幸せ
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第一章
第一章
幸せ
「ねえねえ、今日の星占いだけどね」
「おい、また星占いかよ」
教室で一人の今時に髪を少し脱色した奥二重の目の少年が小柄で日に焼けた肌を持つ茶色いロングヘアの少女を前にしてぼやいていた。少女が彼の机にわざわざ来て話し掛けていたのだ。
「昨日も同じこと言ってたじゃないか」
そう返した。どうやらこうしたことが日常茶飯事にあるらしい。
「昨日は違うわよ」
「同じだったじゃないか」
彼は反論する。
「今日は星占いでしょ、昨日はコーヒーカップ占い」
「結局占いじゃないか」
そもそもコーヒーカップ占いって何なんだよ、と思ったがそれは言わなかった。
「でね」
少年の話は聞いていない。少女は自分勝手に話を進める。
「星占いだと今日晃子と義弘君最高なのよ」
「運勢が?」
「そう、恋愛運が」
この少女の名を飯田晃子という。少年は日高義弘という。同じクラスで同じ美化委員で同じ吹奏楽部に所属している。その縁からか急に晃子に声をかけられて何だかんだとわからないうちに交際をしているのである。
「二人共最高なのよ、それでね」
晃子は言う。
「今日、デートしない?」
「またいきなり乱暴な話の持って行き方だな、おい」
義弘はそれを聞いて思わず呆れてしまった。だが実はこれは日常茶飯事のことであった。晃子はかなり強引な性格をしている。義弘の思惑なぞ何処行く風で話を決めてしまうのだ。今日もそうであった。
「デートって、放課後か?」
「うん、部活終わってから」
「ってあまり時間ないぞ」
「私だったら大丈夫よ、うち今日誰もいないし」
「っておい」
その言葉を聞いて急に義弘の態度が変わった。
「御前いきなり何言い出すんだよ」
慌てて教室の周りを見回す。だがいつものことなので皆今更驚いたりはしていない。
「あのな、それって」
「だからさ、遅くまで遊べるよ」
「何だ」
ほっと胸を撫で下ろした。幾ら何でも教室でお誘いとは洒落では済まない話だ。そうではないとわかって義弘はとりあえずは落ち着いた。
「で、何処に行くんだ?」
「公園」
晃子は何気なく答えた。
「そこでね、お星様見ようよ」
「それだけか?」
「うん。そうだけど」
「何だ、よかった」
義弘はそれを聞いてまたほっとした。
「公園で何かするかと思ったぜ」
「嫌だわ、そんなのいつもしてるじゃない」
「何っ!?」
流石にこの言葉には教室の皆が反応を示してきた。まるでニュータィプみたいな反応速度で一斉に義弘と晃子の方を振り向いてきたのである。義弘はそれを見てまずいと思った。何故こう思ったのか。実際にそうしたことをやっているからだ。義弘も晃子も今時の高校生で付き合って暫く経つ。それならばそこまでいっているのも当然であった。
「お菓子食べたり」
「何だ」
「ちっ、期待させやがって」
皆すぐに顔を戻した。晃子がぼけただけなのだが今回はそれに助けられた。義弘はまたしても胸を撫で下ろした。いい加減心臓がもたないと思った。
「いつもしてるじゃない。それがどうしたのよ」
「じゃあ公園でなんだな」
「うん」
晃子は頷いた。
「お星様でも見ながらね」
「ああ」
「お菓子食べてお話しようよ」
「わかったよ。けれど何でお星様なんだ?」
「すぐにわかるわ」
晃子はここではにこりと笑うだけであった。ぼけもしなかったしとんでもないことも言わなかった。義弘はそれに内心彼女ではなく神に感謝していたが結局は彼女のペースに捉われてしまっていた。今日の放課後デートをすることになった。そして相変わらず晃子のペースのまま学園生活を送り、部活に言った。ずっと側には晃子がいる。
「おい御前等」
部活の時あんまり晃子が義弘にくっつくので見かねた顧問の日樫先生が二人に声をかけてきた。
「少し離れろ」
「えっ」
「少しは他の人間のことを考えろ」
先生は苦笑いを浮かべながら言う。
「あのな、付き合うのはいいんだよ」
「いいんですよね」
「だから話は最後まで聞け」
晃子は自分に都合よく解釈しようとするが先生はそうは許さなかった。すかさず突っ込みを入れてそれを防ぐ。そうしたところは流石であった。
「そんなにくっついてるのを見せられるとこっちが困るんだ」
「困るんですか?」
「そうだ。全く、妬けるというか何というか」
「いいじゃないですか、誰にも迷惑かけてるわけじゃないですし」
「かけてるよ」
先生はまた突っ込みを入れた。
「とにかくくっつき合うのも程々にしろ、いいな」
「わかりましたぁ」
「わかってるようには見えないがな」
手を離しただけで側にいることには変わりがなかった。先生も呆れて苦笑いするしかなかった。晃子は部活でもずっと義弘と一緒だった。そして部活の時間を過ごした。
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