルセウスとの有名な話である。
 
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